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第12章  ~大好きな君へ~

苦しむばかりの状況の中で、拓也はついに決心した。本当の気持ちを輝に伝える。本当に愛してるのは輝だけだということを。

僕が本当に必要としているのは君だけです。


君以外他に何もいらない。


君が居ない生活も、世界もいらない。







もう一度、君と一緒に生きていきたい。


君の笑顔、君のぬくもりをもう一度。










-君の笑顔も泣き顔も- 第12章 ~大好きな君へ~










『ずっと前から好きだったの。』


あまりにも突然すぎる愛莉の告白。


あまりにも突然現れた輝。


度重なる偶然が悪い空気を作り上げた。


そんな状況に輝は晴れない表情を浮かべていた。


彼は今日も同じように知らないうちに拓也の通う学校のほうへ向かっていた。


時間のずれのせいであろう。偶然的に出くわしてしまったのだ。


輝は彼らに会うなんて予想もしてなかったし、ましてや会いに行けやしなかった。


告白現場に足を踏み入れてしまうなど、考えてもみなかった。


「あんた・・・・ずっと聞いてたの?」


複雑な気持ちでいる輝に、鋭い目つきをする愛莉は、輝に眼を飛ばして言った。


「ご、ごめん。悪気は無かったんだ。」


「勝手に人の告白盗み聞きするなんてっ!」


本当に輝に悪気はない。


偶然会っただけ、偶然耳にしてしまっただけ。


それなのに愛莉は輝の話をまともに受け入れず、暴言を吐いた。


「ほんとにごめん。」


悲しげな表情を浮かべる輝はもう一度謝った。


「なんでも謝ればすむってもんじゃないわよ!人の告白盗み聞きするなんて最低よ!ずっと前からあんたのこと嫌いだった!」


愛莉の暴言に輝の目は点になる。


「あんたなんか大嫌い!最低な人間だわ!」


『大嫌い』『最低な人間』


輝はその言葉をきいて心を痛めた。心がばらばらに張り裂けそうになった。


初めての告白を嫌いな相手に邪魔された愛莉は腹を立てる。


そして愛莉は、決して輝に言ってはいけないことを口にしてしまった。


「あんたみたいな最低な人間死んじゃえばいいのに・・・・。」


「?!」


「死んじゃえ!アンタみたいな最低な人間なんて死んじゃえ!」


「篠田!お前なんてこと言うんだ!!」


大きな声で愛莉は輝に向かって怒鳴り上げた。


彼女の言葉に反応した拓也は、それ以上言わせないように止めに入った。


輝が病持ちだなんて彼自身と拓也しかしらない。


当然それを知らない愛莉は、平気で絶対に口にしてはいけないことを言ってしまった。


この言葉にどれだけ輝が傷ついたか。


そう想うだけで拓也は心が張り裂けそうだった。


一方、愛莉の言葉を聞いた輝は歯を食いしばっていた。


全身が震えだそうとする。


本当にショックだった。


当然だ。自分の存在を全否定されたのだから。


苦しくて、たまらなく辛い。


生きていたい輝にとって、愛莉の言葉は刃物と同じものだった。


輝の心はぼろぼろに砕け散った。耐え切れず、輝はその場を走って立ち去る。


「輝!!」


拓也は輝を呼び止める。


しかし、彼は振り向きもせずそのまま走っていった。


「篠田!言っていいことと悪いことがあるだろ!!」


「だって・・・・!拓也は愛莉の見方だよね?!」


泣きそうな顔で言う愛莉は本当に自分が悪いと思いもしない。


「私、何にも悪いことしてないよ!悪いのは全部あの人だよ!」


「ふざけるなっ!!!」


悪意をこれっぽっちも感じない愛莉に拓也は怒鳴った。


初めて怒鳴られた愛莉はおどろいて体をびくつかせる。


「お前が言った言葉が、どれだけ輝を傷つけたかわかってんのか!!」


「そんなこと知らないわよ!」


「お前にはわかんねぇだろうな!自分のことしか考えてないお前にはな!」


はっきり言われた愛莉は傷ついた。好きな人にココまで言われたら誰でも傷つく。


「輝の気持ちもう少し考えろよ!お前は知らないだろうけど、あいつは自分の幸せなんてこれっぽちも考えやしないんだ!


いつも自分の幸せは後回で、一番に願うのは他人の幸せ!


他人の幸せのためだったら、どんなに苦しんだって自分は幸せだって言うんだ!


今だってそうだ!あいつは自分から距離を置いたんだ!俺たちがもっと仲良くなるように!お前の幸せをも想って!」


拓也は歯を食いしばって強く言った。愛莉は騒然とする。


「・・・・え?輝は私のことも思って?」


「あぁ。」


「そんな・・・・・・。」


拓也の話を聞いた愛莉は、自分が犯した罪を知った。


今までにどれだけ輝に対してひどいことをしてきたのか。ここにきてようやく理解した。


「俺の心の内にある傷を一番にわかってくれたのは輝なんだ。いつだって助けてくれたのは輝なんだ。俺に人の温かさを教えてくれた輝に、俺は本気でマジ惚れしてんだよ。」


愛莉は自分のおろかさに涙した。


「お前がそんな人だったなんて・・・・残念だ・・・・・。」


拓也はそういい残し、輝の走って言った方向へ自分も向かう。


(私バカだ・・・・・本当にバカだ・・・・・。)


彼の背を追って愛莉は一人で泣いた。悔しかった。輝に負けて悔しかった。


だけど、本当の自分に気づかされた。今なら輝に惚れた拓也の気持ちがわかるような気がした。


愛莉はその場で立ち尽くしてしまった。












*****










冷たい雪の上を、一人で拓也は走っていた。


息を荒く切らして、止まることなく輝を追う。


一向に走っても走っても、彼の背中を見つけることが出来ない。


そして彼の住む病院へ差し掛かったときだった。


見つけることの出来なかった彼の背中を見つけることが出来たのだ。


彼の背中は、彼自身の悲痛の気持ちを物語っていた。


「ひ、輝!!」


名を呼ぶ拓也。


しかし、当然のように彼の返事はない。


輝は振り向きもせず、そのまま病院へ向かおうとする。


話を聞いてもらえず心を痛めた拓也は、恐る恐る輝の元へ駆け寄り、彼の腕をつかんだ。


そしてもう一度名を呼ぼうとした瞬間、輝が勢いよく手を振りはらった。


「ひか・・・・る。」


拓也は悲しみながらそう言う。


輝は足をその場で止め、下を向いて振り向かずにうつろいだ。


拓也はそんな彼の顔を見なくても、彼がどんな表情をしているかわかった。


ずっと我慢していたそれは、もうあふれかえってしまった。


耳まで真っ赤にした輝は、歯を食いしばってぼろぼろと涙をこぼし、肩をひくひくと上げていた。


当然だろう。あんなに言われたんだ。


彼にとってあの言葉は、本気で彼を苦しめ、傷つけ、悲しませ、追いつめるものに過ぎなかった。


「帰って・・・。」


弱弱しい声で発せられたその言葉は、拓也の表情を一瞬でこわばらせた。


「帰らない・・・・。」


拓也は決して後身を引かない。


「帰ってよ。」


「嫌だ。」


「帰れ!」


輝は一身で拓也に怒鳴った。怒鳴られた拓也も泣きそうになる。


固まってしまった拓也を置いて、輝はそのまま病院へ入って行った。


「輝。好きだよ、大好きだよ。本当に、大好きだよ。」


涙を流す拓也の小さな声も、大きな想いも、輝には届かなかった。


もう二度と、輝は自分を見てくれないだろう。


もう二度と、輝は自分に微笑んでくれやしないだろう、もう自分の頭をなでてくれないだろう。


暖かい言葉も、励ましの言葉も、全部全部、もう二度とあるわけがない。


そう思うとたまらなく涙は止まることなく流れ、声を上げてしまいそうになってしまう。


苦しい、辛い。でもその苦しみや辛さは全部自分が起こしたこと。


一番大切な人を傷つけ、また自分勝手なことを繰り返し起こす。


そんな自分にさよならしたくても出来なくて。


全部自分が悪い。そうやって何度も何度も自分を攻め立て、罪を報おうにも報えなくて。


自分があの場所で輝に出会わなければ、こんなにも彼を泣かせなかっただろう。


こんなにも彼を傷つけなかっただろう。悲しみを背負うのは自分ひとりだけでよかったのに。


自分と言う存在があるから、他人をたくさん傷つけるんだ。そう拓也は思った。


しかし、輝をこのままにしておけない。


もう一度輝と笑いあいたい。


もう一度輝のそばにいたい。


拓也は降り積もる雪の上で、辺りが暗くなってもずっとそこで立ち尽くしていた。















*****














いつもの生徒会室で、今日も毎日のように生徒会と、代表生徒で行われる式の準備があった。


そして拓也と愛莉もまた、その場所にいた。


しかしあの一件で、二人は固く口を閉ざしていた。


何も一言もしゃべらずに、ただ手だけを動かす。


「・・・・拓也。」


静かな二人の間で一番に声をかけたのは愛莉のほうだった。


拓也は驚いて彼女を見る。


「本当にごめんなさい。私すごく反省した。今まで本当にあの人にひどいことしてきたこと、ちゃんと自覚したよ。」


「篠田・・・・。」


今にも泣き出しそうな愛莉は今の自分を拓也に伝える。


「俺は根っからお前が悪い奴だとは思ってない。」


「え?」


「確かにお前の言ったことは本当に間違ってる。


でもお前は反省した。本当に悪い奴なら反省もしないし、これっぽっちも悪意を感じないだろ。」


そんな彼の言葉に愛莉は救われるかのように、泣き出しそうになるのを我慢した。


小声で話す彼らの声は周りには聞こえはしない。


「拓也・・・・・有難う。私本当に間違ってたと思う。」


そう言った愛莉の表情は、どこか前よりも穏やかな表情だった。


そして今の愛莉にはわかっていた。


自分が失恋したのだということを。


直接的ではないが、自分でも予想がついた。


愛莉は反省した。拓也もまた、完全ではないが愛莉を許した。


同じ役員になった以上、ギクシャクした関係のままでやるわけにはいかないだろう。





















「由紀ちゃん、話があるの・・・。」


「どうしたの?」


いつも拓也と帰っていた愛莉が、久々に一緒に帰ろうと言い出したときのことだった。


「私ね・・・・私ね・・・・・。」


「愛莉?」


苦しそうな表情で愛莉が言うため、由紀は思わず心配して伺う。


「拓也に・・・・振られちゃったよっ・・っ。」


言葉をとぎらせて言う愛莉は、感情が高ぶってしまい、泣き出した。


そしてそのまま由紀のほうへと飛びつく。


「どうして?!私はてっきり上手くいってたと思って・・・・・。」


「しょうがないの、仕方がないの。拓也にはもう大切な人がいるの。」


「愛莉・・・・・・。」


愛莉は由紀の胸の中で命いっぱい泣き叫んだ。


どうフォローしてよいかわからない由紀は、そのまま優しく彼女を包み込む。


愛莉も輝と同じように拓也が好きだった。


本当に大好きだった。


振られたからといってすぐに想いが消滅するわけでもない。


輝に叶わないと思っても、やっぱり拓也を好きであることに代わりはないのだ。














*****














「ごちそうさま。」


まだ夕飯の残るお皿。かすれたような声で輝が言った。


「また残してる。なにかあったの?ずっとこの調子じゃない・・・・。」


「本当になんでもないんです。気にしないでください。」


心配して言う原田看護師に、輝は笑顔を見せた。


本当は顔を上げているだけで辛くなるほどだった。


だけど、周りの人たちに気を使わせたくないのだ。


そして輝はもう一度だけ笑顔を見せ、その場を後にした。


自分の部屋に到着すると、カーテンを開けて窓越しで外を眺める。


そこには、今日も同じ景色が窓の外で広がっていた。


暗い空からはかない雪が降りつもる。


地面はあたり一面白一色に染まった。


そんな地面の上で今日もまた、同じように青少年が一人で立っていた。


金髪の髪や体には、雪が降り積もっていた。


青少年の姿を見た瞬間、輝は目が合ってしまう前にカーテンを即座に閉め、腰を落としてしまう。


(なんで?・・・・拓也・・・・・・なんで?)


そこに立ち尽くしているのは拓也以外の誰でもなかった。


苦痛な表情で言う輝は、部屋の壁に顔を押し付け涙した。


どうしてこんな寒い中、ずっとそこに立ち尽くしているのかわからない。


ずっとそうだった。


あの日から、ずっと拓也はあの場所にいる。


こんなにも近くに居るのに、こんなにも会いたいのに、そんなささえな願いさえも、叶えてはならなくて。


辛くて辛くて、毎晩枕をぬらして泣いていた。毎朝涙を流して目を覚ましていた。


今だってそうだ、ただこうやって泣くことしかできない。


そんなときだった。





___チャラン♪





いつぶりだろうか。懐かしいケータイの着信音が鳴った。


輝は即座に涙をふいて、ケータイを開く。


一通のメールが届いていた。


確認をした瞬間、輝は目を点にした。


それは拓也からのメールだった。


『輝、会いたいよ。もしこのメールを見てくれたら、今入り口前に居るから来て欲しいんだ。お願いだ、輝の姿見たいよ。』


メールにはそう書かれていた。


輝はケータイを両手で握り締めた。


締め付けられる心と涙だけがただただ静かに流れた。


(俺も拓也に会いたい・・・・・だけど・・・。)





――――会ってはいけないんだ





『行かない。』


返事にたったそれだけを打って送信した。


本当の気持ちを押し殺して、輝は彼に会おうとしなかった。


嫌われるのはつらい。


だけどたとえ嫌われてもよかった。


そうでないと、拓也のことを忘れることなんてできやしないのだから。


そして二回目の着信音がすぐに鳴った。


『今からそっちに行く。』


(え・・・・・?!)


輝は驚いた。


病院の廊下を歩く音が聞こえてくる。


それが拓也の足音なのだとすぐにわかった。


「輝・・・・・・。」


懐かしい拓也の声がドア越しに聞こえた。


心の準備が整う前に、拓也はドアの前にいた。


一階であるため、すぐに到着が可能である。


混乱する輝はどうすればいいのかわからなくなり、大急ぎで涙をふき取る。


そしてドアに背を向けるようにして立った。


「・・・・・・入るよ。」


ドアノブをひねって中に拓也が入ってくる音がする。


輝はこの時、部屋の鍵をかけていなかった。


「輝・・・・・・話がある。」


拓也の声に張りはなく、暗い印象をつけた。そして輝も振り返らず、彼のほうを見ようとしなかった。


「何・・・・・・?」


輝は、震えだしそうになる声を必死で安定させるようにして言う。


「・・・・本当にごめん。」


「・・・・謝らなくていい。」


「!?謝らなくていいって輝、俺は輝をいっぱい傷つ―――――」


「全部、俺がいけないんだ。全部、全部。」


「違う!輝は何も悪くない!悪いのは全部俺――――」


「拓也は俺のこと・・・・嫌いなんだね。」


「・・・・・え?」


「そうだろ?だから簡単に嘘をつくんだろ?」


その言葉を聞いた瞬間、拓也の目が点になった。


拓也は輝を決して嫌ってなんかいない。むしろ愛おしいほどに大好きだ。


「違う!!」


「違わないよ・・・・・違わない・・・。俺が病持ちだから、かわいそうな奴だって本当は始めから思ってたんだろ_______!?」


輝が口にする途中で、拓也は彼を必死に抱きしめた。


「違う、違うんだ!そんなこと一度も思ったことなんてない!輝のこと嫌いだなんて思ったこと一度も無い!!」


拓也は全否定する。


今自分が一番伝えたいことをまた言いそびれそうになる。


輝は苦しんでいる、そしてまた、拓也も同じように苦しんでいる。


こころが痛くてお互いに壊れてしまいそうなる。





トンッ





抱きしめられた輝は軽く拓也の体を前に押し出した。


彼を抱きしめていたはずの拓也の腕が解かれる。


「ダメだよ・・・・・こんな死にぞこないの俺なんかにこんなことしちゃ・・・・。」


本当は死ぬほど抱きしめられて嬉しかった。


ずっと何度も何度もこのまま時間が止まってしまえばいいのにと思った。


しかし、それは願ってはいけないことに過ぎなかった。


「拓也に抱きしめられるべき人は俺なんかじゃない・・・・抱きしめられるべき人はあの子だよ。」


あの子、つまり愛莉のことをさしたのだろう。


拓也が愛莉を振ったことなんて、輝が知っているはずがない。


「違うあいつは!」


「あの子といる拓也、一番楽しそうだった・・・・。」


「!?」


「ごめんね拓也。俺やっぱり最後まで拓也に迷惑かけることしか出来なかった。


今まで本当に有難う。楽しかった・・・・本当に楽しかった。


俺は甘えすぎたんだよ拓也の存在に。だから全部俺がいけなかったんだ。


最後の俺のお願い、聞いて欲しい・・・・。」


「輝?!・・・・最後ってお前―――――」


「俺と過ごしたこと、俺との思い出、そして俺の存在すべてを・・・・忘れてください・・・・。」


その言葉を聞いた瞬間、拓也は自分の中で何かが崩れていく気がした。


「輝の存在を忘れるなんて出来るわけねぇだろ!忘れたくねぇよ!一緒にすごしたことも、数々の思い出も、輝の存在すべても!」


「ありがとう。だけど俺は、消えなくちゃいけない存在だから。消えちゃう存在だから。あの子が言ってたこと、正しいね・・・・・・。」


「輝!それだけは絶対に口にするな!」


「俺なんて早く死んじゃえば――――――」


『いいのに。』


そう言おうとした瞬間、何か暖かくて柔らかいものが、自分の唇に重ねられた。


言葉が声となって出なかった。


必死に我慢していた涙が唇の感覚とともに、自然と流れるように溢れ出した。


止まることもなく、淡々と涙が下にこぼれる。


今さっき何が起きたのか輝は理解できないでいた。


何秒後かに柔らかいものが、自分の唇から離れていくのがわかる。


そしてようやくその瞬間に、何が起きたのか理解が出来た。


思わず目が泳ぐ。


いっきに自分の顔が熱くなっていくのがわかった。


自分の唇に重ねられた柔らかい存在は、拓也の唇だった。


さっきまで彼に背を向けていたはずの自分の体は一瞬にして、今では拓也と向き合っている。


涙を流す輝の唇には、まだ拓也の唇の感覚が残っていた。


そしてそのまま拓也はさっきよりも強く輝を抱きしめる。


体の力が抜けた輝に抵抗する力はなかった。


「絶対言わせねぇその言葉!何があっても一度たりとも言わせねぇよ!」


「拓也・・・・・なんで俺のために・・・・。」


「何でってお前が好きだから。お前を愛してるから。心のそこからこの世の誰よりも愛してる。俺は輝にマジ惚れしてる。大好きだ、本当に大好きだ!」


輝はまたもや混乱してしまった。拓也が自分に惚れてるだなんて考えたことなんてなかった。


しかし、それは拓也に一番言われたかった言葉。一番聞きたかった言葉。


「拓也が・・・・俺に・・・・・惚れ・・・てる?」


「あぁ。」


「本当・・・・・に?」


「あぁ。信じてもらえないのはわかってる。だけど、本当だ。ずっとずっと俺は輝が好きだった。自分の気持ちを伝えたら、嫌われるかもしれない、気持ち悪がられるかもしれない、そう思ってずっといえなかったけど、このまま言わなかったら、一生言いそびれそうな気がした。」


「拓也・・・・・。」


今の輝には頭の中で彼の言うことを整理するので精一杯だった。


「何度でも言うよ。俺は輝のことを心のそこから愛してる。恋愛対象として愛してる。すごく大切に思ってる。すごく変だと思われるかもしんねーけど・・・・俺と恋人関係になってほしい・・・・・。」


あまりにも突然な展開に、輝の力は抜けていった。


「ごめん・・・・・やっぱりひいたよな・・・・・。」


「ひいたりなんかしてないよ。」


「!?」


拓也はその言葉を聞いた瞬間、救われた気持ちになった。


ひかれてしまったのではないかと不安になっていたからだ。


しかし、やっぱり自分も男で相手も男。絶対に振られる。


そう思ってすでに、振られる覚悟は出来ていた。


「俺も、ずっとずっと拓也のこと、恋愛対象として愛おしかった。本当なんだよ。」


夢のような言葉だった。


拓也は動揺を隠せない。


「え?・・・・・てことは俺の告白の返事って・・・・。」


予想外の返事で驚く拓也に黙って頬を真っ赤にした輝はコクリと縦に首を振った。


「こんな俺でよかったら・・・・・俺を拓也の恋人に・・・・してください。」


恥ずかしがりながらも、輝は一生懸命自分の気持ちを伝える。


こんなにも近くて遠い二人の想いは、ついに通じ合えることが出来た。


「夢じゃねーよな?今俺、ありえないほど幸せだ。」


そう言って拓也は頬を赤く染めて涙をこぼした。


ずっと伝えたくても伝えられなかった想い。


気持ちのすれ違いでくじけそうになった分、成就した今はすごく幸せに感じられた。


嬉しさのあまりにこぼす涙は穏やかで温かい。


「輝・・・・・もう一度、キスして・・・・いい?」


恥ずかしさを隠せずに言う拓也に、輝も恥ずかしさを隠せないまま、静かにうなずいて目を閉じた。


そして拓也もそっと目を閉じ、もう一度自分の唇を輝の唇に重ねた。


先ほどと同じ柔らかくて温かい感覚が、お互いを満たした。


息が苦しくない程度で、自分の唇をそっと離す。


「ひ、輝!?」


目を開けたその先にいる輝は、真っ赤な顔で涙をまた流していた。


「嬉しくて嬉しくて・・・・涙が止まんないよ・・・・・。」


涙を必死でふき取る輝のしぐさは相変わらず愛くるしかった。


「俺も嬉しくてたまんねぇ。」


もう一度拓也は輝を抱きしめた。


「実は俺、あいつのこと振ったんだ。」


「え?・・・・・てっきりokしてたのかとつい。」


「ばーか。好きでもない相手と付きあわねぇよ。俺が愛おしく思うのは輝だけだ。」


「ありがとう・・・・。」


「あ、また赤くなった。」


「言うなよっ!恥ずかしいから!」


「輝ほんとにそう言うところとか可愛いんだよなぁ。」


「だーかーらーっ。」


輝は涙目で頬を真っ赤にした。


「よかった・・・・。いつもの輝だ。」


そんな彼をみて拓也は言った。


その言葉に輝の動きは一瞬でぴたりと止る。


「本当にごめんね。もう一度謝らせて。本当に俺が悪かった。ごめんね。」


「拓也・・・・・・。もう、いいんだよ。」


そう言って輝は前と同じように拓也の頭をなで始めた。


泣いたとき、いつも輝が自分の頭をなでてくれる。


こんな裏切り者の自分に、こんなにも優しくしてくれて。


前のように自分を相手にしてくれて。


あまりにもの輝の優しさにまた涙腺が刺激され、涙があふれそうになる。


あふれてしまう前に、拓也は両手で目を押さえつけて拭いた。


なんでも輝ばかり頼りにして、輝にいつだって甘えて。


やっぱり拓也は、そんな自分が大嫌いだった。


「輝。俺にはやっぱりお前しかいない。」


「ほんとに?」


「本当だよ。俺、お前がいない生活全然楽しくなかった。」


「拓也・・・・・俺もすごく寂しかった。拓也のほかに、なにもいらないよ。」


もう一度お互いの気持ちを確認しあう。


そんな彼らの上には依然と白くはかない雪が降っていた。


















もう二度と、あやまちを犯してしまわないように。


もう二度と、君の幸せを壊してしまわないように。


君のぬくもりを、ずっと覚えておきたい。


ずっとずっと、君の愛を感じていたい。


君の存在は、こんなにも僕の中で大きくなってるんだね。





















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