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D  作者: 零時
1/1

その1

一日目

真っ暗闇の部屋に目覚まし時計が鳴り響く。

また昨日と似たような今日が始まった。

まだ眠い。目覚ましを止め、また一端浅い眠りに入る頃、再びベルが鳴った。(今度は起きなくては)と自分に言い聞かせながら思う(俺は凡人なのだ。まあ良くてその程度なのだ。でももし俺が野球選手ならば一生懸命練習をする。寝る間も惜しんでバットを振る。きっと二流位にはなれる。今の年収の10倍は稼げるかな?でも現実は違う。朝から晩まで骨の髄までやったって10000円なのだ。ああ眠い。9時間寝ても寝足りない。今日仕事に行ったってまたいろんな人からドヤサレテ一日が過ぎていくだけなんだ。今日こそ無断欠勤してやろうか。そして遠くに行きたい。真っ青な海を見たい。穏やかな波と風。厳しさの欠片もない。そう、優しい優しい風景。癒される。心の底から骨の髄から癒される、そんな自然を肌で感じたい。) でも現実はまるっきり違うリアルもリアル。かっこいい言い方をすれば、すでに十年先のビィジョンまではっきりしてる。そう誰にだって真似のできる俺だけの人生なのだ。

とうとう諦め、布団を出たDは、いつも通り素早く身仕度をすませ、7分後には、愛車のミニにエンジンをかけた。

10年オチの中古なのでアイドリングには特に慎重だった。

今日まで三年間乗って二回、車が悲鳴をあげた。

一度目は二年前の大雪の日だった。

信号待ちの最中、エンジンが急に止まったのだ。

二度目は街の路地を徘徊している最中。

ギアが全く入らなくなり、あえなくレッカー車で運ばれていったのだった。

幾多の困難を共に乗り越えてきたミニをDはコヨナク愛していた。

だからこそ毎朝10分間のアイドリングは必ず遂行してきたのであった。

そして今日もチョークを戻し空ブカシを少ししてから会社へ向かう。

BGMは気分によって使い分けた。

音楽はジャンルを問わず積極的に自分に吸収させた。

ジャズからロック、流行りのニューミュージックまで。

他ならぬ雑食だった。

寒空にはどんよりとした雲。

建築作業員として働くDには、冴えない一日のはじまりだった。

この日Dがおもむろに手にした一枚はマルーンファイブのMDだった。

独特のファンクミュージック。

ケダルイ感じのビートが今日の天気に妙にマッチした。

4曲目が終わりかけた頃ポツポツと雨が降ってきた。

(きっと今日仕事が終わる頃にはずぶ濡れなんだろうな)ブルーな気分に拍車がかかった。

(でも頑張ろう。

これはあくまで仮の姿なのだ。

この俺がこんなカッコで終わる訳がない。

サクセスストーリーの序章に過ぎない。

きっと10年経てばこの苦労は美談になる。

聴衆は涙する。

そしてその勝利のベクトルは正の方向にまた力強く伸びるのだ。

そのためにはこんな小さな積み重ねが一番に他ならない。

この考えこそ、絶対だ!)ポジティブシンキングの極め。

いうまでもなくDはB型だった。

6曲目が2度目のサビに差し掛かる頃会社に到着した。

そこからは昨日と変わらない。

瞬き一つする間に5時になる。

そんな感覚だ。

なんの刺激もない一日が終わっていく。

そしてまた、愛車に乗車する。

朝の続きのミュージックが鳴り響く。

2回目のサビの部分からのスタート。

2回目から3回目へ。

そしてゾクにいうアウトロへ。

そして曲が終わった。

Dは静かにステレオのスイッチを切った。信号が青になり、ギアを一速にいれる。左にウインカーを焚いて国道にでた。日中の雨は嘘のように止んだ。びしょびしょで冷えきった体も暖まってきた。南に南にひたすらいけば安住の地に辿り着く。そしてゆっくり休めばよい。夜が更けてくれば酒を飲ばよい。酔いが廻れば寝ればよい。

瞬く間に過ぎていく一日。いつもの一日。平穏で平凡で平坦な一日。そしてなりより平和な一日。いっそのこと消えてなくなりたい。そんな日々の繰り返し。



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