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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

聖クェゼリンの鐘

掲載日:2026/07/11

聖クェゼリン女子高校には有名な鐘がある。

不思議なリズムで鳴るその鐘

誰がそう決めたのかは伝わっていない。

「はっきり言って迷惑なのよね!」

聖クェゼリン女子高校3年生、北条綾乃は整った唇をきっと結んで言い放った。


今月に入って5人目の告白に彼女は苛立つ。

「変な本の読み過ぎなんじゃないの?私にはそういう趣味はないから!キモいだけなんだから!」


言い放たれた1年生の落合聖美はハラハラ泣きながらうつむいている。

両手を顔にあてる。やがて指の間からぽとりぽとりと涙が滴った。


毎度断るたびに、悪いことをしたような気分にさせられる。

北条はこの間をひどく嫌った。


カチリ。背後で冷たい施錠の音がする。


「誰!?」


北条が振向くとそこにはいつの間にか今まで断ってきた女生徒達と生活指導の高花祥子がいた。


高花先生

20代後半。凛とした「正義」を感じさせてくれる先生だ。

しかし


「先生…!?」

北条の声がやや震えている。


正義の高花の声は相変わらず透き通って美しかった。

「北条さん、今日はね、今日こそはね「こちら側」にあなたに来てもらうわ。」

そして美しく残酷だった。


北条「いったいなんなんですか先生まで!」


「…先輩」 

北条の裾が引っ張られる。


さっきまでうつむいて泣いていた落合聖美がいつの間にか微笑んでいた。

赤らんだ頬に涙の筋が残っている。

北条は落合の無垢な笑みに清楚な邪悪を感じ、背筋が凍った。


「北条さん、聖クェゼリンの鐘がなるまであと3分。3分で「こちら側」に来てもらうわ。」

高花の笑顔がだんだん邪を帯びてくる。


聖クェゼリンの鐘はある教則に沿ったたリズムで鳴り、一定しないことで有名であった。

リズミカルに、ときに荒々しく、そして焦らすかのような間があった。

一説に女性を狂わせるリズムだとか・・・


北条は学内の都市伝説に過ぎないと思っていた淫猥な噂話が事実であることを知った。


高花の舌なめずりで確信したのだ。


「大声・・・無駄ですよ。先輩。」

「高花先生が、校舎から人払いしちゃいました。」

「先輩。好きです。嫌われても好きです。」

「私、北条さんをめちゃめちゃにしたいの・・・わかってくれる?」

「幼馴染、きらい?」


自分への邪な好意の眼が数えて14。

7人の視線に射すくめられ、北条は恐怖で一言も発することができない。


あとずさりをしたが、北条はその歩みを止めた。

背中に五指がそっと添えられたのだ。

振り向くとうるんだ目の落合が北条を見上げている。


「始めましょう…お姉さま…」



-3年後-

「聖クェ女子んとこのベルって面白いらしいっすね。」

「あ、知ってんの?私は北条さんに連れてってもらって聞いたよ。」

「北条さんクェ女なんすか。」

「3回一緒に行って聞いたよ。」

「え~3回も(笑)」

「アンタも連れてってもらえば。」


北条の後輩である佐藤は、初めて北条に連れて行かれたクェゼリンを思い出して心が疼く。


北条先輩と聞いた聖クェゼリンの鐘の音

あの不規則さ、あの整合さ。

思い返すたびに胸がきゅんとしめつけられ、頬は赤らむ。


無理やりにそれを抑えるように笑った。

その笑顔はほがらかな邪悪。

佐藤は友人に邪悪を隠したつもりだったが、さて、隠しきれたかな、と。


しかし友人はその邪悪に気づくことはない。


思えば佐藤も北条先輩の微笑みにわずかに浮き出た邪悪に気付かなかった。

溌溂と、凛と、あでやかな表情がそれを隠していた。

いや、隠していなかったのかもしれない。


「病みつきになるよ。」

「へえ」

「北条さんも病みつきになったんだって。」

「そんなに言うなら話のタネに行ってみよっか。」


佐藤は友人がどんな笑顔をたたえるようになるのか今から楽しみだった。

「こちら側」で一緒に笑おう。

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