格闘ゲームのトレーニングモードのモブだった俺、100万回技を受けたら最強キャラとして転生しました。
作者は桃鉄と太鼓くらいしかゲームをしたことがありません。
変な描写があったらご容赦ください。
気がついたら真っ白なホールにぽつんと立っていた。
(なんだ?ここ)
そして、意識はあるのにピクリとも体を動かす事は叶わない。
自分が何者なのか、なんのためにここにいるのか、そもそもここはどこなのか。
分からないことだらけだ。
視線だけはかろうじて動かす事ができるみたいだけど、それで得周囲を探るにも限度がある。
戸惑っていると、突然目の前に光があふれ、気がついたら男性が一人立っていた。
(誰だ?)
黒髪の短髪に赤いハチマキが鮮やかだ。
袖のない空手の胴衣から見える腕は筋肉が盛り上がって、鍛えられているのが分かる。
なんて観察している間もなく、体が勝手に動き、武術の構えのような物をとった。
(なんなんだよ、いったい?)
相変わらず、声は出せないし、自分の意思で体は動かせないし……。
次の瞬間、体を衝撃が襲った。
(え?殴られた??)
そんなことを思えたのも一瞬だった。
まるで嵐に巻き込まれたかのような衝撃が体を襲う。
右に左に体が揺さぶられ、最後に宙を舞う。
(いったい……なに…………)
霞む視界でハチマキの男が何かのポーズを決めるのが見えた気がした。
気がついたら真っ白なホールにぽつんと立っていた。
見覚えのある光景だ。
(なんだったんだ、さっきのは?)
あまりにも一瞬の事で良く分からなかったけれど、俺は、突然現れたハチマキの男に殴られたみたいだ。
いや、殴られたって言葉じゃ足りないな。
まるで嵐の中に放り込まれ鷹の湯に上下左右から拳が、脚が飛んできた。
意識が飛ぶまで、……そもそも、あれだけの暴力にさらされて俺は生きてるんだ?
だけど、不思議なことに体はどこも痛くないし、怪我をしている感じもない。
(……夢だったのか?)
それにしては、やけにリアルな感覚だった。
(それに、相変わらず体は動かな……)
ふいに目の前に光が満ちた。
まぶしさに目を閉じ、そして目を開けたそこにはさっきと同じ紅ハチマキの男がたっていた。
俺の体が勝手に動いて構えをとる。
(だから、いったいこの状況はなんなんだよ!?)
声にならない叫びは、暴力の嵐に飲み込まれた。
あれから、幾度も同じことが繰り返された。
目が覚める。
ピクリとも動けないまま暴力の嵐に飲み込まれ、意識が途絶える。
再び目が覚める。
(気が狂いそうだ。いったい、俺が何をしたっていうんだ)
何度も何度も何度も何度も何度も何度も………………………………………………………………。
繰り返すうちに、少しずつ体が慣れてきたのか、相変わらず体はピクリとも動かせないけれど、嵐のような暴力も目で追えるようになってきた。
右フック左フック、アッパー。
他にも謎の光の玉のようなものをぶつけてくる。
ちなみに大技の時には技名を叫んでいるみたいだった。なんでか俺には聞こえないんだけどな。
口が動いているのが見えたから、たぶんなんか言ってるんだろう。
俺はそれらの全てを防御するまでもなくただ突っ立って受け続けていたのだ。
そして、限界が来ると意識が落ちる.。その繰り返しだ。
(分かってきたけど、結局分かんねぇ)
紅ハチマキの男も何も話さない。
ただ唐突に現れて、もくもくと俺に技を打ち込んでくるだけだ。
最初の頃は、大技をかけようとして失敗したのか不発に終わることが多かったけれど、一連の流れがスムーズになってきたのを感じる。
つまり、それだけ俺の意識が消える時間は速まるってわけだ。
今では、男が現われて一連の技をかけられ、最後に大技で爆散して意識が途絶えるまで数秒しかなく、考える時間もままならない。
せっかく体が慣れてきたのに、そもそも観察する時間がないのだ。
(誰か説明してくれ)
相変わらず声一つ上げられない俺のボヤキは、誰の耳にも届かない。
いつもの光の後、そこにいたのはハチマキの男じゃなかった。
青いチャイナ服の女。
こちらも、体は引き締まり筋肉もりもりだ。
そして向けられる拳。
しかし、動きは最初の頃のハチマキ男のようにどこかぎこちない。
(そうか、俺はこいつらの練習相手なんだ)
突然、天啓が降りてきた気分だった。
何度も何度も繰り返される、パンチやキックの一連の流れ。
不思議な光の玉や、炎が巻きつくようなパンチ。
徐々に上達して、最後には不発することも無くなったハチマキ男に変わり現れたチャイナ服の少女。
こいつらは、ここで動けない俺相手に訓練を重ね、十分に満足したらどこかに行くのだろう。
恐らく、本当に闘う相手の元に……。
(最悪だ)
みぞおちにけりが入り、派手に吹き飛びながら俺は天を仰ぐ。
(つまり、相手は次々にやって来るってわけだ。それで、俺はそいつらにずっとボロボロにされ続ける。何度も、何度も。反撃どころか、防御することも逃げる事もかなわずに……)
まだ一つ一つのダメージが小さいせいかなかなか意識はなくならない。
右に左に吹き飛ばされながらも、視線だけで相手を伺う。
ハチマキ男と同じく、ピクリとも動かない表情のまま淡々と俺に蹴りを入れるチャイナ服の女。
(一体俺はいつまでこれを繰り返すんだ?全員が鍛え上げられるまで?そもそも終わりはあるのか?)
ようやく薄れ始めた意識の中、俺は絶望を味わっていた。
金髪をまるでブロックみたいに固めた男。
相撲取り。
手足が伸びる宙に浮いたインド人。
金髪のヒーローみたいなイケメン。
次から次へと入れ代わり立ち代わり、いろんなやつがこの部屋にやってきて、俺を殴り倒して去っていった。
俺は、ただ淡々とその場に立ち、それぞれの技を受け続ける。
赤いベレー帽をかぶった三つ編みの軍人女。
白い仮面の男。
ドレスに縦ロールのお嬢様。
モヒカン鬚面の大男。
忍者。
人種も格闘スタイルも様々で、なんか人間かどうかも怪しい奴もいたけれど、いったいどういう集団なんだろう?とだんだん疑問がわいてきた。
やって来た奴らが十人を超える頃には、何をされても驚かなくなってきた。
どうせ自分の意思では一ミリも動けないし、それについて考えるだけ無駄だ。
代わりに、相手の動きを観察して遊ぶことにした。
どうせ見る事しかできないしな。
(あのけりを放つには、まず右足を踏み込んで腰をとしてタメをつくって……)
特に意味があるわけでもないけど、ただ殴られてるだけも暇なんだよな。
痛くないわけでもないけど、痛みに耐える事には慣れたし、そもそも意識がなくなって戻るときにはどんな傷も元通りだ。
(あの数字はなんだ?)
ふと気が付いた。
視界の端に数字が見える。
白い壁に映っているから見えにくいけど、そこには確かに数字が浮かんでいた。
592358
攻撃の衝撃で体がぶれるため見えにくい中、どうにか読み取った数字だが、それが何を示すかは不明だった。
(あんなの、前からあったか?覚えてないなぁ?)
杖を持ったスーツの爺さんに、謎の攻撃で爆散されながら俺は内心首を傾げつつ意識を飛ばした。
次に意識が戻った時、数字を確認するが、部屋の隅にあるせいで、スタート位置からは見えなかった。
攻撃に押されて部屋の隅に押し込まれて、ようやく見つける事ができたんだが、数字は変化していた。
592359
(数が増えてやがる)
それは、この部屋に来て初めての意味がある変化だった。
(
いや、そうと決めつけるのはまだ早い。覚え違いかもしれないし、次だ)
俺は、この時ほど意識が消えるのを心待ちにした時は無かった。
592360
(やっぱりだ。増えてる)
数字は、変わらずそこにあった。
(俺が意識を失って戻るごとに増えてるんだ)
それに意味があるのかは分からない。
だけど、それはここにきてただ殴り飛ばされる行為に対する初めての変化だった。
600000
なんだか達成感があった。
700000
何も変わらない。ただ数字が増えるだけだと空しくなった。
800000
絶望した。
900000
それでも数字を確認してしまうのを止められない自分がなんだかおかしくなってきた。
八つ裂きにされるのも、串刺しにされるのも、爆散するのも慣れてしまった。
痛みがないわけではない。苦しいし痛いし辛い。
だけど、所詮ただの現象で、どうせ次の瞬間には元通りなんだ。いちいちダメージを受けるだけ無駄だ。
(それにしても、気が狂ったりとかしないもんだな。体がリセットされる時に精神もリセットされてるのか?でも、記憶は残ってるんだよな……ま、いいか)
この空間で起こることを悩むのも無駄だし、悩んだところで何も変わりはしない。
誰かがでてきて、俺を殴り倒し、そして元通り。
何十万回と繰り返されてきたただのルーチンワークだ。
(そういえば最近数字を確認してなかったな)
一時期はあれほどに執着していた数字も、いつしか目を向ける事が無くなっていた。
(お、丁度いい)
タイミングよく数字が浮かんでいる壁の方へと体が追いやられていくことに気が付いて、俺は視線をいつもの方へと向けた。
1000000
(あれ?丁度節目だったか)
チラリと大技を繰り出そうとしているハチマキ男を見る。こいつを見るのも久しぶりだな。
(最初の男が節目ってのも、なんだか感慨深いね)
アッパーカットで空高く体が打ち上げられた。
(百万回おめでと~)
薄れゆく意識の中、俺は心の中で喝さいをあげた。
意識が戻った。
「は?」
そこは、白い部屋ではなかった。
壁なんてない。天井もない。
どこまでも続くような広い平原だった。視線を上げれば青空に白い雲が浮かんでいる。
生い茂る草を揺らして吹き抜ける風は、乾燥した大地の香りを運んでくる。
「……ここは、どこだ?」
いつもの癖で考えたつもりが、低い声が響き鼓膜を震わせる。
「………声が……出る」
俺はゆっくりと顔をあげた。
「………まぶしい」
太陽の光が目を焼いた。
真面に見てしまったせいで目がくらんで、瞳を閉じる。
「動ける。……自分の意思で、体が動く」
手で顔を覆うと、手の平が濡れた。
目がくらんだせいで、涙が出たんだ。
そうだ、これは体の防衛本能で、泣いてるわけじゃない。
ごしごしと手の平で顔をこすり、水分を拭い去ると再び目を開けた。
「それにしても、ここはいったいどこなんだ?」
ゆっくりと改めて、当たりを見渡していると、ふいに近くの茂みが揺れた。
次の瞬間、何かが飛び出してくる。
気がついたら、体が動いていた。
足を踏み込み、力をため、腰からひねるようにこぶしを突き出す。
ギャイン!!
拳が何かを捉え、悲鳴と共に吹き飛んでいく。
それは、デカい狼の様な生き物だった。
真っ黒で紅い瞳が四つついている。
驚くよりも先に、茂みの中から同じような生き物が次々と飛び出してくる。
最初の一匹が派手に吹き飛ばされたことに警戒しているのか、うなりを上げながらもすぐに襲い掛かってくる様子はない。
こちらの動きを警戒するように睨みつけながら、周囲を囲んできた。
「なんだ、お前ら。俺を喰いたいのか?」
不思議と心は落ち着いていた。
どうしてそう思うのかは分からないけれど、こいつらが俺を害することはできないとはっきりと分かる。
それよりも、考えるよりも先に体が動いた方が気になる。
自分の意思を無視されるのは、さんざん経験してきた。あんなのは、もう、ごめんこうむりたい。
「……うん、なんか動けそうな気がする、な」
頭の中で、この相手にどんな攻撃をすればいいか考える。
今まで、さんざん見て、実際に体に食らってきた攻撃だ。
「おまえたち、悪いけど試させてもらうぞ」
自分の言葉に心のどこかがチクリと痛んだ気がしたけれど、何もしなければこちらの命が危ないのだから、俺の時とは状況が違う。
これは練習なんかじゃない。実戦だ。
「行くぞ!」
自分に気合を込めるように叫ぶと、俺は足に力を込めた。
結論から言うと、俺はこれまで散々食らってきた攻撃のほとんどを再現できるようだった。
不思議な光の玉も、動きをなぞれば出す事ができた。
「……さて、これからどうするかな」
足元に転がるデカい狼の死体を眺めながら、独り言ちる。
気がついたら、白い部屋の中でただ立ち尽くしていた。
何回も何回も殴り倒された。あの壁に浮かんだ数字を信じるなら恐らく百万回。
そして、今、化け物がでるだだっ広い草原の中に立っている。
なんでここにいるのかは、相変わらず不明だ。
何のためにここにいるのかも……。
「まあ、いいか」
とりあえず、体は自分の意思で動かす事ができる。
身を守る手段も、持っている。
自分がどれくらい強いのかは分からないけれど、少なくともデカい狼8頭をやすやすと倒す事ができる程度には使える事も分かっている。
何をすればいいかは分からないけれど、少なくとも、自分の行動を自分で決める事ができるのだ。
だったら、動けばいい。
「とりあえず、人のいるところを目指すか」
情報収集するにも、話す相手がいなければ問題にもならない。
「どっちに向かうかね~」
そこら辺に落ちていた木の棒を持って地面に立てて手を放す。
「よし、こっちで」
棒の倒れた方向へと歩き出す。
バカみたいな行動だ。だけど、そんなバカみたいな行動を選ぶのも自分自身だ。
気がつけば、俺は大きな声で笑いながら歩いていた。
「俺は~~~!! 自由だぁ~~~~~~~~~!!!!!!」
お読みくださり、ありがとうございました。
トレーニングモードで何度も何度も無抵抗で殴られ技をかけられ爆散される様子を見ていて、あまりの不憫さに妄想が爆発してしまいました。
いや、あの光景ってなんだか心が痛みません?
ちなみに練習する背後で「痛い!」「うぎゃあ!」「無抵抗の人間にひどい!」などアテレコしてて怒られました。
まあ、だいたいタイトルですべてを回収しているパターンなんですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
ちなみに身内に妄想を語ったら、「また変なことを思いついて……」と苦笑されました。
「かわいそうに思わない?」って聞いたら、そういうものなので考えたこともないそうで……。
どこかに夜凪に賛同してくださる方、いらっしゃいませんか?
そして、賛同していただけた方は、夜凪のように勇気を出して背後で囁いてあげましょう!
「痛い!」「うぎゃあ!」「無抵抗の人間にひどい~!」




