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四十六話「スプラッシュ マウンテン サイクル」

 船となった大きい頭蓋骨の上には私を含めた三人の女の子がいる。

 私とアテナと自称星霊竜ステラを名乗るブラッドムーンだ。

 先頭で腕を組み仁王立ちをするステラを背後から見つめながら、座り込んでいる私達はひそひそと小声で話し始める。


(ねぇアテナさん、星霊竜ステラってどういうこと?)

(さあ? 打ち所が悪かったのかな?)

(いやいやいや! そりゃそう思うのも無理ないけどさ、だったらあの髪色はどうなの? てか合流した時はどうだったの?)

(んーとね……)


 アテナの話によると、ブラッドムーンに追いついた時には彼女は既に河の中に入っており、そこにこの巨大な頭蓋骨があったらしい。

 まるでモーゼの十戒の如く左右に裂かれた大河の中で、ブラッドムーンが中二病めいた言葉を言いながら頭蓋骨に重なると、途端にブラッドムーンは急変して銀髪になったとのことである。

 後に頭蓋骨はルーンを明滅させると、ブラッドムーンを乗せたまま丸ごと地表から浮かび上がり大河は元に戻ったと言う。


(それだけ?)

(それだけ。 正直、私も驚いてる)

(なんか話だけ聞いてると本当っぽい)

(月詠さんもそう思う? 私も今のブラッドムーンちゃんは、ごっこ遊びしている風に見えなくて)


 私達がそう思うのも当然である。

 頭蓋骨が大河に流されていると、先には腐った大木が引っかかっており通せんぼをしていた。

 障害物である。これまでにも流木だけでなく岩など様々な物に行く手を阻まれてきた。


「ふん……」


 ステラが面倒そうに大木を見下すと――頭蓋骨全体にルーンが輝きだし、空気が裂けるような音をたてて大木から黄金の炎が発ち昇る。

 黄金の炎と言うのは言葉通りで朱色とレモン色からなる普通の火ではなく、どちらかと言うと白金に近くてキラキラとした粒子を散らしており、とても綺麗に燃え盛っている。

 なんだかとても神々しくて神炎しんえんって言葉が似合いそうな感じだった。

 そして焼かれた大木は石灰のようになると、さらさらと風に運ばれて消えてしまった。

 どう見ても吸血鬼の使う類の能力ではない。


「「綺麗……」」


 アテナと二人して見惚れていると、ステラが振り返って告げる。


「山中深くにも関わらず、我が頭蓋の発掘に感謝する。 短い時間ではあろうが、この山下りの道中を楽しませてもらうとしよう」


 ステラの言葉を聞くと、私は思い出したようにアテナに向き直る。

 疲れもあってついついゆっくりしてしまったが、そういえば出口までの距離は残りどの位だろうか。

 大河の脇道を見れば未だ、焼け続けているモンスターの破片が転がっており、さっきのフォーリングスター・神風アタックの名残が見られる。


「ねえアテナさん、出口までもうすぐって言ってたけど――」


 そこまで言いかけた時、途端に船は傾き引き寄せられるような急加速を始めた。

 進行方向に視線を戻すと、急勾配に下る水脈路は遥か先まで真っ逆さまで、今までに乗ってきたアトラクションよりもスリリングな光景に背筋が凍り付く。


「え? ちょっとこれ、え? え?」

「んー、あの脇道を歩けばもう一時間程度だったと思うよ?」

「いや、あの、そうじゃなくて――」

「でも、このまま流れた方が早いかも? 楽しそうだし死にはしないでしょ」


 有無を言わさず始まった超絶スプラッシュマ○ンテンに息が止まるような感覚を覚えた。

 顔に当たる空気は頬を波打たせ、日本人形みたいな私自慢のさらさらな長髪も暴風に吹かれて乱れまくり。

 これまで楽しんできた絶叫マシンなど、所詮安全が保証された平和な遊具。

 しかし今のこれにはそういう安全や安心が保証される訳も無く、故にひたすらに絶望を感じながら叫んでしまう私がいた。


「いやあああああああああああああああああああ!!」




   ☆   ☆   ☆




 私はこれでも絶叫マシンは好きな方だ。

 物静かで大和撫子な外見で勘違いされがちだが、体を動かして皆と騒ぐのは楽しい。

 部活の練習や大会は当然として、学園祭やスポーツ祭も大好きだし、休日には友達とテーマパークにだって出かける。

 出先で様々な絶叫マシンを踏破してきた私だが、それでもこんなに酷いのは味わったことがない。

 私の目の前には大河が螺旋状に流れている。

 螺旋状と言うのは表現とかでなく、そのまま言葉通りに水がスプリングみたいにぐるぐると渦を巻きながら流れていた。

 つまり――こんな水の流れができてしまうほどに、洞窟の壁や天井が水の通り道になってしまうほどに、水の勢いが恐ろしく凄まじいといこうことだろう。

 そして勢いが穏やかになるはずもなく、新幹線の希ちゃんも真っ青になりそうなスピードで、そのスプリングウォータースライドに突入する。

 すると、私はこんなに落ち着いて語れるほど冷静ではなくなってしまった。


「んもおおおおおおおおお! 何あれ! バカじゃないの! いやバカでしょ! 洞窟のバカ! もう知らない!

 うわあああああああああああん! お爺ちゃん助けてえええええええええええ!

 水! あなたもバカよ! なんでそんなバネみたいぐるぐるになってんのよ! 何なの!? バカなの!?

 こうなったのも絶対クララのせいなんだから! クララのバーカ! アホー! 体が治ったらお爺ちゃん捜しの旅に付き合ってもらうんだから! 断ったらアルテミスでバスターホームランしてフォーリングスター・神風アタックするから!

 いやああああああああああああああああああああ!!

 なんであんなところで流木が通せんぼしてるのよ!

 ステラちゃん! お願いだからなんとかして! お願い! お願い! さっきみたいに聖火でさっさと消炭にしてって! ちょっと!? ステラちゃんなんでそんなジト目でこっち見てるの! ねえねえ! 前見てお願いだから! 危ないから! すみません! 見てください! お願いですから!

 うひょおおおおおおおおおおおおおおおお! 助かったああああああああああ!

 ステラちゃん素敵ぃぃぃいいいいいいい!!

 ホンッと天使! 女神! 神様! 仏様! 感謝感激雨嵐!! 仁王立ちカッコイイイイ!

 ガアアアアッテエエエエエエエム!!

 なんで今度は地底人が溺れてんのよ! ふざけないでよ! こっちまで巻き込まれたらたまったものじゃないですぅううう!!

 ちょっとこっち来ないでよ! アテナさんお願いだからあのオーマイガッドを駆逐して! お願い! なんでそんな哀れむような目で私を見るの!? ねえねえ何で!? どうして!?

 いやっほぉぉぉおおおおおおお!!

 地底人しゅうううううううりょおおおおおおお!

 アテナ女神様の華麗な一閃が決まりましたああああああああああ!

 天啓は我らにあり!」


 この後も冷静さを欠いた私による、残念な実況中継とみっともない懇願は長く続いていた。

 しばらくするとステラの聖火によって石灰になった流木が私の頭に直撃し、顔面真っ白になって口の中が灰まみれになると「あばばばばばばばば!」と、まともに呼吸もできなくなったところで私は意識を失った。

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