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十一話「学んだり、恥ずかしかったり、黙り込んだり」

「それじゃあ今日からしばらくの間、月詠さんはこの世界についてお勉強をしてもらいます」

「お手柔らかにね」


 結魂式の翌日から私は、クララの宣誓通りにこの世界のあれこれについて学ぶこととなった。

 朝礼と朝食を終えて自室に戻り、白いローブ(朝食後に支給された)に着替えた私はクララにつられて洞窟内を歩いている。

 目指すは教会内にある書庫だ。そこに行けば勉学用の書物はもちろん、子供向けのお伽噺おとぎばなしや学者向けの小難しい本もあり、中には貴重な歴史の文献や資料もそれなりにだがあるらしい。

 クララと並んで歩いているとやがて教会直前の一際大きな空洞に出て、そこの真ん中あたりでクララが立ち止まった。


「ここでストップ! ちょっとアルテミス渡してくれる?」

「そういえば何で持って来たの? そもそもこのアルテミス、やっぱり貰うのは気が引けるよ」

「んーん。 エリス様にも相談したけど『アルテミスは月詠を新たな持ち主として認めている』ってさ」

「そういうものなの? クララちゃんだってさわれるんだし、認められてるんじゃないの?」

「エリス様が言うには『許容と願望は異なるものだ』って。 まあ良いから良いから、とにかく貸して」


 微妙な声真似をまじえつつクララが私に催促する。

 言われるまま了承し、きらきらと粒子を散らすアルテミスをクララに渡した。すると――


「あれ?」

「ね? これでわかった?」


 クララの手に渡った途端――アルテミスのきらきらした粒子は止み、真鍮色の弓幹をしているだけのたんなる綺麗な弓になってしまった。クララが持つと弓と言うか単弦の大きなハープに見えるけど。

 なるほど、言っていることはよくわかった。でもアルテミスのことは余計にわからなくなった。

 アルテミスを受け取ったクララは、そのまま空洞の中央に大きく突起している岩石に足をかけて器用に登ると、飾るようにそこへアルテミスを置く。


「これで良し!」


 クララは飛び降りて着地すると、両手の平をぱんぱんと叩いて汚れを落とした。

 供えたようなアルテミスを見上げて二度頷いてとても満足そうにしている。


「クララちゃんアルテミスをどうしたの? お供え物?」

「んーとね、アルテミスは月光浴をして力を蓄えるの」

「月光浴?」

「そうそう、日光浴の夜版だね。 だから月光浴」

「いやそこはわかるけど、何で? どんな原理なの?」

「さぁ……? とにかくアルテミスは月光浴をしないとダメなの。 破邪一閃だって月光を切らすと打てないんだから。 他にもいくつか『神器』があるけど、いずれも現代では解明できない古代技術の塊だからね」

「神器? 古代技術?」

「まあそれらもおいおい。 まずはこの世界の摂理から教えるね。 月詠さんは何よりも『魔力』と『召喚魔法』が知りたいでしょ?」

「それは確かに」

「じゃあまずはやっぱり書庫に行こう!」




   ☆   ☆   ☆




 書庫の中はおおよそ想定してたイメージの通りだった。ただ図書館というよりも図書室の方がしっくりくる。

 と言うのも書物の冊数である。こういう文明がさほど発達していない中世みたいな世界では、やはり紙は貴重なようだ。身寄りの無い人々が集まる浮世離れした教会となれば尚更だろう。

 その書庫の一角で、私とクララは勉学に励んでいた。


「どう? 魔力保存の法則はわかった?」

「なんとなくだけど――」


 随分と堅苦しい言い方だけど、魔力に関しての概要は正にその通りだった。

 ヴィエルジュの世界ではあらゆる万物やそこから作られた物には魔力があり、それを取り込めば己が魔力にできる。

 例えて説明をするならば――

 十個の実を付けたリンゴの木があったとしよう。この木の総魔力を百とし、木が実へ均等に養分を与え、それぞれのリンゴには十の魔力が備わると仮定する。

 この十個のリンゴをそれぞれ十人の人間が一個ずつ食べれば各々には十の魔力として取り込まれ、一人の人間が十個全て食べれば百の魔力を取り込むという訳だ。

 やがて魔力を備えた人間が何かしらの理由で亡くなり埋葬されれば、そこの土地にはそれだけの魔力が蓄えられ、その地域に緑が芽吹いて木となれば――と言う具合に魔力はあらゆる生物を渡り巡り輪廻を繰り返す。

 こうして魔力を蓄え続けた生物は、その量がある一定値を越えると体の何処かにルーンが現れて『魔法』を発現させるのだというが、その一定値と言うのは具体性が示されていない。現代の知識レベルでは魔力に限らず他の基本栄養素ですらも測定する術がないからだ。

 重要なのは、環境変化や自然現象といった様々な要因により魔力は実際に場所を変えるということ。

 極端なことを言うと、一人の人間が世界殆どの魔力を取り込んで小さな島で絶命すれば、その島は魔力の資源が豊富に溢れるオアシスとなるが、一方で他の島に住まう生物には魔力が行き渡りづらくなるのだ。

 ちなみに魔力を取り込む手段に制約はない。リンゴを丸かじりしようがタルトやパイにしようが、それが同じ一個ならば得られる魔力は変わらないと言われている。

 動物肉でも同様で、生肉だろうがウェルダンに焼き上げた肉だろうが魔力量は等しく得られる。血液を飲んでも魔力は増えるし、献血などで譲渡すれば、かたや魔力を浪費してかたや増幅する。

 こんな感じで魔力を高め続ければ、いつかは魔法が発現する可能性は誰にでもある。そう、私だっていつかは魔法使いになれる可能性があるのだ。、

 ただこんな形で魔力を増幅する都合上、どうしても発現するのは老人が多い。クララのように若くして発現するのは非常に珍しく、前述したように魔力を多大に蓄積した何かを取り込まなければならず、魔力を測定する術が無い以上それはただの運頼みだ。


「――こんな感じ?」

「そうそう! 一応言っとくと、今現在教会で魔法が使えるのは私だけだよ!」

「本当に? クララちゃんすごいじゃん!」

「水浴びの時、私の他にルーンがある人見たこと無いもん!」

「でもそれって、乙女達の間だけでしょ?」

「う、それは……」

「まあでも老人が隠す理由も無いし、子供だったらそれこそ喜んで言いふらしそうか~。 そうなると実際クララちゃんだけなんだろうね」

「そうよ、私ってばナンバーワンにしてオンリーワンなのよ」

「はいはい。 ちなみに魔法には種類とかあるの?」

「あるよ。 具体的にはね――」


 魔法の種類は、いわゆるファンタジー世界そのままな感じだった。

 火に始まり、水、風、地、光、闇。その他諸々。とうぜん召喚だってある。発現する種類や強さは、それまでに願ったり想ったりしてきた内容で決まるのだと言う。

 厚い場所で暮らす者が水分を願えば水系、灼熱の地でより強く願えば氷水系。逆に極寒の地で熱さを願えば火炎系、と言った感じだ。行使された魔法はやはり魔力となって世界を漂うのだという。火ならば酸素で燃え上がり大気に混ざり、氷ならば溶けて蒸発して同じく大気に混ざる。そして消費した魔力は何かを食べるなりして補給する。

 それと一度発現した魔法は生涯においてそのままで、系統が変わることはない。つまりクララは生涯通して召喚者サマナーなのだ。

 ただ残念なことに魔法使いの存在自体が貴重なのもあり、具体的な使用方は公にされていない。それを公開するのは魔法使い達にとって弱点を晒すも当然なのである。一説には堂々と詠唱する姿すらも一般人を欺く為のカモフラージュだと言う見解もある位だ。


「――っていう具合かな」

「へぇ~色々あるんだね。 ちなみに実際のとこ詠唱っているの?」

「他の系統は知らないけど、少なくとも召喚魔法は必要だね。 場面によって召喚したい相手は変わるし、詠唱言葉の中に想いを込めるんだから。 あ、月詠さんだから話したけど、他の皆には内緒だよ?」

「わかった、内緒の方向ね。 それじゃあもっと、召喚魔法について聞いて良い?」

「聞かれずとも説明するよ。 召喚は他者あっての魔法だからちょっとややこしいけど――」


 召喚者はその魔力で以って、様々な場所から色々な生物を召喚する。規模は消費した魔力により比例し、身近な例では野良犬や家畜に始まり、規模が大きいと私のように異世界者など、呼び出された者はそのまま残り戻されたりすることはない。

 ただ如何に次元を捻じ曲げようが、時空は越えられないと言われている。よってクララはどうあっても幼き私や未来の私を召喚することは不可能だと言う。

 次に召喚という行為そのものは結魂しようが魔力がある限り何度でもできる。召喚と結魂は別物なのだ。

 結魂の対象は生物ならば何でも可能である。あくまで一つの生命体としか結べず、重複結魂はできないというだけで。

 つまり召喚者となった場合、何も召喚せずとも目先に生物がいれば、それがなんであれ出会って即結魂なんてのも理論上は可能なのだ。

 それと結魂最大の特徴は互いの魔力がハイブリットされることだ。ただ如何せん召喚者はどこまでも召喚者なので、通常では結魂して魔力衝合したとてスペックの高い後続を呼び出す位しか意味はない。

 最後に私にはもう関係の無いことだけど、結魂の手段としては双方の肉体を何処か重ねながら互いを心から認め合うことだと言う。この話だとキスじゃなくても良い気がするけど。

 補足として、言語に関しては私の体験通りだ。よって動物と契約すればメルヘンっぽくなるし、逆に召喚者となった動物が人間と契約した場合はちょっと可愛そうな絵ができあがってしまう。


「ちなみにクララちゃんの召喚した中だと、どういう相手がいたの? 私以外で」

「初めて……」

「え?」

「だからその……月詠さんが初めての相手、だから」

「そ、そうなんだ。 あ、あれそういえば、なんでクララちゃんは召喚者なんだろうね? どういう願いや想いを抱いていたのかな」

「淋しかったの。 人肌が恋しくて」

「ふ、ふ~ん。 そっか……」


 クララが急に恥ずかしいことを言うものだから変にドキドキする。何で私達がキスをしたのか聞きづらくなってしまった。

 私達は机で向かい合いながらもじもじとしていた。近くに人がいないのは救いだった。

 胸をドキドキさせながら視線を泳がせていると、教会の鐘が鳴って私達に昼食時を伝え、私達は互いに不器用な笑顔を浮かべながら一緒に食堂へ向かった。




   ☆   ☆   ☆




 午後からは実技の勉強だった。教官(?)はアマゾネス達が分業で務めてくれ、クララは別の場所でシスターの業務に取り組んでいる。

 野菜や果物を収穫したり、護身術として合気道みたいな武術を習ったり、短剣の扱いを学んだりした。

 短剣の扱いと言うのは、果物を捌いたり、悪漢に遭遇した時に素手の護身術だけでは厳しい時など、教会の場所柄サバイバル的な理由からだった。

 その後も今日みたいに午前は教養、午後は実技と言った具合に学び、私は日々少しずつ精進して徐々に教会の生活に馴染んでいった。


 一ヶ月程クララから勉強を教わって判明したことだが、召喚魔法には対になるような『送還魔法』があるらしい。火に水、光に闇、召喚には送還だ。

 その話を聞いて私は両手を万歳にして超喜んでいた。そんな私の姿をクララはとても微妙な顔をしながら黙り込んで見ていた。

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