十六話「アマゾネスか、シスターか」
クララの問いを聞くと、皆はとりあえずとばかりにおやつへ手を伸ばした。
皆がう~んと唸りながら考えていると、それぞれ自然と同じ派閥者同士で目を合わせる。
「月詠さん、私はやっぱりバランスよくアマゾネスが良いと思います!」
「ギブリさんもそう思う?」
「せっかくクララさんという優れたがシスターが一緒な訳ですから――」
初めに話したのはギブリだった。そういう訳でアマゾネス派はギブリと私。
ギブリはただ自らと同じと言うことでアマゾネスを推すのではなく、シスターであるクララが一緒に旅をするという前提でのことだった。
職を揃えればどうしたって偏りが生じるので、ペアとしての総合力を高める為と言うのがギブリの意見である。
ちなみに私がアマゾネスを選んだ理由は、弓を使えるという理由がほぼ全てである。さして明確な理由は無く、とりあえずは暫定的にアマゾネスといった感じなのだ。
そんな訳で雰囲気としては、今のところアマゾネスは二票じゃなくて一票と半分ってところだろうか。
アマゾネスの最大の特徴は、多様な武器の扱いと狩りを始めとする高い戦闘技術らしい。
習得する武器の中でも弓は必須であり、他にも剣に槍といった王道から鞭みたいなマイナーな物まで多様に学べるという。
そしてそれらを支える広い戦闘知識、これはつまり様々な生物の生態を学ぶことにより、急所や習性を頭に叩き込んで戦闘を有利に運ぶというものだ。
逆に短所は戦闘以外ではあまり役に立たないという事実。
同じ戦闘職でも騎士みたいに国家権力という盾も無く、暗殺者でいう毒殺や追跡者のように身隠しに長けている訳でもない。
アマゾネスは生粋の戦士なのだ。
「実際に組む私としては、シスターの方が良いかなーって思うんだけど」
「まあ無難ですよね」
一方、シスター派はクララとシャマル。
二人の意見を聞いていると、それはアマゾネスとは全く異なる内容だった。
まずシスターということで、国へ出入りするに際して“遍歴の修道女”という名乗りが無難だということ。いくらクララ同伴とは言え、確かに多様な武器を担ぐ女戦士よりは入国しやすいだろう。
それとシスターは人々を救ったり護ったりが常なので、手当て技術に薬品関連の知識も自ずと身に付くのだ。
纏めると、旅に危険は付き物で最重視すべきは『死なないこと』である。そこに着眼して二人ともシスターになると言うのが狙いなのだ。
こちらのシスター派は意気投合しており立派な二票となっている。
更にもう一つ、シスターの特徴だ。
見た目こそ可憐な乙女だが、その実は立派な武闘家の類である。
シスターと聞くと、聖母様に祈りを捧げて貧しい子供達に慈愛の手を差し伸べるイメージが強いが、シスターとは修道女と記される通りに修道士である。つまり女モンクなのだ。
拳とかヌンチャクみたいな鈍器で戦うお馴染みのあれだ。元々は護身技術の一つだったが、治安が悪くなるのに比例して教えが広まったらしい。
そういえばクララだって、森で遭遇したルーン・ベアの攻撃を優雅に避け続けていた。クララは防戦一方だったけど、足音や気配だけで誰なのかを当てるエリス様はいかにも達人って感じがする。実際に戦争中は戦ってたみたいだし。
まあでも、クララも鈍器を持てば強いのかもしれない。たぶんだけど。
ふと隣でおかしをつまむクララを見る。
こんな可愛い天使みたいな子が、ヌンチャクを振り回してアチョー! とか叫ぶのかと思うと、笑いが込み上げてしまうから困ったものだ。
「ぷっ……くく」
「なに月詠さん、私の顔に何かついてるの?」
「なんでもない。 なんでも……くくくく」
「なんなのよ、んもう」
☆ ☆ ☆
変わらず話を進めて意見を出し合うと、双方の考えているイメージが少しずつ見え始めてきた。
ギブリと私の“アマゾネスとシスター”の組み合わせは旅を“冒険”として考えていた。
一方でシャマルとクララの“ダブルシスター”は“世渡り”として考えている。
四人であーだこーだと話していると――ついに意見が纏まった。
「とりあえず両方体験してから判断してみては? エリス様に話はしてあるのでしょう?」
「そうですね。 私もシャマルに賛成です。 無理に今決めるのではなくて、きちんと時間をかけた方が月詠さんの為になるかと」
「大体さ~、月詠さんはこの世界で日が浅いし、そういうのは丁寧に下積みした方が良いよ」
「うぅ……左様でございますか」
三人の言う通りに結局はそこかもしれない。
私としてはより効率的に学びたいので先に決めようと思ったのだが、そもそも慣れない世界の職業を情報だけで決めてしまうのは早計だったのだろう。
皆が私の顔をジーッと見つめている。どうやらこれで決定したらしい。
「私がちゃんと着いて行くって約束してるんだから焦っちゃだめだよ~」
「そもそも冒険の真似事なんてして戦闘を考えるんでしたら、クララさんとの連携とかも考えなきゃ。 私もギブリとの合わせ技がありますが、きちんと経験を積んで編み出しました。 付け焼刃なんて直ぐ錆びるのがオチです」
「それに外は危険がいっぱいですよ? 以前聞いたルーン・ベアの件だって、普通に考えたらあの時点で落命しててもおかしくなかったんですから」
私は三人の矢継ぎ早な言葉に小さく「はい」と答える他なかった。
しかし言われてみればその通りなのだ。アルテミスでルーン・ベアを運良く退治できたのだって、幼い頃から弓道を続けてきた地道な努力の結果じゃないか。
「皆わかった、目が覚めたよ。 努力は人を裏切らない、ってことだよね?」
「「「おお~!」」」
「近い内にお世話になると思うから、その時はよろしく!」
毛布の中で小さくガッツポーズを決めると、皆は頼もしそうに私を見ている。
アマゾネスとシスターの見聞も広まって努力の重要さも再認識できたし、今夜のお茶会はとても有意義なものとなった。
その後はおやつをもりもり食べて他愛のない話をしていると、いつの間にか四人ともベッドの中でスヤスヤと寝息をたてていた。




