前世はデブ子
鏡の前でぶっ倒れて目が覚めた時、なんと私は前世の記憶を取り戻していた。
周りの制止を振り切って倒れた原因の鏡の前に立ってみると……なんじゃこりゃ!!
――目の前には、前世の姿とは似ても似つかぬ、ド迫力の超絶美女が驚いた顔して立っていた。
***
前世の私は体重三ケタオーバー……つまりは百キロを越すという超おデブ。
大学を出てもコミュ症気味で見た目もダイナマイトバディー(もちろん悪い意味で)、そんな女を雇ってくれるという会社は無く、親の脛を齧りながら腹回りばかり立派にさせていた私は――ある日、死んでしまった。
……餅を喉に詰まらせて。
「だってお雑煮に入ってる餅が美味しすぎて、つい食べ過ぎちゃうんだもん」そんなふざけたことを言って五つめの餅を貪っていた時に、喉に詰まらせた。
家族の必死の救助も空しく、走馬灯を見終わったところでぷつりと意識が途切れた。
食って寝てダラダラと身にならないゲームばかりしていた人生だったなぁ……。
……。
…………。
………………。
「あの、お嬢様?」
「はっ!!」
いけない、ついつい立ったまま回想しちゃってた。
振り向けば、侍女が心配そうにこちらを見ている。
――そう、何を隠そう私は、異世界に転生し伯爵令嬢として成長していたのだ。
前世とはエライ差よね、全く。
私が目覚めたという知らせを受け、両親のみならずに寮で学生生活している兄まで駆けつけてくれて、口々に「心配したんだから!」と声を震わせた。
安心させるように上品な微笑みを浮かべて、「もう大丈夫だから、しばらくそっとしておいてくれ」という感じのことを丁寧に言うと、彼らはホッとしたように部屋を出て行った。
ふぅ。
しかしまさか、私が転生しちゃうとはねぇ……。
これが『異世界転生』という現象だということは、元オタクだった私は瞬時に理解した。
今世と前世の記憶が混じり合って、まだちょっと頭がグラグラするけれど。
再び鏡の前に立つと、写るのはやっぱり美しい伯爵令嬢の姿。
ゴージャスな黄金色のたっぷりとした長い髪、きめの細かい白い肌に、整った顔立ち。
深いブルーの瞳、高い鼻、華やかな笑みを浮かべる唇は鮮やかなサクランボ色。
さらに視線を下ろしてみれば、白い肌に浮かび上がる鎖骨、豊かな胸元、キュッとくびれたウエストから美しい曲線を描くお尻に、細くて長い脚。
記憶が戻る前から、大好きなお母様によく似たそこそこ悪くない顔と体つきだと思ってはいたけれど、前世の醜く肥え太っていた自分の姿を思い出してしまえば、簡素な白い寝巻を着ているだけで美しいこの姿は、さながら女神のように思えてくる。
……これが今の私の顔、身体。
いかん、感動して涙が出てきた。
鏡に映し出される少女は、泣いた姿ですら美しい。
前世では信じられなかったその存在を、今なら拝み倒せます。
神様、ありがとう!!!
完全見切り発車のお話なので、後付け設定が次々と出てきます。
外見は百パーセント自分の好みにしました。
お付き合いいただけますと嬉しいです。
よろしくお願いします。
2022/03/15、24 ちょこちょこと追記&修正しています。