表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

第一話(10)



リンが椅子から立ち上がり、おもむろにメイド服を脱ぎだす。普段の僕ならば沸き立つ欲求に従い、リンに飛びつき愛のコミュニケーションを図っていたところだ。しかし今の僕にそんな気力はなく、リンの突飛な行動にただ驚いていた。



「……なんで脱いでんの?」



「しわになる」



単純かつ明快な返答。いまさら気にしたところでどうにもならない気もするが、そんなもんかと自分を納得させる。



下着姿になったリンは脱いだメイド服を綺麗にたたみ、椅子の上に置く。月明かりに照らされリンのボディラインがはっきりと視認できる。華奢な体躯だが儚い印象は感じられない。むしろ研ぎ澄まされた刃物のような感じだ。しなやかかつ強靭に鍛えられた肉体は、その細身からは想像もできないようなエネルギーを生み出す。



「……替えの服は?」



「余分なものは持ってきてない。ローグだって服それだけ。壁側はもらった」



リンはそういうと、僕の返事を聞く前に、ベッドの壁側に寝そべる。2人が寝そべるだけベッドの上にスペースはほとんどなくなる。壁側のリンはともかく、僕なんか寝返りしただけでベッドから転がり落ちるだろう。



「おい、ずるいぞ」



「わたしはねむい」



僕の非難をはねのけ、こちらに背を向けるリン。諦めて仕方なくリンの隣に寝っころがる。ベッドが一つしかないため当然枕も一つしかない。その唯一の枕はすでにリンの頭の下敷きになっている。



…………解せぬ。



仰向けの状態ではどこか落ち着かず、リンのほうを向いて寝ることにした。眼前には傷一つない綺麗な背中。真っ白な柔肌に僕は無意識に喉を鳴らすと同時に感心する。コンコールド家のメイドというものはただの使用人ではない、主を守るためにそれ相応の実力がなければならないのだ。僕と同じような幼少期を送ってきたはずなのに、よくここまできれいな体でいられたな、と思う。僕なんて体中に一生消えない傷が残っているのに。



手を伸ばしリンの背中にそっと触れる。リンが一瞬ピクリと反応したが、それだけだった。僕としては殴られるのも覚悟していたのだが。怒られないのならちょうどいい、存分に堪能させてもらおう。



「なあ、リン」



「……なに?」



けだるそうな声。あと少しで眠れそうだったのに、という心の声が聞こえてきそうだ。



「…………後悔してない?」



「なにを?」



「僕と一緒に飛び出したこと」



沈黙。



僕はもとから計画していた通りになったからいいものの、リンの場合はもしかしたらあのまま矢屋敷に残っていたほうが幸せだったんじゃないかと、ふと思った。リンは優秀なメイドだし、コンコールド家なら給金だって十分にもらえるはずだ。



がばっと、リンが上体を起こし、こちらに顔を向ける。眉根が少し寄っている。どうやら怒っているらしい。



「ローグ。お前はバカか」



「え、いや、バカじゃない……と思う」



「いやバカだ。もしバカじゃないならそんなことは言わない」



「……後悔してるかって話?」



「そうだ」



ほのかに怒気の込められた声。会話している間に、リンのみけんには少しずつしわがよる。



「や~、あれだ。屋敷に残ったほうがもしかしたら幸せだったんじゃないかなって思って」



つい声が上ずってしまう。こんなに怒ったリンを見るのは珍しい。



リンがゆっくり息を吸い、吐いた。



「わたしはローグが好きだ。大好きだ」



唐突な告白。



「そ、それは知ってる」



「知ってるだけじゃだめ。理解して」



「どういうこ――」



リンが僕に覆いかぶさり、顔を近づけた。何が起きたか理解できなかった。唇に柔らかな感触。一瞬でその感触は消えたが、僕の唇にはまだ余韻が残っている。ようやく何が起きたか理解できた時には、リンはすでに壁を向いて横になっていた。耳が赤くなっている。リンにしては相当勇気を出したのだろう。



「わたしはローグについてきたんだ。誘われたからじゃない。自分の意思でついてきたんだ」



少し投げやりな声。リンなりの照れ隠しだということが今の僕にはわかった。



「…………ごめん」



リンの背中に声をかける。僕はなにを弱気になっていたのだろうか。なにが残ったほうが幸せだ。そんなもの僕が幸せにすればいいことじゃないか。そのための家出だ。そのためのハーレムだ。そのための僕の人生だ。さっきまでの僕を一発ぶん殴ってやりたいね。



「……次私の気持ちを侮辱したら許さない」



「二度としない。約束するよ」



「うん」



それ以上リンの返事はなかった。許してくれたのだろうか。そうだといいんだけどな……。







「……大好き、か」



さっきの告白を思い出し、リンに聞こえない程度につぶやく。わかっていても改めて言われるとうれしいものだ。なんか、こう、腹の底からあったかくなるというか……。とにかく心が満たされるのだ。とっても幸せな気持ちになる。



さっきはあっけにとられてリンに押されっぱなしだったが、明日にはちゃんと僕の気持ちを告げよう、などと考えてるうちに僕は眠りに落ちた。



しかし、落ちる直前に、大事なこと気づく。




僕、ファーストキスじゃね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ