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第21章  ~告白~

伝えるのが怖くて、大切な人を傷つけたくなくて、ずっと伝えられたない思いがあった。










-君の笑顔も泣き顔も- 第21章 ~告白~











そっと目を開けると、そこには自分の部屋とは違う天井があった。


「あたし・・・・いったい何してたんだっけ?・・・・っ!?」


しばらく思いふけっていたありさはすぐに目を覚まし、勢いよく上体を起こした。


「おっ、悪ぃ。もしかして起こしちまったか?まだ寝てていいからな」


後ろから聞こえてきたもの音に反応した拓也はそう言った。


そんな彼の姿をみたありさは、なぜそこに彼がいるのか疑問に思う。


「あたし、あの後いったい・・・・・・」


「記憶にねぇのか?あの後抱きしめているうちに、気がついたらお前、俺の腕の中で寝ていたんだよ」


拓也の言うとおりであった。


ありさはあの後泣き疲れてしまい、気がつかないうちにまぶたを閉じていたのだ。


そして今こうやって普段なら拓也が使用するであろうベッドに、ありさは寝ていた。


「!?ま、まさか兄ちゃん、あたしが寝ている隙にそのままあたしの大事なものを奪って───」


「・・・・一発どついてやろうか」


「やれるものならやってみなさいよ」


あまりにもでたらめなことを言うありさに、拓也の心の声がポロリと零れ落ちた。


拓也は清純な高校生である。


無論、そんなことは断じてやっていない。


少しむきになって一時的に立ち上がる拓也に対し、ありさはなんの恐れもなく構える体勢に入った。


その彼女の姿を見た拓也は、少し気が緩む。


なんせありさは空手をやっているのだ。


過去に数回だが、腹部に蹴りを入れられたことがあった。


拓也はこのまま手を出すと逆にやられてしまいそうだと思い、感情をコントロールした。


「あらら?女のあたしに手も出せないの?」


「人が黙ってりゃー調子に乗りやがって!」


「ふははっ!その顔ひどい!主人公がそんな顔で大丈夫なの?」


「悪かったな!イケメンモテモテ主人公じゃなくて!」


そう言う拓也であったが、現に愛莉に一目ぼれされたこともあってか、実際のところそこそこ顔は整っていた。


拓也がしかめっ面でありさに接していると突然彼女は笑顔を見せた。


「? 何笑ってんだよ」


「別にー」


「なんだよ。気になるだろうが。ま、お前のことだからどうせ皮肉事なんだろうな」


「違うわよ失礼ね。あたしそこまで性悪女じゃないわ」


ありさの言うことにはもともと説得力があった。


誰が聞いてもそれは本当のことに思われる。


無論、拓也が聞いてもだ。


「だったら教えてくれてもいいだろ」


「教えてほしい?」


「・・・・・・・べ、別にそこまでではないが」


拓也は少し口ごもった。


「まぁいいわ。そんなに言って困ることでもないし。・・・・・・あのね、あたし輝先輩が兄ちゃんに惚れる気持ちがなんとなくわかったのよ」


それを聞いた拓也は間抜けな顔をした。


「そんな顔しないの!シャキッとしなさい!」


そう言うありさはまるで妹ではなく姉の様である。


「たとえばどんなことがわかったんだ?」


気になって拓也は思わず聞いてみた。


「内緒。それはさすがに教えてあげられないわ」


「そう言うと思った」


なんとなくだが、いつもどおりのやり取りに拓也とありさは自然と笑顔になった。


拓也に関しては先ほどまでしかめっ面だったというのに。


(兄ちゃんは自分で気がついていないだけだよ)


健気で、人思いで、朗らかで───


それをうまく表現できないだけで、本当はこんなにも素敵なものを持っている。


ただ、それに周りの人々が気がつかないだけ。


知らないだけ。


知ろうとしないだけ。


そして拓也がそれを表に出さないだけ。


ありさはささやかにそう思った。


「兄ちゃんと血がつながっていなかったら、輝先輩よりも好きになっていたかも知れない・・・・・」


「ん?今何か言ったか?」


拓也はありさの密かな本音を聞き漏らしてしまった。


「ううん、何んでもない」


「・・・・・そうか」


拓也はそう言うと、あの時と同じように頭を優しく撫でた。


すると、ありさの頬がほのかに染まった。


「な、何よいきなり。らしくないわよ?」


「本当はうれしいくせにー」


「嬉しくなんかないっ」


ありさは彼の手を振り払った。


「嬉しいなんて一生言ってやんない!」


「はいはい」


『わかってますよ』と言わんばかりに、拓也はその場の雰囲気を濁した。


「なぁありさ。やっぱりお前、まだ輝のこと好きだろ?」


「!?」


突然会話が真面目なほうに方向転換したため、ありさはどんな顔をしたらよいか迷った。


「ありさ、いいんだ。俺は素直に答えてくれたほうが嬉しい」


ありさを傷つけないように、拓也は優しく話した。


よく喧嘩する仲であるが、それでもお互いを大事に思いあう拓也とありさである。


「・・・・・・好きよ」


「そうか。・・・・・ありさはどうしたいんだ?」


「どうしたいって?」


「だから・・・・その・・・・。告白したいとか、付き合いたいとかさ・・・・そう言うの、お前にだってあるだろ?」


「!?」


それを聞いたありさの瞳は点になった。


「だ、だめよ。そんなことしたら、そんなことしたら───っ」





────拓也と輝が傷ついてしまう





「大丈夫」


震えだすありさに、拓也は優しくそう言って落ち着かせた。


「俺は何も口出ししねぇよ」


「・・・・・兄ちゃん」


「人の恋路を邪魔する奴は何とかっていうだろ?」


「『馬に蹴られて死んじまえ』よ」


「そうそうそれそれ」


絶妙なタイミングでツッコミを入れられた拓也は、思わず苦笑いをこぼした。


「だからさ、俺はお前の恋路を邪魔する気はこれっぽっちもないから、思い切って自分がしたいことをすればいい。ありさが想いを伝えたいと思うのなら、告白すれば言いと思う」


「で、でもそれじゃぁ兄ちゃんの立場が」


「俺のことは気にすんな。だから安心しろ。ありさが今まで俺を応援してくれたように、今度は俺がお前を応援する。それに、馬に蹴られて死んじまうのは嫌だしな。痛そうだし」


そう言うと拓也は子供みたいな笑顔を見せた。


「・・・・・バカ」


ありさはそう呟くと、拓也に腕をまわした。


「お、おいありさっ」


「う、うるさいっ。あたしが妹らしいことしちゃいけないって言うのっ?」


「そう言うわけじゃないけど・・・・・なんか最近のありさ、おかしいって言うかその・・・・」


「あたしのことはいいの。兄ちゃんは輝先輩だけを見ていたらいい」


「ありさ・・・・・・。何かあったら俺に言えよ。いつでも協力してやるから」


拓也は優しくそう言うと、しばらくありさをそっとしておいてあげた。


そしてなぜかありさは拓也の腕の中にいると、落ち着くことができた。


恋人という感情はないが、何かそれに近い想いがある。











いつも喧嘩してきた兄ちゃんとあたし。


ずっとそうしてきて、あたしたちは必然的に高校生になった。


それでもあたしの中にいる兄ちゃんは、ずっと幼いころの兄ちゃんでしかなかった。


だけど、それは違っていたんだ。


兄ちゃんはあたしが気がつかないうちに、こんなにも男らしくなっていた。


こんなにも立派になっていた。


あたしよりも大きく、そして優しく。


時々思ってしまう。


兄ちゃんがどこか遠くへ行ってしまうのではないのかと。


どんなに必死に追いかけても、その背中に追いつけない。


どんなに必死に手を大きく伸ばしても、その手をつかめない。


そんな気がして、ほんの少しだけあたしは怖くなるんだ。











「ねぇ、ところで今何時?」


拓也に回していた腕をそっと離すと、ありさはそう問った。


「うーんとなぁ、2時16分ぐらい」


拓也はデジタル時計を見てそう言う。


試しに窓の外をのぞいてみると、まだそこには夜景しかなかった。


どうやらまだド深夜の模様。


「兄ちゃん・・・・・また勉強してたの?」


拓也の机の上を見る限り、そんな様子であった。


「あぁ。相変わらずわけわかんねぇけどな」


拓也は苦笑いをこぼした。


「どれどれ?」


どんなものかと好奇心でありさはその医学の参考書を覗き込んだが、さすがのありさにも理解はできなかった。


「よくこんなのと毎晩にらめっこできるわね」


ありさが疲れた表情をしてそう言うと、拓也もまた引きつった笑顔を見せた。


「心、何回折れたの?」


「いや、一度も」


「うっそだ~」


「本当だって」


ありさは信用みにかけたまなざしを拓也に飛ばした。


「並み大抵の人なら、心が複雑骨折しちゃうわよ」


「ははっ、そうかもしれないな」


少し笑いをこぼした拓也だったが、すぐに睨めっこの相手であるそれに目を向けた。


「ねぇ、兄ちゃんが医者になりたいと思ったきっかけは、前に一緒に見たドキュメンタリー番組を見て、苦しんでる人を助けたいって思ったからよね?」


「!?あ、あぁそうだよ」


拓也は変に反応してしまわないよう、より自然に接するように言葉を返した。


「なんか引っかかるんだよねー」


「・・・・なんでだよ」


「本当にそれだけがきっかけなのかなって」


その言葉を聞いた拓也は思った。


もしかして、ありさはもう輝に持病があるということに気がついているのではないのかと。


過去に何度も勘を的中させてきたありさだ。


十分にありえることである。


「ま、あたしはエスパーじゃないから、兄ちゃんの心の中はよくわかんないけどね」


ありさは真剣な表情から一転、すこしおちゃらけた顔つきになった。


拓也もそれに釣られて、すこし気が緩む。


「ふぁ~。そろそろ眠くなってきた」


時間が時間なだけに、睡魔が本格的に襲ってきたのであろう。


拓也は大きなあくびをしてそう言った。


「あたしも眠くなってきたわ。夜更かしするとニキビできそうだし、そろそろあたし寝るから」


ありさはそう言うと、もう一度拓也のベッドにもぐりこんだ。


「おいっ。それ俺の寝床!────て、寝るの早っ!!」


疲れていたのだろうか。


ベッドの上にいるありさは、すでに深い眠りについていた。


「まじかよ。俺の寝るところがねぇ・・・・」


普通なら敷布団でも敷いて寝るにこしたことはないが、そのスペースも敷布団そのものもなかった。


「・・・・・・ったく」


拓也はため息をひとつこぼし、そっとありさを起こさないようにベッドの中に入った。


もうすぐ17歳になろうというのに、妹と一緒のベッドで寝るのは、やはり何か変な感じがするのであろう。


拓也は必要以上にありさとの距離を大きくとった。


いろいろといたらないことを考えていたら、逆に頭がさえてきてしまった。


気にしていたら寝ようにも寝れない。


拓也はそう思い、静かに目を閉じた。












*****












「・・・・んっ?」


ありさは重たいまぶたをそっと開けた。


すると、窓からの光が降り注いできたため、思わず硬く目をつぶってしまった。


(今度は本当の朝か・・・・・・)


ありさはそう思い、もう一度目をゆっくり開き始める。


するとたちまち何かが視界に入り込んできた。


金髪の柔らかい髪。


年齢にふさわしくない童顔の寝顔。


自分の腕の中にふと感じる暖かい男らしい体。


間違えなく、それは拓也であった。


あれだけ拓也が距離をとって寝ていたのにもかかわらず、なぜかありさと拓也は向き合う体勢で寝ていた。


その上ありさに関しては、拓也の腕にしがみつくように寝ていた。


「ぎゃぁぁぁぁ!!!」


あまりにもありえない状況に、ありさは大声で悲鳴をあげた。


「っるせぇ。何だよ朝っぱらから。輝だったらもっと優しく起こしてくれるぞ」


さすがの拓也もありさの奇声、もとい、悲鳴に目を覚ましたようだ。


「やかましいわっ!兄ちゃんの獣!変態!ありえない!」


「はぁ?!何言ってんだよ!意味わかんねぇし!」


朝っぱらから頭の回らない拓也は、寝起きということもあって、よりいっそう不機嫌そうな顔をした。


「それはこっちのセリフよ!なんでこんなにもあたしの近くで寝てたのよ!」


そう言うありさは、変に自分の頬が赤く染まるのに対して嫌悪感を抱いた。


「何でも何も、お前が俺のベッドで寝だすからいけねぇんだろうが!俺は寝場所がないから仕方なく同じベッドで寝たんだ!変な勘違い起こすんじゃねぇ!」


「同じベッドで寝なくても、あたしのベッドで寝ればよかったじゃない!」


「少しはそう考えた。けどそうしたとしてもどっちみちお前は怒るだろ!?」


「うぅ・・・・・」


図星だった。


ありさは言い返す言葉を失う。


「・・・・・ったく、もういいよ。デリカシーのない俺が悪かった」


困り果てた顔をするありさに、拓也はふてくされた表情でそういった。


「何もそんなにまじめに謝らなくてもいいのに・・・・・・」


「俺はお前と違って大人だからな」


「歳1つしかかわりませんけど」


拓也の言葉にムッとした表情になったありさは、いつものように皮肉を言った。


「さて、そろそろ輝が来るころかなー」


「!?」


気がつけば、『輝』という言葉に対して必要以上に反応してしまうようになったありさ。


「兄ちゃん・・・・・・」


「どうした?」


「今日、告白・・・・・してもいい?」


「!?」


突然すぎる発言に、拓也はすこし驚いてしまった。


「急すぎるってことぐらいわかってる。でも、早くはっきりさせたいって言うかその・・・・・」


「・・・・・わかった。だから無理にそれ以上説明しなくていい」


拓也はそう言って微笑んだ。


「・・・・・本当にいいの?」


「いいに決まってんだろ。いまさら何言ってんだよ。てか、誰も告っちゃいけねぇなんて決めてないしな」


「兄ちゃん・・・・・ありがとう。ここ最近、兄ちゃんに助けてもらってばっかり。はぁ・・・・・あたし、兄ちゃんなんかに助けてもらってだらしないわ」


「おい、それ褒められてるのか貶なされてるのかわかんねぇんだけど。どう解釈すればいいのかわかんねぇんだけど」







ピンポーン







雑談をしていると、突然玄関の呼び鈴がなった。


「あ、輝先輩だわ!ちょっと出てくるね!」


「お、おう」


思った以上に明るいありさの態度を見て、拓也は静かに胸をなでおろした。


そしてありさは、急いで階段を下りていき、玄関のドアを開けた。


その瞬間に、意中の相手が視界に現れる。


「おはよう。ありさちゃんは相変わらず元気だね」


「そんなことないですよ」


ありさは否定すると、輝を玄関からあがらせた。


(うぁー・・・・どうしよう。間近で見るとやっぱり緊張しちゃうよ・・・・)


ありさは心の中で叫んでいた。


「? どうかした?」


「い、いえ。なんでもないです」


ありさはそう言うと、不自然な笑いをこぼした。


「そんなことより、どうぞゆっくりしていってくださいね」


「ありがとう。でも今日少しだけ出る時間帯が遅くなっちゃったからそろそろ拓也を起こさないといけないんだ」


そう言って輝は、二階へとつながる階段を上り始めた。


ありさもまた、輝の後をついていく。


「拓也ー、入るぞー」


ノックをしてそう言うと、輝は静かにドアを開けて拓也の部屋に入った。


(兄ちゃんってたしか・・・・もう起きているはずよね。寝ている振りでもしているのかしら・・・・・)


しかしそれは、珍しくはずれていた。


部屋に入った瞬間、拓也の静かな呼吸の音が聞こえてくる。


どうやら先ほどまでありさと一緒に騒いでいたというのに、もう二度寝に入ってしまっているようだ。


兄弟であるありさも、さすがにこれにはあきれた顔つきになる。


「せっかく輝先輩が来てくれてるのに・・・・・・」


「ははっ、まぁ拓也らしいけどね」


輝はそう言って暖かい笑顔を見せた。


(・・・・・兄ちゃんいいなぁ。今なら兄ちゃんと入れ替わりたい・・・・・・)


それは不覚にも思ってしまったことだった。


「変なこと聞いてもいいですか?」


「? どうぞ」


「輝先輩は、どれぐらい兄ちゃんのこと好きなんですか?」


「!?どれぐらいって言われても・・・・・」


唐突すぎる質問に輝はテンパってしまい、赤面した。


やはり、どうやらいまだに恋愛ごとには慣れていない様子。


「言葉じゃうまく話せないけど、とにかく大好きだよ。・・・・ほんとに大好きだ」


輝の表情は穏やかで、とても幸せそうだった。


ありさもまた、そんな彼の様子を見て癒されると同時に、心のどこかで苦しむ。


「言葉に表せないほど大好き。そう言うことですね」


「あぁ」


輝は穏やかな表情で肯定する。


(・・・・・・やっぱり告白なんてできないや)


ありさは静かに心の中でそう思った。


「そろそろ拓也を起こそうか」


「ちょっと待ってください、今日はあたしが起こします。輝先輩は今しばらく耳をふさいでいてください」


そう言ってありさは部屋の物入れを開け、歓声用の黄色いメガホンを取り出した。


一瞬頭の中でクエッションマークを浮かばせた輝だったが、すぐにありさの様子から状況を判断し、言われたとおりに耳をふさぐ。


そしてありさは、メガホンを拓也の耳元までもっていった。


「起きなさーーーーーーーい!!!!」


ありさの大声はメガホンを通して空間を揺らしてしまう勢いだった。


「うわぁぁっっ!!」


耳元で叫ばれ、思わず拓也は奇声を上げた。


「うるせぇっ!鼓膜が破れるかと思ったぞ!」


「そうでもしないと起きないでしょ!」


「いーや、輝が起こしてくれるときはすんなり起きる。そうだよな?」


拓也は意地を張って輝に視線を送ると、輝は苦笑いで返事を返した。


「なんともいえないってわけね。ったく、信じられないわ。ついさっきまで起きてたのにもう熟睡しちゃうなんて」


「そうなのか?」


「ま、まぁな」


輝が拓也に問いただすと、拓也は否定をしなかった。


「あ、あれはありさが急に叫びだすから目が覚めたのであって、本来なら爆睡中だった」


「だってしょうがないじゃない。急にあんな状況になっていて悲鳴を上げないほうがおかしいわよ」


二人が何についてそんなに言い争っているのかわからない輝は、キョトンッとしてしまっていた。


「輝、うるさいありさなんかほっといてさっさと学校行こうぜ」


「ん?あ、あぁ」


突然話をふられた輝は少しびっくりしたが、すぐに話しに乗った。


拓也は大急ぎで支度をし、わずか15分~20分程度で学校に行ける状態になった。


もちろん朝ごはんを食べている時間は含まれていない。


「それじゃぁ先に行ってくるぜ」


「俺も行ってくるよ」


輝はありさに優しく手をふった。


「いってらっしゃい」


ありさも笑顔でそれに答える。


「おいありさ。俺には一言ねぇのか?」


「そんなのないわよ」


「・・・・・・俺は毎朝言ってやってるっていうのに」


「はいはいわかったわよ。いってらっしゃ~い」


輝とは正反対の言い方である。


そこにはいつもの皮肉を言うありさがいた。


「可愛くねぇ妹」


「まぁまぁ」


輝はそう言って拓也を落ち着かせると、なんだか可笑しくてすこし笑ってしまった。


拓也もまた、ぶつぶつと言葉を発しながら階段を下りる。






ガチャン







玄関の方からドアが閉まる音が聞こえてきた。


(もう行っちゃったかなぁ?)


ふとそんなことを思った彼女の表情は、どこか辛そうであった。













*****













ぐぅぅ~





それは拓也のお腹が鳴る音であった。


「お腹すいたー」


「朝ごはん食べてないのか?」


「あぁ・・・・」


「朝ごはんはちゃんと食べないとだめだよ」


脱力感丸出しの表情をする拓也。


心配そうな表情をしてそう言う輝。


「だって食べてたら時間かかると思って」


「そんなに急がなくてもよかったのに」


現に今、拓也と輝は通常通りのペースで登校中である。


輝が時間をきっちり守る性格であるため、二人はいつも余裕を持って登校している。


そのおかげもあってか、少し遅れても遅刻になることはほぼ0に等しかった。


「よかったらこれ食べて」


そう言って輝が差し出したのは、どこにでも売ってそうな市販のパン。


「・・・・・これ、輝の昼飯じゃないのか?」


「いいんだ、全然大丈夫。それより早く食べなよ。さっきからずっとお腹なってるしさ」


「すごくありがてぇけど、それじゃぁ輝の分がなくなる・・・・」


「それなら心配いらないよ。確か財布に少しお金が入っていたから、それで学校のパンでも買うよ」


「輝・・・・・・」


相変わらず輝はお人よしで、彼の優しさに拓也もまた、心を打たれる。


「ありがとう。この恩は一生忘れないからな」


「大げさだって。たかがパン一個のことなんだし」


そう言って輝は拓也の頭をポンポンッと二回軽く叩いた。


輝のその行動に、拓也は快感を覚える。


「お礼は何がいい?キスとか?」


「っ!?」


唐突なことを言う拓也に、輝は思わず赤面してしまった。


変に緊張してしまい、返す言葉がなかなか見つからない。


「なんてな」


「!? からかったな!?」


輝があたふたしていたほんの数秒間で、先ほどの言葉はいとも簡単に180度変わってしまった。


自分がからかわれたことに気がついた輝は、珍しく少しむきになる。


「そんなに怒んなって」


「・・・・・・・・・」


拓也に言葉を返さず、赤面したまま輝は黙り込んでしまった。


こんどはそんな彼の様子を見た拓也の表情が180度変わる。


「ご、ごめん。気に障ったんなら謝るよ。で、でも半分はからかったけどもう半分は本気だったって言うか、えーとっ、あれ?俺何言ってんだ・・・・・」


必死の思いで謝ろうとする拓也は、次第に自分が何を言っているのかわからなくなった。


「拓也、そんなんじゃないんだ。ただ、その・・・・・少し本気にした自分が恥ずかしくて・・・・・」


顔を真っ赤にした輝はなんとも言えない表情を拓也に見せた。


(か、可愛い・・・・・)


輝の言葉、表情、しぐさ。


すべてにおいて、つい拓也はそう思ってしまった。


そして拓也は優しい笑みをこぼして軽く学校の方へ走り出す。


「輝、もたもたしてるとおいてくぞー!」


「!? お、おい。ちょっと待ってよ」


そう言われてハッとした輝は、拓也のもとへと走り出した。


そして拓也のもとへ輝がたどり着くと、拓也はクチパクで何かを輝に伝えた。


しかし、それを輝は理解できなかった。


「? ご、ごめん、今何言ったかわからなかった。てかなんでクチパクなんだ?普通にしゃべればいいのに」


「なんとなく。悪いか?」


「そう言うわけじゃないけど・・・・」


『気になる』と言いたげな輝をよそに、拓也は温かい笑顔を浮かべる。


(本当は声に出して『かわいい』って言いたかったよ。でも、そうしたら輝はきっと恥ずかしがって『言うな』って言うだろ?)


拓也のそんな心の声は、口外されることはなかった。














*****













「ありさちゃん。なんだか今日もボーッとしてるね」


昨日と同様に憂鬱そうな表情をするありさに、沙希はそう言った。


「そうかな?あたしさ、実はちょっと最近睡眠不足なんだよねー。だからボーっとしちゃってるのかも」


ありさは少し可笑しくそう言った。


「そうなの?じゃぁ早く寝ないとね。体に負担かかっちゃうだろうし」


「確かにそうね。たまには素直に沙希の言うことを聞こうかしら」


ありさはそう言うと、鞄の中から弁当箱を取り出した。


「そんなことより、早く昼ごはん食べようよ」


「そうね」


今は時変わって昼休み。


ありさも沙希もお腹をすかせていた。


「今日もありさちゃんの弁当おいしそうね」


それはありさが弁当箱のふたを開けた瞬間に発せられた言葉だった。


「そうかな?普通だよ」


ありさもまた、羨ましそうな顔をする沙希にそう言い聞かせた。


「私の今日のお昼はコンビニ」


そう言って沙希はコンビニの袋からサンドイッチを取り出す。


いつもなら沙希も弁当であるのだが、今日はどうやら買い弁らしい。


「そのサンドイッチおいしそうね」


ありさがサンドイッチについて感想を述べたその時であった。


「?」


突然スカートのポケットに入れておいたケータイが振動し始めた。


このことから、ありさは着信かメールが来たのだろうと思った。


無論、マナーモードに設定しているため、音は鳴らない。


試しにそれをスカートから取り出し、開いてみると、一件メールが届いていた。


(誰だろう・・・・・・!?)


ケータイの画面を見たありさは変に反応しかけた。


そこには『兄ちゃん』の文字が表示されている。


どうやらメールの送信者は拓也のようだ。


(いったい何のよう?)


珍しく拓也からメールをよこしてきたので、ありさは不審に思った。


内容を確認すべく、メールを開いてみると、ありさの顔が少し険しくなる。


『輝に告白できたか?』


デリカシーのない文章が、そこにつづられていた。


「できるわけないわよっ!」


「!? あ、ありさちゃん?」


思わずつっこんでしまったありさの声に、沙希は驚いてしまった。


「あ、・・・・・えっと、ごめん。ちょっとメールが来ててそれにつっこんだだけだから気にしないで」


そう言ってありさは苦笑いをぽろりとこぼした。


「そうなの?急にありさちゃんが大声だすからびっくりしちゃったよ」


沙希もまた、少し可笑しげに笑顔を見せた。


そしてその場をしのいだありさは、返事のメールを打ち始める。


『できるわけないでしょ!いざとなったら緊張しちゃって言えないのよ!』


少し乱暴な言い草でありさは返事を返す。


すると、数分ほどで返事が返ってきた。


『何やってんだよ。今朝二人っきりになれる状況だったんだから、いくらでもチャンスはあっただろうが』


そうつづられたメールを見たありさは突然立ち上がった。


「あ、ありさちゃん落ち着いて!」


その様子を見た沙希は、まずいと察知したのか、必死にありさを落ち着かせた。


(だからチャンスがあったとしてもできないんだってば。いくらあたしだってすごく恥ずかしいのよ)


ありさはその言葉を命いっぱい声に出して叫びたかった。


が、そんなことをしたら教室中の生徒がこちらに異様なものを見るような視線を飛ばしてくるだろう。


そう思ったありさは、沙希の言葉を聞きいれ、ゆっくりと腰掛けた。


実を言うと、ありさは誰かに告白をしたことがいまだかつてないのである。


「やっぱりありさちゃん変だよ」


「そ、そんなことないって。あたしはいつもどおりよ」


「・・・・・・・・」


沙希は首をかしげながら、半信半疑でありさを見た。


「本当にたいしたことないからこれ以上何も疑わないで」


「・・・・・・わかった」


これ以上問い詰めてしまうと、嫌悪な雰囲気になってしまいそうなので、沙希は疑うことをやめた。


そして昼食を再びとりはじめる。


そんな中、やはりありさにいつもの元気はなかった。


沙希もまた、気にしまいと思ってありさの気に障らないようにしていたが、やはり心の中でもやもやするものは消えなかった。











*****












「はぁ・・・・」


今日も学校を終え、帰宅するなりありさはため息をこぼした。


「どうしたの?ため息なんてついちゃってありさらしくないわ」


玄関までありさを迎えにいった香は、すこし心配そうにそう言った。


「ううん、なんでもないのよ」


素っ気ない態度をとるありさを見るなり、眉間にしわを寄せた香は、すぐに何かをひらめいたような表情を見せた。


「・・・・・もしかして恋の悩みってところかしら?」


「!?」


まさかの発言にありさは驚いた。


どうやら勘のいいところは母親譲りらしい。


「なんでそうなるのよ。なんでもないって言ってるのに」


「なんでもなにもわかるわよ大体のことは。だって私の子だもの」


その言葉を聞いたありさは、不思議な気持ちにかられた。


「お母さんはどういう過程でお父さんと結婚したの?」


「それは内緒よ」


「ケチ」


「ありさに言われたくないわ」


二人は顔を見合わせると、少しおかしく笑った。


「ただ、一つだけ言えることは今の今まで幸せだということよ。そりゃぁ苦しいことはもちろんあったわ。でも今となっては、いい思い出や笑い話でしかないわ」


「やっぱり恋愛ってそんなものなのかしら」


ありさは納得しようにも納得できず、首をかしげた。


「まぁありさがどこのイケメン君を好きになったかわからないから何とも言えないけど」


「!? お母さん、まさかっ!?」


「ふふっ」


ありさの頬は命いっぱい赤く染まった。


どうやら香は、ありさの意中の相手をもう把握してしまっているらしい。


「あたしってわかりやすいの?」


「えぇ、拓也と似て」


香はおかしく笑った。


さすがにここまで来ると、ありさの表情は腑抜けてしまった。


「ただいまー」


大まかに話の内容がまとまると、二人のよく知る青少年の声が聞こえてきた。


「拓也も帰ってきたようね。ありさ、迎えに行ってあげて」


「なんであたしが・・・・」


「おねがい。拓也にとっては可愛い妹なんだから」


「今朝『可愛くない妹』って言われたばっかりなんですけど」


ありさはぼそりと愚痴をこぼしながらスタスタと玄関に向かった。


「兄ちゃんおかえ・・・・り!?」


面を上げながらそう言うありさの視界に、拓也といるはずのない人物の姿が入り込んだ。


(なんで輝先輩が家に!?え、今夕暮れよね?朝じゃないわよね?)


普通に考えればいいはずであるのに、ありさは変に混乱してしまった。


「ほ、ほら拓也。やっぱり急にお邪魔しちゃ悪いよ。ありさちゃんだって困ってるし・・・」


「何回言わせるんだよ。遠慮すんなって。それにありさは困ってなんかないよな?」


「!? う、うん。輝先輩なら年中無休大歓迎です」


驚いている最中に話をふられたありさはさらに驚いてしまった。


「母さん!輝を家に呼んだけどよかったか?」


台所にいる香に少し大きめの声でそう言うと、すぐに肯定の返事が返ってきた。


「『呼んだ』ではなく、『拉致った』の間違いでしょ?」


「卑猥ないいかたすんな」


「え、えーと。俺はお邪魔していいのか?」


『もちろん!!』


輝に対する言葉だけはやたらと意気投合する拓也とありさ。


二人はサイドにわかれ、それぞれ輝の腕をつかみ、ほぼ無理やり玄関から輝をあがらせた。


「いらっしゃい輝君。いつ見てもイケメンね」


「お世辞はよしてください」


輝は謙虚に否定した。


本当のところは肯定してもおべっかの過ぎない事実であるのだが。


「輝君がくるとなったら今日はご馳走ね!拓也とありさも準備手伝って」


『ラジャー!』


二人は仲睦まじそうに承知した。


「輝はそこのソファーにでも座って待っててくれ」


「思いっきり寝転がってもかまいませんから」


そういわれた輝だったが、さすがに他人の家で寝転がるというまねはしなかった。


すぐそばにあるテレビがついていたので、輝はしばらくそこに目をやることにした。





―――― 一方





「ありさ」


「・・・・・・・」


「ありさっ・・・」


「!? 何!?」


すっかり夕飯の準備に夢中になっていたありさは、少々拓也の呼びかけに気がつくのが遅れた。


「ちょっといいか?」


「え、何?・・・・ってちょっとっ」


拓也は遠慮がちにありさの腕をつかんで人のいないところへ連れて行こうとした。


「二人ともどこ行くの?」


「ちょっと打ち合わせー」


「? まぁいいけど終わったらまた手伝ってよね」


香の言葉を拓也は承知し、そのままの体勢であろさを二階のほうへ連れて行った。




























「な、何?」


「んーと、そのだなぁ・・・・・」


「口ごもるのはいいけど、まずその手を離してくれない?」


「! わ、わりぃ」


拓也はそう言うとありさの腕を離した。


「何か言いたいことでもあるの?」


もどかしそうな表情をする拓也に、ありさは彼の顔を覗き込むようにして問いただした。


「・・・・・御節介だったか?」


「!? ・・・・・・」


今度はそれを聞いたありさが口ごもってしまった。


「・・・・・・そうみてぇだなぁ」


拓也もそう言うと大きく息をはいた。


そう、拓也はありさのために輝を家に招いたのだ。


なかなか告白できないありさを気遣って、輝に告白できるチャンスを作ったのだ。


しかし、それがありさにとって裏目にでてしまったのだろうか。


「ごめん、役に立てなくて・・・・・」


「・・・・・・か」


「え?」


「兄ちゃんのバカっ!」


ありさは言葉をはき捨て、軽くこぶしを作り、拓也を痛くない程度にどついた。


「・・・・御節介だなんて思ってないってば」


ありさは震えた声でそう言った。


「役立たずなんて思ってない。怒ってなんかもいない」


ありさの声は、言葉を表すたびにどんどん震え上がっていった。


それと同時に拓也のありさに対する心配や不満も大きく膨れ上がった。


拓也が混乱しているうちに、ありさの目の奥はどんどん熱くなっていく。


「なんで兄ちゃんはこんなにもあたしに気をつかってくれるの!?なんでこんなにも優しくしてくれるの!?あたしは兄ちゃんの恋路の邪魔な存在なのに・・・・・!」


涙目で拓也をじっと見ながらありさは震え上がった声で言い放つ。


そんな彼女を見た拓也は黙って彼女に近寄った。


そして拓也は優しくありさの両頬に両手をあてた。


「俺の知ってるありさは気が強くて、生意気で、俺の言うことなんてそうそう聞いてはくれない」


「い、いきなり何を言うのかと思ったら説教?」


「そうそう、そうやっていつも俺に皮肉ばっかり投げつけてくる。でも、それでもありさはいつでも俺の見方をしてくれたよな」


「!?」


暖かい拓也の声とともに、優しくありさは抱きしめられた。


「今朝、俺お前のこと『可愛くねぇ妹』って言ったよな?その言葉、『可愛い妹』に訂正する」


「・・・・え?」


幻聴ではないのだろうか。


あまりにも聞きなれないその言葉に驚いたありさは頬を赤く染めた。


「どうしてこんなにもありさに優しくするのかだって?そんなの決まってるだろ」


「兄ちゃん、それ以上何も言わないでっ。あたしはそれ以上の優しさはいらないのっ。言われたらあたし、また泣いちゃうからっ」


「ありさは俺の、大切なこの世でたった一人の妹だから。俺の可愛い妹だからだよ」


ありさの言うこともお構いなしに、拓也はすべてありさに伝えた。


拓也のその言葉に、ありさの胸の高鳴りはおさまることをしらない。


「兄・・・・ちゃ・・・ん。ありがとうっ・・・・大好きだよっ」


そう言ってありさは強く拓也に抱きついた。


ありさの瞳からは熱くなった涙がボロボロと零れ落ちた。


「『泣きたいときは泣けばいい』と言いたいところだが、あとで輝に告白するんだろ?涙で顔がぐちゃぐちゃだとみっともないぜ?」


「兄ちゃんがあたしを泣かせたんでしょっ。ほんとにもう、輝先輩も兄ちゃんもお人よし過ぎよ」


ありさは少しだけ愚痴をこぼし、拓也から離れて涙をぬぐおうとした。


しかし、それよりも先に拓也のほうがワンテンポ早くありさの涙をぬぐった。


昨日と同じように優しく。


「今さっき言ったこと、一生忘れるんじゃねぇぞ。恥ずかしすぎてもう二度と言えねぇ」


「あたしの言ったことだって忘れないでよね。そう簡単に何度も兄ちゃんに『大好き』だなんて言えないわ」


今になって考えてみると、それなりに恥ずかしい発言であった。


よほど二人とも恥ずかしかったのであろう。


お互いの頬は熟れたりんごのように真っ赤である。


「さすがにそろそろ戻ろう」


「そうね。輝先輩に失礼だわ」


そう言って二人は少し急いで香と輝のいるところへ向かった。


「あ、やっと戻ってきた。今調度出来上がったわ」


ドアから入ってきた二人の姿を確認するなり、香はそう言った。


「わりぃ母さん。全然手伝えなくて」


「料理上手くできたから結果オーライよ。そんなことより早くみんなで食べましょ」


香はそう言うと、手際よく料理を並べた。


「輝ー、料理できたみたいだぞ」


「おう。なんかみんなごめん。俺何も手伝ってない上にご馳走までもらっちゃって。ほんと図々しい」


「そんなことないわ。輝くんは大事なお客さんなんだもの」


「ほんとにすみません」


申し訳なさそうな表情をする輝は立ち上がって3人のもとへ向かった。


「それじゃぁみんなそろったところで食べようか」


『いただきます』


何か小中学校の給食の合掌時のような風景になってしまった。


「香さんの料理、とてもおいしいです」


「ほんと?そう言ってくれるとうれしいわ。輝くんのくる日はいつもご馳走だから、またいつでも家にいらっしゃい」


香の言葉に輝は微笑した。


「輝、家に連絡入れておいたほうがいいんじゃないか?もう時間もそこそこおそいし心配するだろうから」


「そうだな。メール送っとく」


そう言うと輝はポケットからケータイを取り出し、今拓也の家で夕食をとっていることをメールで伝えた。


「あ、あの。輝先輩」


「何?」


突然話を持ちかけたありさに、輝は聞く耳を傾けた。


「これ、食べ終わったら少しあたしのお話に付き合ってもらえますか?」


「もちろんだよ。でも突然どうして?」


「いつも朝しか話す機会ないし、まだたくさん輝先輩とお話したいことがあるので」


「確かにゆっくり話す機会ないよね。じゃぁあとでゆっくり話そうか」


輝は優しい表情で迷うことなくそういった。


そんな彼に対し、ありさも表情が優しく和らぐ。


そしてそんな二人の様子を見た拓也はほっとした。


(ありさ、がんばれ!)


拓也は心の中でありさにエールを送った。










*****









「ささっ、入ってください」


「ほんとに入っちゃっていいのか?」


「かまいません、輝先輩ならウェルカムですよ」


そう言ってありさは輝を自分の部屋に招いた。


「俺、女の子の部屋入るの初めてだ」


輝は少し遠慮がちに足を動かし、ありさの部屋に入る。


ありさの部屋は誰が見てもおしゃれな部屋であった。


今時の女の子のスタイルである。


「座ってお話しましょうか」


ありさは気を利かせて輝をリラックスさせた。


「俺、ありさちゃんと話してて楽しいから、どんな話が聞けるのかさっきから実は楽しみにしてるんだ」


そう言う輝の表情は本当に楽しみそうな表情だった。


「・・・・・・ご、ごめんなさい」


「え?」


輝は自分が言った言葉に対して、なぜ謝罪の言葉が返ってきたのか理解できなかった。


「あたし、輝先輩に嘘つきました。本当は話なんていっぱいないです」


「そうなのか?ははっ、そんなことで謝らなくてもいいのに」


輝はすこしおどけたが、特に怒ることもなく優しい笑顔を浮かべてそういった。


「でも、大事な話がひとつだけあります。今からそれを話します。だから、どうか聞いてください」


「わかったよ」


何をそんなに真剣に言うのかわからない輝はすこしキョトンとした表情で聞く体勢に入った。


そしてありさは一度深く深呼吸をした。


「あ、あの・・・・・。あたし・・・輝先輩のことが・・・・・!」


そこまで言い終えると、突然ありさの表情は著しく苦しそうになった。


その先の言葉を言おうとすると、言葉がつまり、体中が熱くなる。


そのようなありさの様子に、輝はだんだん心配になっていった。


(なんで声がでないの?なんで言葉が詰まるの?あんなにも心のなかで練習したのに)


心がどんどん締め付けられていく。


その正体は恐怖心だとありさは自分でもわかっていた。


拓也や輝自身を傷つけてしまうことを恐れている。


その恐怖心が自分をまとい、自らの言葉を縛り付けていた。


(何やってんのよあたし!)


拓也が、自分の背中をおしてくれた。


応援してくれた。


支えてくれた。


今それに答えなくていつ答えるのか。


このままでは拓也の想いが無駄になってしまう。


伝えろ。


自分の想いを。


今ここで。


輝に。


「あたし、輝先輩のことが好きなんですっ」


「!?」


ありさはついにその言葉を口外した。


一方輝は、思いがけない言葉に驚いてしまっていた。


が、理解力のある輝なだけに、すぐにその言葉を理解した。


「ありさちゃん、それは『一人の男として』、『恋愛として』好きなんだと解釈して・・・・いいんだよね?」


「・・・・・はい」


ありさの頬は真っ赤だった。


輝もまさかの告白に赤面してしまっている。


「突然告白しちゃってごめんなさい。こんなこと言われたって困ることぐらいわかってます。でも、輝先輩にはあたしの気持ちを知ってほしいんです。あたしは兄ちゃんと同じように、輝先輩と出会ったときから輝先輩が大好きです」


「ありさちゃん・・・・・・」


緊張と苦しさが変に交じり合い、必要以上にありさは苦しくなってしまった。


そんな彼女に、突然やわらかい感覚が体中を走る。


それは心地よい人肌の感覚だ。


「輝・・・・先輩?」


突然の状況にありさの思考回路は一時的に低迷した。


そう、輝はありさを優しく抱きしめたのだ。


「ありがとう、ありさちゃん。その言葉を聞けて、俺は幸せだ」


「輝先輩、大丈夫です。輝先輩の言いたいことはちゃんとわかってますから」







―――――輝は拓也が好き







ありさは直接聞かなくてもわかっていた。


告白の返事がいい返事ではないことを。


それでもありさは幸せだった。


自分の思いを輝に知ってもらえたのだから。


「輝先輩、本当にごめんなさい。あたしは輝先輩と兄ちゃんを応援する立場なのにこんなことになってしまって」


「いいんだよありさちゃん。ありさちゃんが謝る必要なんてない。俺こそ、ありさちゃんを傷つけてしまってごめんね」


恐る恐る謝るありさを救うかのように輝はそう言った。


「ありさちゃん、これだけは言わせて。ありさちゃんは間違いなく俺にとって大切な人だよ。かけがえのない人だよ」


「ありがとうございます」


ありさはその言葉が聞けてうれしかった。


失恋はしてしまったけれど、何らかの形で輝の心の中に存在できる。


それだけでも喜ばしく思った。


「輝先輩・・・・・往生際の悪いことを言ってもいいですか」


「かまわないよ。なんでも言って」


輝は優しい笑顔を見せた。


「これからも輝先輩のことを好きでいてもいいですか?」


それを聞いた輝は思わず赤面してしまった。


こんなにもありさに自分が愛されているだなんて知らなかったからである。


「いいよ。でも、ありさちゃんに俺なんてもったいないよ」


「そんなことないです。あたしは輝先輩を好きでいることに誇りを持っていますから」


「ありさちゃん、ありがとう。俺も、ありさちゃんとこうしていられることを誇りにおもうよ」


そう言うと輝はもう一度ありさを優しく抱きしめた。


感謝と謝罪の念。


ありさの気持ちをありがたく思う気持ちと告白に対していい返事をかえしてあげられなかった苦しい気持ち。


今の輝にはありさを抱きしめてやることしかできなかった。


「兄ちゃんのこと、これからも好きでいてあげてください」


そう言うと、ありさはいつもの笑顔を見せた。


そんな彼女に輝もまた、優しい笑顔で返す。


(あたしはこんなにも幸せなんだ)


ありさはそう思った。


輝を好きでいられることも。


拓也の妹でいられることも。


みんなみんな、本当に幸せであると。












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