【第5話】「愛されすぎて、罪」
そして、運命の日がやってきた。
舞台は、王都一の規模を誇る「シャイニア音局」。
ステージ袖から客席を覗くと、満席だった。
前方には、見たこともない数の報道陣。
今日の様子は「シャイニア報道局」の特番として放映されるらしい。
――期待の新星「闇薔薇✝ゴージャス✝王子」。
プロデューサーがどう売り込んだのか、会場には期待と好奇が入り混じった熱が満ちている。
俺は、静かに息を吐いた。
鏡に映るのは、黒髪に漆黒の瞳、黒衣にマントを纏った青年。
(いや違う……)
「闇薔薇✝ゴージャス✝王子」だ。
ヴィジュアル系アイドル戦士とは、世界観を背負う存在。
ならば、それを演じ切るのが俺の仕事だ。
「いきます。3、2、1……」
スタッフの合図。
荘厳な旋律が流れ出す。
俺は一歩、ステージへ出た。
(王子は慌てない。優雅に)
赤い絨毯の上を、ゆるやかに進む。
天井から黒薔薇が舞い落ちる。
紫のスポットライトが、王子を照らす。
客席が、息を呑んだ。
(よし。第一印象は悪くない……はずだ)
ステージ中央で立ち止まり、マントを翻す。
(愛ではない。闇の王子としての美を貫く、孤独を)
前列へ向けて、微笑む。
――自らの美しさに誇りを持ちながらも、どこか寂しげに。
流し目。
次の瞬間、数人が呻き声を上げて椅子から崩れ落ちた。
(どうしたんだ?大丈夫か?)
だが止まれない。
視線は45度上空。
舞い落ちる黒薔薇を掌に受け止め、口を開く。
「――さあ、今日もオレという奇跡が、夜を照らす時だ」
静寂。
シャッター音すら消える。
観客も報道陣も、ただ王子を見つめていた。
(反応がない……本当にこれでいいのか?)
その瞬間、イントロが流れ出す。
救われた。
(よし、あとは歌うだけだ)
――薔薇が散るほど オレが咲く――
囁くように、語りかけるように。
歌い出した瞬間、空気が変わった。
視線が絡みつく。
止まっていたシャッターが、遠くで再び鳴り始める。
サビへ。
――ROSE✝REQUIEM 世界の中心はオレ
心ごと焼きつけろ この輝き――
顔を上げる。
王子が、微笑む。
絶対的な美への誇りをまとい、妖艶に。
目が合うたび、観客がばたばたと崩れていく。
(なんだ?続けてていいのか……?)
舞台袖を見ると、プロデューサーがガッツポーズをしていた。
問題ないらしい。
――美しさこそ正義 愛より価値ある
永遠に咲き誇れ ゴージャス✝王子!――
そして、間奏。
「王子は語るものだ!」
プロデューサーがそう意気込み、追加された演出。
黒薔薇が豪雨のように降る。
(多くないか?演出担当やりすぎでは?)
王子が、語る。
儚く微笑みながら、民へ向けて。
――お前たちには見えないだろう……
この美の裏に潜む闇が……
それでも、いいんだ。
オレは、オレの薔薇を咲かせ続ける――
(……いや、長くないか?)
だが、もう止まれない。
ラストへ。
――崇めろ、この名前を 永久に刻めよ
唯一無二の存在 ゴージャス✝王子!!!――
最後の決め台詞。
「そう、オレは……『闇薔薇✝ゴージャス✝王子』。
……愛されすぎて、罪」
歌い切った。
音が消える。
静寂。
一秒。
二秒。
(反応がない……)
すると。
ドォォォォォォン!!
歓声が爆発した。
フラッシュが一斉に焚かれる。
「王子ぃ――!!」
「顔がやばい!!」
「声が良すぎる!!」
「何言ってるか分からないけど好き!!」
(……何言ってるか分からない?)
王子は微笑む。
だがその仮面の裏で、俺は混乱していた。
(これは……成功、なのか?)
※※※
特番が放映された日。
芸能ネットワークの《王国掲示板》は騒然となった。
「国の美学が揺れた」
「史上最高にイタくて美しい」
「映像が輝きすぎて家電が壊れた」
「語り意味不明なのに刺さる」
「顔面強すぎて全部許した」
「反響がすごいぞ!!完璧なデビューだ!!」
プロデューサーが叫ぶ。
「カイくん、君の顔は本当に世界を狙える!!」
「……ありがとうございます」
礼を言いながらも、胸の奥に小さな棘が刺さる。
――顔。
称賛されているのは、王子か。
それとも、俺の顔か。
画面の中で微笑むのは、「闇薔薇✝ゴージャス✝王子」。
その奥にいる俺は、どこまで本物なのだろう。




