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第一話(9)


僕たちが、森を抜け、キリエの村についたころには、日はすっかり暮れていた。



村に到着した後、キリエは僕らを村長に紹介し、ゴブリンを駆除したことを伝えた。杖を突いた白髪の老人である村長曰く、もう日が落ちているためお礼は明日たっぷりくれるそうだ。やはりゴブリンの群れには相当手を焼いていたそうで、手を握られ涙ながらに感謝された。こんな小さな村では、貴重な食料が奪われる事態は死活問題なのだろう。



小さな村のため、宿屋なんてものはなく、村長宅の空いている一室に泊まらせてもらうことになった。



用意された部屋の中には、壁際にベッドが一つ、木製の丸椅子が一つ。唯一の窓からは月光が差し込み、部屋の中をぼんやりと照らしていた。もしこの部屋にベッドを二つ置いたならば、足の踏み場すらなくなるだろう。



僕がその部屋に足を踏み入れると、床板がぎしぎしと音を立てる。部屋に充満していた埃っぽい空気を吸い込み、リンがケホケホとむせる。部屋の奥まで進み、窓を開け換気。



外の澄んだ空気が入ってきたとこで一息。ベッドに腰掛け、上体を後ろに倒す。へたれた布の感触。ただで泊めてもらっているので、文句は言えない。



「狭いし埃臭い部屋ね」



丸椅子に腰かけたリンが口を開く。ちょうど二人きりであることだし、ずっと気になっていたことを聞くことにした。



「なあ、リン」



「何?」



「それ……どういうこと?」



「それって?」



「だからそれ。なんで今は普通の口調なのに、キリエがいるときは敬語なんだ?」



「今朝決めた」



「…………………はい?」



「だから、今朝決めた」



「……えっと、何を?」



「私はメイドだ。だから主であるローグに対しては二人っきりの時以外メイドになりきるって」



そう今朝決めたのだ、と宣言し終えたリンの横顔は、とても誇らしそうだった。僕には何を誇っているのか全然わからなかったが。



「……そっか。いやそれはいいんだけどさ」



僕には一つ懸念があった。僕はハーレムを築き上げる。……予定だ。ハーレムというものはたくさんの美人を集めてなんぼのものである。つまりハーレムのメンバーが増えれば増えるほど、誰かと二人きりになる機会は減る。減ってしまうのだ。



敬語で僕にかしずくリンというのもなかなかそそられるものがあるが、僕としては対等の関係でいたいのだ。メイドにしたいのと対等の関係であり続けることには矛盾があるかもしれないが、それでも僕はそうしたいのだ。



そこのところはどうなのだと僕はリンに訊く。



「…………大丈夫」



返ってきたのは根拠のない自信。何が大丈夫なんだか。



「なんでだよ! だいたい今日キリエが別れ際に行っていたこと覚えてるか?」



「うん、『明日、あんたたちに大事な話がある』でしょ?」



今リンが言ったのと全く同じセリフをキリエは真剣な表情で、僕たちに、正確には僕をまっすぐ見つめて言い放った。その瞳には確固とした意志が見て取れた、と思う。



「そうだ。その話が何だか分かるか?」



「…………いや、わからん」



リンは何の事だかまったくわかっていなさそうだったが、この僕には、キリエの言いたいことがなんなのか大体の予想がついていた。あくまで予想だが、まあ十中八九当たっているはずだ。図書館で読みふけった物語、外敵、偶然出会う救世主、キリエの熱い視線、これらから導き出される答えはただ一つ。



上体を起こし、リンを見つめ、僕はゆっくりと口を開いた。



「キリエは僕たちの旅について行きたいって言い出すはずだ」



うん、間違いない、と満足げにうなずく僕。



「………………なんで?」



心底不思議そうに尋ねるリン。お前バカだろ、とでも言いたげな表情。まったくこの娘は。僕は心の中で肩をすくめ、やれやれとつぶやく。



「おいおいリンさんよ。僕に向けられたあの情熱的な視線にまったく気づいていなかったのかい?」



「……………………」



沈黙。少し視線が冷たいものに変化した気がするが気にせず続ける。



「キリエはね、ゴブリンども相手にさっそうと戦う僕の雄姿を見て僕という人間に心底惚れてしまったんだよ」



いやーもてる男はつらい、ハッハッハと僕。リンの視線が害虫を見る者に変化するが気にしてはならない。



「…………それで、それがさっきの話とどう関係あるの?」



「いやだから、明日には僕のハーレムが二人に増えるんだよ?」



「…………あー、大丈夫だよ」



「……そかそか」



ふぅー、と僕の口からため息が漏れる。本人がそう言うのならばしょうがない。リンは事の重大さにまだ気づいていないのだろう。まあまだ二人しかいないし、それほど気にすることはないのかな。人数が増えてきたら事の重大性に気づいて自分から撤回するだろう、と自分を無理やり納得させる。



くぁ、と僕の口からあくびが漏れる。今日は散々体を酷使したせいか猛烈な睡魔が僕の体を襲う。



「リン。そろそろ寝ようか」



皮のブーツを脱ぎつつ、リンに声をかける。部屋にベッドは一つしかないので、必然的に僕とリンは一緒に寝ることになる。








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