第10章 ~君のためなら~
代表生徒になったことをいいことに拓也に接近する愛莉。輝は自分の想いを押しつぶして、拓也と愛莉のために距離を置く
君の幸せは、僕と一緒にいることなんかじゃないよ。
君の幸せは、僕と過ごすことなんかじゃないよ。
いいんです。
僕はいいんです。
君が幸せなら、それでいいんです。
君が幸せであることが、僕の本当の幸せなのだから。
―君の笑顔も泣き顔も― 第10章 ~君のためなら~
それは登校中の出来事だった。
「・・・・・輝?」
拓也はいつものように輝に話しかけていたが、それに対する輝の返事は、どれも曖昧なものばかりだった。
その様子を不審に思った拓也は、輝の名前を何度か繰り返し呼んでいた。
「!?ん、何?」
ボーっとしていた輝は、我に返ったかのように彼の言葉に反応する。
「いや、俺の話ちゃんと聞いてるのかなぁって。」
「ご、ごめんそんなつもりじゃ・・・・。」
「わかってるよ。」
謝る輝に拓也は笑顔でそう答えた。
そんな彼にはここ最近、なんだか心配に思っていることがあった。
そう、輝のことだ。
「輝、大丈夫か?最近ぼーっとしてるし。」
「大丈夫だよ。だから心配しないで。」
輝は笑顔だった。しかし、それは素直な笑顔と言うより、どこかもどかしそうだった。
ここ最近、輝はよくボーっとしている。そんな彼の異変を拓也が見逃すはずがない。
「本当に大丈夫か?何かあるんならちゃんと俺に話せよ?俺たちは大親友なんだからな。言いたくないなら俺は話してくれるまでずっとまってるから。」
「ありがとう。でも本当に心配しないで。拓也が心配してくれてて正直、すげー嬉しいよ。」
やっとちゃんとした笑顔になる輝に、拓也はようやくほっとして笑顔をこぼす。
しかし、輝にはやはりボーっとする理由があった。
拓也と愛莉のことである。
拓也と愛莉が話している姿が頭から焼きついて離れない。
そんな彼だが、本当はわかっていた。
男と女が話すことなんて当たり前なのに、今の輝にはいやな予想図しか浮かばなかった。
自分がいつか置き去りにされそうで怖くなる。
拓也を心配させたくない輝は、素直に本当の気持ちを言い出せなかった。
「今の拓也には・・・・・好きな人・・・・・いる?」
自分でもいいずらかった。
でもたまらなく気になって、勇気を出して言葉にした。
「な、なんでいきなりそんなこと。」
いきなりと言えば、確かにいきなりすぎるほどの言葉だった。
「特に理由はないよ・・・・・でもなんだか聞いてみたくて。」
そんな言葉に反応した拓也は赤面すた。
無論、拓也には好きな人がいる。
それもその本人は自分のまさに隣にいた。
輝である。
普通、『いる』と答えれば女の子を想像するであろう。
「そんなのいないよ。」
下手に『いる』と言えば輝に勘違いされてしまいそうなので、あえて否定をした。
「そうなんだ。・・・・変なこと聞いてごめんね。」
「ううん。全然気にすることなんかないって。それと輝・・・・・大事な話があるんだ。」
「大事な・・・・・話?」
『大事』
その言葉に反応した輝は、徐々に変な不安にかられた。
彼は不安になる心を懸命に抑え、次の言葉を静かに待つ。
「俺、くじで式にでなきゃいけない代表生徒に選ばれたんだ。」
そこまではよかった、しかし次が問題の言葉。
言う側の拓也も聞く側の輝もその問題の言葉に表情を暗くさせた。
「いろいろやらなくちゃいけないことがあるんだ。だから・・・・その・・・・・帰りとかすごく遅くなるんだよ。輝を待たせるのも悪いし・・・・・だから一緒に___」
「帰ろう。」
『帰れない』と拓也が一番言いずらかったその言葉をかき消したのは輝の言葉だった。
「一緒に、帰ろう。」
輝は強い想いで同じようなことを繰り返し言った。
「で、でも帰りおそくなるんだぞ?話し合いも絶対日が進むうちに長引いて、予定よりも帰りが遅くなると思う。そんな遅くまで輝を待たせるわけにはいかない。輝のこと決して嫌いだからとかじゃないんだ。俺だって本当は一緒に帰りたいんだ。ただ、お前を一人で待たせるのは心配なんだ。」
拓也は勘違いされないように必死で説明した。
これ以上輝を悲しませたくないのだ。
「俺はいいんだ。大丈夫だから。一緒に帰ろう。俺、拓也と一緒に帰れないのは嫌なんだ。」
(輝・・・・・お前・・・・・・ヤバイ、俺今すげー嬉しい。)
輝を長い時間待たせるのはほぼ確定的だ。
誰でも待つのを嫌がるような状況になるのにもかかわらず、輝は拓也と帰りたい一身でそう言った。
そんな彼の優しさと自分に向けられた想いに拓也は思わず感動してしまう。
嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
彼の言葉に拓也は泣きそうになる。
「ほんとにすごく遅くなるけどいいのか?」
「全然かまわないよ。どんなに遅くても拓也と一緒に帰れるだけで、俺は幸せだよ。」
「有難う、本当に有難う。輝のそういうところに俺は惹かれるんだよ。」
拓也は素直に言った。
ただでさえ学校も違い、なかなか会うことの出来ない二人に水をさすかのように、代表生徒に選ばれる。
限られた時間でしかあえない二人はさらに会えなくなるなど、絶対に望まなかった。
「いいか輝。もしも何か危ないことがあったらすぐに俺をおいて帰るんだぞ。」
「・・・・・・。」
「輝。」
「う、うん・・・・・。」
輝は拓也の言うことに同意したくなかった。
しかし、拓也の強い意思で、拒めなくなる。
口では同意した輝だが、どんなことがあっても絶対に待っているつもりだった。
「俺、なるべく早く学校出てお前の元に行くから。絶対行くから。」
「うん。俺、ずっと拓也のことまってるから。」
輝は差し出された拓也の小指と自分の小指をぎゅっと絡まらせた。
それは約束をするときの定番である指きりである。
今日この場で交わした言葉、ともにした行動を心に二人は焼き付けた。
お互いが手をふり、拓也と輝はそれぞれの学校へと向かって行くのだった。
*****
「司会は私と木村の二人でやるわ。あとは進行役2名なんだが、誰か候補したい人は?」
放課後の生徒会室。数人の生徒がざわざわと話し合いをしている状態だ。
もちろんその生徒というのは生徒会メンバーと代表生徒たち。
その中に拓也もいた。そしてもちろんの如く愛莉もだ。
そして再び仕切るように発言したのは生徒会長。今年の生徒会長はどうやら女子生徒のようだ。
木村というのは副生徒会長の男子生徒である。
会長と副会長ということもあってか、二人そろっていろんな仕事をやり遂げることが多い。
誰か候補したい人はいるのかと言っても、実際には候補者はほぼ確定していた。
役が決まっていない者が二人しかいないからだ。その二人以外は皆もう役が決まっていた。
そしてその決まっていない者であるちょう本人は拓也だった。
彼は実際に言えばどの役でもいいと思っている。だから残り物でよかった。
そして拓也以外のもう一人というのは愛莉である。
愛莉はわりと計画性をもっている。愛莉は拓也と同じ代表生徒になれてものすごく嬉しく舞い上がっていた。
そして彼女はどんどん欲情し、拓也と同じ役をやりたいと思っていたのだ。
そのため、拓也が何かを候補するまで様子を見ていた。
彼が何も候補しなければ、当然の如く彼女もまた、候補をしない。それを繰り返した。
何やかんや繰り返しても、役はきっちり生徒の人数分ある。
このことから誰かが必ずひとつ何かの役にならなくてはならないのだ。
「えーと、朝本君と篠田さんしか残ってないんだけど・・・・。二人に進行役やってもらえないかしら。一応同意か聞いとくけど。」
ここで彼女の提案に乗らなければ他のこの場の全員に迷惑をかけることになる。
「私はいいですよ。」
拓也よりも先に賛成したのは愛莉だった。この件に関してマイナス点がまったく無い彼女にとっては絶好のチャンスである。
「俺もいいです・・・・・・・。」
拓也の同意を聞いた愛莉は心の中で大きなガッツポーズをした。
愛莉と二人でやることに、拓也はすこし戸惑いを感じたが、しかたなく同意した。
誰でも異性と二人でこれからやっていかなければならないとなると、素直な気持ちになれないであろう。
素直な気持ちといっても拓也にとってそれは恋愛感情とは違うものだ。
「じゃぁこれで全員決定ね。これから宿題として課題を出すから、ちゃんと考えてくるように。」
役を決めたところで、本題はこれからだった。まだしなければいけないことが山済みなのだ。
拓也と愛莉の担当する進行役にも課題が与えられた。
その課題はやはり、進行役という大事な役なだけにそう簡単に進めて行けられるほどのものではなかった。
めんどくさがり屋の拓也にとって、この課題は毒である。
そんな彼に愛莉は優しい声で話しかけた。
「進行役頑張ろうね。課題とかも二人でやれば何とかなるよ。」
「そうだな。」
アピールするかのように彼を元気付ける愛莉は頬をほのかに染めて嬉しそうにしていた。
「私、拓也と一緒の役で嬉しいな。」
「そ、そうか?有難う。」
最高の笑顔で言う愛莉に、拓也はすこし戸惑って彼女にお礼を言った。
自分と一緒で嬉しいといわれた拓也は、とくにときめきを感じなかったが、やはり言われたからには少し嬉しくなる。
「とりあえず、今日はもう遅いから解散!明日も忘れずにきてよね。」
時刻は19時を回っていた。あたりは薄暗くなっている。
輝を気にして心配していた拓也にとってその言葉は最高の救いとなった。
早く輝のもとへ駆けつけようと、フライングする気持ちでいっぱいなる。
鞄を手に持ち、教室を出ようとしたそのときだった。
「拓也、もう帰っちゃうの?」
「え、もう外暗いぞ?お前帰らねぇのか?」
「もちろんだよ。頑張って課題を早く終わらすためにまだ残るわ。」
帰る姿勢をとっている拓也の背中に不意にかけられた愛莉の言葉。
愛莉はじっと拓也から目をそらさない。
彼女の目力はなぜか圧倒されるものを感じる。
拓也もまた、その目力に圧倒されようとしていた。
「?まだ二人とも居残りするの?頑張るね。それだったらはい、これ。」
そう言って帰る支度をしていた生徒会長は手に何かを持って拓也に近づく。
「最後はちゃんと戸締りとかして帰ってよ。最近は結構学校の窓ガラス割られたりすること多いから。」
そう言って彼女はそれを拓也の手のひらに乗せた。
軽い鉛のような重さを感じる。
「わかりました。終わったら鍵は事務室のほうへ返しておきます。」
「うん。それじゃ頼んだわ。」
そう言って生徒会長はドアを手で引き、軽く身を廊下へ乗り出して帰ってしまった。
「拓也。」
「ん?」
愛莉に名を呼ばれた拓也は変に悪寒を感じた。
いやな予感がする。
「拓也も私と居残りして課題を一緒にやってくれるよね?同じ進行役だもんね。」
拓也にとって不吉な言葉を笑顔で意図も簡単に愛莉は言う。
顔を少し斜めにして笑顔で言われるからには、断れない雰囲気になってしまう。
「でも俺、輝を待たせて―――――」
「お願いっ。」
うまくかわそうとした拓也の努力もむなしく、愛莉のペースに飲み込まれてしまった。
「・・・・・・・・わかったよ・・・・。」
「やったー。有難う。拓也と一緒でよかった。」
愛莉はそういうと、拓也に自分の中の最高の笑顔を見せる。
「・・・・なぁ篠田、少しだけ時間をくれないか?」
「?いいけど、すこしだけだよ。」
彼女にお礼を言って、拓也は制服のポケットに手をしのばせ、静かに自分の赤いケータイを取り出した。
ケータイを開き、文字を打ち始める。
そして全部打ち終えると、送信ボタンをおした。
彼がメールを送信した相手はもちろん輝だ。
それに拓也は彼のアドレスしか知らない。
そんな彼が持っていたケータイを、愛莉は冷たいまなざしで見ていた。
輝にメールを送ったのだろうと、すぐに確信した。
愛莉は輝に言い知れないやきもちを焼く。
そしてそれは、輝の名が出るたびだんだんと大きくなっていった。
拓也が送った送信メールにはこうつづられていた。
『輝ごめんね。本当にごめんね。まだ帰れそうもないんだ。もう暗いし、危ないから先に帰っててもいいよ。』
このメールを打ったときの拓也の心はすごく痛かった。
拓也は本当に輝と帰りたかった。だけど、輝をずっと外で待たせるわけにもいかない。
拓也はまた彼に迷惑をかけてしまったと思い、あのときのように苦しんだ。
「じゃぁ、篠田。何からはじめようか。」
「あっ、うん。じゃぁ簡単なこれからしようよ。」
冷たい表情をしていた愛莉は急に拓也に話しかけられたため、ワンテンポ遅れて反応する。
拓也に話しかけられたことが愛莉の表情を和らげた。何よりも愛莉を嬉しくさせた。
一方拓也はあせる気持ちを落ち着かせるように、輝からのメール待つ。
そして準備をして課題に取り掛かろうとしていたそのときだった。
_____チャラン♪
短い音楽、というか効果音のほうが正しいと思われる音が、拓也のポケットの中から聞こえてきた。
拓也はその音を聞いた瞬間、複雑な想いがこみ上げて、すぐさまメールを確認する。
『俺、待ってるよ。拓也が帰ってくるまでずっと待ってるよ。』
輝の返信メールにはそう書かれてあった。
(輝・・・・・・・・ダメだよ・・・・・。)
拓也はそういわれて本当は嬉しかった。
だけど輝にはあのときのように迷惑をかけるわけにはいかなかった。
『輝が待ってくれるのは本当に嬉しい。でも輝に俺は迷惑をかけたくないんだ。わかってほしい。本当にごめんね。』
拓也は彼と帰りたい想いを一身でこらえて、そうやってメールを送信した。
愛莉が居る前で浮かない表情は禁物である。
「もー拓也。メールなんかしてないでまじめにやってよね。」
「あ、わりい。とっとと済まそう。」
「そうだねもう20時まわりそうだもんね。」
すっかり秋になってしまった季節は、一段とあの頃の夏よりも早く日が沈んでいった。
本当は課題なんてやりたくなかった。
早く輝のもとに駆け寄りたかった。
会えなかった分だけ抱きしめたかった。
話せなかった分だけ甘えたかった。
そう強く願えば願うほど自分の心は張り裂けてしまいそうになる。
拓也はそんな想いを抱きながらせっせと愛莉と二人で課題を進めた。
メールの返信を待ったが、彼からの返信は来ていない。
(輝、帰ったんだね・・・・・・。)
拓也は心の中で安心したと共に、寂しい衝動にかられた。
カシャッ
課題を早く済ませたい一身で作業をしていた拓也は驚いた。
ケータイが自分に向けられていた。
そのケータイは拓也のものではない。愛莉のものだった。
そしてその音の正体はカメラのシャッター音。
「お、おい。俺なんか撮んなって。」
「えーいいじゃん。かっこよくてついね。」
あははと笑う愛莉はそう言っているさなかで保存ボタンを押す。
拓也は彼女の行動にクレームをつけなかった。疲れているせいか、付ける気もしない。
「篠田、後もう少しで一段落つきそうだから、さっさと終わらそう。」
「そうだね。」
疲れた顔を出さないように作業に戻る拓也。
彼と一緒にいれることを心から喜び笑顔をこぼす愛莉。
拓也は彼女に恋愛感情は抱けなかった。
しかし、退屈な輝と会えない学校での時間を愛莉とかかわりを持つことで少しずつ時間をつぶすのが楽になった。
愛莉に感謝することは決してないわけでもない。
「わーやべぇ!もう20時すぎてるじゃねぇか!」
「わわ!でも安心して。もうこれで終わりだよ。」
そう言って最後の仕上げを愛莉がする。それが終わると同時に二人はほっと一息ついた。
「あーやっと終わったな。」
「だね。ごめんね。こんなの居残りって程度じゃないね。こんなにかかるとは思わなかったよ。」
謝る愛莉に拓也はすこしおどけた。
「このくらいで謝んなくていいよ。責任もってやるのは当たり前だし。愛莉の責任感あるところ俺も見習わねーとな。」
そっと笑顔をこぼして拓也は言った。
そんな彼の笑顔と言葉に愛莉は顔を赤面させた。
褒められてついつい嬉しくなってしまったのだ。
「そう言ってもらえるとうれしいな。そうだ、校門まで一緒にいこうよ。」
「あ、・・・・・うんいいよ。」
拓也は愛莉の提案にためらったが、結局は了解した。
(輝・・・・・・・帰っちゃったよね・・・・。)
作業中もずっと拓也は輝のことばかり考えていた。そして心配していた。
最近の輝は確かに様子がおかしい。
今まであまりボーッっとしていなかったのに。
いつも笑顔を見せていたのに。
このごろの輝の表情は浮かない表情で、まるでどこか心の奥底で泣いているようだった。
実際に昨日に関しては、突然泣き出していた。
涙でぐちゃぐちゃになるまでに。
そんな不安定な彼を拓也は誰よりも心配していたのだ。
「おーいお前らまだ残ってたのか。早くそろそろ帰れよ。」
廊下の奥のほうから担任教師である高橋の声が聞こえた。
「はーいわかってます!拓也、急ごうよ!」
「あ、うん。・・・・・っ!?」
拓也の右手に不思議な感覚が走る。
それは愛莉の左手の感覚だった。
輝の手とは違った感覚。愛莉は彼の右手を握り、自分からリードするように廊下を走る。
拓也は愛莉のだいたんな行動にただただ驚いた。
そして二人は手をつないだまま校舎を通り抜け、校門近くのグランドまで走り抜けた。
「よし、これでもう大丈夫。」
「そうだな・・・・・・っ!?」
彼の急な反応に愛莉も反射的につられ、そのまま彼の見る視線に目をむけた。
その視線の先には誰かの人影のようなものが見える。
しかし、あたりが真っ暗なだけに誰なのかはっきりと認識できない。
「輝!!」
拓也はそう名を呼ぶと、愛莉の手を解き、その人影のほうへ向かった。
愛莉にはよくわからなかった人影だったが、拓也にははっきりとそれが輝であることが確認できていた。
(何で?・・・・何で?帰ったんじゃなかったの?)
愛莉はそう思うなり、彼女の嫉妬心が湧き出てくる。
「輝、お前帰ってたんじゃなかったのか?俺はてっきりメールの返事来ないからつい帰ったのかと思って・・・・・。」
「?メール?あ、ごめん気が付かなかった。きっと俺寝ちゃったのかな。ははっ。」
そうおかしく言って輝は苦笑いする。
一瞬でも輝が自分を置いて帰ってしまったと思った自分が情けなくなった。
いやでたまらなかった。輝は必ず言ったことは絶対に守る人間なのだ。
申し訳ないという罪悪感でいっぱいになってしまう。
「ほんとにごめんな輝。こんなに待たせるつもりは無かったんだ。今度はちゃんと早く迎えに行くからな。」
そう言って拓也は輝を強く、強く抱きしめた。
拓也はこんなに遅くなるまで待ってくれた輝の優しさに、泣き出しそうになった。
抱きしめられた輝も抱きしめた拓也も頬を赤くほのかに染める。
大げさかもしれないが、10年ぶりに感じたぬくもりのように感じた。
拓也はそっと優しく輝を離し、今度は穏やかなまなざしで、輝の瞳をじっと見つめた。
「俺ってほんとにバカだ。輝を泣かせたくないのに・・・・また泣かしてしまった。」
拓也の言葉に輝は驚いた。自分は泣いてなんかいないのにと。
「拓也何言ってんだ?俺泣いてなんかない_______っ!?」
輝の言った言葉は一瞬で本当のことではなくなった。自分の頬には濡れた感覚があった。
ぽたぽたとこぼれた涙が自分の手に当たった。
ようやく輝は自分がずっと泣いていたことに気が付いた。
自分がいったいいつから泣いていたのかわからない。
きっと寝ていたときからだろう。目の痛さがそれを物語った。
輝は小さい頃から寝ているのにもかかわらず涙を流していたことがよくあった。
拓也といて楽しかったことから、最近では全然そんなことは無かったと言うのに。
そして辺りは暗いはずなのに、拓也にはなぜか輝の表情がよく読み取れた。
「た、拓也っ違うんだっ涙なんかじゃないんだよ。泣いてなんかないんだよ。」
「輝、隠さなくていいんだよ。泣くのは悪いことじゃないって教えてくれたのは輝だろ?それに俺言ったよな?泣きたいときは俺のところにおいでって。」
「拓也・・・・・有難うっ・・・。」
輝は拓也の腕の中で静かに涙を流した。輝はうすうす気が付いていた。
拓也といてどきどきする理由。
拓也の隣にいて幸せな気持ちになる理由。
こんなになるまで拓也を想っている理由。
何もかもがわかった。
ずっと親友としての感情だと思っていた。
しかし、それはどんどん大きくなっていって、次第には親友という感情を何倍も越すようになっていた。
輝はもちろん親友として拓也のことが大好きである。
でも今ならわかっていた。
親友以上に特別な感情で拓也が大好きであることを。
――――――――拓也をこの世の誰よりも愛してる。
親友以上に恋愛対象として、心のそこから誰よりも輝は拓也を愛しているのだ。
(気が付いたときにはもう・・・・・遅いのかもしれない。)
輝はそう思った。そのうち拓也の隣は自分ではなくなるんだ。そう思えてくる。
愛莉と拓也が手をつないで走ってくるのを見たときは、心臓が止まりそうだった。
もうすぐ自分は必要とされなくなるのかもしれない。そう思った。
そう思えば思うほど悲しくなって、苦しくなって、涙が気が付かないうちにこぼれていた。
今こうしていられる時間を本当に大切にした。
輝はこの拓也に対する想いを告げるつもりはない。
告げる勇気もなければ、告げてはいけない気がする。
告げてしまえばきっと今の関係が壊れてしまう。
もう二度と口をきいてくれないだろう、もう二度とこうやって自分のそばに来てくれなくなるだろう。
そういった考えだけが頭をよぎっていった。
たとへこの先どうなろうと、輝は拓也を愛し続けるだろう。
世界でたった一人、自分のことを理解してくれた人なのだから。
今ある幸せを忘れてしまう前にと、輝は泣きながら拓也の体にうずくまった。
そんな彼らの光景を見て気に食わない一人の少女、愛莉。
距離が離れていてよくわからなかったが、拓也と輝が抱きしめあっているのが何となく読み取れる。
(拓也の隣は私なのに。)
愛莉はそう思うなり輝をまたもや妬んだ。
前と同様、また輝に帰りを邪魔されたと思っていた。
輝がてっきり帰っていると思い込んで、それをいいことに今日こそ一緒に帰ろうと思っていたのだ。
しかし、それは一瞬で砕け散った。
そんな愛莉は本当に輝の存在を邪魔に思った。
愛莉は嫉妬心で燃えている。ひそかに輝をにらみつけていた。
「愛莉、俺たちもう帰るな。途中までありがとよ。」
遠くから拓也の声が聞こえてくる。
「あ、うん。こっちこそ最後まで有難う。明日も頑張ろうね。」
そう言って前と同じように愛莉は大きく手を振った。
拓也にだけ一番の笑顔を見せる。
(明日も仲良く一緒に帰ろうなんていわせない。)
愛莉は徹底的に明日は拓也と帰らないと気がすまなくなってきた。
愛莉は人一倍拓也の恋人になりたかった。
*****
「おーし!ちゃんとそれぞれ課題をやってきているかチェックするわ。」
元気はつらつの生徒会長が話す。彼女はどこか姉御肌なところがあるようだ。
生徒会長がそんなタイプであると、わりかしら話を進めやすいだろう。
そんな彼女に頭が上がらないのが副生徒会長である。
今日も彼は生徒会長の隣でサポートをしていた。
彼女の迫力のある声に反応して、代表生徒たちはいっせいに独自でやってきた課題を差し出す。
どうやら全員ちゃんと遣り上げてきたらしい。代表生徒なだけに、皆責任感を感じている。
もちろん、愛莉と拓也もちゃんとやってきていた。
「みんなちゃんとサボらずやってるみたいだね。んじゃ次は華やかな式にするために必要なものをどんどん作っていくよ!」
作ると言うのは、生徒一人ひとりが胸につける花や、看板の色付けなどといろいろだ。
会長の言葉と同時に、生徒会メンバーから代表生徒に一人ずつ花を作るための柔らかい布キレのような和紙が配られる。
花の作り方が書いてある用紙はちゃんとあった。
「うーん・・・・こっからどうやるんだろ・・・・・。」
何かしら手先の不器用な拓也は一人で困り果てていた。
作り方を読んでもなかなかキレイにしあがらない。
困った顔で拓也は周りを見渡した。
みんな着々と進んでおり、早い者は2つ目の花を作り始めていた。
「ここ、こうするんだよ。」
優しい女の子の声が聞こえ、自分が手にしていた花らしき和紙をそっととられる。
「篠田。」
「任せてよ。ここをこうやって・・・・・・はい!出来た!」
彼女はそう言うと拓也の目の前にそれを持って見せた。
花らしき和紙は、本当の花のようになっていた。
「あ、ありがとう。お前スゴイな。めちゃくちゃ器用。」
「えへへ。こういうの結構得意なんだ。何かを作ったりするのがすきなの。」
笑顔の愛莉は本当に女の子らしかった。
家でもいろいろと小物や料理を作っているのだろう。
そんな会話があった後も皆淡々と花をひたすら丁寧に作っていた。
アレだけ苦戦していた拓也も愛莉が作っているのを見て、
次第にコツをつかんだのか、最初の花らしきものに比べればずいぶん凛とした花のようになった。
「おーみんな結構上手だねぇ。」
「あんたも見とれてないで手を動かすのよ。」
「あ、ごめんごめん。」
何かしらおっとりとした副生徒会長。はきはきとものを言う生徒会長。
正反対の彼らだが、何かしらわりと息の合ったコンビプレイをすることが多い。
そんなプレイが出来るのは、リードする彼女に彼がサポートするかのようにしているからである。
それから二時間半ぐらいしたときだった。
「はーおわったぁ!」
生徒たちの解放された声が放たれた。
ずっとつきっきりで黙々と作業を続けた生徒たちは体を伸ばすなり、リラックスした体勢をとる。
「よし!とりあえず花はひと段落着いたみたいね。うーんどうしよっかな。きりもいいし、今日は少し早めに解散しようか。」
その彼女の言葉を聞いたとたんに、生徒一同から喜びの声が上がった。
最後の号令をかけ、早めに終わった作業の嬉しさに、廊下へ走って飛び出す生徒も少なくはない。
「た、拓也。」
「どうした?」
あまりかむことの無い愛莉がかんだため、拓也は少しおどけた。
「今日は輝とじゃなくてあたしと帰らない?」
彼が輝のもとに行ってしまわないうちに、踏み出した愛莉の言葉だった。
「え、でも俺、前にも言ったけど約束してるし・・・・・。」
「愛莉のこと嫌い?」
「そ、そんなんじゃないけど・・・。」
『嫌い』といえば嫌いではなかった。そんなことを聞かれた拓也はどうしていいのかわからなくなってしまった。
「嫌いじゃないんでしょ?だったら一緒に帰ろうよ。ね?」
首をかしげて可愛らしく言う愛莉に拓也は戸惑う。
あれだけ輝と硬く交わした約束だ。そう簡単に破るわけにもいかなかった。
心の中ではちゃんと解っていた。だけど言葉に出来ない。
愛莉の言葉をなかなか押し切れない。
「門までならいいけど・・・・。」
「えーそんなんじゃ全然意味ないよ。その先も一緒!」
「ダーメ。」
拓也は話し上手な愛莉に対抗した。
「と、言うわけで家に着くまで一緒に帰ろうね!」
話がかみ合っていない。
拓也の言うことなんてこれっぽちも愛莉は聞いていないようだ。
わがままを言う愛莉はそういうなり、拓也の腕をしっかりつかんで彼を連れ去る。
拓也は笑顔の愛莉に笑顔で素直にかまっていられなかった。
校門になんて着かなければいい。そんな拓也の願いも一瞬で打ち砕かれた。
あっという間に校門近くのグラウンドについてしまったのだ。
そして校門にはいつものように、輝の姿があった。
「あっ、たく――――――」
拓也の存在に気が付いた輝は声を出すが、目の前の光景に一瞬で声を失った。
拓也にとって今一番輝に見られたくない光景だった。
そして愛莉のほうも輝の存在に気が付くなり、彼の前に立ち止まる。
「違うんだ、ひか――――――」
「悪いけど今日こそは私が拓也と一緒に帰る。」
なんとか自分の意思を伝えようとした拓也も無駄で、愛莉が彼の必死の言葉さえもかき消した。
「拓也も私と帰るって言ってくれたんだもん。」
「そ、そうなんだ・・・・・。」
自信ありたげに言う愛莉に輝は小さな声で返事をした。
「お、おい篠田、俺は―――――」
「これから毎日帰る約束もしてるんだよ。だからもうあんたは待たなくていいの。」
「・・・・・・・。」
輝は黙り込んでしまった。
そして拓也の言葉はまたもや愛莉の言葉にかき消されてしまった。
さっきと話が違うのである。確かに了解はした。
だが、それは門までの話しで、ましてや毎日ではない。今日限りの話であるといのに。
愛莉は拓也に言い訳できない状況をつくりあげた。
「そういうことだから。拓也のことは私に任せてよね。んじゃいこうよ拓也。」
「お、おい・・・・・。」
愛莉は少し強引に拓也の腕をひっぱった。
そして拓也は、不安な表情で輝を見た。
その瞬間、拓也の目は見開いた。
輝は黙って無理した作り笑顔のまま、そっと優しい瞳で拓也を見送り、小さく右手を振っていた。
輝の何かものを言いたげそうなその表情は、今にも壊れてしまいそうだった。
しかし、彼は何も言わず、ただひたすらこらえて必死で笑顔を見せていた。
本当は笑っていられるほどの平常心は輝に無かった。
突然の出来事に何もかもが震え出そうになる。
涙がたまらなく出そうになってしまう。
しかし拓也にこれ以上泣き顔を見られたくないと思い、必死でただただこらえて笑顔を作るしかなかった。
拓也だって同じだった。輝と同じように心が張り裂けそうになっていた。
本当は一番一緒に帰りたいのは輝だというのに。
自分が優柔不断なせいで、輝をも苦しめてしまう。そんな自分が本当に大嫌いだった。
昔から、ずっとずっと大嫌いだった。
『輝、ごめんね。』
拓也のやっと言葉になったそれは、かすれて聞き取れやしない。
そして時はすでに遅く、輝に届く距離ではなかった。
毎日輝と帰りたい。
そのためにも愛莉に断りを入れなくてはならない。
だが、それができない。どうして自分ははっきり断れないのか。
自分に勇気がないのもある。
それともうひとつ。
愛莉にはいろいろと世話になっている身でもあった。
退屈な学校生活を楽にしてくれたり、先ほどでも花の折り方を教えてもらっている。
(俺・・・・・・本当に最低な奴だ・・・・・・。)
そう思うたび拓也は苦しんでいった。
*****
帰宅した拓也はすぐさま自分のベットに思いっきり寝転んだ。
自分の手をかざす。
かざした手の指には毎日欠かさずつけている輝とおそろいのリング。
彼は手を下ろすと、そっと目をつぶった。その目からは一滴の涙が静かにこぼれる。
さっきまでの輝の表情が頭の中に焼き付けられたままだった。
(早く輝にあやまらないと。)
早く彼に謝りたい、しかしまだ心が定まらなかった。
きっと怒っているだろう。
約束を破ったんだ。
最低なことをしたんだ。それも一方的に。
嫌われてもおかしくないんだ。
こんなにも自分を誰よりも想ってくれてるのは輝なのに。
こんなにも自分を一番に大切にしてくれるのは輝なのに。
なのになのに・・・・・。自分が全部、全部輝を裏切った。
何の恩も返せず、何のやくにも立てず、初めて会ったときからそうだった。
勝手にペンダントを手に取り、輝の辛い思い出を思い出させてしまった。
あるはずもないことを勝手に思い込んで、輝をきづつけてしまった。
ひどいことを言ってぼろぼろにしてしまった。
そして今日、またひとつ輝を悲しませてしまった。
最低だ。なんでこんなにも自分は最低な人間なんだろう。
何度もそうやって自分を責め立てた。責めて追い詰め涙があふれる。
今度こそ、本当に許してもらえないかもしれない。
例えそうだとしても今は謝るしかない。それしかない。
(嫌われたって俺は、俺は・・・・・輝を愛してるのに変わりはないんだ。)
あふれ出た涙を学ランの袖で拭き、自分のケータイを手に取り、輝のケータイにコールする。
どんな返事をされるか正直拓也は怖かった。
電話がつながる。コールが鳴り出す。鼓動が激しくなる。
そしてコール5回目の途中でぷつりと音がする。
その音がなった瞬間____
『もしもし。』
『あ・・・・えっと・・・もしもし拓也だけど・・・・。』
輝の声がケータイ越しに聞こえた瞬間、口から心臓が飛び出そうになった。
電話をしたのはいいが、混乱して言葉が歯切れてしまっている。
『どうした?』
『・・・・・ごめんね。』
『なんでいきなり・・・・・・。』
『何でって!そんなの・・・・そんなのっ・・・・!』
なかなか話題に移れない拓也の目にまた涙がたまり始める。
『何も気にしなくていいんだよ。』
まだ直接的に話してないが、輝は拓也が何を言いたいのか理解していた。
『気にしなくていいって・・・・俺はお前との約束を破ったんだぞ!?』
『いいんだ。本当にいいんだ。』
輝の優しい声のトーンがやけに脳裏に残ってしまう。
拓也は必死に涙をこらえようとしていた。
『なんでこんな俺をそこまでかばってくれるんだ・・・・・。もうこれ以上、無理しないでくれ。』
『・・・・・・無理なんかしてないよ。』
輝は隠し通した。ほんとはいっぱい無理してる。
無理して我慢して、無理して笑顔作って。
いつだって拓也を一番に想って、いつだって拓也に一番心配をかけたくなかった。
『ほんとにごめん・・・・また俺、裏切ったっ。』
『拓也は裏切ってなんかないよ。』
何を言っても輝は拓也に優しい言葉をかけた。
『本当は一緒に帰るつもりだった。だけどアイツに誘れて・・・・・。俺に断る勇気がなかったらこんなことに。全部俺が悪いんだ。』
拓也の声は振るえ、鼻をすする音が鳴る。目からあふれ出る涙は相当のものだった。
『拓也、泣かないで。拓也は何も悪くないんだよ。悪いのは全部俺なんだ。
拓也がアレだけ俺に先に帰るように言ったのに、俺が無理に一緒に帰ろうだなんて言ったせいなんだ。
俺がわがままだからいけないんだ。』
『違うよ輝・・・・。』
『違わないよ。本当は・・・・本当は拓也は・・・・俺とじゃなくてあの子と帰りたかったんだよね。』
『・・・・・・違う。』
『本当は無理して俺と帰っててくれたんだよね・・・・・。』
『・・・・・・違う。』
『拓也は本当に何も悪くないんだ。だから自分をせめないで。』
輝の言い方は依然としても優しかった。だけど拓也にとってそれは辛い事に過ぎなかった。
『最後に話を聞いてほしい。有難う拓也。拓也からの電話、最高に嬉しかったよ。本当に有難う、有難う。』
『待って輝!!最後だなんて嫌だ!ひか―――――』
______ぷつ。
電話が切れた音だけがただひたすらに聞こえる。
さっきまでの輝の優しい声はもう聞こえてこない。
「ひか・・・・・る・・・・・・うっ。」
一瞬にしてからだの力が抜け、手に持っていたケータイが床に落ちる。
電話してる間こらえていた涙と声がいっきにあふれる。
拓也は手をつき、大声をあげて泣いた。嘆いた。
どう使用も出来ない状態。どう使用も出来ない片思い。
ただひたすら涙をこぼすしかなかった。
そして輝も同じだった。
顔を伏せ、大声で大粒の涙を流しながら泣いていた。
(これでよかったんだ・・・・・・。拓也がそう望むのなら俺はどんなに傷ついたって・・・。)
いつだって輝は自分を最後に優先する。
輝も拓也と同じように彼を愛している。告白なんてできやしない。
言えば絶対に嫌われる。余計に拓也を困らせる。
今はもう、拓也には愛する女の子ができたんだ。
輝はそう思ったのだ。拓也に好きな女の子ができた。ただそれだけのことだ。
ただそれだけのこと・・・・だから。自分の気持ちを殺して拓也に幸せになってほしい。
輝は自分を傷つけながらも彼を応援すると心に決めた。
本当は拓也が選んだ相手は輝である。しかし、到底そんなこと輝は知らない。
男である自分を恋愛対象として選ばないだろうから。
そう思ったから。
輝はケータイを手にもち、始めの第一声を出すときからぼろぼろと涙をすでにこぼしていた。
それでもずっとずっと最後まで、優しい声を保った。
震える声を必死で隠し、泣いていることを知られたくない一身で、ひたすら苦しみに耐えたのだ。
そしてあまりの輝の優しい声に拓也は彼が泣いていたことに気が付かなかった。
本当はお互いが相思相愛であるに。こんなにもお互いが苦しんでいる。
いつかこんな日がやってくるとわかっていた。
別れを告げないといけない日がくるとわかっていた。
隣に居られなくなる日がくるとわかっていた。
だけどなんでかな。なんでこんなにも涙があふれちゃうのかな。
貴方の幸せを願ってるのに、なんで涙があふれるのかな。
全然、全然わかんないよ・・・・・・。