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第一話(12)

僕のちっぽけな脳みそを酷使した結果、僕とリンは病弱な母を救うために各地を旅する少年とそれに付き合う健気な幼馴染の少女ということになった。



僕の作った物語のできそこないに、村長一家はすっかり感動してしまったようで衣服や食糧をたっぷり分けてくれた。



着の身着のままで飛び出してきた僕らにとっては非常にありがたいことだが、この人たちは疑うということを知らないのだろうか。いつかだまされて大変な目に会わないかお兄さん心配だよ。



まあ美少女じゃないから心配するだけで助けたりはしないけど。



朝食を終え過剰な接待を受けた後、僕らは村長宅を後にし、昨日キリエに告げられた場所に向かう。



そこにはすでにキリエが待っていた。昨日の露出度の高くなったものとは違い、そこらにいる村娘のような恰好。あれが普段の彼女の姿なのだろう。乱れていた赤髪もすっかり整えられ、野生の魅力たっぷりのお姉さんから母性あふるるお姉さんへとすっかり様変わりしていた。昨日と変わらないのは衣服を内側から押し上げるその大きなおっぱいだけだった。



キリエは僕たちの姿を認めると何度か深呼吸をした。少し緊張しているのか表情が硬い気がする。さっきまでの浮かれ気分の僕ならば彼女の緊張を和らげるために全力を尽くしていたところだが、そんな場合ではないようだ。



僕らを待っていたのはキリエ一人ではなかった。もう一人、キリエの横に男が立っていた。男が立っていたのだ。柔和な顔立ちをした農夫らしき大柄な男だ。怪我をしているのか片腕をつっている。年齢的に父親ではないだろう。きっとキリエの兄かなんかだろう。大事な家族が旅に出るのだから見送りに来たのだろう。うん、きっとそうだ。そうにちがいないね。



なんか嫌な予感がするけど、これは勘違いに違いない。



「……男がいる」



「そうですね」



「……男がいるよ、リン」



「いますね」



キリエたちに聞こえないように、こっそりとリンと会話する。



「……誰だろう」



「さあ」



「……キリエのお兄さんっぽいよね」



「さあ」



「……同意、してよ」



不安だから。お願い。



「………………うっぜぇ」



リンは吐き捨てるようにそう言うと、黙ってしまった。どうやら怒らせたようだ。







「キリエを助けていただいて本っ当にありがとうございました!!」



僕らと対峙した瞬間、その男は膝を地につけ勢いよく頭を下げた。俗にいう土下座というやつだ。初めて見た。横にいるキリエでさえ口をぽかんと開けあっけにとられている。



「あなた方と出会わなかったら、一体どうなっていたことやら! なんと言えばこの感謝の念を伝え切れるのか私にはわかりません。 このクノーができることならば何でもいたします! 遠慮なくご申しつけください!!」



ひたすら額を地面にこすり付けながら野太い声を上げ、僕らに感謝し続ける彼を見て僕は熱い男だなあと思いました。



「本当に本当に、本当にありがとうございまず! あ゛りがどうござい゛ま゛ずっ!!」



野太い声が涙声へと変化する。前言撤回だ。ここまで純粋な感情を見せつけられると、相手が美少女じゃなくても僕の心は動く。この大男はキリエのこと心の底から大切に思っているのだろう。こんな風に思ってくれる相手がいることはとても幸せなことだと思う。物事を余り知らない僕でもそのくらいのことはわかる。



「わ、わかったから、もう顔あげてよ」



いつまでも土下座させたままだと居心地が悪いので、やめてもらおう。それに彼を見てると欲望のみで動いていた自分が無性に恥ずかしくなる。



「ぞういうわげにはいぎません! キリエの命の恩人なんべすから!! ざあ、ギリエ。おまえもやるんだ」



「えっ? えっ?」



クノーは一度頭を上げ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を見せた。そのまま立ち上がってくれたら助かったのに。それどころかクノーは再度土下座を続けるつもりらしい。しかも今度はキリエも一緒に。



「やめろって、頼むから」



「おっ、おお!?」



このままじゃ話が進まないので、クノーの腕をつかみ無理やり立ち上がらせる。もちろんつかんだのは怪我をしてないほうの腕だ。



「す、すごい力ですね。 オレの体を引っ張り上げるなんて」



「そんなことよりその顔をどうにかしてくれ」



男の泣き顔なんて見たいわけがない。



「は、はい!」



クノーがごしごしと顔をそでで拭う。幾分かましになったころ、僕はキリエに向き直り口を開く。



「で、大事な話ってのはなんだ?」



「うん、まずは昨日助けてくれてありがとう。 この恩は一生忘れないわ」



「きにしないで」



一生僕のメイドになるんだから。



「絶対忘れないわ。 絶対にね。 それでね、あれがエルフの森」



キリエが指した方へ目をやる。その先には延々と続く巨大な森。森へ続く道はなく自然のままに木々が生い茂っている。



「道がないぞ」



「エルフの森はそういうものよ。 不定期に集落が森の中を移動してるんだから」



「じゃあ、どうやって行くんだ?」



「運よ」



「……運か」



「そう。 んで、これが一番大事な話なんだけど……さ」



少しうつむき、歯切れが悪いキリエ。



きたか。きたな。ついにきちゃったよ。こみあげてきたハイテンションを体の内側だけに押し止め、キリエの次の言葉を待つ。








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