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第6章   ~罪滅ぼし~

いけないことだとわかっていてもこぶしを振り上げる拓也は心を痛めた。輝を守れる強い自分に変わりたい。







一人だった僕を助けてくれたのは君だった。


泣いてるとき励ましてくれるのは君だった。











いつも僕だけだった。


僕だけいい思いをしていた。


たくさん笑顔をくれた君に、何ひとつしてあげれなかった。










僕は君の優しさにずっと甘えていた。


君のぬくもりにずっとすがっていた。


だから簡単に君を傷つけてしまう。


君を大切にしていたくても、傷つけてしまう。


いつだって傷つけているのは僕だった。












君はもう語らない。


君はもう笑わない。


君はもう目を開けない。










僕が君を壊してしまった。


僕が全部、悪いのに―――――――――













―君の笑顔も泣き顔も― 第6章 ~罪滅ぼし~














あたりはうす暗かった。


手術室前の廊下で、一人ぽつんと拓也はいすに腰掛けていた。


彼の表情は依然としても暗い。


当たり前だった。親愛なる輝に何かあったのだ。気が気ではない。


一分一秒でも早く彼の姿を見て確かめたかった。


手術中と書かれているランプだけが不気味に光を放つ。


少なくとも自分が元凶だと言うことは拓也にも自覚があった。


ひどく罪悪感にかられ、ひどく落ち込んでいる。


(?!)


ランプの光が消え、いきなりあたりがさらに暗くなった。


この現象が、手術の終わりを告げたことになる。


拓也はとてつもなく不安な想いで、中から小池医師と輝が出てくるのをおとなしく待った。


そして不気味な音を立てて手術室のドアがゆっくりと開き始めた。


中から小池医師とベットに横たわる輝の姿があらわれる。


「拓也君。きてたんだね。話は聞いてるかな?


輝君は命にはかかわらないみたいだよ。ただ・・・・。」


拓也はそれを聞いて、彼の言いかけた言葉に不安を覚える。


そして輝の変わり果てた姿に驚く。彼の体は本当にぼろぼろであった。


「拓也君、よくきいてくれ。輝君は相当ひどい傷を負っている。


つまり・・・・いつ目を開けてくれるかわからないんだ。


気がついたら10年たってたなんてことも考えられる。それに、障害も残ってるかもしれない。」


それをきいた拓也は震えだした。あまりにも衝撃過ぎる事実。


目の奥から涙がこみ上げて今にもあふれそうな状態になる。


そんな彼に小池医師はポンッと彼の両肩に手を軽く乗せた。


「ショックなのはわかる。でも、今はとにかく冷静になろう。


輝君は今のところ命に別状はない。


例え脳に障害が残ったって、生きることが出来るのに変わりはないんだよ。」


彼の言葉にゆっくりと拓也は上下に首を振った。


(輝は生きていられる・・・・それだけで、もう俺は・・・・・。)


死んでしまったら人間おしまいだ。


拓也に不安は山ほどあったが、ほんの少しだけ、少しだけ安心できた。


しかし、やはり不安の表情はとても隠せはしなかった。


「輝君の傷。見たところどう考えても事故じゃなさそうなんだよ。


何かで殴られたような感じなんだ。打撲も相当あったし。」


「・・・・・・。」


何を言われても、拓也には返す言葉がみつからなかった。


信じたくない現実にショックを受け、絶望する。


昨日までの幸せなひと時。当たり前の時間。当たり前の関係。すべてが崩れていく。


もう何もかも前に戻れなくなってしまうよう。


そんな嫌な考えが頭をよぎる。


「すみません小池先生・・・・・・俺もう、我慢できない・・・・・。」


そういい残し彼は泣き顔を見られたくないせいか、小池医師の目に入らないところまで走っていった。


もうすべてが耐えられなくなってしまった。


「拓也君・・・・やっぱりつらいんだよね・・・・。」


薄暗い中で一人、小池医師は小さくつぶやいた。


彼もまた、拓也と同じように心を痛めた。









 


*****










走り出す足はとても重い。


まるで誰かに引きずりおろされそうな感覚だった。


もう走る力からなんて何処にも残っていない。


息が上がって苦しくなる。


全身の力が簡単に抜けていく。


ついには自分を支えられなくなり、そばにあった街灯に倒れこんだ。


そしてずっと我慢してきたものがいっきに零れ落ちた。


これまでにないほどの泣き崩れようだった。


暗い夜道の中、街灯の弱弱しい光だけが拓也を照らした。


次第に嘆き声は悲鳴へと変わってしまいそうだった。


絶えられない絶望感にどうにかなってしまいそうになる。


自分が犯した罪が、どれだけ重いものだったか思い知らされた。


数々の輝の温かい笑顔が幻想となって映りだされる。


想えば想うほど輝への想いがましていく。


そしてそれと同時に苦しさが胸を締め付けた。


徐々にわめきつかれ、気が遠くなってしまいそうになる。


「兄ちゃん!・・・兄ちゃん!」


そんなときだった。何度も聞いたことのある女の子の声が彼の耳に届いた。


「あり・・・さ・・・・?」


拓也は目を半開きにしながら朦朧としている。


「何してるの兄ちゃん!急に家から出て行くからみんな心配してたんだよ?!兄ちゃん!」


倒れこむ拓也の名を何度も呼ぶありさ。


しかし拓也は目を覚ましそうになかった。


「兄ちゃん・・・・。」


心配するあるさ。


彼女は今とるべき行動をとりはじめた。











*****











気がつけば自分の部屋にいた。


あの後、ありさがつれて帰ってくれたことがすぐにわかった。


時刻は午前9時。そして今日は平日で学校のある日だ。


普段なら寝起きの悪い拓也を輝が起こしてきてくれていたが、


昨日でそれが途絶えてしまい、寝坊してしまっていた。


一日たったが、ちっとも心は晴れない。


体に力が入らず、ひたすらボーっとする拓也。


そんな彼に、学校に行く気はまったく起きない。


昨日の出来事があまりにも突然で、すごくショックで気が気じゃない。


そして彼はふと気がつけば昨日の小池医師の言っていたことを思い返していた。


『何かで殴られたような感じなんだ』


その言葉がすごく不可解に感じた。どう考えても不自然だった。


例えそうだとしても、あの心の広い輝だ。


誰かに恨まれる様な事をするとは考え難い。


ましてや殴られる理由が見当たらない。


いや、ひとつだけ考えが浮かんだ。彼を嫌う理由をもつ人間がいる。


(・・・・!まさかアイツがっ!)


拓也にたった一つの心当たりが浮かんだ。


輝を憎む人間はただ一人、架瑠だった。


輝と架瑠は以前やりあった仲だった。


拓也がやったというよりも、架瑠から輝に助けられたというほうが正しい。


そして、輝は彼に圧勝的に勝った。


架瑠が輝を憎む理由ならいくらでも浮かんでくる。


やったのが彼であることは大幅確定となった。


(でも・・・・・輝が・・・・負けるだなんて・・・・。)


輝の状態が彼の負けであったのを悟っている。


拓也はおかしくと思った。以前に余裕で輝は勝っているにもかかわらず、なぜ負けたのだろうか。


何度やっても同じはずなのに。


何度考え直しても、輝が彼に負けたとは考えにくかった。


それ以前に、もともと喧嘩を先に売ってきたのは架瑠のほうである。


輝に罪はない。


(あんなにぼろぼろになるまで傷つける必要なんてないのに・・・・・・ひでぇ・・・・・。)


次第に拓也に怒りがこみ上げていった。


今すぐ架瑠にあって直接言いに行きたい気持ちでたまらなくなる。


拓也はすぐさま学ランに着替えて家を後にした。










*****










『かんぱーいっ!!』


缶ジュースを持った数人の男の楽しそうな声。


架瑠とその仲間で、輝をやった本人たちであった。


場所は目立った建物のない空き場。人通りもすくない。


「おい!」


盛り上がっていた彼らに誰かが水をさした。


少し離れた場所から声がする。


なんだ?と架瑠らはその声のするほうをみた。


そしてとたんに架瑠の顔が鋭くなる。


彼の瞳に映ったのは拓也だった。


「なんだ?この前のガキか。お前バカじゃねーの?


一回俺にぶちのめされたのにまたコテンパンにされにきたわけ?」


架瑠は拓也のプライドを踏みにじるかのように声を上げてあざ笑った。


しかしそれに動じず、拓也の表情は変わらなかった。


「黙れ。」


鋭い声を放つ拓也の声はいつもより低かった。


「誰に口聞いてんだてめぇ。」


拓也の言葉に架瑠はメンチをきる。


「お前に決まってるだろ。俺はやられに来たんじゃねぇ、やりに来たんだよ。」


今の拓也に恐怖心など何処にも感じられない。


「てめぇさっきから言わせておけば!!おまえら、やるぞ!!」


架瑠の掛け声と同時にグルであるものたちが彼と一緒に拓也を囲い始めた。


架瑠は決して簡単にやられはしない。ましてや数に頼っているわけでもない。


それなりに腕の立つ、実力者でもあった。


「お前、強がってるつもりでも実際は怯えてるんじゃねぇのか?


昨日やった仲間と同じように痛めつけてやるからな!」


(!!)


それを聞いたとたんに拓也の目の色と表情が変わった。


昨日痛めつけられたということは、輝を襲ったことにつながる。


これで輝をやった相手が架瑠であると確定された。


拓也がほんの少しだけ動揺してしまったそのときだ。



ドカッ!!



架瑠のけりが一番に拓也の腹に食い込んだ。


痛みとともに拓也は苦しい声を上げ、バランスを崩す。


そしてその隙を狙って他の男が後ろから殴りかかる。


拓也は地面へと叩きつけられてしまった。


「生意気だ。まだアイツのほうが正論だったな。自分の無力さに手出ししてこなぇんだからな。」


(何も・・・手を出ししなかった・・・?)


すべてのなぞが解けた。負けるはずの無い輝が彼に負けた理由。


それは拓也との出来事で何も未来を見なかったからだ。


一瞬で拓也の胸が締め付けられるかのような痛みを感じる。


(輝がこんな奴に負けたのも、大ケガを負ったのも、苦しんだのも。みんな・・・・みんな・・・・。)






――――――――――――――――俺のせいなんだ。






こんなことしたって何も解決しないのは拓也もちゃんとわかっていた。


自分があるはずも無いことを信じ込んで輝を疑った自分がすべて悪い。


どんどん自分が嫌いになっていく。無力で、何にも出来なくて、


迷惑をかけることしかできない自分が嫌い。


「お前、やっぱり弱いな。口だけ突っ走って何も出来ない無力なくず。


アイツも気の毒だったな。こんな役に立たない奴と一緒にいて。


どうせいつも助けてもらってばかりなんだろ?


アイツも仲間はもっと適切に選ぶべきだったな。お前なんて足手まといのくずだ。


とっとと消えろや。」


架瑠の言葉が容赦なく拓也の心を傷つける。架瑠はなんとも思わないのだろう。


言われて苦しかった。だけど否定はできない。


すべてあたっていることだから。すべて本当のことだから。


(俺は・・・・・何一つ輝の役に立てなかった。何一つ、助けてあげられなかった・・・。)


今までに、どれだけ彼に助けてもらっただろうか。


どれだけ気休めの言葉や、あての無い言葉を吐いただろうか。


その言葉の数々は口だけで、実際に何一つ出来たことなんて無かった。


それどころか、どれだけ輝にいつも助けられ、慰められ、勇気付けてもらっただろうか。


拓也にとって輝が特別な存在であるように、輝にとっても自分も特別な存在でありたかった。


そう願って努力しても、何一つ実りはしなかった。


架瑠の言葉はいつだって、正しかった。


ずっとずっと迷惑ばかりかけて、何も出来やしなかった。


自分でも拓也はそう思った。けれどもその半面で変わりたい、変わるんだと強い意志が生まれた。


何も出来ない無力な自分でいたくない。


輝に認めてもらうために、安心してもらえるように。




そして_______償いをするために。




拓也は歯を食いしばって体に力を吹き込む。そして自らの足で体を徐々に起き上がらせる。


「ほーまだ無駄な力が残っていたとはな。」


架瑠は言葉を吐き捨てる。彼のこぶしにもまた、力が入った。


(輝、無力な俺でごめん。迷惑かけてばかりでごめん。俺変わって見せるよ。


きっとお前を幸せに出来るような人間になってみせるよ。


だからお願いだ、意識が無いままでいい。俺を見てほしい。)


拓也の表情が一瞬で鋭くなる。


「もう終わりとしようや。」


「あぁ、本気できやがれ!」













*****














さっきまでの天気がまるで嘘だったかのように、空の雲の隙間から太陽の日差しが注ぎ込まれた。


そんな空の下で、数人の男が倒れこんでいた。


しかしその中、一人だけ不安定だが、立っている青少年がいた。


学ランのしたから、彼が愛用する赤いTシャツが顔を出していた。


凛々しく立っているその青少年は拓也だった。


力強いあの架瑠いちみをたった一人でやったのだ。


心に決め、誓った拓也の力は架瑠たちをも超えていた。


しかし、それなりにやはり相手が年上であるがために、無傷と言うわけにはいかなかった。


拓也の唇は切れ、血がたれだしている。


体には青地ができ、はれ上がっていた。


呼吸が乱れる。


拓也は視線を上に上げ、大空を見上げる。


(輝・・・・俺、頑張ったよ。あいつらに勝てたよ。


輝・・・ねぇ輝。俺のこと、見ててくれたかな・・・。)


涙が頬を伝って下へと零れ落ちる。


その涙は次第に血と混じって赤く染まった。


本当は人に手を振り上げることは好きではなかった。


たとえ相手が架瑠であっても、人として決してしてはいけないことだと理解していた。


そんな拓也は心のどこかで傷ついた。


このままここでじっとしているとまずい。


誰かに見られて真っ先に疑われるのは拓也である。


負傷した重い足を引きずりながら、拓也は少しながらも前へ前へと前進する。


体が思うように言うことを聞かず、毎度毎度ふらついてしまう。


気が抜けそうになるが、まだそんな甘いことをもつ余裕など何処にもなかった。


拓也は懸命にその修羅場を後にしようとする。


立ち止まらないで一歩一歩前へ進んでいきたい。


その一歩一歩が、輝を助けられるような自分へと変わって行けるように。


この想いがちゃんと彼に届くように。


本当に強くなれるなんて保証はない。だけど、何もしなければ変われはしない。


信じる心。叶わない想いだとしてもどれだ傷ついたとしても、信じて歩き続けたい。


それは偽りじゃなく、本当の想いだった。






――――――――決して心折れてはいけないんだ














*****















「兄ちゃんどうしたの?!傷だらけじゃない!!」


我が家のブザーを鳴らした拓也を出迎えたのはありさだった。


今日の母は帰りが仕事でおそいらしい。


誰もいない中、帰ってきたありさは拓也の帰りが遅いことに心配していた。


その不安な気持ちをさらに突き刺したのが拓也の怪我をした姿だった。


曇りの表情を浮かべた彼女は彼を支えながら彼の部屋に移動する。


力が入っていないせいか、拓也の体は重い。


しかし、そんなこともありさにとっては慣れっこだった。


「そこでじっとしててよ!これ以上怪我したらお母さんにびっくりさせちゃうから。」


救急箱を取りに部屋を出た。


真剣なありさにたいして拓也はそっとわずかな苦笑いを浮かべる。


反面、痛みがひどくてうまく笑えないのも一理あった。


それから数秒しかたたないうちにありさは走って救急箱を手に戻ってきた。


普通に見てありさは、家族想いのいい妹だった。


「ごめんなありさ。最近ずっと迷惑かけっぱなしだ。」


「ううん。いいのよ兄ちゃん。でもこれ以上無茶しないで。心配しちゃうから。」


めずらしく素直に謝る拓也に違和感を感じたのか、彼女は目をそらして言った。


よくケンカする二人だが、いざとなるとお互いを助け合ういい兄妹だった。


「ちょっとケンカしてきた。仮を返すために。」


何があったのかと不思議そうにこちらを伺ってくるありさに正直に彼は答えた。


「輝・・・・先輩?・・・。」


(!?)


拓也は驚いた。真相を知らないはずの彼女が口にした言葉が妙に的中していた。


「何で輝がでてくるんだ・・・・。」


「だって、兄ちゃんは輝先輩のことになるとすぐにすごく真剣になるんだもん。


だから・・・・・輝先輩が関係してるのかなぁって・・・・・ごめん。」


彼女は正直言いにくくてすこしためらう。


そんな彼女の言葉に拓也はそっと軽いため息をついた。


相変わらず勘がいいなとありさに言葉をぶつける。


それに応じて今度はありさが苦笑いした。


拓也には意地っ張りなところが多少あったが、正しいことは否定しない。


「俺と輝、おとといケンカしたんだよ。」


その一言にありさの瞳が丸くなった。声を出さず静かに驚く。


無理も無い。彼女がみた二人の姿は仲のいい光景でしかなかったのだから。


ついこの間でも一緒に自宅で勉強していたのを目にしている。


拓也は彼をものすごく尊敬し、慕っていたことぐら彼女にもわかっていた。


輝のまた、拓也を影で恨んでいるとはとても思えない。


ましてや輝の第一印象が裏づけとなっていた。


いつも笑顔で人を憎むような人だとは考えずらい。


なんで?とありさが考えている途中


「俺が全部悪かったんだ・・・・全部、全部。」


拓也が顔をうつむかせ、暗くこもった声でありさに話した。


「兄ちゃん、私は兄ちゃんと輝先輩の気持ちはわからない。でも力になりたいよ。


無理には言わないでいいから・・・・・私に話してよ。おせっかいだと思われるかもしれないけど


私はやっぱり楽しそうに笑いあってる二人でいてほしいよ。だから・・・・・。」


ありさは拓也を尊敬し、また輝に対してもわりかしら好意をいだいている。


なぜか不思議と彼女の言葉には説得力があり、暖かく感じられた。


「ありさ・・・・・・お前になら話してもいいのかもしれない。」


彼はだんだんとかすれていく声で本当のことを話し始めた。

















すべて打ち明けた頃にはすっかり日は落ち、部屋は電気で照らされていた。


暗い空気の中で、一番最初に口を開いたのはありさだった。


「ねぇ兄ちゃん。輝先輩の言ってたことにちゃんと耳を傾けた?輝先輩を信じてあげた?」


先ほどとは違う低い声だった。


「・・・・・俺、混乱してて・・・・・。」


「言い訳しないで。」


あやふやなことを言う拓也に対してはっきりしたありさの意見。


その真剣さは声の張りからも表情からも伝わってくる。それに拓也は圧倒されてしまった。


無論拓也も真剣である。


「兄ちゃんのばか・・・・。兄ちゃんひどいよ。」


「俺だってわかってるさ!恐怖心に負けた。でも俺は!」


「私の話を聞いて!」


ありさは彼に怒鳴った。その声からイラ立ちが感じられる。


「あたしは、言い訳は嫌いだよ。


兄ちゃんはどうして・・・・どうしてもっと輝先輩の言葉に耳を傾けなかったの?


どうしてもっと信じてあげなかったの?大事な人じゃないの?!」


(!?)


ビクリと拓也の体が反応した。


「輝先輩兄ちゃんのこと、捨てたりなんかしない、ずっとそばにいるって言ってくれたんだよね?!」


拓也はありさの問いに素直に首を縦に振って応答した。


「兄ちゃんのためにチューリップまで届けてくれて、


怒鳴られても優しい言葉をかけてくれたのに・・・・・。


もっと輝先輩の気持ちを考えてあげてもよかったんじゃないの?!」


拓也の心はまたもや痛みだした。


わかりきっていたことなのに、心は正直に反応し過ぎだった。


「輝先輩きっとすごく、傷ついてたと思うよ・・・・。」


鼻をすする音がした。


「ありさの言うとおりだ。俺が悪いんだってわかってる。


一生かけてでも、自分が犯した罪をすべて償う。


今まで助けてもらったぶん、全部今度は俺が輝の役に立ってみせる。」


拓也は涙ぐみながらも必死に声をだした。その言葉にありさは


「わかった。やっぱり兄ちゃんは兄ちゃんだね。なんだかすごく大人に見えちゃったよ。


自分らしく頑張ってほしい。怒鳴っちゃったりしてごめんね。これでもあたし、応援してるんだよ。


仲良しの輝先輩と兄ちゃん、あたし、大好きだもん!」


感情入りしたありさの目は涙目だったが優しく、そして力強く微笑んでいた。

























犯した罪はとても大きかった。取り返しのつかないことだってわかっている。


この先どんなに自分が気づついても構わない。


君に対する想いに比べれば、ほんとに小さなことなのだから。










_____また暖かい日々に戻りたい。














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