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第13章  ~刻まれる思い出~

相思相愛になれた拓也と輝。そんな二人はクリスマスを迎えた。愛おしい思い出をまたもうひとつ、もう一度。



もしも君と出会わなければ、


僕はたくさんの幸せを見逃していたでしょう。


いつだって君の背中は大きくて


君は太陽のような存在だった。









やっと見つけた自分の居場所。


やっと見つけた自分の生きる理由。









なぜ運命はそれを葬り去ろうとする。








ねぇもう一度だけ、


泣いてもいいですか。


ねぇもう一度だけ、


涙を流してもいいですか。










―君の笑顔も泣き顔も- 第13章 ~刻まれる思い出~











「拓也。」


柔らかくて落ち着く暖かい声が自分の耳に入り込んだ。


「もう時間だよ。」


「う、うん・・・・・。」


そんな声は依然と自分を起こそうとする。


眠くてたまらないはずなのに、その声にだけは不思議と素直に言うことが聞けた。


重たいまぶたをゆっくり上げると、そこには整った見覚えのある顔があった。


「寒い・・・・。」


一瞬起きる気になった拓也は、もう一度布団の中にもぐりこんでしまう。


「もう真冬だもんね。って、早く起きないと遅刻だよ。」


起きてほしいと願う輝もお構いなしに、拓也はもぐりこんだまま。


そんな彼に少しあきれて、輝は起こすようにそっと彼の肌に触れる。


「輝の手、あったかい。」


「そ、そうか?」


少し赤くなった輝の手が自分に触れた瞬間、拓也はほのかな彼のぬくもりを感じた。


「布団じゃ全然あったまらないや。」


「今はそうでも歩けばあったまるって・・・・!?」


拓也のとった行動に輝は驚いた。


自分の胸に拓也が静かに飛び込んできたのだ。


「たっ拓也!?」


「ほんとに暖かいや。ふとんより輝の体温のほうがイイ。」


「拓也・・・寝ぼけてない?」


「寝ぼけてないよ。」


「そ、そうか・・・・・。」


何か変に赤面して、緊張してしまう輝はどう行動をとればいいかわからない。


「た、拓也。いい加減にしないと本当に遅刻____!?」


輝が言ってる最中、拓也が輝の腕を引っ張った。


「寒いし学校面倒。輝も俺とこのまま一緒に寝ようよ。」


「たっ拓也っ・・・・。」


さっきよりも赤面する輝は、必死で彼の手を振りほどこうにも振りほどけなかった。


あの時と同じように、あっという間に輝はベットの中へ放り込まれてしまうのだ。


何よりも輝を赤面させるのは、昨日の出来事が原因だった。


想いが通じ合えたあの雪の降る中。


あの場所で、拓也と輝は正式的な恋人同士となった。


嬉しすぎて、輝は今だに信じられないでいた。


それは拓也も同じである。目が合うと恥ずかしくなってしまい、輝は必死に目をそらす。


「顔赤ぇ。もしかして照れてる?」


「!?照れてなんかないよ!」


やたらとむきになる輝の顔は真っ赤だった。


輝は照れているのを隠すが、彼は隠すのがへたくそだ。


照れているのが手に取るかのようにわかる。


両手をつかまれている輝はもがいても身動きが出来ない。


そんな自分の下で可愛いしぐさをする輝を見て、拓也のほうも赤面してしまった。


拓也はイイように輝の姿を一通り眺めながら、彼の体のほうに手を伸ばした。


その行動を見た瞬間、輝の頬は真っ赤になり、何かのピークが来た。


「たっ拓也!ちょっと待って!!」



















「す、すみませんでしたっ!」


そう謝って両手で手をつき、土下座して謝っているのは拓也だった。


「ど、土下座までしなくても大丈夫だよっ。ほ、ほら顔上げて。俺こそちょっと乱暴にしてごめんね。」


拓也の右頬は少し赤くなっていた。


赤面しているのもあるが、それ以上に輝にぶたれた跡が原因だった。


ぶったといっても本気で強くやったわけではない。


拓也の体が自分を押さえていられなくなるほどの程度である。


自分の体が触れられそうになった瞬間に、思わずこのような行動をとってしまった輝。


警戒してしまうのも無理はないだろう。


拓也のほうも、下心があってこんな行動をとったのではない。


実際のところ、彼は寝ぼけていた。


少しだけ痛い思いをした拓也だったが、なんだかそんなささえなことも幸せに感じた。


毎日自分のために起こしに来てくれる輝の優しさ。


目を開けば見えてくる輝の暖かい表情。


もう二度と戻ってこないと思っていた光景が、またもう一度広がる。


今自分にあるのは求めていた世界で、前と同じように輝に起こされるひと時は、幸せを感じさせてくれるものだった。


そんな幸せを感じながら、輝のほうを見ると、即座に目が合ってしまう。


あった瞬間に二人は真っ赤に赤面して、目をそらしあう。


拓也はもう一度輝に口付けしたかった。


だけど、なんだかいまさら恥ずかしくなって出来やしない。ましてや自分から言い出せない。


あのときの柔らかい感覚が今でも忘れられないでいた。


拓也はそっと自分の手を輝の頬まで伸ばした。


「・・・・拓也?」


依然と真っ赤な輝の顔に拓也は自分の顔を近づけた。


「な、何!?顔がち、近いって!」


「輝・・・・・。」


だんだんと近づいていく拓也の顔に、輝はあたふたとてんぱった。


いろいろと余計なことを思いついてしまう輝は、硬く目をつぶった。


次は何をされるのかと思いきや、拓也は輝の頬から手を離し、顔を遠ざけた。


「え?拓也?」


「ははっなんちゃってね。」


きょとんとする輝に対して、拓也は微笑した。


「たっ拓也!からかったな!?」


恥ずかしい思いで輝は大声を上げた。


「悪ぃ悪ぃ。そんなに怒らないでよ。どんな反応するのかなっておもってさ。」


てんぱる輝をよそに、拓也に笑顔は絶えない。


「はっ恥ずかしかったんだからな!俺、こういうの慣れてないから・・・・・・・。」


「そっちのほうが俺はいいな。慣れてたら楽しくない。」


その言葉はどういう意味かはさておき。


「拓也!もう8時回ってるぞ!早くしないとチャイムが!」


時計をチラ見した輝は言った。


「うおっと!ごめんごめん!急ごう!」


拓也もそういうと、さっきのテンションを切り替え、大急ぎで支度を済ます。


極論的にいえば、がんばっても間に合うはずがない時刻であるのには変わりはないのだが。


「行ってきます!」


「お邪魔しました!」


こけないように階段を走って降りる二人は、一階のリビングで茶碗を洗っている拓也の母である香に、それぞれそう言った。


「二人とも行ってらっしゃい!気をつけてね!」


彼女は手を止めないまま、二人にそう言い返す。


ドアを開け、外へと飛び出していく二人には笑顔。


こんな遅刻をするのも彼らの幸せのひとつだった。


こうやって笑い合えるだけで、隣にいれるだけで幸せに感じた。


また前と同じようにこうしていられることを、なによりも誇りに思った。


二人は希望を抱いて、一歩一歩強く踏み出して行った。












*****











白い雪は降ってはひとつ、またひとつと募っては消え、それを繰り返す。


朝は焦っていたため、あまり気にしなかったが、穏やかに雪が降り続いた。


そんな雪を、誰もがはかなく美しく思っただろう。


拓也もまた、その雪の美しさにとらわれた一人だった。


授業のことなんて上の空。


拓也は雪降る空をずっと眺めていた。


彼の席は窓際であるため、眺めるには実にベストな位置だった。















「ふぅ。やっと終わったな~。」


「俺もう腹へって早弁しようかすんげー迷ってた。」


ほっとため息をつく生徒。手を上に上げ、ぐっと背伸びをする生徒。


4時限目が終わったと同時に、教室中の生徒のリラックスした声があがり、それぞれが昼食の支度をし始めていた。


「これとこれ、ひとつずつ下さい。」


そんな中、金髪の男子生徒が右手に持ったオレンジジュースと左手に持ったメロンパンをこの学校の売店をしきる中年くらいの女性に差し出していた。


もちろん金髪の男子生徒というのは拓也である。


この学校に金髪は彼しか存在しない。


「はいよ。460円ね。」


そういわれて拓也は500円を出し、おつりとして、40円とオレンジジュースとメロンパンを受け取った。


両手がふさがっているため、小銭を財布の中に入れるのに苦戦する拓也だったが、ようやくのことできちんと納めることが出来た。


いつもは弁当の拓也だったが、香に『弁当のおかずがない』といわれたため、今日は学校の売店で昼食を済ますことにしていたのだ。


オレンジジュースとメロンパンの入ったスーパーの袋のようなものを手に、拓也は機嫌がよく、いつもより表情が和らいでいた。


彼はこの二つの品が小さい頃から大好きだった。


理由はよくわからないが、久々に食すことにより、懐かしい味が味わえそうで心が自然と弾む。


そのせいか、いつの間にか教室にたどり着いていたことに、その場に着くまで気が付かなかった。


そしていつものように自分の席に腰掛け、メロンパンの袋を開け、雪降る外の景色を窓から眺めながら一口。


久しぶりに食べたそれは、果てしなくおいしかった。


愛莉を振ってからは、また前と同じように学校では一人で行動するようになった。


愛莉は拓也と会うのを気まずく思っているのだろうか。


しかし、こういう日はかえって一人のほうが落ち着く。


「ねぇねぇ。そういえばさ、もうすぐクリスマスだよね。」


ある一人の女子生徒が言う。


次々とメロンパンを自分の口に運ぶ拓也にも、そのような言葉が耳に流れ込んできた。


「そういえばそうだね。私今年は彼氏と過ごす予定だよ。」


「いいなぁ~。私は家の掃除かも。」


仲良さげに彼女たちは楽しく話していた。


(クリスマスか・・・・・・・・。)


彼女たちの考えに共感するように、拓也もクリスマスのことを考え出した。


メロンパンを運ぶ手が、いったん作業を中断する。


毎年拓也にとってクリスマスは大して華やかでもなく、楽しくもなんともなかった。


拓也の両親は共働きだ。


父は相変わらず仕事で何年も帰ってこないまま。


母である香もまた、クリスマスに仕事が入ることが多かった。


小さい頃からそんな環境におかれていた拓也は、ありさの面倒を見ながら一緒に家でじっとしていた。


唯一クリスマスっぽいといえば、仕事を終え、夜遅くに帰ってきた香が


手に持つ箱の中に入ったケーキを食べることだけだった。


(今年も同じか・・・・・・!?)


一瞬考え込んだ拓也はひらめいた。





________輝とクリスマスを過ごしたい。





そういったことが頭の中で浮かぶ。


しかし、輝のほうにもいろいろスケジュールが入っているかもしれない。


そう思うと悲しくなったけど、仕方が無いことだった。


拓也と輝が出会った頃は桜の散ったあとの春。


二人がであって冬を迎えるのは初めてのことだった。


(輝とすごしたいなぁ・・・・・・。)


拓也はそうやって何度も思いながら、またメロンパンを口に運ぶ。






















「へくちっ!」


暗い闇の中でくしゃみの音が響いた。


まだ6時だが冬なだけに、日は短く日没時間が早い。


相変わらず式の打ち合わせは続き、そのたび輝は拓也の帰りを待っていた。


風邪をひいているわけではないが、あまりの気温の冷え込みに、輝は思わずくしゃみをしてしまう。


首に少し長めのマフラーを巻いていても、やっぱり寒いものは寒かった。


「輝~!!」


寒がっているうちに、後ろから拓也の走る音と声が聞こえてきた。


「またせてごめんな。寒かっただろ?」


「ううん全然平気だよ。」


正直輝は寒かったが、いつものように笑顔をつくって、拓也を心配させないように振舞った。


拓也と輝が立ち止まる校門のすぐそばにはちょうどいい感じの街灯がひとつあった。


そのため、お互いの表情がよく見える。


そして拓也は、輝の頭や肩に積もった雪を振りはらってあげた。


「ありがとう。?・・・拓也?」


今度は何かをポケットから取り出し、自分の頬にそれを当てられた瞬間、暖かい感覚であふれかえった。


「待ってくれたお礼だよ。カイロ暖かいだろ?」


「うん。すごくあったかい。」


頬から感じるぬくもりは拓也が手に取ったカイロだった。


彼の手から直接頬にそれを当てられ、いろんな意味で体が暖かくなった。


少しほっとするかのように、拓也からカイロを受け取る輝だったが、


真冬の夜の冷え込みのせいで、体の振るえがまだおさまらなかった。


そんな震えている自分の体を、優しく包むように拓也が抱きしめた。


「大丈夫か?震えてるぜ?」


「心配させてごめんね。これぐらい大丈夫だよ。拓也の体・・・・・あったかいや。」


「よかった。それだったらずっとこのままでもいいけど?」


「うれしいけど、さすがにこの体勢は歩きづらいよ。」


まじめな応答をした輝に、拓也は少しきょとんとしてもう一度笑った。


「じゃぁこれならいいよな?」


そう一言言って、拓也は輝の腕に自分の腕を勢いよく回した。


なるべく二人の距離を縮めるように、そっと自分から寄り添う。


「な、なんか俺嬉しくて、逆に恥ずかしくなってきたっていうかその・・・・。」


「輝はほんとに隠すのがへたくそだな。ほんとは照れてるんだろ?」


「い、言うなよ。」


そう言って輝は拓也を背けるように照れて赤面した顔を出来る限り隠した。


しかし、赤面は隠しきれていなかった。


だって頬はもちろん、耳まで赤くしてるのだから。


(輝、やっぱり可愛い。この世のどんな女よりも、俺にとって輝は最高に可愛い恋人だ。)


照れくさくていえない拓也は、心の中で静かにそうつぶやいた。


「と、とりあえず進もうよ。どんどん帰りおそくなっちゃうよ。」


「そうだね。」


笑顔で拓也は輝をリードした。


足を前に出して踏み出せば、雪の音が聞こえてくる。


口を開いて話をすれば、笑顔で返事が返ってくる。


目が合えば顔が赤くなり、照れて目をそらしあう。


以前との接し方に、これといって変わらない。


しかし、二人のキズナは前よりもずっと深くなったように感じられた。


「なぁ輝。もうすぐクリスマスだろ?その日予定とか入ってる?」


「そういえばそうだったね。すっかり忘れてた。特に予定は無かったと思うけど。拓也は?」


「俺もこれといって予定は無いよ。だからさ、その・・・・。今年のクリスマスは二人で過ごさないか?」


拓也は少し照れながらそういった。


「うん、いいよ。」


笑顔の輝は拓也の提案にあっさりと乗った。


「やったー。俺スゲー嬉しい。」


あまりの嬉しさに、拓也は跳んで喜んだ。


「ははっ。大げさだよ。」


そんな彼に輝もまた、嬉しそうに微笑んだ。


(今年のクリスマス、スゲー楽しみ。何しようかなぁ・・・・・。)


アレもこれも輝としたいことが頭の中で次々と連想される。


この勢いでは、おそらくあっという間に時間が経過してしまいそうだった。


「じゃぁ俺こっちだから。」


拓也が浮かれているうちに、二人の分かれ道がやってきていた。


「もう着いちまったのか。うん、暗いから気をつけろよ。」


「わかってるよ。じゃあね。」


手を振りながらそういった輝は、拓也の向かう方向とは違う方向の道へと歩いていった。


今日はひとまず会えなくなることを惜しんだ拓也だったが、


クリスマスのことですぐに笑顔になり、その後も彼の笑顔は耐えなかった。












*****










「なんか最近の兄ちゃん気持ち悪い。」


「はぁっ!?」


いきなり眉間にしわがよるようなことを言われた拓也は、唐突なことを言うありさに目をやった。


家に帰り、鞄を床に放り投げ、学ランをも脱ぎ捨てようとしたときの出来事だった。


「気持ち悪いってなんだよ。お前喧嘩売ってんのか?」


不機嫌になった拓也が言う。


「だって最近やけににやにやしてるんだもん。普通の人から見たら変だよ。」


「別ににやにやなんかしてねぇよ。」


「嘘ばっかり。」


「うるせぇ。」


ふてくされてそっぽをむく拓也に、ありさはおかしく笑った。


「やっぱり笑ってる兄ちゃんがいいや。心配しなくてすむから。」


「・・・・ありさ?」


先ほどよりも穏やかな表情をするありさに、拓也は少しだけおどけてしまった。


「輝先輩と上手くいったみたいだね。」


「っ!?なんでわかるんだよ!?」


「見てたらわかるわよ。」


「・・・・・・・。」


何を聞いても、何を言っても決して間があかないありさは手ごわかった。


「もしかして、俺って結構わかりやすい?」


「もしかしてじゃなくてかなりの間違えだよ。」


ありさの返事を聞いて、拓也は少し自分のことについて考え込んでしまう。


「で?進展は何かあったの?」


「べ、別に・・・・・・。」


「おめでとう。」


「・・・・・お前、エスパーか。」


「全然笑えないよ。」


何もかもお見通しのありさに、拓也はかえってあきれてしまう。


ありさのほうも、拓也の下手なボケっぷりにあきれてしまう。


顔がほのかに赤くなった拓也の顔をみて、ありさは即座に読み取ったのだ。


「なんて言って告ったの?」


「いえるわけねぇだろ。」


「そういうと思った。」


ありさは静かに息を吐いて、うっすら微笑んだ。


「輝先輩、外見はかっこいいのに中身は可愛いんだよね。」


「それは俺もすげー共感できる。」


「だよね。」


兄妹でこんな会話をするのを何となく照れくさく思う拓也だったが、実際にありさには何度か助けてもらうことが多々あった。


そのため、ああは言っても拓也はありさを嫌いにはなれないでいる。


「・・・・・ありがと・・・・な。」


「ん?なんか言った?」


「・・・・なんでもない。」


「?」


言うのが照れくさくて、小声になってしまった拓也のお礼を、ありさは聞き取れなかった。


「あたし、兄ちゃんの相手は輝先輩でいて欲しい。同じように、輝先輩の相手は兄ちゃんでいてほしいよ。」


「ありさ・・・・・・。」


「なにかあったら相談に乗るよ。でも輝先輩を困らせたらお腹に蹴りいれるから。」


「困らせねぇよ。もう二度とな。」


「絶対だよ?」


「拓也ー!ありさー!ちょっと今日は晩御飯作れそうにないの!だから今日は外食にしましょ!出かけるからおいで!」


そうもこうもしていた時、一階から香の声がした。


「わ~い!久しぶりの外食だ~!今行くよ~!」


そう言ってありさは嬉しそうに階段を下りて彼女のもとに行く。


一方拓也も珍しく外食かと思いながら階段をゆっくり下りた。










*****










「ココの料理ほんとにおいしかった~。」


外食を済ませ、御腹いっぱいになったありさは、車の中で幸せの声を上げた。


そんな彼女の隣に座っている拓也は、車窓から外の景色を見ていた。


クリスマスも近いことから、店には綺麗な明かりが灯り、民家にも飾りつけがされている。


冬の夜にはもってこいの光景だ。


これとなく外を眺める拓也だが、ある一点に目を奪われた。


「なぁみんな。あんなところにあんな店あったか?」


拓也の視線の先には一際目立つ店がひとつ建っていた。


目立つといってもそんなに大きな店ではないのだが。


「どうだろう・・・・・でも前にここを通ったときはなかった気がする。」


「だよな?」


ありさの意見に拓也も同意した。


「ほんとだわ。綺麗な店ね。ちょっとよってみようかしら。」


運転席にいる香もその店に興味を持つ。


「せっかくだし行ってみようよ。」


「そうね。」


「だな。」


どうやらありさの意見に反対するものは、この場に一人もいないようだ。


みんなの意見が一致したところで、香は一度方向転換をして、その店へ向かった。


そして駐車場に車を止め、3人が車から降りる。


遠くから見ても綺麗だったが、間近で見ると感動するほどまでに綺麗な店だ。


香を先頭に、店のドアを押して入る。


ドアを押したときには、上についていたベルがリンッと可愛らしい音を立てた。


「いらっしゃいませ。」


3人が入るとともに、数人の女性店員が笑顔で迎えてくれた。


「すごい・・・・・。」


ありさがぽかーんとした表情で言う。


店の中はすごくオシャレになっていた。


拓也もまた同じように見惚れてしまい、店内を一通り見渡す。


「すごいイイ感じの店ですね。」


誰とでも気軽にすぐ声をかけるありさは、自分の位置から一番近い場所に居る店員に話しかけた。


「ありがとございます。当店は、クリスマスまで限定で開店しております。」


通りで見覚えの無い店であることが解釈できた。


あたり一面に綺麗なものばかりの品が置かれている。むしろまるで、商品ではなく宝石の山のよう。


「この指輪可愛いっ!」


自分の気に入る品を見つけたありさは、即座にそれを手に取り、レジのほうへと向かった。


彼女が手に取ったゴールド色の指輪には、リングの部分と同じ素材で作られたリボンに淡いピンクの石が埋め込まれていた。


一方で拓也は、一通り商品に目を通していた。


そんな中、拓也にも足を止められた商品があった。


それは片手に収まるくらいのオルゴール。


(オルゴールなんかも売ってるんだ・・・・・。)


そんなことを考えながら拓也はオルゴールを手に取り、ねじを巻いてみると、優しく綺麗な音が流れた。


思わず拓也はその音色の魅力にはまり、聞き入ってしまう。


「今オルゴールすごく売れてますよ。」


聞き入っている拓也の横から、一人の店員が声をかけてきた。


この店の一押しというところだろうか。


どうやら売れているのには間違いないようだった。


そこにオルゴールは一個しか残っていない。


「最後のおひとつになっておりますが、どうですか?」


「このオルゴールいいですね。買います。プレゼント用でお願いします。」


「プレゼント用ですね。かしこまりました。包装が出来ましたらお呼びいたしますので、もうしわけございませんが、少々お待ちください。」


愛想の良い店員はそういうと、そっと彼の手にあったオルゴールを受け取り、レジのほうへ行ってしまった。


拓也も、彼女の言われたとおり、他の売り物を眺めるなり、おとなしく待つことにした。


「あ、兄ちゃんも買ったんだ!何買ったの?」


「内緒。」


「えーなんでさー。」


「お待ちのお客様!」


ありさと言い合っているうちに、レジのほうから包装されたプレゼントの箱を手に持つ先ほどの店員が拓也を呼んだ。


「はーい。今行きます。」


そう言って拓也はありさをよそにレジのほうへ向かった。


「4200円になります。」


オルゴールなだけに、少々高値である。


店員の言葉にしたがい、拓也は5000円を差し出した。


「おつりの800円です。お買い上げ有難うございました。」


拓也に商品とおつりを手渡しし、店員はそういいながら笑顔でお辞儀をした。


「わー兄ちゃんそんなに高いの買ったんだ。ますます気になる。」


「いいからいいから。」


必死に探ろうとするありさをかわす拓也。


「もうそろそろ遅いし帰るわよ。」


『はーい。』


仕切るかのように香がそういうと、拓也とありさは二人そろって返事をした。


そしてもう一度店のドアを開けると、ベルが同じようにリンッと可愛らしい音をたて、


何人かの店員の『有難うございました。』と言う声がした。


「期間限定だなんてちょっと残念。とっても可愛い店なのに。ね、兄ちゃん。」


「ん?ああそうだな。」


なぜ男である自分に話をふるのかと少し思ったが、拓也も同感に思い、彼女に笑顔を見せた。
























「あーもう眠れない!」


目を閉じても寝付けない彼女は、思い切って布団を掻き揚げ、体を勢いよくおこした。


髪を片手でくしゃくしゃとかき混ぜ、いったん自分を落ち着かせる。


もう一度目を閉じて眠りに入ろうとしたが、やっぱりそれも無駄だった。


拓也によく似た彼女は諦め、いったん起きることにした。


寝たいのに眠れない少女はありさだった。


彼女はなにかと寝つきが悪いらしい。


いらだっているせいか、せっかくの可愛らしい顔が引きつっていた。


(あーヒマだわ・・・・・・・・あ!!)


寝癖のついた髪形で、ありさは何か思いついた。


そしてベットをおり、自分の部屋を出て廊下を歩く。


拓也の部屋のドアの前になると、彼女はいったん行動を停止する。


(おどかしてやろーっと。)


少しだけ悪い笑みを浮かべるありさは意外といたずら好き。


いじってて飽きない拓也をからかうのがツボだったりする。


拓也を起こさないように、ありさはそっとドアをあけ、忍び足で侵入していく。


笑いが出そうになるのを必死で抑えて、彼に接近する。


拓也はいつも、近くにおいてある小さな電球のついたランプをつけたまま寝るため、寝顔がはっきりと見えてしまっていた。


そんな彼に、いたずらをしようとするありさは手をのばす。


しかしその手は彼に触れる前に止まってしまう。


(なんて幸せそうな顔してるのよ・・・・・・。)


拓也は幸せな顔をして寝ていた。


穏やかで、まるでいい夢でも見ているようで。


「輝・・・・・・。」


「・・・・・・・兄ちゃん・・・・。」


拓也の寝言にありさは反応してしまう。


彼は寝言で輝の名を呼んだ。きっと二人で夢の中楽しそうにしているのだろう。


そんな彼の幸せそうな眠りに、ありさは手を出せなくなってしまった。


「ほんとに・・・・よかったね兄ちゃん。今一番幸せなんだね・・・・・。」


ありさは穏やかな表情をしてそう言うと、静かに退却した。


(次こんな機会があったら油性のマジックで顔に落書きしよっと。)














*****













拓也は朝っぱらから不愉快な表情をしていた。


「ありえねー今日が学校だなんてぜってぇありえねー。」


「まぁ確かになぁ。でもしょうがないよ。」


今日は待ちに待ったクリスマスの日だった。


しかし、今日は残念ながら平日で学校のある日でもあった。


拓也にとって特別な日であるというのに、学校があるせいで不愉快な顔をしているのだ。


そんな彼を元気づけるかのように、隣で輝が話の相手をする。


「今日まるまる学校ってワケじゃないんだし、学校が終われば今日一緒にすごせるんだから、俺はそれだけで幸せだよ。」


昔と変わらず大人の意見をいう輝に、拓也は一瞬だけおどけてしまう。


でも嬉しかった。


『それだけで幸せだよ。』


そんな言葉に拓也は同感を覚え、嬉しくて少し目をそらしてしまった。


「お、俺としては、一日中輝といたかった。」


すこし照れて言う拓也の頬はほのかに染まっていく。


「拓也・・・・・・。」


そう拓也の名前を呼ぶと、輝は目を閉じてゆっくりと拓也の右肩に自分の顔をうずくめた。


「輝!?」


「よかった、ほんとによかった。拓也が自分の目の前にいると思うと。すごく嬉しいんだ。」


輝の言葉にますます嬉しくなる拓也は、赤い頬で天を仰いだ。


(あ~~~もう可愛いこと言うなよ。俺、もうもたねぇんだってば。)


かすかに自分の頬に触れる輝の頬は冷たかった。


「今日の輝の体温、少し冷たいや。寒いのか?」


「ん?あ、うん少しだけ。だからだいじょう___!?」


言っている最中に、自分の後頭部に拓也の手が回り、自分の頬と彼の頬が重ねられる。


「だったら俺の体温やるよ。ほら、あったかいだろ?」


「う、うん。」


「あ、輝のほっぺた急に暑くなった。もしかして照れてる?」


「ちっちがうよ!」


「またまたごまかしちゃってさ。」


そう言って拓也は輝の頬に手をあて、そのまま彼の顔を自分の目の前に持っていった。


「俺、輝の表情好きなんだよ。」


「・・・・どんな表情?」


「そうだなぁーあ!そうそう、こんなエロイ表情。」


「してねぇよ!!」


「あ、輝が怒った!」


「っ!?ごめん・・・・・怒ってなんかないよ。」


「冗談だって。そうやってまじめに謝る輝、可愛いや。」


「だから可愛くないってば。てか可愛い言うな。は、恥ずかしいから!」


「か!わ!い!い!」


そうやって一文字ずつ強調して拓也が言うと、さらに恥ずかしくなって頬を染める輝。


あまりもの恥ずかしさに自分の手で顔を隠そうとするが、拓也が無理やりその手をのけようとしてくる。


こんな風に何気なくじゃれあって。


賞もないことで照れて、笑って。


こんな幸せな日々が永遠であって欲しい。


二人はずっとそう思い続けた。







自分の中の一番は貴方。そして貴方の中の一番が自分でありますように___。
















*****













地面には相変わらず白い雪が積もり、空からは綿のような雪が優しく降り注いでいた。


(今日はどうやって過ごそうかな・・・・・。)


そんな中、輝はぽわーんと浮かれて上の空でいつものように拓也をまっていた。


楽しいことを考えると、ついついにやにやしてしまう。


さすがに一人でにやにやしているのは変人に思われそうだが、嬉しさのあまり抑えきれないでいる。


そんなときだった。


「輝!」


「うわっ!!」


勢いのいい声で自分の名を呼ばれた上、勢いよく飛びつかれたため、上の空だった輝は驚いて声を上げてしまった。


「ごめんおどろかせちゃったか?」


「驚くも何も今日はやけに終わるの早くないか?」


「ああ。今日は脱走してきたからな。」


「おいおい大丈夫か?俺のためにわざわざごめんな。」


「謝らなくてもいいよ。俺にとって式なんかより何倍も輝のほうが大切なんだから。」


「あ、ありがとう。」


「それにしても、なんでさっきあんなにニヤニヤしてたんだ?」


「!?えっと・・・・そんな変な意味じゃなくて・・・・。」


「わかってるって。」


わかったつもりで拓也は笑顔を見せる。


そして彼の手を勢いよくつかんで彼をリードし始めた。


「ちょ、ちょっとまって拓也。」


「まてないよ~。早くしないと時間なくなっちまうぞ?」


「ははっそれもそうだね。」


遅れをとりそうになった輝だったが、気にせず嬉しそうに微笑む。


お互いの手を握り締め、二人で過ごす初めてのクリスマスの夜の幕開けとなった。













*****











「ちょっとまって!お、俺はいいから!」


「いいから気にしない気にしない。」


気軽な拓也は抵抗する輝の腕をつかんでぐいぐいと彼を引きずり込む。


「俺写真写り悪いからいいってば。」


腕を引っ張られる輝は必死で抵抗するが、どんどん体は引きずり込まれていった。


「俺だけ撮っても意味ねぇだろ。ほらはやく!」


「うわぁっ!」


とうとう輝は拓也の思うがままに引きずり込まれてしまった。


引きずり込まれたとたんに、アタリが明るくなった。


女の子が聴きそうなコミカルな音楽が耳に入り込む。


「恥ずかしいのか?」


「恥ずかしいも何も・・・・・プリクラだぞ?」


そう、輝が引きずり込まれた場所はプリクラ機の中だった。


プリクラ機といえば、女の子が遊ぶときによく撮るものだ。


「最近の男子でも結構プリクラ撮ってる奴いるんだぜ?」


「それは知ってるけどさ・・・・・。」


「だったら撮ろうよ。」


そう言って拓也は財布から400円を取り出し、お金を入れた。


「た、拓也お金。」


「いいよいいよ。俺が無理やり連れてきたんだしさ。俺のおごりでイイ。」


「拓也・・・・。なんかごめんな。」


「謝るなって。ほら、撮影始まるぞ!笑って笑って!」


撮影のカウントがギリギリというところで拓也はポーズをとる。


そんな彼の様子をみて、輝も慌てて彼に合わせるようにポーズをとる。



カシャッ



シャッターの下りる音がする。


「嘘つけー。やっぱり輝、写真写りいいじゃんか。かっこよく撮れてる。」


「そ、そんなことないよ。」


そう言っておどける輝はつい慌ててしまい、自分の足に片方の足を引っ掛けてしまい、こける体勢に入ってしまった。


「輝?って!?」


自分のほうにつまずいて倒れてくる輝に拓也は驚くが、すぐに状況を理解して今とるべき体勢をとった。


そのままこけてしまわないように、拓也は彼の体を支える。


そしてそのタイミングでもう一度シャッターが下りる。


「ご、ごめん拓也。・・・・・拓也?」


恐る恐る輝が見上げたそこには、頬を赤く染めた拓也がモニターを見ていた。


不思議に思った輝もモニターに目をやると、輝も同じように頬を染めた。


二人のみるモニターには、こけた勢いで拓也に抱きついた輝の姿があった。


なんと言うミラクルショット。



















「さっきはびっくりしたよ。いきなり輝が倒れてくるとは思わなかった。」


「ごめんごめん。俺アホだからさ。」


「アホっつーか天然だよな、お前。」


「そ、そうか?」


さっきのミラクルショットに照れを隠しながら、二人はゲームセンターをでて、夜の町を歩いていた。


町といってもさほど都会ではない。


しかし、それなりに町は飾り付けられていて綺麗だった。


そんな中、拓也はきょろきょろとどこかを見渡していた。


「あ!あったあった!」


拓也は何かを見つけたかのように向こうを指差した。


そこには少し大きめのケーキ屋があった。


「せっかくだしケーキ買って食べようぜ。」


「ケーキかぁ。いいね。」


拓也の意見に輝も賛成して、向こう側にあるケーキ屋を目指した。


「わーおいしそうだな。」


「俺チョコレートケーキ好きなんだよなー。でもチーズケーキもいいな。」


甘いものが大好きな拓也の目は輝いていた。


よりどりみどりの綺麗なケーキにもう虚ろだ。


「ははっ。あせらなくてもケーキは逃げないよ。」


「あっ笑ったなぁ!?」


少し控えめに笑った輝に、拓也は少し赤くなって彼の頬をつねる。


「ごめんごめん。お金はどうする?自分で出していい?」


「あぁ。別代金でそれそれ買おうぜ。」


そういうと拓也は瞬く間に自分の好むケーキを注文し、代金をだしてケーキを受け取った。


「なぁ輝。今夜は俺んちですごさないか?」


「あ、うん。いいよ。」


そう言った輝の表情には、あの頃と変わらない優しい笑顔と、それとは裏腹にどこか心の中で悲しむ笑顔があった。












拓也の家につくと、香とありさが笑顔で迎え入れてくれた。


今年は異例で、香の仕事が休みになったため、テーブルの上にはいつもより多いご馳走がならんでいた。


拓也と輝にはケーキがあったが、胃袋の大きい拓也はそれに飛びつく。


輝も作ってくれた香に悪いと思い、一緒に食事をとることにした。


いつも以上のご馳走にありさもまた、拓也と同じく目が輝いていた。


同じ料理に目をつけた時には、拓也とありさの激しい取り合いが巻き起こったが、そのほとんどはありさの勝利となった。


そんな彼らをそばで見ていた輝には、自然な笑顔に満ち溢れていた。


食事をするその場の者は皆、笑顔でいっぱいになっていた。



















「お腹いっぱいだー。」


食事を済ませ、拓也の部屋に移動した輝はそういった。


「そうか?俺はまだまだいけるからケーキ食べるけど。」


輝とは裏腹に、大食いの拓也はケーキを手に取り、ゆっくり食する。


そうしてもくもくと食べていると、拓也の口元に暖かい何かがそっと触れた。


「ほっぺにクリームついてるよ。」


優しく言う輝は、彼の口元からチョコレートクリームを指先でふき取り、そのままなめた。


そんな彼の行動に拓也の頬が赤くなる。


「あ、ありがとう。」


「どういたしまして。」


輝は微笑んで言った。


「輝?どうした?もしかして具合でも悪いのか?」


拓也は進む手をとめ、そう伺った。


微笑む輝にそう言うのは普通おかしいのかもしれない。


しかし、拓也にはわかっていた。


出会ったあの時と同じ笑顔を輝はしていた。


あの、どこかで悲しむようなそんな笑顔を。


「そうじゃないんだ・・・・・ただ、もうこんな幸せなひと時なんてこないと思ってたから。」


「輝・・・・・・。」


輝の言う言葉の意味を拓也はすぐに理解した。


きっと愛莉と自分がずっと一緒にいたときのことを言っているのであろう。


「本当に、拓也の恋人は俺でいいのか?俺は拓也の恋人でいていいのか?」


「当たり前だ。」


拓也は即答した。


そしてそのまま強く輝を抱きしめた。


「ごめん、本当にごめん。今でもあのときのこと、すごく悪いことしたと思ってるし、すごく反省してる。輝が許してくれないなら何度でも謝る。」


「拓也・・・・・・。もういいんだよ拓也・・・・・・。」


「俺には輝しかいないんだ。お前しか愛せないんだ。この世でお前は最高の俺の恋人だ。だから、もうそんな苦しそうな顔をしないで・・・・・。」


辛くて心が痛む拓也は輝にそういった。


「ありがとう・・・・・・俺、安心していいんだよね?拓也の恋人でいていいんだよね?」


「あぁ。当然だよ。」


そういうと拓也は、いったん輝を落ち着かせて彼から手を離し、何かの箱を取り出した。


その箱は綺麗にプレゼント用として包装されている。


「これ、気に入ってもらえるかわからないけど、俺からのクリスマスプレゼント。」


「え、俺に?」


自分を指差して言う輝に、拓也はそっとうなずいた。


「開けてみて。」


そう言われてなんだろうと不思議に思いながらそれを受け取り、輝は丁寧にその箱を開けた。


「!!」


輝は箱を開けた瞬間驚いた。クリスタルのような素材のそれは、とても綺麗。


それは何処からどう見てもオルゴールだった。


そう、あの時拓也が聴き惚れて買ったオルゴールである。


すべてはこの日の輝へのプレゼントのためだったのだ。


オルゴールを開ければ、綺麗で落ち着くメローディーが流れこんできた。


「すげー綺麗!いいのか!?俺のためにこんな高そうなオルゴール。」


「あぁ。気に入ってもらえると嬉しいな。」


「気に入るもなにも・・・・・最高すぎるよ。・・・・・・・やばぃ・・・涙・・・でてきそぅ・・・・・・。」


輝は言葉を詰まらせ、あまりの嬉しさに泣き出してしまった。


拓也はそんな彼を、もう一度今度は優しく包み込むように抱きしめた。


「大好きだよ。本当に愛してる。輝とこうやってすごせるだけで俺は幸せだ。今夜は最高のクリスマスにしよう。」


「うん。俺も本当に拓也のこと愛してる。ありがとう、本当に有難う。」


輝は嬉しくてたまらなく涙を流し、静かに拓也の胸の中で泣いた。


拓也もそんな彼を見守るかのように、そっと目を閉じる。


強く愛されていることを互いに感じあった。
















僕と君が出会ったのはきっと偶然じゃないよね?


どんなにちっぽけなことでも、僕はとても幸せです。


君がそばにいてくれるだけで幸せです。












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