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第8章   ~同じ想いを抱く者~

再びあの日々を取り戻し、自分の気持ちに気づけた拓也。そんな彼は花火大会で出会った彼女に見覚えがあった。






不安にならないで。


想いが通じなくても、僕は君を信じます。








不安にならないで。


君のそばにいられなくても、僕は貴方を想っています。







不安にならないで。


どんなに君が僕を嫌っても、僕は君を愛します。

















-君の笑顔も泣き顔も- 第8章 ~同じ想いを抱く者~

















「はい、輝。」


そう言って、拓也がシチューののったスプーンを輝の口元まで持っていく。


しかし輝は顔を赤らめて、違う方向へ顔をそらした。


「何で顔そむけんのさー。せっかく食べさせてあげようとおもったのに。」


そうふてくされてつまらなさそうに言う拓也。


「その、嫌とかそうゆうのじゃないんだよ?でも・・・・えっと・・・・は、恥ずかしいって言うか・・・・。」


輝の頬は熟れたりんごのように真っ赤で、いつもの二枚目と裏腹に一味違った可愛らしい表情だ。


こんな彼の可愛らしさに拓也はいつもころっといってしまうわけである。


男同士でも恋愛に関係はない。好きなんだから仕方が無い。


親友としても恋愛としても拓也は輝が大好きだった。


「と、とにかく自分でこのくらい食べれるから大丈夫だよ。」


そういった彼であったが実際怪我のほうは完全に完治しておらず、手足をぜんぜん動かせない状態だ。


「・・・・・・・。」


自分で言っておきながら出来そうもない輝は恥ずかしくなってうつむいてしまった。


「輝、こっちこっち。」


「え、何?」


こっちと言われて思わずうかない表情のまま輝は拓也のほうを向いてしまう。


「ははっやっぱり顔赤くなってる。いつ見ても輝は可愛いね。」


「拓也こそ相変わらず俺をからかうのはやめてくれよー。」


「からかってないって。俺は本気なんだけどなー。」


「こ、これ以上恥ずかしくなるようなこといわないでくれ。」


「あ、また赤くなった。」


「あーもう言うなってぇ!」


「俺は赤面する輝大好きだけどね。見ててなんかいい。」


意外にも大胆なことを言う拓也に戸惑って調子がおかしくなってしまう輝。


赤面した彼はなにかとてんぱっておどおどしていた。


「え、もしかして・・・・。」


「な、何?」


「スプーンじゃなくて直接口移しがよかった?」


「!?な、何言ってんだよ。口移しはダメに決まってるだろ。あ~もう~~って・・・・・うわぁ!」


本気で口移ししようとする拓也に必死で輝は抵抗した。


しかし彼は口の中にあったシチューを飲み込んだ。


「ははっ。さすがに本当にはしないよ。」


「ほんとにびっくりした。俺が動けないことをいいことに。」


「大丈夫大丈夫、手はださないよ。」


「手は出さないってどういう意味だよ。」


てんぱりながら輝はすこし笑った。




____コンコン





そのときだった。


部屋のドアがノックと同時にひらき、看護師の原田さんが入ってきた。


「こんにちは原田さん。」


「あら、こんにちは拓也君。輝君の看病ありがとね。」


気配りのうまい原田看護師は優しい笑顔でお礼を言う。


きっと彼女は病院内でも人気があるのだろう。


「輝君、具合はどう?」


「あ、それなら大丈夫です。結構しゃべりやすくなりましたし。」


「それを聞いて安心したわ。拓也君、これからも輝君をよろしくね。」


「もちろんです。輝は俺の大事な人ですから。」


誇らしげに拓也はそういった。


「な、なぁ拓也。そういえば今もう8時過ぎてるけど学校大丈夫?」


「!?やべぇ忘れてた!!ごめん輝、俺そろそろさすがにいかねぇと。」


「うん、急いでいかないと遅刻だよ。気をつけてね。」


「ありがと。それじゃぁな輝!また後で!」


「はいよ、いってらっしゃい。」


言葉を交わして拓也は猛ダッシュで病院を出て、学校を目指す。


拓也の背中を見守るかように、優しい瞳で輝は彼を後ろから見送った。


「拓也君もあいかわらずよね。」


「そうですね。原田さんも看病ありがとうございます。」


「いいのよこれくらい。」


あの後の拓也は当然の如く遅刻をして怒られた。


そして、何だかんだ言って拓也が輝にご飯を食べさせるひ日々はこれとなく続いた。


そのたび赤面する輝を見ては拓也は嬉しくて可愛くてたまらなく幸せを感じた。


ずっとこんな日々が続けばいいのに。誰もがそう思っていた。


そして輝の体の状態は日がたつにつれてよくなり、手足をなんとなく動かせるほどになる。


時には拓也が輝を支える役目になっていることもよくあった。










*****









「たーくーやー。起きてよー。」


「・・・・・ん?」


拓也はむにゃむにゃと眠たい目を手でこする。


いつもの聞きなれた声、透き通る空のような瞳の青少年。


「・・・・・・っ!?」


「だ、大丈夫?!」


目が覚めた彼が慌てて飛び跳ねる光景に輝は驚いた。


「びっくりした?」


「びっくりしたも何も、すんげー驚いたぞ!」


彼が驚くのは仕方が無いことだった。そもそもしばらく一人で登校していたのだから。


起きたとたんに好きな人の顔があって驚くのは当然であろう。


「一人でここまできたのか?」


「うんそうだよ。途中ちょっとよろめいたりしてたけど、早く拓也と一緒に学校行きたくて。」


少し照れくさそうに言う輝に拓也の鼓動は激しくなった。


(『早く一緒に行きたくて』って・・・・マジかよ。)


「でも・・・・雰囲気壊すようで悪いんだけど、今日学校ないぞ?」


「え?」


拓也の言っていることは正しい。今日は学校のない祭日だった。


「ってことは・・・・俺間違えて制服着てるってことだよね?」


「うん。・・・・ぷっははっ!」


「なっ。」


輝の天然に思わず吹き出す拓也。


一方輝のほうは、恥ずかしさでいっぱいになってしまい、頬が真っ赤に染っている。


「輝ってほんとにおっちょこちょい。」


そういって彼は輝の額に軽くデコピンをして、ははっとおかしく笑った。


そして今度は輝の背中に腕を回して抱きつく。


「たっ拓也?い、いきなりどうしたんだ?」


あわてる輝もお構いなしに拓也はそっと彼に密着する。


「懐かしい。輝の体のぬくもり、久しぶりだ。俺は幸せ者だな。こんなにも近くで輝のそばでいられるだなんて。」


「拓也・・・・・。」


そういわれた輝は思わず切ない気持ちになってしまった。


「!?」


今度は拓也が驚く。頭に懐かしい感覚が走った。


それは輝に手のひらの感覚だった。


「俺も幸せだよ。これからもずっと一緒だよ。」


なでられながらそう言われると、いてもたってもいられなくなってしまうのが拓也だった。


「これでやっと約束が果たせた。」


「約束?」


「ほらいっただろ?俺の手が動くようになったら拓也がしてくれたように、俺もまた拓也の頭をなでるって。」


暖かい輝の手。懐かしい感覚とともによみがえる記憶。


ほっとする自分がココにいる。いっぱいいっぱいこの手で慰められた。


何度この手に勇気付けられてきただろうか。励まされただろうか。


思い返せば思い返すほどに記憶はたくさんよみがえる。


拓也の目から涙がこぼれた。涙は次々と零れ落ち、落ちてはまた何度も落ちる。


「ごめんね輝。いつも泣いちゃったりして。ただ、本当に嬉しくて。いつも輝が優しいからこんなに、こんなにも泣いちゃって・・・。」


「拓也、俺は泣くことが弱いとかそんなの思っちゃいない。泣くことは悪い事じゃないと思うよ。


俺は泣いてる拓也も怒ってる拓也も全部受け入れてる。今も昔もかわりはしないんだよ。」


優しい言葉とともに彼は拓也の涙を手で優しくふいてあげた。


そのたび拓也は真っ赤になっていた。


「輝。手を握って前に出して。」


「ん?こうでいいのか?」


彼は何のことだろうと不思議に思い、言われたとおりにこぶしを彼の前に出した。


そして次の瞬間。




______ゴンッ





「~~~~~!!??」


輝の顔がいっきに青ざめいた。拓也が輝のこぶしに自分から顔面を叩きつけたからだ。


「たっ拓也なにやってんだ!?大丈夫か?!いたくなかったか?!」


苦笑いを浮かべる拓也に慌てて輝が心配する。


「大丈夫。輝は悪くないよ。これで俺のこと許してくれるかな・・・。」


「何言ってんだよ!俺ははじめから拓也のこと許してないとかそんなの無いのに。」


「だってまだ気がすまなかったんだ。」


「拓也、もう自分を責めるのやめて。大丈夫だよ。そうだ、約束の場所にいこう。」


「約束って、まさかあの。」


「うんあのキレイだった場所だよ。」


「でもあの場所はお前がひどい目に・・・・。」


「いいんだ。もう一度あのキレイな景色をまた二人で見たいんだ。」


「輝・・・・・・わかった、行こう。」


輝は笑っているが、どこかもどかしい顔をしていた。







今の俺にはまだわからなかったんだ。輝のもどかしい笑顔の意味も、


彼が苦しんだにもかかわらず、あの場所を二人で訪れたかった理由も。










*****









「前と全然変わってないね。」


「そうだね。」


見渡す限りに広がるたくさんの色とりどりのチューリップ。彼らはこの場所を決して忘れてはいなかった。


前と変わることなく、一本一本が凛々しく咲き誇っている。


この光景を見るたび感動を覚え、そうして切なくなってしまう。


「?!」


突然、自分の手に輝の手が触れた。


「俺、ずっと拓也のぬくもりを感じていたいな。ずっと、ずっと・・・・・。」


「いきなりどうしたんだよ。」


「なんでもないんだ、ただ・・・・・。」


強く手を握り締めてそう言い残し、輝はだまりこんだ。


拓也はその言葉の続きがすごく気になった。切なさが増し、だんだんと苦しくなる。


明らかに彼の様子が変なのがよくわかる。自分には話してくれないのだろうか。


「拓也・・・・。」


彼に話そうとする輝は、苦しいあまりに話を続けることが出来なかった。


苦しくて、苦しくて涙が流れる。


(何で何も言わないまま泣いてるんだ。俺に話せないことなのか?)


拓也には彼の心の中が読み取れなかった。そればかりか拓也の心もキリキリと痛む。


「輝、不安にならないでいいんだよ。俺はずっと輝のそばにいるよ。俺がお前を守って見せるから。だから泣かないで。」


彼はそっと輝を優しく腕で包み込んだ。


身長差で全身を包み込むことは出来ないが、このさいそんなこと問題ではない。


今の拓也にはこうすることしかできなかった。


輝のように運動神経抜群でも頭がいいわけでもない。


だけど、輝をどうか安心させてあげたいのが拓也の今の気持ちだった。


何も輝の気持ちがわからない。


こんなにいつもそばにいるのに、何一つ輝の気持ちをわかってやれない。


そんな自分が嫌で、悔しくてたまらなくなった。


「拓也、絶対ずっと俺のそばにいてほしい。」


「当たり前だ。俺は輝以外何もいらないんだ。輝さえいてくれれば、世界一俺は幸せなんだ。」


二人は固く抱きしめあった。もう二度とあのときのように別れたくない。離れたくない。


二人はそう強くねがった。もう二度とお互いを苦しめるわけにはいかない。


「拓也・・・・。俺いつか、消えちゃうのかな・・・・。」


「?!」


その言葉に拓也は驚いた。


(消えちゃうって・・・・死ぬってことか?!)


「輝が消えるだなんて、俺はそんなこと絶対にゆるさねぇ。」


拓也の声は振るえ、輝は泣きながらそれに反応した。


「まだ病が再発したわけじゃないんだぞ?もしかしたらずっと一緒にいられるかもしれないのにそんなこと言うんじゃねぇ。


不安になるのは俺もわかる。俺も輝と出会う前は不安で孤独で仕方がなかった。だけど、だけどな。


途中であきらめたらそこで何もかも終わりなんだ。だから、夢みるだけでもいいんだ。今を一生懸命生きるんだ。二人でずっとずっと!」


まるで弱った人を包むかのように、そっと両手で輝の手を握った。


「輝、約束したよな。どんなに辛いことがあっても二人で乗り越えようって。


どんなに苦しんでも、どんなに傷ついても少しずつ前へ前進しようって。」


その言葉に心を打たれた輝もまた淡々と涙をあふれさせた。


「少しは輝が元気になってくれるといいな。こんなことひどいことした俺が言う言葉じゃないんだけど。」


そういって拓也は心のどこかでよりいっそう苦しんだ。


この言葉がまた偽りになるかもしれない。いつどこかで口だけになってしまうかもしれない。


そんな自分が大嫌いだった。行くべき道を誤ってしまう自分が大嫌いだ。


ましてや間違った未来なんて絶対に望まない。


間違った世界なんてほしくない。


自分を変えるとあの時誓ったことが本当にそうなるか不安でたまらない。


「ごめんね輝。こんな俺でごめんね。何も俺は輝のためになにも・・・・・。」





______何も救い出せなかった。





「拓也・・・・・・・。」


「俺、何一つ変われてない。何一つ輝のためにしてやれてない。


何一つ・・・・幸せにしてやれてなんか・・・・・っ。


情けなくて、みっともなくて、悔しくて・・・・。」


そんな気持ちが何度も入り混じって、交差し続けて。心が張り裂けそうになった。


いつも泣いてばかり、いつも涙をこぼしてばかりでみっともなくて・・・・・。


懸命に耐えても体は素直に反応して抑えきれなくなる。


「俺は輝を幸せにできないのかもしれない。」


不安になってついはいてしまった拓也の言葉。


「違うよ。」


輝はその拓也の言葉を否定した。


「どう・・・・して・・・・?」


それに動揺した拓也は視線を輝に向けた。


次の瞬間輝の手のひらが拓也の頭へと伸びる。


「輝?」


このときが拓也の一番の心地よいと感じるときだった。


いつも頭をなでる手は優しくて暖かくて。なでてもらえる時間は幸せを感じさせるものだった。


「拓也、いつも言ってるよな。俺はもう充分幸せなんだよ。今こうしている一秒一秒がすべて愛おしいんだ。


拓也とこうして同じ世界に存在できるだけで幸せなんだよ。


こうしてそばにいれるのも全部全部、奇跡みたいに思ってる。


だから俺はもう、拓也と出会ったあの時からずっと充分幸せだよ。」


撫でられながらささやかれた拓也は、ただひたすらに嬉しくて、感動して、心打たれて。


輝の存在がよりいっそう大きくなっていった。いつも輝に支えられて一歩一歩前進しているのを改めて感じさせられる。


今までに『友情』という意味を知らなかった。『愛情』という意味をしらなかった。


今までにこれほどにまで自分を大切にしてくれた人はいただろうか。


ずっと一人だった。自分を必要としてくれる人なんていやしない。ずっとそう思っていた。


なのに、彼と出会って世界は変わった。


そいて色づいていった。


輝の色はまっすぐで純粋で、何一つ汚わらしくないきれいな色。


「俺も充分幸せだ。これからも俺を輝の隣にいさせてほしい」


ぽろぽろとこぼれだす涙をこらえながら必死に自分の気持ちを最後まで言った。


言わなきゃ一生言いそびれそうになる気がするから。伝え残しちゃいけないと思うから。


「もちろんだよ。俺も拓也の隣にいさせてほしい。拓也は俺にとって最高の親友だ。大好きだ、大好きだ!」


繰り返される『大好きだ』という言葉がただひたすら胸に刻まれる。


(俺は親友としても、恋愛としても輝を愛してる。


輝にとって俺は親友という面だけでも、恋愛対象としてみてくれなくても


俺はもう充分幸せなんだよね。輝、本当に愛してる。)





_______ずっと望んでいた世界がここにあるんだ。






そしてまた二人はよりいっそう強く抱きしめあった。


感じるお互いのぬくもりをキセキのように感じる。


その場のチューリップはまるで二人を見守るかのようにそっと静かに二人を囲んでいた。













*****









______チャラン♪


彼によく似た少女はこの音に耳をやった。


「ん?・・・・・着信音かな?」


そう思った彼女は耳を頼りにそのありかを探し始めた。


ここは拓也の部屋。今現在この部屋にいるのは妹に当たるありさである。


ではなぜ本人ではなく、彼女がいるのか。


それは『思い出の写真を探してきてほしい』といわれたからだった。


朝本家は今大掃除の真っ最中。大晦日ではないが香の


『最近ものが増えてごちゃごちゃしてきたからいらないものは処分しよう。』


というよくありがちな言葉が原因で今このような状況になっている。


一般の家庭でもよくあるようなことに過ぎない。


「あーやっぱりこれかぁ・・・・。」


そんな中、ありさは音の発生源となるものを見つけ出した。


それは拓也のケータイであった。


(・・・・・・なるほどね。)


ケータイの中身をまじまじと見るなり、ありさはニヤリと笑みをこぼした。














「おーいありさぁ。みつかったか?」


階段を下りてきた彼女に話しかけたのはもってのほかでもない、拓也本人だった。


うん、みつかったよ。ほらっ。」


リビングのテーブルの上に差し出されたのは探していた思い出の写真だ。


つまり、いわゆるアルバムである。


「おーあったか。ありがとよ。」


さらりとお礼を言う拓也。


「よく見つかったわね。なつかしいわ。」


穏やかな表情で懐かしむ香。


なぜ拓也の部屋に大事なアルバムがあるかというと、拓也の部屋だけちょっとしたもの入れがあった。


拓也本人がそこをつかわないため、実際に家族全体的なもの入れになっている。


アルバムに均等に入れられた写真を見ながらページをめくる。


そこには、生まれたばかりの拓也やありさの写真。母親である香と父親の結婚式の写真。


笑顔いっぱいで撮った誕生日の写真。一生懸命頑張った運動会の写真______


ページをめくるごとに拓也やありさが大きくなっているのがよくわかる。


どれもこれもが思い返せば懐かしいものばかりで、大切な思い出だった。


そんな時、拓也は思った。


(輝にはこんな写真あるのかなぁ・・・・・。)


懐かしい気持ちとは対照的に、彼のことを思うとつらくなる。


輝の家族は交通事故で亡くなっている。かつて彼は言った。



_______たったひとつの肩身のペンダント。



『たった一つ』


その言葉から連想されることはあまりいいことではない。


自分には家族が当たり前のようにいてくれて、当たり前のように兄妹喧嘩も親子喧嘩たくさんしてきた。


でもそれは、一種の愛の形なのかもしれない。


輝にだって親や妹がいた。けど今はもう・・・・。


『家族がいて当たり前なんだ』そんな考えを持ってはいけないと思う。


『当たり前』じゃない。『感謝する』のほうが正しかった。


家族のうち誰か一人でもかけていれば自分は存在していない。


そう思うと感謝の気持ちでいっぱいになる。


「これは大事にとっておこう。」


「そうね。」


「あ、そうそう兄ちゃん。実は見つけたものはこれだけじゃないんだ~。」


ありさはニヤニヤしながらじゃーんといわんばかりにそれを拓也の目の前に差し出した。


「俺の携帯がどうしたんだよ。」


彼女の動作に拓也はなんともなくそういった。


「携帯じゃなくてその中身だってば。」


そういいながら勝手に彼のケータイをいじり、もう一度画面を開いて差し出した。


その画面にはメール受信の欄が表示されている。


「メール?・・・・・っ!?」


画面を見た拓也はすぐさま驚いてありさから携帯を強引に奪い返した。


「気づいてたんなら何で早く言わないんだよ。」


「あたしがそんな気の聞く女じゃないのは知ってるでしょ?」


拓也の携帯に一件のまだ開かれていない受信メールが届いていた。


そのメールの受信者の欄には『空西 輝』と示されている。


「中身は見てないから安心してね。」


彼はありさの言葉も後回しにすぐさま二回に駆け上がり、ベットに寝そべってメールをひらいた。


メールの本文にはこう記されていた。


『久々のメールだね。今度の日曜日に確かちかくの東地区に花火大会があったよね?拓也ともしよかったら一緒に行きたいけどだめかな?返事まってるよ。』


メールを読みきったとたんに拓也は飛び跳ねた。


ものすごく嬉しくなる。だって久々に二人きりで遊ぶのだから。


『いいに決まってるよ!俺も輝と一緒にすげー行きたい!いろいろ食べて花火みていっぱい楽しもうな!当日は輝が心配だから俺が病院まで向かいに行くよ。』


あまりの嬉しさに早くもメールの返事を送信した。




____チャラン♪




それから3分ぐらいで返事が返ってきた。


『わかったよ。途中よろめいたりしたらごめんな。そのときはお願いするね。じゃぁ楽しみにしてるよ。よろしく。』


(まかせろって!!)


拓也は胸を張って思いながらニコニコと彼のメールのやり取りを続けて楽しんだ。












*****










「愛莉はいいね。」


「え、どうして?」


軽さのあるショートヘアーの彼女がそう言い出すと、小柄でセミロングの髪を高くポニーテールに束ねた彼女が返事を返す。


拓也と同じ高校に通っており、学科は違うが拓也と同じ同級せいである二人は窓際で会話をしていた。


「だってちっちゃくて顔も可愛いじゃん。」


「由紀ちゃんのほうが可愛いよ。」


うらやましく言うショートヘアーの女子生徒は『若松 由紀』


そして言われて返事を返すポニーテールの女子生徒は『篠田 愛莉』


髪型も性格も正反対の彼女たちだった。


愛莉をうらやむ由紀を、彼女は自然にフォローした。


「ははっありがとう。でもお世辞なんかじゃないからね。それに、あたしにはあんたに彼氏が今だにいないのが不思議でたまんないわ。」


彼女の言う通り、愛莉は実際に可愛い顔立ちをしている。


どう見積もってもいないほうがおかしいぐらいだった。


「なんでいつも告白されるたびふっちゃうの?中にはいい奴もいたんじゃないの?」


「そりゃそうかもしれないけど・・・・まだ私、異性に恋心を抱いたことなくて。」


赤面してもじもじする愛莉は言う。


彼女に彼氏がいない理由、それは愛莉が相手を受け入れないからだった。


男には困ったことはなかったが、本気で好きなる異性はいなかった。


「もしかしてあんた・・・・・ついに初恋でもしちゃったの?」


「えっ!?由紀ちゃんなんでそんなこと。」


不意打ちをかけた由紀に彼女は少し赤面してしまう。


「はいはい隠さない隠さない!私を誰だと思ってんのよ。


あんたの親友だよ?!愛莉のことはなんでもすぐお見通しなんだからね。」


「由紀ちゃん・・・・してないこともないんだけど・・・・」


はきはきとものをいう由紀と少し甘えん坊の愛莉。


二人は幼稚園のときからの幼なじみでもあり、親友でもあった。


「相談ならあたし乗るよ?大丈夫、知られたくないだろうしだれにも言わない。一人で悩んでちゃだめ。きっと私が力になる。」


「有難う由紀ちゃん・・・。恥ずかしいけど、うちあけるね。」


愛莉は全部本当のことを由紀に話した。恋する彼との出会いと状況。







そして交差する三角関係は確かに少しずつ進行していった。











*****










キレイな薄暗さを保つ空。


少しずつともされていく屋台のまばゆい光。


友人、恋人、家族といった人々のグループが街中を歩く。


そう、今日はお約束の東地区の花火大会だ。


そんな中、拓也は少し方向のずれた病院へと向かっていた。


今夜一緒に回る予定の輝を迎えに行くためであった。


「こんばんは。」


「おー拓也君こんばんは。輝くーん!拓也君がきてくれたよー!」


『はーい』と奥のほうから応答する輝の声が聞こえる。


そして彼はよたよたとよろめく体で姿をあらわした。


と、思いきやふらりとこけてしまった。


今だに思い通りなかなか上手に動かない体。


「ひ、輝!!大丈夫かよ?!」


心配して拓也がすぐさま彼のもとへ駆け寄る。


「ははっ。またこけちまった。これで何回目だろ。」


苦笑いしながら彼はそういうと小さく舌を出してごまかした。


(か、可愛い。そんな可愛いことされたらどう対応すればいいかわかんねぇだろぉぉぉぉぉぉ!)


拓也はひそかに心の中で変に燃え上がった。


そして輝を支えて一緒に腰を上げて立ち上がった。


「ごめんね拓也。いつも支えてもらってばかりで。迷惑かけてごめんね。」


「ばーか。迷惑だなんて思ったことねぇよ。俺は輝の支えになる。それが俺の役目だからな。」


輝は彼の言葉に嬉しくなった。


こんなささえで、ほんの小さな、小さな幸せ。


「有難う拓也。大好きだよ。」


「みずくせーぜ輝。俺も大好きだよ。」


言葉を告げたあと二人の目が合って照れてしまい、お互いが赤面したままそらした。


「じゃぁいってきます先生。」


「輝のことは任せてくださいよ。」


「あぁ二人とも楽しんでくるんだぞ。」


支えあう二人の背中を小池医師は温かい目で見送った。


(若いっていいなぁ・・・・。)


まだ20代の彼だが、二人を見ているとそういう気持ちになってしまうのであった。












「あ、これおいしそう!これも食べたいなぁっ。」


「ははっ。」


「な、なんだよー。」


機嫌のいい拓也は突然笑われてきょとんとして言った。


「だって見てたら面白くて。食べ物は逃げたりしないのに。」


微笑しながら言われた彼はすこしシュンッと小さくなって赤面した。


「やっぱ俺って高校生に見えないよな。自分でも子供っぽいって思うことあるし。」


見た目はちゃんとした高校生に見えるが、少しまだ童顔であることと、はしゃぎやすいことからたまに実際より幼く感じることがある。


「子供っぽいの、俺は悪いことだと思わないよ。どんな拓也でも俺はすきだしさ。」


「・・・・・。」


今の言葉に拓也は余計に赤面した。拓也はあまり恋愛経験がなく、好きな人に好きだといわれるのにまだなれない。


「お前って奴は簡単に人のことすきだって言うよな。」


「それって悪いことかな?」


「ううん。いいことだと思うよ。やっぱり輝はすごいや。」


「どうして?」


「だって俺のことほめてくれるし優しいし。人を笑顔にさせることが出来る。」


「俺はそんなすごい奴じゃないさ。拓也のほうがきっと優しい。」


(あんなにひどいことをしたのに、まだ輝は俺のことを優しいと言ってくれるのか?)


いろんなことがあってか、拓也の心境は複雑だった。


一方輝はそんな拓也に笑顔を見せた。


(あぁ・・・・何度俺はその笑顔に癒されたんだろう・・・・。)


ずっと拓也は始めから彼の笑顔に希望をもらっていた。


彼はそっと心の中で切なくなる。自分は世界で一番幸せ者かもしれない。


そう思えてくる。


「輝、ほんとうにありがとう。


お前があの時俺に笑顔を見せてくれなかったら俺は、一生人のぬくもりも何も知らないままでいたと思う。きっと・・・きっと・・・・。」


「拓也、人は誰もが誰かに必要とされているんだと思うな。俺はそう信じてる。」


「え?」


「俺が拓也を必要としているように、きっと拓也も俺のこと必要としてくれていると信じたいから。」


輝の優しい声、瞳、笑顔が拓也に向けられる。


(輝のばかやろう。そんなこと言われたらまた俺、泣いちまうじゃねぇかよ・・・・。)


あふれ出そうとする涙を必死に抑えた。


「輝と俺はずっと一緒だからな!」


「あぁ約束だよ。俺忘れないから。」


「俺もだ輝。」


お互いの小指をつないで指きりをしたまま、見つめあって微笑む二人。


そんな時だった。





ドーンッ!





大きな音が響き渡ってきた。


空を見上げると、そこには夜空に咲き誇る満開の花火があった。


第一発目の始めの合図の花火であろう。


『ご来場の皆様。本日は花火大会におこしになさっていただき、誠に有難うございます。


お待ちかねの花火を上げる時刻となりました。


周りの方に迷惑にならないよう、今日は楽しんでいってください。』


大きな音が鳴ったとたんに、本部からアナウンスが流れた。


あたりを見渡せばあっという間に暗くなっており、楽しんでいた二人はまったく暗くなっていたことにかがつかなかったのだ。


「いつの間にか真っ暗になってたな。」


「そうだね。そろそろ花火がうちあがるみたいだね。きっとキレイなんだろうなぁ。」


まだかまだかと心待ちにしている二人を楽しませるかのように


次々と花火は大きな音を立てては、キレイな色とりどりの花を夜空に咲かせた。


「お!今のすげー大きい花火だったな!」


目を輝かせながら心をおどろかせる拓也。


「ほんとだな!すごくキレイ!こんなの初めてだ。」


隣で感動している輝に拓也は驚いた。


「え、輝って花火見るの初めてなのか?」


「うん、実はそうなんだよね。昔は体調がなかなか優れなくて見に行くことが出来なかったんだ。


近くで行われたときはベットの上で音だけ耳にしてた。


でもこんなに花火がきれいだなんて知らなかったな。俺、ちょっと感動したかも。」


何もかも純粋な輝に拓也は優しい気持ちになった。


彼の知らないことをいろいろと教えたくなってくる。


「じゃぁ花火を見るのは俺とが初めてってことだよな?」


「そうだよ。」


彼は拓也の問いににこりと笑顔で返事を返した。


「俺も友達と見に行くの初めてだ。初めてが輝とでよかった。」


「ははっ照れるよ。俺も拓也と見れてよかった。」


お互いの共通点が生まれ、何かと嬉しい気持ちになる。


何か特別な感情に包まれていった。


(ずっとこのまま花火が終わらなければいいのに・・・・。)


拓也は静かに心の中で思った。楽しむ半面で、ずっとそう願い続けた。


一緒にすごした日々をずっとずっと記憶して覚えておきたいから。


夜空のきれいな花火が二人の雰囲気をよりいっそう引き立てたのだった。























『本日の花火プログラムはすべて終了いたしました。


ご来場のお客様、本日は誠に有難うございました。


お荷物、落し物にお気をつけてお帰りください。』


花火の音が静まるとともに終わりを知らせるアナウンスが流れた。


「あ~もう終わっちゃったのかぁ。なんでこうゆう時だけ時間が流れるのって早いんだよ~。」


「だよね。でも俺は拓也と花火見れただけで大満足だよ。」


残念そうに言う拓也だったが輝の言葉ですぐにたちなる。


「なぁ拓也、まだお店あいてるかな?」


「うーんどうだろ。そろそろ片付けてるかもしれないけどどこかひとつぐらい開いてるんじゃねぇの?」


「そっか。えっと・・・・拓也、俺に提案があるんだけど・・・・・。」


「ん?どうした?もったいぶらないで言ってみ?」


いいずらそうにしている彼をしたから覗き込むように優しく拓也は伺った。


「せっかく久々に二人きりで遊んだんだし、何かひとつおそろいものでも買いたいなぁって言うかその・・・・・・。」


赤面して恥ずかしがりながらもいっぱいいっぱいにしゃべる輝。


おそろいものだなんて初めてで緊張したらしい。


「いいに決まってるだろっ。俺もちょうど同じこと考えてた。」


軽く輝の肩にすがる拓也はおだやかな表情で意見に賛成した。


「ほんとか!?今日はなんだかほんとに嬉しいことばかりでおかしくなっちゃいそうだ。」


「ははっ輝は大げさだな。でも、俺もそうかも。」


二人は同じ考えを持っていたことが何よりも嬉しかった。


心まで通う仲になれた気がしたから。


「じゃぁそろそろ探さないと店しまっちゃうから行こうか。」


「そうだな。」


嬉しさのあまり、二人の心は弾むばかりだった。


そんなとき、拓也は歩き始めようとする足をいったん止めてひとつ思い立った。


「輝。」


拓也はそう彼の名を呼んで自分の手を自ら差し出した。


「?拓也どうしたんだ?」


「そ、その・・・・どうしたじゃなくて手ぇつなごうって言うか・・・・・・。」


言うのが恥ずかしくて拓也は思わず輝の姿を目からそらしてしまう。


「俺、輝のこと心配だからさ。まだ体のほうも不安定だし、


人多いからはぐれたりなんかしたらいやだからさ。


だから、子供じみたことかもしれないけど・・・・・俺と手つないで歩こっ!」


全部言い切った彼の顔は真っ赤だった。


それに負けずと輝の顔も同じぐらいに真っ赤になる。


「お、俺なんかと手つないでもいいのか?」


「俺なんかじゃなくて、輝と手がつなぎたいんだよ。お前とじゃないと嫌だ。」


「じゃ、じゃぁ・・・・。」


恥ずかしがりながらも輝はそっと自分の手を前に伸ばし、拓也の手を優しく握る。


お互いの手が触れた瞬間、二人は緊張してガチガチになっていた。


「これで安心だ、行こう。絶対手離さないから、輝も離さないでね。」


「うん。絶対離さない。」


そう言って彼らは一歩ずつ歩き始める。拓也はなるべく輝をリードするように心がけた。


輝の状態、歩くペースを考えながら気をつかった。


もちろん無言ではなく、楽しくいろいろ会話しながら歩いている。
















「あ!あそこの店ならあいてるぜ!」


「ホントだ!よかったぁ。何処も開いていないかと思った。」


何十分か歩いてもなかなか開いている店が見つからなかった彼らにとって、それは救いのすべであった。


「とりあえず見てみようか。」


「あぁそうだな。いいのあるといいね。」


店を見つけるまで彼らの手は一度も離れはしなかった。


(あーやべぇ手ぇつないでるとドキドキしすぎて心臓に悪い。)


拓也の心はいまだかつてもその気持ちでいっぱいであった。


店の前に立つと、もうはぐれそうも無いのでいったん手を離す。


それを少し拓也は惜しんだ。


「いらっしゃいっ。学生さんみたいだね。もうそろそろ店を閉めようと思ってたんだが特別兄ちゃんたちにはタダで何か売ってあげるよ。」


「え!?いいんですか?!」


「もちろんさ。」


「ありがとうございます!」


陽気なその店を出していた男性は快く品を売ってくれた。


彼の親切に拓也と輝はお礼を言い、商品を選ぶことにした。


「結構いろんなものがあるなぁ。」


「どれもいいものばかりで俺迷うかも。」


「ほとんど売れてあんまり残っちゃいないかもしれないが、ゆっくり見てっていいから。」


わいわい楽しむ二人に男性はそう言ってすぐそばに腰掛けた。


売られている品の種類はさまざまなものでおそらくどの屋台よりも完成度が高く思われる。


アクセサリーやキーホルダーから日用品まで見所満載だった。


「すみません。おそろいにできるものって何かありませんか?」


今度は拓也が口を開いた。時間帯が遅いだけにあまりゆっくりしていては迷惑がかかる上、親からも怒られるらしい。


「兄ちゃんたちおそろいが買いたかったのかー。いいよ教えてあげる。これとかはどうだい?」


拓也の問いに優しく彼が答えて提案したのはメタル素材のリングだった。


キレイな銀色の光沢を帯びたリングは他の商品に比べてとてもきれいである。


「俺、これいいかも。かっこいいし。」


「俺もこれいいな。」


そのリングを見てお互いの好みが見事に一致する。


「兄ちゃんたち、何か刻みたい言葉でもあるかい?」


「刻みたい言葉?」


商売人の言葉に疑問を覚えた拓也は思い切って聞いてみた。


「そのリングの裏側にこの機械をつかって文字を刻むんだよ。」


作業専用の道具を指差して彼は二人に説明した。


「ほんとにそんなサービスばっかりしてもらっていいんですか?何か悪いですよ。」


さすがにサービスがよすぎて逆にこちら側が心配になる。


「いいんだよ。もうあと一年たたないと屋台出さないからさ。」


「本当にありがとうございます。」


彼の親切にもう一度二人は頭を下げてお礼を言った。


「俺と輝の名前を刻んでもらえればありがたいです。」


拓也が提案し、それぞれ名前を名乗ると彼はすぐさま作業にうつる。


作業をするその様子は本当に職人のように見えた。


それから数分後に二人分の作業を終え、二人に商品を手渡した。


「はい、出来たよ。輝くんと拓也君で間違いないよね?」


「大丈夫です。有難うございます。」


「いいんだよそのくらい。」


手間をかけたのは商売人のほうだったが、彼もなんだか嬉しそうにしている。


彼から受け取った輝と拓也は嬉しくてすぐさま自分の指にリングをはめた。


サイズは本当にぴったり。


「そろそろさすがに店を閉めなきゃならねぇみたいだ。兄ちゃんたち、買ってくれてありがとよ。」


「いいえ、お礼を言うのはこっちのほうです。」


輝は礼儀正しくお礼を言って拓也とともに店をあとにした。


おそろいものがたった今出来た彼らは幸せな気持ちでいっぱいだった。


「嬉しいよ輝。俺一生大事にする。」


「俺もだよ。ずっとつけていようと思う。」


お互いの目が合うと、いつものようにニコニコと笑顔で微笑みあった。


幸せな雰囲気の彼らに次の展開が起きたのはそのときだった。





ドンッ





「ご、ごめん!」


「ごめんなさい!」


拓也の体と誰かの体がぶつかり合った。反射的にぶつかった二人は謝る。


「ごめん痛かったか?大丈夫か?・・・・・てお前。」


「だ、大丈夫ですこちらこそごめんなさい・・・・て・・・え?」


目が合った二人は同時に驚き、目を大きく開いた。


輝のほうも二人の反応に驚いてしまう。


「お前もしかして一番にききに来てくれてた子だよな?」


「そ、そうです!わー覚えててくれたんだね!嬉しい!」


「覚えてたも何もなんか頭に焼き付いてた。」


普通に話す拓也に彼女は笑顔でにこにこと返事をした。


彼女こそあのライブのときに一番初めに拓也の歌声を聞いてくれた人物、篠田愛莉だったのだ。


当たり前のように会話をしている二人をみた輝は何か変な気持ちになる。


もやもやしてすっきりしない気持ちだった。


「私、篠田愛莉って言います。高1です。そっちは?」


「俺は朝本拓也だ。俺も同い年。学科が違うんだろうな、学校であんまりみないから。」


そうだねーと明るい笑顔で言う愛莉はすこし残念がる。


「た、拓也。」


なかなか仲に入れずにいた輝はようやく話しかけることに成功した。


「?どうした輝。」


「い、いや。なんでもない・・・・・。」


何か言おうとした輝だったが、何かに圧倒されていえなくなってしまった。


そんな輝の姿をみる愛莉の目はなぜか冷たく感じられた。


「あ、あのごめんね拓也。私、友達の由紀ちゃんと花火見に来てたんだけどはぐれちゃって・・・・。


今携帯ないの。よかったら貸してくれると嬉しいなぁ。」


赤面して拓也にお願いする愛莉の様子は皆が目指すような女の子のようだった。


「あぁ、携帯なら貸してやるよ。はい。」


そう言って拓也は彼女に自分の携帯を差し出した。


「わー!ありがとう!」


貸してもらったのが嬉しいのだろうか、彼女の声のトーンは高い。


携帯を手に取り、由紀の電話番号らしきものを打ち込み、彼の携帯を耳に当てる。












愛莉は電話越しで由紀との会話を終わらせた。


「貸してくれてありがとう。お礼にこれ、屋台で買ったものなんだけど、よかったら食べてね。」


彼にお礼として差し出したのはキャラクターの形に焼かれた定番のカステラ。


「え、もらってもいいのか?わるいよ。」


「いいの。お礼だから。由紀ちゃんすぐこっちに来てくれるらしいからよかったら一緒にまってていい?」


「?あぁ。俺は別にかまわねぇけど。」


「やったぁ。」


拓也といる愛莉はやけにテンションが高い。


それは理由があるためであるのだが。


そんななか、輝はどこか一人だけ取り残され気分になった。


二人が会話しているため無理に話に入れない。


そんなこんないろいろ二人が話している間に時間はあっという間に過ぎた。


「愛莉~~!」


「あ!由紀ちゃん!」


向こうから彼女の名を呼ぶ一人の少女が走ってくる。


その少女は愛莉の待ち人である若松由紀だった。


「ごめんまった?」


「全然。それに話してたから大丈夫。拓也、一緒に待ってくれて有難う。またあったときはよろしくね。」


「あぁ。」


由紀についていく愛莉は拓也に嬉しそうな笑顔で手を振った。


「輝・・・・・長くなってごめんね。」


「・・・・・・・。」


「聞いてる?」


「っ?!ご、ごめんちょっとボーっとしてた・・・・・。」


輝は考え事をしていたため、回りの音が耳に入り込まなかった。


「ごめんね輝。お前と話してやれなくて。あいつどうも話つなげるのうまくて。」


「ううん。いいんだよ。だって拓也、楽しそうだったし・・・・。」


輝は拓也に笑顔を見せた。しかし、うまく笑顔を作れない。もやもやした気持ちが後をたたなかった。


「た、拓也・・・すごい変なこと聞くんだけど・・・・あの子と知り合い?」


不安で聞けなかった言葉を勇気を振り絞って輝は聞く。


「知り合いって言うか、顔だけ知ってた。まぁなんでもないんだ。」


「なんでもない・・・・か・・・。ははっごめんね。変なこと聞いちゃって。」


「大丈夫。そんな気に触ることじゃないから。」


暗くなる表情を必死で輝は拓也にばれてしまわないように隠した。


「よし、もう時間も遅いし帰ろうか。今日は楽しかったぜ。」


「うんそうだね。俺もすごく楽しかったよ。」


笑顔で二人は一緒に自宅に帰った。


帰った後も輝は一人で悩んでいた。彼女と拓也がしゃべっている姿が嫌にやきつく。


輝は浮かない気持ちになって息苦しくなった。










まだ彼らは知らなかった。これから起こることを。全部、知らなかった__












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