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静謐なる葬儀に武器の帯刀は禁じられている

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/03/15

 

 魔王の遺体を背負った女勇者が魔王軍の残党の前に現れた。


「何の用だ」


 残党達を束ねる魔族の君主は緊張した面持ちで問う。

 彼は決して弱くない。

 しかし、魔王と比べれば遥かに劣る。

 そして、魔王は勇者に敗れた。

 つまり、彼は勇者に勝てない。

 絶対に。


「事と次第によっては貴様のもたらした一時の平和はただちに終わることになるぞ」


 だが、それはここで勇者に屈すると言う事には繋がらない。

 何せ、彼は今や残党達の長、即ち希望なのだから。


「あなたの力では私には勝てない。故にあなたの言葉は叶いません」


 勇者は実に穏やかに答えた。

 まるで聖母と見紛うほどに柔らかな表情で。


「愚かな。魔王様の残党が俺たちだけだと思っているのか? 仮に貴様が俺たちをここで殺せば他の残党達が村や町を襲う。そうなれば貴様が我らを滅ぼしつくすまで一体いくつの命が失われると思う?」


 事実、残党は彼の率いる者達だけではない。

 だが、今は各地に散り散りとなっている。

 如何に勇者が強くとも全てを滅ぼしつくすのには時間がかかる。


 勇者以外の命。

 それは魔王という最強の切り札を失った魔族側が持っている最後の交渉カードなのだ。


「私はあなたやあなた達と争いに来たのではありません」


 女勇者は静かに答えると背負っていた魔王の遺体を丁寧に下した。

 その所作には一切の非礼はなく、それ故に彼女の体は隙だらけとなっていた。

 残党を束ねる君主が勇者を攻撃出来なかった理由はただ一つ。


「あなた方の王の遺骸を返還しにまいっただけです」


 彼女の敬意を受け取ったから。


「王に相応しい方でした。故に。王に相応しい葬儀を」


 女勇者は深々と礼をする。

 君主にとって最早、それで十分だった。


「感謝する」


 女勇者は踵を返しそのまま二度と振り返りはしなかった。



 *



 勇者は偉大な人物だった。


 彼女はよく理解していた。

 王が偉大であればあるほど、葬儀に集まる者が多いことを。


 彼女はよく理解していた。

 葬儀の場で武器を持つ者が少ないことを。


 彼女は魔王に打ち勝った。

 それはつまり魔王よりも優れていたということだ。

 強さも、賢さも、悪逆ささえも――。


 彼女がもたらした今日の世界では『魔族』などと言う言葉は架空の生き物を表す言葉でしかない。

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