味噌ラーメンと塩ラーメン
茨戯様にぶちまけたラーメンは、こってり系抜群の味噌ラーメンバター付き。
確かに、ギトギトの油は茨戯様の美しい髪にこれでもかと絡みついただろう。
それに、洗濯する際には一番やっかいな種類だ。
「こんな事ならあっさり塩味のラーメンをかけてれば良かった!」
「そういう問題じゃないでしょうが。アンタ本当に面白い子ね」
「いやぁぁぁっ! 悪魔が来たりて襲われるうぅぅぅっ!」
現在の私の状態――シーツの下は裸。
隣にいる茨戯様の状態――裸。
その美の女神も嫉妬しまくる白く艶めかしい裸体に軽く殺意を抱きつつも、「ああ、女性のように見えて男の人なんですね……」という、中性的ながらもしっかりと鍛えられた体が私の隣に横たわる――だけでなく、しっかりと私を捕らえる。
因みに、先ほどまで何をしていたのかと聞かれれば、勿論ナニをしていたのだ。
数日前までキス一つした事がない純情な乙女だった私は、この数日間で徹底的に男と女の夜の生活について叩き込まれた。
ってか、いくらなんでもこれは酷すぎる。
「鬼です、茨戯様は鬼です」
「鬼なら、世界一美しい鬼ね」
「ナルシスト」
「なんか言った?」
ぐわしっ、と頭を掴まれた私は悲鳴をあげる。
「うわぁぁんっ!」
「全く、いい加減諦めなさいよ」
「諦めてたまりますかっ! っていうか、どうしてラーメンぶちまけた代償がこれなんですかっ」
すると、茨戯様がしばし考え込む。
時が経つにつれ、何か重大な内容でもあったのかと心配になったその時。
「気分?」
「悪魔! 鬼! 大魔王っ」
「ちょっと、人のことをなんだと思ってるのよ」
鬼だと思ってます
そう素直に告げると、思い切り頬を引っ張られた。
「いひゃいいひゃいっ!」
「誰が鬼よ、誰が」
「ひばらひ様でふっ」
「良い根性してるわね」
というか、ラーメンぶちまけた代償として強引に結婚させられた挙げ句、大切な初めてをぶんどられてなお相手を天使となんて言えるほど私の心は広くない。
「せっかく慰めてあげたっていうのに」
「これは慰めじゃないですっ」
「傷も治してあげたし、ちゃんと暖めてあげたじゃない」
「ってか、その原因は茨戯様じゃないですかっ」
そう……そもそも、こんな風に裸で寝台の上にいるのも、そのまま食われたのも全ては茨戯様が原因だ。
「茨戯様が私と結婚なんてしちゃったから、私が攻撃されたんですよっ」
それは、今から数時間前の事だ。
家に帰せと暴れまくる私は部屋に監禁された。
煩いとのお言葉付きで、それこそぬいぐるみを放り投げるかのように。
そんな扱いにも負けず、私は必死になって部屋からの脱出に成功した後、即座に王宮の外に向おうとして、彼女達に鉢合わせしたのだ。
それは、茨戯様の正妻になりたかった貴族の姫君達。
彼女達は私が誰だか一目で見抜くと、どこから取り出したのか生卵を投げつけてきた。
当然、それから逃げようとした私は足を滑らせ、池に落ちてしまったものの、彼女達はいい気味と言うように笑うだけだった。
しかし問題は私が泳げないという事だった。
当然、足のつかない深い池に落ちればおぼれる。
そうしてブクブクと沈んでいく私は、自分の運のなさを嘆いていたところ、丁度その場を通りかかった茨戯様に助けられたのだ。
と、それだけなら素直に感謝だが、私の凄まじい姿を見て吹き出すように笑った後、ガタガタと寒さで震える私を引きずって浴室に連れ込んだのだ。
ええ、そこで美味しく食われましたよ
その後も寝台に引きずり込まれて食われましたよ
ってか、それが嫌がらせにあって傷ついている女性に対する所行ですか?!
「体で慰めてあげただけよ」
「そんな慰め方はいりませんっ」
「あら不満? アタシのテクじゃ気持ちよくなれなかった?」
「だ~か~ら~! そうじゃなくてっ」
どうしてこの人は分ってくれないのだろうか?
「とにかく、家に帰して下さいっ」
「帰ってどうするのよ」
「勿論、以前のように暮らします」
「出来ると思ってるの? アタシの妻になったアンタが、昔と同じように暮らすなんて」
「庶民には庶民の暮らしがあります」
「シンデレラっていうのもあるわよ」
果竪が良い例よ――と呟く茨戯様に、私は否定する事ができなかった。
確かに、果竪様――この国の王妃様は、田舎出身の平民の少女だったにも関わらず、夫である陛下が即位されると同時に王妃様に据えられたのだ。
が、人は人。
「帰ります」
「無理よ」
「どうしてですか?!」
「もうお腹の中にはアタシの子がいるかもしれないし」
「んなっ?!」
残念だったわね
そう言って艶やかに微笑む茨戯様は、どう見ても悪魔にしか見えなかった。
茨戯が何を考えているのか?
それは彼しか分らない(笑)