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第14章  ~君の温もり~

風邪ひとつ引かなかった拓也だったが、どういうわけか風邪を引いてしまう。そんな彼を一番に放っておけなかったのは輝だった。











-君の笑顔も泣き顔も- 第14章 ~君の温もり~












空から降り注がれる白い雪は、一晩明けるとすっかりやんでいた。


しかし依然と地面には雪が積もっており、気温もいつも以上に増して低かった。


凍てつくような寒さが肌を刺すのを感じる。


真冬なだけにそれは仕方が無いことだろう。


「・・・・・・・ん?」


そんな中、輝は目を覚ました。


いつもは真冬の寒さに起こされるのだが、今日はそうではなかった。


寒いはずなのに体は温かく、目覚めるのにも気持ちが良かった。


目を少しこすり、自分の体を見てみると、そこには暖かい毛布があった。


暖かい原因はそれに過ぎなかった。


体が温まるように、ちゃんと毛布がかけられている。


「・・・・・俺、帰りもせず寝ちゃったのかな・・・・・。」


クリスマスに拓也と過ごしたことははっきりと頭の中に残っていた。


あたりを見渡すが、やはり現地点は拓也の部屋の中。


彼の言うとおり、本当にココで寝てしまって一晩越してしまったようだ。


そんな輝は、拓也のことが気になって彼を見る。


拓也はそこにあったテーブルに顔を伏せ、毛布ひとつかぶらずにまだ寝ていた。


(風邪引いちゃうよ・・・・・。)


うつ伏せになる彼の姿を見てそう思うなり、輝は自分にかぶせられた毛布を拓也にかぶせた。


こんな真冬に毛布ひとつかぶらないでいるなどと、絶対寒いに決まっている。


「・・・ん?・・・・・輝、起きてたのか・・・・・。」


「あ、ごめん・・・・・起こしちゃったね。」


毛布をかぶせたことによって、どうやら拓也は目を覚ましてしまったようだ。


自分が起こしてしまったと思い、とたんに輝は拓也に謝る。


「さ、寒い・・・・・。」


「大丈夫か?なんで毛布かぶって寝なかったんだ?」


「うーん。・・・・毛布、それしか用意できなかったんだ。」


「!?・・・・・・・・・ごめん・・・・。」


ようやく輝は理解した。拓也の部屋はひとり部屋で、すべて拓也自身のものしか用意されていない。


そのため、二人分の毛布はなく、彼は気をつかって先に疲れて寝てしまった輝にそれをゆずったのだ。


悪いことをしたと思い、輝はもう一度拓也に謝る。


「いいよいいよ。気にしないで。」


「で、でも・・・・・・寒かっただろ?もし風邪なんかひいたりしたら・・・・。」


輝は本当に心配した。


「大丈夫だよ。俺バカだから風邪ひかねぇって。俺は輝の体温で全然平気だから。」


笑顔で陽気なことを言う拓也は、そう言うなりあの時同様、輝に腕を回して抱きついた。


そうすることによって、じかに彼の体温を感じられ、自然と本当に体があったまる。


「た、拓也・・・・俺の体温なんかであったまるのか?」


「あったまるよ。最高にあったかいよ輝の体温。」


「そっか・・・・・なんだか嬉しいや。」


さっきまでの不安な表情が次第に崩れ、輝もお返しに拓也の頭を撫でた。


「もしよかったら、俺の分もあげるよ。」


そう言って輝が差し出したのは、昨日買ったケーキの入った箱だった。


「・・・・え、いいのか?それ、輝の自腹だろ?」


「全然いいよ。昨日のお礼だから。」


「あ、ありがとう。」


甘いものが好きな拓也は、悪いと思いつつも正直嬉しかった。


朝食を食べていない拓也は、御腹をすかせているため、すぐさま箱の中にあるケーキを取り出して食べだした。


何処までも胃袋に自信のある青少年である。


「うめぇ~!」


「ははっまたほっぺにクリームついてるよ。」


昨日と同じように、輝はまた手で優しくそれをふき取った。


そのたび、少し赤くなる拓也はお礼を言ってもう一度ケーキを口に運ぶ。


そんな彼は、時々輝のほうをチラ見した。


(輝の表情・・・・反則だ。)


輝の表情はダレにも負けないほどの穏やかさで、ケーキを食べる拓也を見守るかのように微笑んでいた。


そんな輝は男なのにもかかわらず、なんだか可愛らしく思われてしまいがちである。


「かわいい・・・・・。」


「?何か今いったか?」


「なっなんでもねぇよ。」


照れてしまった拓也は、否定をして赤面した顔を少しだけそらした。


幸せだ。本当に幸せだ。拓也も輝も同じようにそう思った。


お互いがそばにいれて、いつも一緒にいれて、本当に幸せだと。


「あ~もうなくなっちまった。本当に旨かった~。」


気が付いた時には、笑顔で満足そうにケーキを間食した拓也の姿があった。


「よかったね。今度また拓也の誕生日にでもケーキ食べような。」


輝の言葉に拓也は反応した。


「え、輝って俺の誕生日知ってたっけ?」


「ん?知らないけど・・・・・もし教えてくれるなら祝いたいなぁって。」


そういうと輝は頬をひそかに染める。


「教えるも何も、俺のこと祝ってくれるのか?」


「もちろんだよ。」


「輝・・・・。」


期待をしていたわけではないが、拓也は自分を祝うといってくれた輝に感激した。


家族以外の他人に自分の誕生日を祝われることはこれまでになかった。


友達のいなかった彼にとっては、考えられないことだったのかもしれない。


拓也はたまらなく嬉しくなり、感謝のきもちでいっぱいになった。


「拓也の誕生日っていつ?」


「え、えっと5月25日なんだけど・・・・・。」


「わかったよ。覚えておくから、その日が来たら何かプレゼントでも用意して祝うよ。」


「あ、ありがとぅ・・・・・。」


涙目になる彼の声は徐々に弱くなっていってしまった。


「た、拓也!?大丈夫か!?」


そんな彼の様子をみて、輝のほうも思わず驚いてしまう。


「大丈夫だよ。ただすごく嬉しくてさ。」


「拓也・・・・・俺は当然のことを言ったまでだよ。」


感情の高ぶる拓也にそういうと、輝はそのまま優しく拓也の頭をもう一度撫でた。


「あーもう輝のバカ!そうやってまた俺の頭を優しく撫でるからまた涙が出てくるじゃねぇか!」


拓也の言葉に輝は少し動揺して撫でる手を止めてしまいそうになった。


そして拓也は静かに子供のような泣き顔をして涙を流し始めた。


こんなささえなことに涙を流す自分を恥ずかしく思ったが、やっぱり嬉しすぎてこうしてまた泣いてしまうのだ。


今までに無かった幸せと優しさがすぐ目の前にあるのだから。


「拓也、俺の大切な人でいてくれてありがとう。」


「!?俺こそありがとう、俺なんかと一緒にいてくれて。」


お互いに赤くなりあう二人は感謝の気持ちでいっぱいだった。


「拓也ごめん。俺そろそろ帰らないと。」


「えーなんでさー。今日も泊まれよ。だってもう冬休みだぜ?」


拓也の言うことは正しく、今日から両校とも冬休みとなっていた。


「で、でも小池先生も原田さんも心配するし、何より朝本家に迷惑がかかる。」


ずっと拓也といたいのをやまやまに思う輝だったが、やはり礼儀正しいだけに気を使って否定した。


「俺は迷惑じゃないのになー。まぁ輝がそんなに言うなら仕方ないな。」


一方、拓也のほうはというと、一度お構いなしに自分の気持ちを素直に発するが、後から輝の言うことに納得する。


「じゃぁ途中までおくりに行くよ。」


「いいのか?」


「全然いいに決まってるよ。誰かに襲われてからじゃ遅いしさ。」


「襲われなーい襲われなーい。」


輝に拓也がそういうと、輝はおかしく笑いながら二度手を左右に振って否定した。


「とりあえず、香さんやありさちゃんにも、お礼を言わないといけないからすこし時間をもらっていいかな?」


「あーごめん。母さんは仕事にもう行ってると思う。まぁありさならたぶん下でテレビでも見てんじゃねぇのかな。」


「じゃぁ香さんには伝えて欲しいな。ありさちゃんには俺が直接言うから。」


「わかった。」


















「あ!輝先輩!おはようございます!」


輝が下りてきたのを確認したありさは、即座にあいさつをした。


「おはよう。」


どうやらありさは拓也の言うとおり、テレビを見ていたようだ。


「昨日はほんとにありがとう。それから一晩中お邪魔しちゃってごめんね。寝ちゃったみたいなんだ。」


「全然いいんですよ。輝先輩なら大歓迎です。お母さんも輝先輩のこと、気に入ってますよ。」


可愛らしい笑顔を見せて言うありさの言葉に、輝は自然と嬉しく思ってしまった。


「それはそうと、昨晩は大丈夫でしたか?兄ちゃんに襲われなかったですか?」


ありさは時々率直なことを言うことがある。


『!?』


彼女の言葉に拓也と輝は、思わず同時に反応してしまった。


そんな彼らだったが、もちろんそんなことはしていない。


そしてほのかに顔が赤くなる。


そんな彼らに対してありさは、へらへらしているように見えた。


「ありさ!お前って奴は!」


「えーなんであたしが怒られなきゃなんないのよー。」


顔を赤くしている拓也は、ありさを追いかけ回す。


見の軽いありさはひょいひょいとつかまらないように逃げ回る。


そんな彼らを見ていた輝は、思わず笑いをこぼした。


「輝?」


「輝先輩?」


不思議に思った拓也とありさの動きがぴたりと止まる。


「ほんとに仲いいんだね。」


そういわれた二人は顔を見合わせた。


が、すぐにさっきのことを思い出して顔を背けあう。


「じゃあ俺、そろそろ帰るね。」


「ったく。気が早ぇーんだから輝は。」


「ごめんごめん。」


「・・・・・・。」


まじめに謝られた拓也はすこしおどけてテンションが狂ってしまった。


「じゃぁ俺輝をおくっていくから、留守番頼むぞ。」


「わかってるって。」


そういうとありさは玄関から外へ出て行く彼らに手を振った。






















「へくちっ!」


金髪の青少年は黒髪の青少年の隣でくしゃみをした。


「本当に大丈夫?さっきからくしゃみばっかりしてるし。」


見送られている輝は隣にいる拓也を心配した。


「平気平気!こんなのきっと花粉症だよ!」


「花粉症はこの時期にはなりにくいんじゃないかなぁ。」


「うーん・・・・・。」


当たり前の返事に拓也は苦笑いをしながら少しうなった。


「ちょっと拓也いい?」


「ん?____!?」


何かが自分のおでこに触れて拓也はすこしびっくりしてしまった。


「やっぱり熱い。熱あるんじゃない?」


「ないない。」


おでこに触れたのは輝の手のひらだった。


拓也はおでこが熱いのを内心赤面しているせいにした。


「そうかな・・・。俺やっぱり心配だし、ココまでで俺はもう大丈夫だよ。だから拓也は早く帰って安静にして。」


「何言ってんだよ。心配なんて無用だって!ほらっ!」


そういって拓也は元気に走り回った。


が、それもつかの間。


「_____!?」


「拓也!? 」


走り回っていた拓也の視界が急にぐらついた。


体の力がいっきに抜けていったのが自分でもわかる。


体がそのまま倒れていくのと同時に、輝が自分の名を呼ぶ声が聞こえた。


そんな彼を反射神経のいい輝は瞬間的に彼の体を支える体勢に入る。


そして見事に彼の体を抱え込むことに成功した。


「大丈夫か!?だから言ったのに・・・・・。」


「なんでだろ・・・・・体に力が入らない。―――――うわっ!?」


力が入らないはずである自分の体が、急に持ち上がった。


輝が拓也をおぶったのだ。


「はなせーーーっ。」


「いやだよーだ。」


自分の背中で抵抗する拓也に、珍しく輝は少し意地悪げに言った。


「あんまりじたばたすると落ちちゃうよ。俺がこのまま小池先生のところまで連れてってやるから。」


「・・・・・・・ありがとぅ・・・・。」


へろへろになった拓也の感謝の言葉は、少しずつ小さくなっていた。


正直に言えば、拓也は輝に甘えたかったのだ。


「俺、重くない?」


「全然重くないよ。」


拓也はよく食べる割には痩せ型である。


重くはないにせよ、病持ちの体にしては輝の力はいたって普通の男子高校生だった。






まるで病持ちの体なんて嘘であるかの様だった_______





拓也は静かに彼の背中に顔をうずくませた。


肌から伝わる彼の体温は暖かくて、とても落ち着いて・・・・・。

















「拓也、ついたよ。」


「ん?・・・・・・わっ!!」


とろんとした拓也の表情がいっきにおどけた。


どうやらあまりの気持ちよさに寝てしまったようだ。


あたりを見渡すと、そこには見慣れた病院があった。


「ご、ごめん輝。思いっきり寝ちゃってた。」


「いいよいいよ。疲れてるときに睡眠は欠かせないしな。」


「あ、ありがとう。もう俺は大丈夫だからおろして。」


そう拓也が言うと、輝は彼を落とさないようにそっと下ろしてやった。


下ろされた瞬間、立ちくらみが拓也を襲う。


すこしふらりと体が揺れてしまったが、すぐに体勢を元に戻した。


「大丈夫そうに見えないよ。もう一度俺がおぶるよ。」


「ありがとう。だけど本当に大丈夫だよ。これ以上輝に迷惑かけられない。」


「迷惑だなんてそんなことないよ・・・・・・。」


否定をした輝の表情はどこか悲しそうだった。


「せめてこれぐらいはさせて。」


そういうと彼は拓也の腕を後ろから自分の肩に回した。


「輝、ほんとにお前ってやつは何処までお人よしなんだよ。」


「そんなんじゃないよ。俺はただ拓也が心配なだけだよ。」


拓也は笑顔になった。嬉しくてたまらなかった。


二人は息を合わせて一歩一歩前進していった。


「おかえりなさい。」


そんなこんなで歩いていると何処からか聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。


振り向くと、そこには二人のよく知る看護師がいた。


「拓也くんどうしたの!?ぐったりしてるじゃない!」


力の抜けた拓也の姿を見るなり、真っ先にその言葉を吐く原田看護師。


「たいしたこと無いんです。ただの風邪ですから。」


「そう・・・・ならいいんだけど。」


風邪のわりには妙に拓也から脱力感が感じられた。


「小池先生ならちょうど今手が空いてるから早く見てもらうといいわ。」


「有難うございます。」


拓也はお礼を言って一礼し、輝と一緒に診断室のほうへと向かう。


















「とりあえずはただの風邪みたいだね。熱のほうは37,7℃で少々高めだけど、インフルエンザでもないみたいだよ。」


「そうですか。」


「まぁ激しい運動は控えて安静にしておくべきだね。下手に動いたら熱上がっちゃうだろうし。」


そういわれながら拓也は、隣にいる原田看護師から薬を受け取った。


「一日三粒。忘れずに飲むんだよ。代金はあとばらいでいいから、お大事にね。」


久しぶりに会った小池医師だったが、相変わらず彼の笑顔はさわやかで朗らかだった。


「有難うございます。」


そんな彼にお礼を言って、拓也は何事もなかったかのようにいつもよりも重くなった体を起こしてその場を後にする。






















どんどん気が遠くなっていく。


理性も何もかもがはじけていった。


だらだらと顔の横をつたって汗がたれ落ちる。


正直言ってむちゃくちゃ辛い。


「輝先輩もほんとお人よしよね。こんな兄ちゃんを二度も見送りに行くなんて。」


そう、輝はあの後も拓也を心配して家まで送って行ったのだ。


「しっかし、バカな兄ちゃんが風邪ひくだなんて、明日は台風でもやってくるのかしら。」


「うるせぇっ!ゴホッ。」


寝込んでいるベットの横で皮肉を言うありさに拓也は反発するが、あまりにも辛い風邪のせいでむせてしまった。


「安静にしなさいって言われたんでしょ?」


「くそ、こんな風邪すぐに治るに決まってる。」




ピンポーン




ありきたりな会話をしていた二人の耳に、突如玄関から呼び鈴が聞こえてきた。


「誰だろう、ちょっといってくるね。」


そういうとありさは小走りで玄関のほうへと向かっていった。


「はーい。」


ドアノブを握り、ドアを開けた。


その先にはマフラーをつけた二枚目の青少年がいた。


「ひ、輝先輩!?」


「何度もおじゃましてごめんね。」


そこにいたのは輝以外の誰でもなかった。


彼はありさと目が合うなりそう言って苦笑いをこぼす。


「どうしたんですか?」


2度目の彼の登場にありさは不思議に思い、思わず聞いてみた。


「えっと・・・・その・・・・拓也のお見舞いに・・・。」


恥ずかしがっているせいか、赤面した輝はぼそりと小声でそういった。


そんな彼に対してありさはにっこりと穏やかな笑顔を見せ、


「わかりました。兄ちゃんなら二回で咳き込んでますよ。」


そういうなり輝の手を軽く引っ張るようにして、自然に拓也のもとまで導いた。


「ちょ、ちょっとまってありさちゃん。俺まだ心の準備って言うかえーと。」


「心の準備だなんてそんなの必要ないですよ。」


赤面する輝もお構いなしにありさは持ち前の積極的な性格を生かし、ぐいぐいと彼をリードする。




ガチャンッ!




「兄ちゃん!!!」


「うわぁっ!!!」


ドアがド派手に開く音とありさの晴れ晴れしい大声に拓也は驚き、ついつい叫び声を上げてしまった。


「ありさ!俺今ものすごく頭痛ぇんだよ。もう少し静かに・・・・て、えぇぇ!?」


怒る拓也の声はどんどん奇妙になっていった。


自分の目先には控えめにしている輝がいた。奇妙な声の原因はこれなのだ。


「な、なななななんで輝がここに!?」


予想外の出来事に拓也は何がなんだかわからなくなる。


おかげで体温もぐんぐん上昇していくような勢いだった。


「えっと、その・・・・お見舞いにきたんだ・・・・・・・やっぱり、おせっかいか?」


すこし不安げな表情をする輝を見るなり、拓也は勢いよく左右に首を振って全否定した。


「そんなことねぇよ。むしろスゲー嬉しい。てか俺のためにそこまで・・・・。」


「そこまでって、だって、だって・・・拓也は大切な俺のこ、こ、恋人だから・・・。」


ここまでくると輝の顔はやばいほど赤くなっていた。


一方拓也のほうも嬉しさのあまり倒れてしまいそうであった。


恥ずかしがり屋さんの輝からめったにきけない貴重な言葉なのだ。


そんなこんなでいいムードになった二人を見るなり、ありさの表情はどんどんにやける。


「それじゃぁあたしは引っ込むとしましょうか。一階にいるからもしなにかあったら話しかけてね。」


いつもの如くケロっとしたありさは健闘を祈るかのように背を向けてその場を後にする。


そして二人っきりになってしまった。


「俺、なんかもっと熱上がったきがするんだけど。」


「大丈夫か?熱もう一度測ってみるか?」


そういうと輝はそばにおいてあった体温計を拓也に差し出すと、素直に拓也は体温を測り始めた。


そして数分後に体温計の音がなったので、ためしに自分の体温を見た拓也は案の定だったような顔をした。


体温計は38.2℃を示したのだ。病院ではかったときよりも体温が上昇していた。


拓也は確認すると、輝にもそれを見せた。


「大丈夫か!?俺、濡れタオル用意してくる。」


輝はその数値を見るなり驚いた。


「ありがとう。わるいな。」


脱力した拓也は依然とぐったりしていた。


(熱上がった原因は輝なんだけどなぁ・・・・・。)


そんな拓也の心の内の言葉はひそかに眠る。





















「これで少しは熱が下がってくれればいいんだけど・・・・。」


輝はそう言いながら濡らしてきたタオルを拓也の額に優しく乗せてあげた。


「ごめんな世話焼かせて。」


「ううん。全然いいんだよ。何か拓也のためにしてあげられるのならそれでいい。拓也が少しでも俺のことを頼ってくれるのならそれでいい。」


輝の笑顔はいつだって優しかった。


「輝・・・・・・。」


その言葉を聞いた拓也の目が少し潤んだ。


「輝、頼むから俺をもう泣かせないでくれ。お前の言葉がいちいち優しすぎて涙でそうなんだよ。」


「ご、ごめん。でもその言葉ちょっと嬉しいかも。」


すこし輝は複雑な気持ちになった。


「輝、ちょっと寝てもいいか?なんだか少し疲れたんだ。」


「あ、うんわかったよ。おやすみ。」


「ほんとにせっかく見舞いに来てくれてるのに悪いな。おやすみ。」


まだ昼過ぎだったが、今日はいろんなことが度重なったせいか、拓也は少し疲れていた。


そっと目を閉じると、自然と眠りについていくのが自分でもわかった。


輝は、すんなりと眠りに入ってしまう拓也をそばで見守った。


綺麗で優しい穏やかな輝の瞳。


そのときだった。視界の中にいた拓也がかすんだ。


そこまで極端に見えないほどではないものの、視力はいいはずなのにかすんで見える。


輝は嫌な感覚を覚えた。どうしたのだろうかと不安になり、目をこすった。


そうすると、まだ少しかすんで見えるものの、さっきよりははっきり見えるようになった。


(変だ・・・・・・俺、疲れてるのかな・・・・・・。)


いろいろと嫌な想像が浮かぶが、輝はこれ以上考えないようにした。


落ち着いて眠りに入る拓也をそばに、そのようなことを考えたくなかったのだ。



















「ん・・・・・?」


ゆっくりと目を開けると、いつも目覚めるときに目にする天井が映った。


寝る前に比べるとずいぶん気分が楽になり、体も軽くなっていた。


どれぐらい寝ていたのだろうかとそばにおいてある時計をみる。


時計は午後6時を記していた。


だいたい5時間ぐらい寝ていたことになる。


気分が良くなるはずである。


「・・・・・!?輝は!?」


時刻を確認すると、拓也は輝の存在を確認し始めた。


アタリを見渡すと彼はそこにいた。


輝は拓也のすぐそばで、ベットに手を枕代わりにするかのように浅く伏せて寝ていた。


「輝・・・・・ずっと俺のそばにいてくれたんだ・・・・・・。」


拓也は切なくなった。そして自分の手を静かに伸ばし、輝の頭を優しく撫でた。


たまらなく輝の存在は自分にとって大きくて、たまらなく輝が愛おしくて、大切で。


ずっと自分の腕の中で包み込んでいたかった。


輝が辛い思いをしたぶんだけ、輝に辛い思いをさせた分だけ、誰にも負けないくらいの優しさを与えたかった。


輝の両親や妹の代わりにはなれやしないけど、せめてもの報いとほほ笑みを。


想えば想うほど辛くて切なくて。拓也は苦しくなってしまった。


「んっ・・・・・・。」


そうもこうもして撫でているうちに、とうとう輝は暖かい感覚に目を覚ました。


「たく・・・・や?」


「あ、わりぃ。おこしちゃったな。」


すこし悪いなと思った拓也はあやまった。


「そんなことで謝らなくてもいいよ。」


いつものように輝は柔らかい笑顔で返事を返す。


「結構寝ると違うもんだなぁ。だいぶ元気になったよ。」


「そっか。その言葉聞いて俺、すごく安心・・・・し・・・・た・・・。」


輝の優しい声が次第に途切れていった。


そして輝はふらりと倒れようとする。


「輝!?」


拓也は突然の出来事のせいで不安に刈られ、必死に輝を受け止める体勢に入った。


拓也の必死の想いもあってか、どうやら輝は床に顔を打ち付けなくてすんだ。


「大丈夫か!?」


「うん。全然大丈夫だよ。ちょっと・・・・・立ちくらみがしただけなんだ。」


「全然大丈夫じゃねぇよ!もし何かあったらどうすんだ!俺はもう大丈夫だから横になって。」


「拓也・・・・・・。」


よほど複雑な表情をしていたのだろう。


拓也の表情を見るなり、輝は彼に支えられながらベットに横たわった。


「絶対起きるんじゃねぇぞ。」


「拓也、ほんとに大丈夫だよ。ただの立ちくらみだから。」


笑顔を作る輝に対して拓也の表情は複雑だった。


「俺は・・・・輝が心配なんだよ・・・・。」


「拓也?」


「いつも一人で抱え込んでるから。なにかあっても全部隠して一人で背負ってるから・・・。」


今にも泣き出しそうな顔をする拓也に、その言葉を聞いた輝はそっと微笑んだ。


「心配しないで。今の俺はなんにも抱え込んじゃいないよ。だから不安にならないで。」


「輝・・・・・・・。」


拓也は輝の名を呼ぶと、そっと彼の負担にならないように両腕で彼を包み込んだ。


輝のぬくもりを感じていられる今を、本当に幸せに想った。


昔の自分には孤独しかなくて。でも今は違う。


決して失いたくない大切な存在がある。誰よりも大切な輝がいる。


人を愛することを教えてくれた輝がいる。


今の自分は、とてつもなく幸せなんだ______



















結局のところ、輝は風邪であった。


もしかしたら拓也の風邪が移ってしまったのかもしれない。


看病してくれた分だけ、拓也は輝の看病をした。


まるで彼を守るかのように____



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