表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

【第3話】闇薔薇✝ゴージャス✝王子 芸名授与

黒薔薇帝との謎の訓練を繰り返し、俺はひとつの結論に至っていた。

ここは、当たり前のアイドル戦士になるための場所ではない。


――少なくとも、黒薔薇帝の指導下では。


その日、俺は呼び出された。

場所は、普段使われていない事務所の空き部屋。

照明は落とされ、黒いカーテンに囲まれた空間。

そして例のごとく、床一面に敷き詰められた黒薔薇の花びら。


嫌な予感しかしない。


「来たか、カイ」


中央に立っていたのは、黒薔薇帝だった。

妙に真剣で、厳かにすら見える表情をしている。


「今日は何を……」


「芸名授与の儀式だ」


即答だった。


「安心しろ。これは、ヴィジュアル系アイドル戦士にとって最も神聖な瞬間だ」


安心できる要素がひとつもない。

そのとき、背後で控えめな咳払いがした。


「では、衣装を」


振り返ると、事務所のスタッフが数名立っていた。

その腕に掛かっていたものを見て、俺は言葉を失った。


黒一色の服、銀細工のペンダント、そして――黒いマント。

しかも、マントの縁取りには、やたらチクチクしそうで、確実に高そうな黒いファー。


「……これ、ですか?」


「そう。ヴィジュアル系路線だからね」


さらっと言われた。


「黒薔薇帝の弟子なら、最低限これくらいは」


最低限?


俺は抵抗する間もなく、黒一色の衣装を着せられ、マントを羽織らされた。


ずしりとした重み。

ファーが首元をくすぐる。

鏡を見る。


……誰だ、これ。


さっきまでの「俺」は、もういない。


そこにいたのは、

やたら豪華で、やたら黒い、何かだった。


「いい」


黒薔薇帝が、はっきりと頷いた。


「闇薔薇は、黒衣を纏ってこそ映える」


意味は分からないが、褒められている気はする。


黒薔薇帝が、いつもの調子で両腕を広げた。

紫と黒のライトが点灯する。


「聞け、世界よ。ここに、新たな薔薇が咲く」


俺は、もう観念していた。

ここまで来たら、もう流されるしかない。


「カイ」


名前を呼ばれ、背筋が伸びる。


「腹筋ですべてを受け止め、45度の視線を会得し、闇に愛されし者」


俺、いつの間に闇に愛されたんだ?


「ゆえに――」


黒薔薇帝が一歩踏み出し、俺の前に立つ。


「今ここに、新たな名を授ける」


来た。


「その名は――」


一拍。


「――闇薔薇✝ゴージャス✝王子」


……。

…………。

……………………は?


頭が、真っ白になった。

いや、待ってほしい。

情報量が多すぎる。


闇。

薔薇。

ゴージャス。

王子。

全部乗せじゃないか。


「どうだ」


黒薔薇帝は、誇らしげに言った。


「美しいだろう」


「……」


言葉が出ない。


「闇を背負い、薔薇の宿命を纏い、なおかつ、ゴージャス。そして王子だ」


説明されても、何も解決しない。


「この名は、薔薇の呪いであり、祝福だ」


呪いって言った。

さらに追い打ちが来る。


「では最後に」


事務所スタッフの一人が、台本を差し出してきた。


「決め台詞の確認をお願いします」


「……決め台詞?」


「はい。今後、ステージやインタビューで使ってもらうので」


俺は恐る恐る、台本を開く。

そこに書かれていたのは――。


《さあ、今日もオレという奇跡が、夜を照らす時だ》

《闇がオレを包むほど、オレは輝く》

《オレを崇めろ、それが愛だ》

《――愛されすぎて、罪》


「……これを?」


「そう。かっこいいでしょ」


全然よくない。


「王子は愛される存在だからね」


誰が決めた。


黒薔薇帝は、満足そうに微笑んだ。


「いい台詞だ。お前に相応しい」


相応しくない。


「では、やってみよう」


逃げ場はなかった。

俺は、胸に手を当て、顎を上げ、視線を45度上空に向ける。

黒いファーのマントが、背中で揺れた。


「……」


一瞬、沈黙。


「……愛されすぎて」


声が震える。


「……罪」


言ってしまった。

ステージに、妙な静寂が落ちた。

次の瞬間。


「いい」


黒薔薇帝が、深く頷いた。


「完璧だ」


どこが。


「今日からお前は、ただのカイではない」


黒薔薇帝は、はっきりと告げた。


「闇薔薇✝ゴージャス✝王子として、生きろ」


その瞬間、俺は悟った。


――これは、もう後戻りできない。


こうして俺は、黒いファーのマントと、意味の分からない芸名と、「愛されすぎて、罪」という決め台詞を背負って、人生最大級の黒歴史を、公式にスタートさせたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ