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四十五話「ファイト一発!」

 そこかしこで燃え続けるモンスターの残骸を眺めながら歩き続ける。

 飛び散ったモンスターの肉片は細かく砕かれていて、既に何がどれでどこの部分かもわからない程であり、グロさは無く何処かの肉屋が爆発炎上したような有様だった。


「はぁ~重いよ~」


 弱音を吐きながらブラッドムーンとアテナの二人を追いかけていた。

 スタミナには自信があったのだが、アマゾネス達から比べれば私なんて所詮温室育ちなのでこの様である。

 アテナはこのウェイトを担ぎながらダンジョンを歩き回り、ボス戦たるブラッドムーンとドンパチした時も背負ったままだった。

 他のアマゾネスはここまで鍛えられていない。アテナならきっと、日本で活躍中の霊長類最強女子たる金メダリストとも死闘を繰り広げられるだろう。

 それと荷物だけでなく、チョコバナナとカンテラで両手も塞がっているので正直しんどい。

 おまけに荷物には鮎をぶら下げてる為か、若干の生臭さを撒き散らしている。

 おかしい。大和撫子がひらひらの綺麗なシスター服を着ているのに、この女子力の低さはなんだろうか。


「しかも若干傾斜気味だし……」


 大河の側道を歩いているのだが、気付けば徐々に登り坂になっている。

 もしかしなくても、このダンジョンは山の中なのだろうか。

 スピアがあれば杖として大活躍しただろうが、残念ながらあれはアテナが持っているので諦めよう。


「疲労増し増しだよ、まったくもう……茹で野菜マシマシ、焦がしニンニクマシマシ、冷盛り太麺モチモチ、魚介鶏骨スープ濃厚ドロドロ……」


 増し増しという言葉に日本にいた頃大好きだったラーメンを思い出すと、途端にお腹が空いてきた。

 今はダンジョン、辺りはモンスターの残骸、着衣は真っ白なシスター服、それでもやっぱりお腹は減る。

 私は17歳の現役(?)女子高生、育ち盛りなので当然だろう。

 ちなみにラーメン通の間では、魚介と聞けば豚骨を真っ先に思い浮かべるだろうが、私としては魚介鶏骨が最強である。


 ――そういえばヴィエルジュに来てから麺類食べてないな~。


 そんなしょうもないことを考えている時である。

 ふと視線を上げると、脇にある大河の上流から、何やら謎めいた大きな白い浮遊塊が流れてくるのが見えた。所々に黒い斑点が浮かび穴だらけのチーズみたいである。

 傾斜はゆるやかなので、こちらに流れてくる速度は手漕ぎボートのようにゆっくりだ。

 疲れと好奇心の影響でぽかんと口を開けて見つめていると、浮遊塊の上からひょっこりと見慣れた顔が現れた。


「月詠さ~ん!!」


 アテナだ。近くにモンスターがいる気配は無いので、彼女は大きく手を振りながら遠慮無く叫んでいる。

 元気はつらつな様子からして、どうやら無事ブラッドムーンと合流できたのだろう。彼女は見当たらないが、きっとアテナの膝元でお尻をさすりながら悶えているのかもしれない。


「アテナさ~ん! ブラッドムーンちゃんは大丈夫ー!?」


 叫び返されたアテナは、両腕を組みながら首を傾げ返答に困っていた。

 さすがにホームランされたとなれば無傷とは言えないようだ。胸の辺りがチクリと傷む。


 ――まさかケツバットしちゃうなんてなぁ。


 そのつもりが無かったとは言え申し訳無いばかりだ。

 気まずさに思わず足が止まってしまい、脱力感に包まれるとその場に座り込む。


「そっちに行くまでそのまま休んでなよ! そんな重症とかって訳じゃないから安心してー! でも……んー、とにかく合流してから!」


 アテナが気負わないようフォローしてくれるが、歯切れの悪さが気になる。

 尻バットはコントみたいな光景だったが、良い音を響かせていたのでさぞ痛かっただろう。

 乱れた呼吸を整えながら大河を流れる浮遊塊を眺めていると、少しずつ近くなりその正体が見えてきた。

 それは頭蓋骨だった。


「きょ、恐竜の骨っ!?」

「ただいまー、月詠さん。 ささ、乗って乗って」


 アテナが笑顔で手を差し出すと、私は彼女にまずカンテラとチョコバナナを手渡し、次に背負っていた重過ぎる荷物を返す。

 受け取ったアテナは笑顔を崩さず、あの重たい荷物を片手でひょいと持ち上げ近くに置くと、再度私へ手を差し出してきた。


「ほらほら、急いで急いで」

「う、うん」


 寵児とはかくも、いつの時代にもどこの世界にも存在するようだ。

 そのスウィートなルックスも相俟り、もしアテナが男性ならば――と、この仮定もいいかげん止めよう。

 私は目先のガイコツを見渡すと、手足がかけれそうな窪んでいる部分を探し、そこを狙って側道から飛び跳ねた。


「ナイスジャンプ!」

「ど~も!」


 差し出されているアテナの手を掴み、よじ登ろうとするが――力が入らない。

 自分で思っていたより疲れを溜め込んでしまっていたようだ。

 思えば今日一日で随分と様々な経験をした気がする。

 初冒険に出て、初チュートリアル、初ダンジョンで、初ボス、そして初の合体技。

 初体験を一気に経験したので体力も神経も酷使さてれいるので無理もない。

 ただ残念なのは、初体験という甘酸っぱい響きからは一切縁のない侠気おとこぎ溢れる内容だったことだ。

 まあ組んでるのがアテナだし仕方が無い。


「月詠さん、どうしたの?」

「んーん。 ちょっと疲れちゃったみたいで」


 申し訳無さそうに苦笑いを浮かべると、アテナはくすりと微笑んで私の手を掴み直し、そして洞窟に響き渡る程の大声で叫びだした。


「せーっの!」


 すると私の体は翼が生えたように軽くなった。まあアテナに吊り上げられただけなんだけど。

 それでもアテナの表情にむさ苦しはなく爽やかな王子スマイルなのだが、何故かその迫力に満ちた笑顔に気圧されてしまう。


「月詠さん! ファイトォォォォオ!」

「いっぱぁぁぁぁあつ!」


 そしてアテナに釣られるように叫び、見事に私は彼女に吊り上げらると、一気にガイコツを駆け上がった。

 どこかのコマーシャルみたいな掛け声になってしまった気がするが、気がするだけだろう。

 こうして無事頂上に着き、大きく溜め息を吐いて手足を大の字に広げて寝転ぶ。

 と、早くブラッドムーンに謝るべく体を起こすと、いつの間にかそこに彼女はいた。


「ブラットムーンちゃん……だよね?」


 体を起こした私の傍らに、顔を合わせるように、ちょこんと見慣れた顔の女の子が座っていた。

 彼女を見た私は、アテナの歯切れの悪さに強く納得せざるを得なかった。

 なぜなら今の彼女は自慢の真紅の長髪ではなく、黒銀色に変色していたからだ。

 私の開いて塞がらない口を見ていた彼女は、無表情のままに口を開く。


「それはこの肉体の主の名だ。 我が名は星霊竜ステラ、今お前が乗っている頭蓋の思念なり」

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