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体重3ケタ越えのデブ子が超絶美女に転生したので好き勝手生きてみることにした  作者: 汐乃 渚


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10/28

初めての試験勉強




「なあ、俺もう飽きたんだけどー。書いて書いて書いて……いつまでやるわけ?」


「まだ開始五分だ馬鹿者!!」



 ヒューイったら全く、どんだけ集中力が低いんだ。

 何のためにわざわざ集まったのやら。



 先が思いやられるわね……。




 入学して最初の試験を控えたとある休日。


 私、アリー、ヒューイ、エルという、いつもの仲良しメンバーは、王立学園の誇る巨大図書館の一角に陣取っていた。



 巨大な館か小さな城といっても過言ではない、荘厳な建造物。

 その中には、重苦しい雰囲気が漂っている。


 三階建ての吹き抜けになっている大きな一つの空間は、歴史、哲学、文学、法学、神学、魔術、語学――等など、両手で数えきれないほどの分野の膨大な知識の宝庫となっていて、さらに地下には様々な国から集められた禁書・珍書の並ぶ、選ばれ者のみが入室を許される書庫まであるらしい。



 さて私たちはというと、そんな素晴らしい書棚には目もくれず――正確にはヒューイ以外は望みの場所へ駆け出したい欲望を抑えるためにあえて目を逸らし――勉強用に並べられた机に齧りついているのだった。



 一年生の、それも入学して最初の試験なんて、ものすご~く簡単な内容なのよ。


 書き取りに足し算引き算、ざっくりとした国の歴史に魔術の基礎についての筆記。

 実技は基礎のマナーのみ。


 これを二日に分けて試験が行われる。



 私たちの年齢は、日本で言えば中学生くらい。

 それに対して、試験内容はぶっちゃけバカにしてんのかっつーレベルだ。



 これには一応、理由があるわけで。


 貴族の子供たちでも、みんながみんな家にお金があって満足に教育が施されるわけじゃない。

 屋敷を維持するので精一杯という貧乏貴族も結構いるし、どうせ学園に入れば教わるのだからと遊ばせているご家庭なんかもあるらしい。

 逆に近年、事業の功績を認められて爵位が与えられた、『新興貴族』と呼ばれる貴族の子供は、親の期待を一身に背負っているので習い事は一通りやっているという子が多い。



 なので、はじめのうちは全員をスタートラインに立たせるための、本当に最低限のレベルの勉強となる。



 私たちはというと、家ではそれぞれ家庭教師をつけてもらっていたものの、穴がある感じ。


 アリーは歴史や書き取りは強いけど、計算が苦手。


 エルの家はおじいさんの代に爵位を賜ったそうで、所謂新興貴族。

 例に漏れず家族の多大なる期待により、書き取りも計算も歴史も英才教育を受けたけど、魔術だけは習ったことが無いそうでちょっと不安らしい。


 そんでもってヒューイは……彼は流石代々騎士を輩出してきた家系だけあって、スポーツ少年みたいな見た目してるくせに勉強もデキる。


 でも彼が、今の所一番の問題児。




 理由は……とんでもなく字が汚いんだ、これが。




 『解読』と呼んでも良いくらいに読みにくい字で、インクの濃さもまちまち。

 力を入れて書いてみたり、逆に抜いてヒョロヒョロさせてみたりと統一性も無い。


 隣同士で採点し合うときには、解読が困難過ぎて時間切れ。

 そしてかなり時間をかけて読み取ってみれば、ほぼ満点というのも癪に障る。


 どんなに内容が合っていても、字が読めなければお話にならない。

 誰もが、わざわざ時間をかけて解読してくれるわけじゃないし。



 というわけで、それぞれの苦手分野を中心に勉強しようと集まったのよね。



 私? 試験範囲は多分問題ないから、アリーおススメの歴史書を読んでるわ。


 みんなの監督、って感じかしら。




「――こんなんで、汚い字が直るのかよ?」

「やってみなきゃわかんないでしょーが。せめて名前くらい読める字で書いてほしいですわ」



 ヒューイにやらせているのは、私がお手本を書いてあげた紙を見ながらそれを真似するというもの。

 とりあえず、書いて書いて書きまくらせるつもり。


 字を書くんじゃなく、模写するつもりで『描け』って言ってある。



 それくらいに、ヒューイの字は汚い。



 不貞腐れたような顔をしたヒューイに再びペンを持たせると、隣を見る。


 アリーはひたすらに計算問題を指折り解いている。


 こういうのは反復だからね。

 1+1=2、5+7=12とか、何度もやれば一桁台ならすぐに覚えられると思うの。



 斜めの席に座るエルはというと、教科書にしている本から重要そうなところを写して、自分なりにまとめている。


 彼は自分で勉強できるタイプみたい。

 コツコツ努力型っぽいし、普段の言動からも知的さを感じるのよね。



 さて、静かになったところで私も集中集中。



 流石、アリーのおススメだけあって、歴史書なのにグイグイ読めるなぁ。


 試験に出るのは、子供が寝る前に聞かされるような建国物語レベルなんだけど、今読んでいる本はもっと詳しいところが書かれていて、ご先祖様たちが色々と頑張っている様子を知ることができる。


 「歴史ってこんなに面白かったんだ!」って、生まれ変わってからの新しい発見の一つなのよね。




 試験期間中ということで、図書館の中は勉強する生徒たちで一杯になっている。


 特に上級生の集まっているエリアは、そりゃもうとんでもなくピリピリした空気が漂っていて、近づきたくない感じ。

 間違えてあのあたりの席に座ってしまったが最後、ヒューイとのちょっとしたやり取りでも、殺気の籠った視線が突き刺さるに違いない。

 やり過ぎたら、インク瓶とかが飛んでくるかも。


 ここはお貴族様の学園だから、よっぽどのことがなければ卒業できなくて留年……ということは無いと思うんだけど、私が想像していた以上に、成績が少なからず将来に影響する人も多いみたい。


 社交や人脈づくりがメインだと思っていた学園生活だけど、貴族だと見栄とかもね、大事だものね。

 王宮で仕事をしたい人も、やっぱり成績が重要になってくるわよね。



 今のところ、将来も前世同様に引きこもり希望とはいえ、数年後の自分を思うと、少し寒くなったのだった。




***




「はぁぁぁぁ~~~、疲れた~~~!」



 青空の下で、グイグイと伸びをしているのはヒューイ。


 お昼になったから、みんなで屋外のベンチで昼食を摂ることにしたの。

 今日は天気も良いし、気温も丁度良い。



 各自の侍女・侍従に持ってきてもらった昼食で一休み。


 ローストビーフとスモークチキンのサンドイッチに、食後のフルーツは瑞々しい洋ナシとイチジク。

 飲み物は香りの良い紅茶。


 うー、ホッと温まる~~~。



 屋外でピクニックみたいに食事をするのは寮に入って初めてだから、自然とテンションも上がるってもので。


 木の葉が色付いてきたこの季節、たまにぴゅうと冷たい風が吹くものの、ペンを走らせる音だけの世界から解放された私たちは、頬を染めながらたくさん会話したのだった。



「無心で計算問題ばかり解き続けていましたら、なんだか少しづつ暗算が早くなってきたように感じますの。これがローザの言う『慣れ』というものなのでしょうか?」と、嬉しそうに微笑むアリー。


 午前中まるごと計算問題に費やした彼女は、すっかりコツを掴んだらしい。

 うんうん、かなり集中してたもんね。



 エルも「僕も、要点をまとめているうちにだんだん分かってきて、そのうち少しずつ面白くなってきました」なーんて秀才発言。


 多分、試験問題を解くための勉強じゃなくて、ちゃんと内容を理解しながら知識を自分のものにしていっているんだと思う。



「俺はもう手が痛いよ……」



 苦い顔で、しきりに手を握ったり開いたりを繰り返すヒューイ。

 少しでも集中を乱すと私に睨まれていたので、午前中は本当に苦痛だったみたい。


 どちらかというと彼は体育会系だから、静かにペンを走らせるよりも、体を動かしたくて仕方なかったんじゃないかしら。


 図書館を出たらおもむろに走り出したり、ストレッチしはじめて驚いたわ。



「でもさ、ローザの言うとおり、字だと思わないで真似してみると、意外と上手い事書けるような気がするんだ。コツも掴んできたから、もうちょっとしたら、それなりに読める字になるかもしれないな」

「あら、早いのね」



 ヒューイはやっぱり、やれば出来る子なんだ。

 午後からは、ちょくちょく添削しながら様子を見ようかしら。



「……しっかし、上級生の方たちの熱気が凄かったわね」

「確かに。王宮での役職なども世襲制が多いとはいえ、根底にあるのは建国時からの実力主義ですからね。当然、学園での成績も見られるわけで、爵位が継げない方ほど、卒業が近づくにつれ鬼気迫る様子になるのも当然かもしれません。気が抜けないですね」

「はぁ……私、不安になってしまいますの。これからお勉強ついていけるんでしょうか?」

「そのときは、またこうしてみんなで教え合って勉強したら良いじゃんか、なぁ?」

「そうねぇ。毎日コツコツと勉強していれば、大丈夫……だとは、思うのよ。間違っても『一夜漬けでいーや』とか言い出さなければ、きっとね」



 前世ではそれが常だったから、かなり残念な成績だったわけなんだけど。

 徹夜で暗記しまくって、テストが終わったら全部忘れる、みたいな。



 幸いこの国に『大学』のような、この学園より更に上の教育機関はないので、当然キツい『受験戦争』もない。

 学園で学んだ以上に色々な研究なんかをしたい場合は、各研究機関のような場所に所属することになるみたい。


 エルが言うように、王宮に勤めてエリートコースを目座す爵位が継げない人なら好成績は必須だし、爵位を継ぐ場合も当然、責任感も能力も求められるので、無様な成績では許されない。

 世襲制のようになってしまっている職についても、代々それについて文句を言われないような教育を幼いころから施されて、更にそれだけのコネも持っていてようやく……ということらしいので、遊び惚けていて継げるものではないんだとか。


 これまでは、成績が悪くても卒業できるだろうし、私ら貴族のお嬢様の大半は結婚さえできれば……というか、結婚するのがミッションなわけで、試験の成績なんてのはこの学園っていう限られた空間でのみ通用するステータス――だと思っていたんだけど、違うみたい。


 ただ一言に社交するって言っても、会話術だけじゃなくて知識とかも必要だものね。


 まだ世間に出ていない私たちを測るための評価だから、学園での成績は将来に繋がる大切なことで……、要は『勉強も頑張らなきゃいけない』ってことよね。



 前世ではちっとも優秀じゃなかったから不安だけど……でも、良いの。

 勉強することだって、ウキウキ学園ライフの一環だもの。


 『学生の本分は学ぶこと!』だものね。


 むしろ、上等よ!

 たくさん遊んで、たくさん勉強してやろうじゃない!!




「さてと。それじゃ、そろそろ戻りましょうか」

「はい。午後も頑張るですの!」

「もう一息ですね」

「はぁー、またやんのか……」



 みんな気合いを入れ直しているというのに、ヒューイだけが浮かない顔。

 よっぽど、午前の書きまくり上達法が嫌だったらしい。


 ……仕方ないなぁ。



「字が上手に書けるようになったら、ご褒美を上げますわ。とりあえずもう少しやってみましょう」

「褒美?」

「私が飛び上がって泣いて喜んだくらい、素敵なものですわ。アリーもエルも、もうひと頑張りしたら差し上げましょう」




 目の前に餌をチラつかせてみれば、「わーい」「嬉しいですね」「よっしゃーやるか!」等など、実に素直な反応を見せてくれた。


 やる気を出して図書館へ向かう彼らの後ろで、こっそりとエリーに『アレ』の調達をお願いしたのだった。




***




 午後も滞りなく各自のノルマを果たし、アリーは足し算と引き算を、エルは魔術の基本を、そしてヒューイは読める文字の書き方をマスターしたのだった。


 私はというと、借りた本はしっかりと読んだ。

 おかげで、この国の起源について詳しく学ぶことが出来たわ。



「さあ、これが約束のご褒美ですわ」

「これは……なんだ?」



 私以外の三人はキョトンとした顔で、エリーの持ってきてくれた小さなバスケットに入った『アレ』を見つめている。


 『これが褒美?』と全員の顔にしっかりと書いてあったので、取り敢えず一枚勧めてみる。



「これはポテトチップスと言う、異国のお菓子よ。とっっても美味しいから、みんなで食べましょう」

「ポテトチップス? じゃあこれ、芋なのか」

「うすーいですの」

「初めて見るお菓子ですね」



 それぞれ興味を持ったのか、私が笑顔で差し出したバスケットから恐る恐る一枚ずつ手に取ると、小さく齧った。


 あぁん!

 そんな食べ方じゃあ、美味しさがわからないわよ!!!



「これはもっと大きく口を開けて、一口で食べるものよ。なんなら数枚を一気に食べても良いですわ」



 言うなり、ニ枚ほど掴むと令嬢らしからぬ大口でバリバリと咀嚼して見せる。


 う~~~ん、やっぱり美味しいわぁ~~~♪


 私の様子をギョッとした顔で見ていた三人は、それでも手に持ったポテチを口に放り込んだ。



「ん、しょっぱ!!!」

「面白い歯ごたえですの」

「これがお菓子なんですか?」



 そっか、しょっぱいって言うの忘れてたわ。

 それでもお気に召したのか、「美味しい美味しい」と言いながら、あっという間に用意したバスケットは空になった。



「なんだろう、クセになる菓子だな」

「結構塩と油を使っているからたくさん食べちゃダメよ。今日はもうおしまい」

「ちぇー」

「でも、とても美味しかったんですの」

「本当に。是非また食べたいですね」

「厨房の人に言えば、多分作ってくれるわ。でもホント、たくさん食べたらダメなんだからね。適量を守ってね」

「そんな、薬じゃないんだから……」



 薬というよりは毒寄りよね。


 ぶっちゃけ、ハマって中毒になっちゃうくらい美味しいんだから!

 前世でヤバい事になった私が言うんだから、間違いないわよ!


 ……とは言えないので、「健康の為」と重ねて伝えておくに留めた。



 ここからは自己責任だからね。



 おやつを食べたら、薄暗くなっていく中解散したのだった。




***




 こうして無事、試験前の追い込みを終え迎えた試験本番。


 簡単な内容だっただけあって、みんな好成績を叩き出した。



 ヒューイに至っては、調子に乗って家族に手紙を出したらしい。


 彼の字が酷い事は彼の家族も知っていたので、初めは代筆を疑われたらしいけど。

 それでも彼の侍従が本人の書いた字であると報告したので、大層驚かれたとか。



 後日私に、感激したヒューイの家族からお礼の手紙が届いてビックリしたわ。

 数々の賛辞とともに、サーシャから『甥を頼む』とまで書かれていた。


 いや、頼まれても……ねぇ。



 とりあえず当たり障りのない内容で返事を出したけど――それよりも、この試験終わりの解放感を楽しまないとね!!!




図書館で勉強するっていかにも学生! って感じしませんか?

そして、前話でエリーがアリーになっていて申し訳ありませんでした。

なんでこんな似たような名前にしちゃったんだろ……。


2015/11/03 誤字を修正しました

2022/03/28 ちょこちょこと追記&修正しています。

成績に関しての記述を大幅に変更しました。(成績はただのステータス→大切な評価)

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