十五話「輝くいろは」
「こんばんは、どうもお邪魔させていただきます」
「今夜は月詠さんの歓迎会兼クララさんの結魂祝いですからね~! チーズとかクラッカーとか色々持ってきましたよ~!」
ローブ姿のシャマルとギブリが私達の部屋にやって来た。しかしギブリのお腹が妊婦のように膨らんでいる。もちろん中身は言葉の通りに食べ物だろう。
のりのりでご機嫌なギブリの言葉通りに、今からこの部屋でささやかなお茶会を催すのだ。
昨晩の出来事で決意を改めた私は、クララに話を聞いてもらおうと朝食の時に軽く触れたのだが、調度居合わせた二人もその場で話にまざると、四人の意見が見事真っ二つに割れた。
そんな訳で、実際のところお祝い事なんてのは方便で、私個人の人生相談の為にこうしてわざわざ時間を割いて夜中に集まってもらったのだ。
「ギブリ、もしかして……ちょろまかしてきた?」
「まさか! きちんとアテナさんに話して許可を得たんだから」
「よく許可がおりたね」
「うん。 アテナさんも『他の皆には内緒だよ』って言ってた」
「アテナさん?」
「あれ、お会いしたことありませんか? 結魂式の時にお見えになってたと思いますが」
シャマルの口ぶりからすると、どうやら挙式会場にいた内の誰かのようである。
しかし、どこかで聞いた気がする名前だ。
ベットに座って首を傾げていると、隣に座っているクララが答える。
「アテナさんはアマゾネスのリーダーだよ。 普段から狩りとか遠征で外へ行く機会が多い人だから、月詠さんはきちんと会った事がないかもね」
なるほど、つまりはシャマルとギブリにとっては目上の人という訳か。
一人納得していると、クララが毛布をめくって立っている二人をベッドに誘う。
「ささ、早く早く。 明るくしてると起きてるのがばれちゃうよ!」
「ではお二人とも、早速失礼しますね」
「夜中のお茶会なんて久しぶりだわ~!」
ギブリがベッドに座ってローブをたくし上げると、小包みにされた様々なおやつがなだれ込んできた。
慌てたシャマルと私達は、流れるおやつの波を防波堤のように塞き止めると、四人がベットに上がり込んでからクララが毛布をかける。
……当然だが、真っ暗で何も見えない。
「ほらシャマル、早くあれ出してよ。 借りてきたんでしょ?」
「急かさないで。 きちんと持ち主様と同じく、胸で挟んできたから」
「え? よく落とさなかったね」
暗がりの中に乾いた炸裂音が響いた。あえて何とは言うまい
シャマルの方から布が擦れる音がする。胸元から何かを出そうとしているみたいだ。
音のする方に視線を向けていると――
「よし、これで大丈夫」
ぼんやりと七色に輝く光が毛布の中で煌いていた。
シャマルは手のひらにあるそれを四人の中心へと置くと、全員が頬杖をついてそれを見つめていた。
「綺麗――」
私だけがオパールのように輝く不思議な物体に目を奪われていると、ギブリとクララが驚いたようにシャマルへ話しかける。
「シャマルさん、よく借りれたね」
「ほんっとだよね。 ヴィヴィアンさんと会うだけでも珍しいのに」
「そう? 朝早く泉に行くと結構会えるよ? あの方、水浴びは朝派らしいから」
「へぇ~、これヴィヴィアンさんのなんだ」
確かにヴィヴィアンと会ったのは朝早くだった。あの時もきっと水浴びをして、それからあの王子様と逢瀬を……。
妙な想像が膨らんでしまい顔が熱くなる。いや、変な詮索は止めよう。
頭を振って妄想を払拭しているとクララに話しかけられる。
「月詠さん、ヴィヴィアンさんには会ったことあるんだ?」
「うん、入り口の仮眠室で寝たことあるでしょ?」
「月詠さんが始めてここに来た時だよね?」
「そうそう。 あの翌朝、皆が寝ている時に一人で朝の散歩してたらお会いしたの。 ミステリアスな雰囲気がいかにも大人の女性って感じで、すごく綺麗な人だった」
羨望の眼差しで思い出していると、クララが私に軽く肘打ちをしてプイっと顔を背ける。
なんでそんなことをされるのやら。正面にいるアマゾネスの二人は何故かクスクスと笑っている。
「そういえば結局これって何なの?」
「まあ月詠さんは初めてですよね。 これは『マナの欠片』の一種で『魔石』に分類される物です」
「マナの……欠片?」
「これはですね――」
シャマルから聞いた説明を纏めれば、魔力保存の法則に従って育まれた産物だった。
例え物体であっても、蓄積された魔力量が多ければルーンを纏ってこのようになることがある。それらの総称として『マナの欠片』と呼ばれるのだという。
そしてこのようにルーンがある鉱物は『魔石』として分類される。聞いてみればそのまんまだった。
「さてそれじゃ二人が来てくれて準備も完了したし、朝の続き始めようか? 月詠さん、まず一言お願いします」
「えーとその、つまり……私、輝きたいんです!」
「「「はい?」」」
私を見ている三人が揃えて首を傾げた。
うん、勢いで言ったけど今のはちょっと漠然とし過ぎてるかな。
人差し指を唇に添えて言葉を選んでいるとクララが切り出す。
「とりあえずだけどさ、私と月詠さんがいずれ旅に出るってところは、一致してるよね?」
「そこは反対しません。 今すぐというのは無謀ですが、きちんと色々なことを学んでからなら良いと思います」
「実際に教会から巣立っていった人達はいるからねー」
「へぇ~……」
クララは皆の意見を確認すると、ここからが本番とばかりに言葉を強めた。
「それじゃ月詠さんがこれから地力を上げるのに際し、よりはっきりと方向性を明確にする為――クラスアップするのも良いんだよね?」
「むしろそこは必須じゃない?」
「そもそも教会での生活に慣れたら皆いずれ選ぶ道だし」
これだ。このクラスアップというのが話の焦点である。
簡単に言うと教会における職選びなのだが、実際にはゲームやらでよくあるジョブチェンジとかに近い感覚だ。何せここはファンタジーな世界なのだから。
ただ女性だらけの教会という都合上、選択肢は二者択一なのだが。
その二種類は言わずもがなだけど、せっかくなのでそれぞれの特色、長所や短所を先ずは経験者から聞いてみようと言う訳だ。
「それじゃ改めて皆に聞くよ? 月詠さんのクラスアップ。 シスターかアマゾネス。 私と世界を旅するならどっち?」




