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第2章   ~君の力~

不良に襲われた拓也。殴られると思ったとき、助け出してくれたのは・・・・・


悲しまないで


心配することなんて何もありません






泣かないで


涙を流す理由なんて何もありません





苦しまないで


君は何も悪くありません







僕は君を信じています


だからお願いです






どうか僕を信じてください









― 君の笑顔も泣き顔も ―  第2章  ~君の力~ 










授業と授業の間にある短時間の休憩。


また不愉快な表情をしている男子生徒がいる―――――いや、それは違う。


今日の朝本拓也の表情は少しだけ穏やかであった。


昨日の一件のことで彼は変わったのだ。


(輝に会いたい・・・・)


一人拓也は心の中で思うのであった。


とにかく会いたいのである。


いっそのこと学校サボって会いに行きたいというほどまでに。


しかし、そんな彼だったが実際のところ輝がどこの学校に通っているのか知らない。


というか、学年すら知らない。


輝はぱっと見、背も高いし大人っぽく見えていたので、拓也は自分より年上だと悟っている。


(あ、そうだ)


とっさに拓也はひらめいた。


それと同時に一気に拓也は校長室めがけて走り出す。


そして一分もかからないままあっという間に校長室に到着。


「校長先生!!」


威勢のいい声で呼ばれた校長はびっくりした。


おそらく入れる途中と思われるコーヒーがあっけなく零れ落ちる。


「どうしたんだい朝本君。大声なんか出して」


つくり笑顔気味で校長は拓也に問いかける。


コーヒーを気にしまいと、そちらを見ないようにしていた。


彼の問いに拓也ははっきりと答える。 


「校長先生、空西輝という生徒の通っている学校を教えて下さい。それだけでかまいません。」


きっぱりといい終える。


そして校長は目を丸くした。


「急にそんなこと言われても困るんだけどなぁ。個人情報というものが」


「ですよね・・・・・・・」


当たり前な返事に、拓也は小さくため息をついた。


「どうしてそこまでして知りたいのかい?」


拓也の沈んだ表情を見て、思わず校長は聞いた。


「すごく会いたいんです。会いに行くんです輝に。いっぱい助けてもらったから・・・・・・恩返ししたくて。話したいこともたくさんあるし・・・・・」


拓也は真剣だった。


その言葉を聞いて、校長の顔色が変わったような気がした。


「本当に会いたいんだね?」


「はい」


一寸のためらいもなく、拓也は返事をした。


「わかったよ。少し時間をくれ。調べるかどうかは私がくだすから」


「え?本当ですか?」


「あぁ。君は本当に彼に会いたがってる。その表情に嘘はないと思うよ」


拓也の想いが校長に通じたのか、彼は少しこころを開いた。


校長は割りかしらと優しい性格だったので、それに救われたのだろう。


(これで輝に会いに行けるかも)


「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてすみません」


そう言い残し、拓也は校長室をさった。


迷惑をかけてしまったと思う一方で、拓也は胸を弾ませるのであった。


あの輝に会えるのだから。


もう普通だったらあの公園で輝には会えない。


昨日を最後に輝はあの公園で亡くなった家族を待つのをやめた。


3年間ずっと待ち続けていたことをやめたのだ。


現実に目を向けるために。


輝の気持ちは拓也にも痛いほどわかっている。


一人という孤独の本当のつらさは、同じ思いをした者にしかわからないのかもしれない。





――――依頼して約1週間後。





報告が拓也の耳に届く。


拓也はその日、校長室に呼び出されたのだ。


どうやら校長は調べるとくだし、本当に情報を持ってきてくれていたようだ。


彼曰く、輝の通う高校側の許可を得るのに苦労したらしい。


「その子の情報がわかったよ。これに書いておいたから」


そう言うと、校長は何かが記されている用紙を拓也に差し出した。


輝のことが書いてある用紙だ。




空西輝 


第一学年 


所属学校 花咲高等学校




その用紙には依頼した学校名だけでなく、ご丁寧に学年まで書かれていた。


(?!)


見て拓也は驚く。


自分より年上だと思っていた輝がまさか同級生だったとは。


あんなに大人びていた輝が同級生であるとあらわになり、さすがに驚きを隠せない。


「校長先生。ありがとうございます!」


「いえいえ」


拓也はお礼を言う。


凛々しい拓也の姿に、校長はきょとんとしていた。


そして校長が少し目を離した瞬間に光のような速さで拓也は校長室を飛び出した。


「よっぽど会いたかったみたいだな」


一言そういうと、入れて残しておいたコーヒーを飲み干した。


どうやら今日はこぼさずにすんだようである。




――――現在昼休み。




女子は校舎内で携帯をいじったり友達としゃべったり。


男子は校庭に出て、サッカーやバスケなどと定番なスポーツをして遊んでいる。


そんな中、拓也は浮いていた。


彼だけ学校内を駆け抜けたのである。


校門を出た拓也は周りをきょろきょろ見渡す。


輝の学校を探しに出たのだ。


学校名がわかったとしても場所がわからない。


そこが欠点であったが、拓也は徹底的に花咲高等学校を探すつもりであった。


だいたい、一時間弱ぐらいしかない昼休みの間にたどり着くわけがない。


はっきり言って無謀な挑戦だった。


それから何分たっただろうか。


およそ35分ぐらいで拓也はちゃんと花咲高等学校にたどり着いたのである。


思った以上に拓也の通う高校とそれは近かったらしい。


なんとも都合のいい話だろうか。


ちなみに行きあたりばったりでたどり着いた。


そんなところも彼らしいのかもしれない。


それから学校の門の隙間をうまくすり抜けて校内へ侵入。


お互い学ランだったので服装面ではあまり目立たなかった。


しかし、拓也の金髪頭は大いに校内の生徒たちの注目の的であった。


「あの人誰?」


「さぁ、違う学校の人だよね。見たことないし」


などなど。


(!)


しばらく目的の人物を探していると、拓也の表情が急に変わった。


彼の目に映ったのは輝の姿だったのだ。


輝は校庭のベンチで一人腰掛けて読書をしている様子。


もうその時点で大人びて見える。


(本当にこいつ同級生か?)


拓也はそう疑うしかなかった。


「おーい輝ー!!」


明るい声が輝の耳に届いた。


輝はその声のする方向に目を向ける。


顔が驚いた顔になった。


当然だ。


いるはずのない人物がいるのだから。


「た、拓也?!」


思わず輝はその場で彼の名を口にした。


「輝に会いに来た」


そう言うと拓也は腕を回し、輝にだきついた。


痛くない程度に。


輝は急に彼に抱きつかれてまた驚いてしまう。


輝は赤面した。


「ちょ、拓也っ。周りの人が見てるよ」


「少々気にしなーい。ずっと輝に会いたかったし」


素直になる拓也。


脱力してしまう輝は数秒遅れて返事を返す。


「俺も会いたかった。よくここまでこれたな」


「校長に頑張って頼んだ。それがうまくいったんだ」


それを聞くなり輝は可愛らしく笑った。


「な、なんだよ。急に笑い出してさぁ」


「ごめん、悪い意味じゃないんだ。何か拓也らしいなと思ってさ」


そう言われた拓也は顔を赤くした。


なんていうかこう、嬉しいのである。


こんなに話し合える人がいてすごく幸せだ。


お互いがそう思っている。


そんな関係が彼らを和ませているわけだ。


と、そのときだった。


キーンコーンカーンコーン―――。


チャイムの音だ。


とたんに輝があせりだす。


「やべっ!授業始まった!ごめんな、せっかく来てくれたのに。俺もういかないと」


拓也と会話を交わした後、輝は教室めがけて走っていった。


しばらく黙り込んだ拓也は思う。


(もしかしてこれって俺、やばいのか?)


気づいた拓也も自分の学校めがけて猛ダッシュ。


そんなこんなで彼は授業には遅れたが、無事学校に戻れた。


そんな彼に視線がひとつ向けられる。


その視線を送っているのは架瑠だ。


彼は校内一のひねくれ者であった。


何度か職員室内でも彼のことが議題にあがっている。


架瑠は遅れてきた拓也が気に入らないらしい。


どうやら拓也に目をつけたようだった。








*****








放課後。


下足箱に行った拓也が靴に履き替えようと、自分の下駄箱をあけたとたんに中から紙が一枚落ちてきた。


不思議に思った彼は落ちた紙を拾い、それを広げる。


『今からすぐ体育倉庫裏に来い。絶対来いよ。朝本拓也』


一枚の紙にはそう書かれてあった。


書いた本人の名前はない。


が、拓也宛てなのは彼自身にもすぐにわかった。


いずれにせよ差出し人はわからず、拓也はこの件に関してあまり関心を持たなかった。


それに彼はこんなことに付き合っているほど暇ではない。


拓也は今、彼と一緒に帰ろうとしているのである。


彼はこの件に関して何も触れずに、今したいことを優先した。


この紙の差出人は架瑠だ。


架瑠はこの日を境に、さらに拓也のことが気に食わなくなった。








*****







「輝っ!」


明るい声で向こう側にいる輝を呼ぶ。


「お、拓也。またきてくれたんだね」


「ああ。一緒に帰りたくてさ。一緒に帰ろうよ」


ノリノリで拓也は輝にお願いする。


もちろん輝は快く了解。


そしていろいろと話した。


学校のこと、今日あった出来事、先生の笑い話―――――


どれもこれもがささえな話に過ぎなかったが、笑顔で話を聞いてくれる輝が楽しそうで、すごく拓也は暖かい気持ちになった。


それからしばらくして、お互いが方向の違う道に到達してしまったので、手を降って別れを告げた。


もちろん明日も一緒に帰るつもりだ。


そんな中、ふと拓也は思った。


今日の出来事である。


拓也は少しながらも誰かの視線を感じた。


それは今日花咲高等学校から帰ってきたとき以降からだ。


もちろんそれは誰なのかなんて知りもしない。


けれどもなんとなく拓也は気になっていた。


そんなことを考えながら歩いていた数分後だった。





思いもしない展開になったのは―――





「おい!そこの金髪!」


急に後ろから大声で呼ばれた拓也は少しびくついた。


驚いた表情で後ろを振り向く。


相手の顔を見るが、誰なのか彼にはまったくわからなかった。


相手は拓也となんの接点のない架瑠であるからだ。


「こっちこい!」


またもや大声で呼ばれた拓也は仕方なく彼の元へ行く。


拓也から見た彼は背も拓也よりも高く、自分より年上なことがよくわかった。


そして拓也が架瑠のもとにたどり着いた瞬間―――


「!?」


鈍い音が鳴り響いた。


拓也は姿勢を崩し、腹を抱えて前かがみになる。


一瞬のことで拓也は何がおきたのかわからなかったが徐々に激痛が増し、すぐに殴られたのだとわかった。


「いってぇ!何すんだよ!」


理不尽なことをされた拓也は、ついカーッとなって思い切り架瑠を殴り返した。


その行動に腹を立てた架瑠は彼の髪を強引に引っ張る。


「てめぇ!調子に乗ってんとマジでぶち殺すぞ!」


架瑠が拓也を殴り飛ばす体勢に入る。


(やられる!)


拓也は反射的に目を硬くつぶる。


と、そのときだった。


「そこの先輩」


さわやかな程よい低さの声が響き渡った。


二人以外誰もいないはずの場所に第三者の声がし、思わず硬くつぶっていたはずの目を開いた拓也。


溶け込むようなキレイな瞳。


よく似合っている純粋な黒い髪。


やや長身のすらっとしたスタイルのいい体格。


間違いない。


間違えなく拓也の瞳に映ったのは空西輝だ。


拓也は突然の彼の登場に驚くことしかできなかった。


「先輩。後輩いじめなんかよりも俺と遊びましょうよ」


奥深い笑みを見せながら言う輝の声は軽く聞こえる。


「お前、こいつの知り合いみてぇだな。どこの学校のやろうかしらねぇが痛い目でもみたいのか」


「うわぁっ!」


架瑠は拓也をおもいきり地面に投げ飛ばし、輝のほうに眼を飛ばし始める。


「痛い目見るのはどっちでしょうかね。俺は先輩のほうだと思いますが」


輝は決して皮肉を言うような性格ではないが、このときの彼の言い方は挑発的である。


プライドが一級品に高い架瑠は彼の言葉に腹を立てた。


「その言葉!後でそっくりそのまま返してやるからな!」


大声を発すると同時に彼は輝のほうへ勢いよく殴りかかった。


(しとめた!)


架瑠は完全にそう思った。


が、それは違った。


殴ったと思ったつもりが目の前に輝の姿はない。


「どこにいきやがった!」


「ここですよ先輩」


架瑠の問いに輝はテンポよく応答した。


その声の現地、それは架瑠の真後ろ。


「先輩遅いです。そんなんじゃ俺を殴れませんよ」


拓也より背の高い輝であったが、動きは軽やかであった。


とても以前に入退院を繰り返していた身とは思えないくらいに。


輝は何の自然の抵抗も受けず、軽やかに架瑠の裏手に回ったのだ。


「っくそが!なめやがって!」


もう一度輝を殴ろうとしたが、それも愚か。


「もう遅い」


輝のすばやい回し蹴りがヒット。


そのまま強い衝撃を受け、架瑠はダウンした。


「やりすぎたかな?」


輝は気絶した架瑠を見るなり小さくつぶやいた。


「・・・・・・・・・」


あまりにもすごい光景に拓也は何も言葉もでない。


唖然とした表情で目を丸くしている。


輝は拓也のもとへ駆け寄った。


「大丈夫だったか?ケガは?」


心配する輝の姿はさっきまでの輝とは裏腹に可愛らしかった。


「俺なら全然平気――――」


そう拓也が言っている途中、輝は学ランのポケットから出したハンカチで拓也の口元を優しく拭く。


「唇が切れて血が出てるよ」


「あ、有難う」


お礼を言う拓也の心境は複雑だった。






俺、また輝に助けられたんだ。






そう思うと、とたんに拓也の瞳が涙目になる。


本当はこっちが彼を癒してあげたい、助けてあげたいのに自分がいつも彼に助けられてばかり。


そう思うと拓也は悔しくてたまらなかった。


「輝、本当にごめん。弱い俺でごめん。無力でごめん」


懸命に謝る。


只謝ることしかできなかった。


「なんで謝るんだ?拓也が謝る必要なんてないよ。俺はちっとも拓也のこと弱いだなんて思ってないし、俺は幸せだよ。拓也がそばにいてくれるだけで俺はどんなにでも幸せになれる」


輝が拓也を優しく包み込む。


彼の言葉と行動があまりにも嬉しく、思わず拓也は彼の腕の中で一滴の涙をこぼした。






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