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十九話「昼顔?」

 セミ・シスター三日目になったが、今日もクララはいない。

 朝食を早々に済ませると私に言伝をして何処かへ行ってしまった。いや、何処かなんてヴィヴィアンのとこに決まってる。

 ヴィヴィアンには例の王子様がいるし、クララがその事を知らないはずないだろう。それなのに、クララは何故あんなにも浮かれているのか。

 昨日の昼休みに地下通路で見たあの光景が頭から離れない。

 二人はまるで恋人同士みたいだった。クララとヴィヴィアンの密会、人目を避けてあんな暗がりであんな声を出すなんて。

 ヴィヴィアンはそういうタイプの人だったのか? クララは了承の上で関係を築いているのか?

 そもそも二人の関係ならば、私が頭を悩ませることすらも筋違いなのだろうか。

 それとも去年テレビでやってた生々しい不倫ドラマを見すぎたのだろうか。


「月詠さん、なんだか様子が変だけど大丈夫?」

「あ、ごめんロイスさん。 全然大丈夫だよ、ちょっと……考え事してただけだから」


 ロイスが心配そうに私を見ている。

 そうだ、まずは目先のことをやらなければ皆に迷惑がかかってしまう。

 私はハーブの瓶詰めが入った木箱を持ち上げると、シスター達と一緒に地下貯蔵庫へと向かった。


 真っ暗な中にロウソクの灯りが点在する螺旋階段を降りて地下通路に出ると、昨日をことが思い出されて胸がチクンとする。

 今日はさすがにクララの声は聞こえない。それは当然だ、今日ここにシスター達が来るのはシスター長であるクララ自身が指示したのだから。

 きっと今頃も人目を避けてヴィヴィアンと逢瀬をしているのだろう。

 昨日の逢瀬部屋を通り過ぎ、別の部屋にシスター達が入って行く。私も流れに任せて部屋に入ると、そこはちょっと埃っぽい感じのワインセラーみたいな場所だった。

 並んでいる棚には埃を被った瓶が綺麗に陳列されている。緑、赤、青、言うまでもなくハーブの瓶詰めの完成品だ。

 部屋の奥へ進んでいくと何もない棚がいくつか見え始め、シスター達は次々と仕上がったハーブの瓶詰めを置いていく。

 これらの作業を何往復かしたところで鐘が鳴り、午前の作業が終わった。


「それじゃあロイスさん、月詠さん、お昼にしましょ」


 メルセデスが自然に私達を誘ってくれたので、そのまま今日も三人で食堂へと向かった。

 学校でも友達はこんな風に増えていったけど、ケンカした時なんかも翌日には仲直りしたけど、友達以上の存在はどうすれば良いんだろう。

 自分と一緒に暮らしている相手が、自分じゃない誰かと密接になってる時はどう接したら良いのかわからない。

 ていうか正直言って、あの二人がそういう関係だったとして私は応援した――くない、感じがする。

 だって仮にヴィヴィアンとクララがそうだとしても、そもそもヴィヴィアンには王子様がいるんだしクララに対して不誠実だ。


「ねぇ、二人はヴィヴィアンさんのこと……どう思う?」

「「ヴィヴィアンさん?」」


 食卓に着いて昼食を摂り始めるなり、話を急に振りすぎてしまった。二人共さすがに少々驚いている。

 あんまり露骨にしすぎると変な噂がたってしまうかもしれないので、それとなく聞いてみよう。


「いやその……ヴィヴィアンさんってほら、素敵な方とご一緒してるみたいだから」 


 王子様をダシにする野次馬のような言葉を口にすると、二人は互いを見合わせて納得したようにクスクスと笑いだした。

 なんとか妙な誤解は与えずに済んだようだ。


「確かにあの方は素敵ですね」

「そうね。 あのお二人が一緒にいると絵になるもの」


 やはり王子様とヴィヴィアンは周りが公認するペアのようだ。そうなるともう、ヴィヴィアンの昼顔説が濃厚になってしまうが。

 まあでも、やはり考えすぎなのだろうか。別にキスとかの現場を見た訳じゃないし、後から抱き締める位は普通――と、思えないのは私だけだろうか。


「あっ! 月詠さん、それにロイスさんと、メルセデスさんも!」


 三人で話していると、クララが食堂に姿を見せた。

 元気に手を振ってにこにこと笑顔でこっちに近付いてくる。


「三人で何の話してるの? もしかして私の話かな?」

「違いますよ。 今はヴィ――」

「ロ、ロイスさんちょっと! あれ、えーと、そのイチゴミルクって美味しいの?」

「はい?」


 私がヴィヴィアンの話題を切り出したとばれるのはまずいだろう。

 昨日の密会を覗き見た後ろめたさもあるけど、それよりも私がヴィヴィアンとクララの関係を疑っていると思われるのが――


「いいえ、今はヴィヴィアンさんのことでお話をしていました」

「メ、メルセデスさん……」


 ちょっと隙を見せたら普通にさらっと言われてしまった。

 その言葉を聞いたクララの目が強く開き、立ったまま口を開く。


「ヴィヴィアンさんか。 ちょうどこれから一緒に外で食事を摂るんだよ」

「あらまあ。 月詠さんお借りしてて大丈夫ですか?」

「気にしないでロイスさん。 月詠さんもお楽しみ中でしょ?」

「ま、まあ~ね~」

「私もヴィヴィアンさんとは二人の方が良いし」

「そうなんですか? お二人の組み合わせというのも珍しいですね」

「メルセデスさんもそう思う? 実は私もそう思うんだけど、でもまあ……私達が先に進むには、二人で会うのが今は一番良いの!」

「そ、そうか……クララちゃん、また晩餐か水浴びの時にね」

「ん~……」


 何気なくかつ堂々と投下された事実に追い討ちをかけるように、クララが手を唇に当てて唸り始めた。

 つまり晩餐や水浴びでもクララとは会えないということか。


「ごめん月詠さん。 今夜は戻るの遅くなるから、先にベッドで寝てて良いよ」

「え……? クララちゃんは?」

「私は、その……忙しいから」


 濁すような物言いを残すと、クララはそのままビュッフェから昼食を選び、大きめなハンカチに乗せると両手で抱えながら外へ消えた。

 今のクララの様子だけで言ったらもう完全にクロだった。別に罪を犯している訳ではないが。

 今日の午後の作業はきっと、心ここに在らずになってしまうだろう。

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