山本タクミ(20)/配信者④
「はいはい今日も元気にやってますよー。今日は前々から要望のあったホラー系のカセットね、ゲットしたんでやってます」
『主、やつれた?』
『よく手に入ったなそのタイトル』
『この話怖い』
『有名すぎてつまらん』
『こんなやり方斬新すぎるだろ』
「もう既にね、既存のバグ以外のバグ、いくつか出てますからね、気になる方はアーカイブチェックしてくださいねー。いやーしかし、まさか自分にこんな日が来るなんてね、思ってなかったっすよ。初めて変なことが起きた時から加速度的に同接、再生回数、フォロワー、うなぎのぼりっすからねー」
『久々来てみたら、どうなってるw』
『主さん、何日寝てない?』
『ビジュアルもホラーに寄せるとは配信者の鑑よ』
『今、主さんに女の幽霊が覆いかぶさってます』
『はよゲーム進めろ』
『今日は何個バグが出るか』
「やー、見てくださいよこの目の下の隈、わかります? 配信ってこうして夜中やってるじゃないですか。で明け方終わって一応布団に入るんすよ。寝て、起きたらだいたい午後二時とか三時とかなんすけど、だからしっかり寝てるんすよね、睡眠時間的には」
『基本テキスト流れるだけならこんな配信環境じゃなくてよくね?』
『また外が騒がしい』
『隣の家、頭のおかしいおっさんが住んでるんだろ?』
『右足のない男が窓の外で何か叫んでます』
『完全昼夜逆転』
『新学期大変だぞー』
「時間的には寝てんすけど、なんつーんすかね、悪夢ばっか見てんすよ。高いところから落ちるとか、包丁持った女に追いかけられるとか、家が燃えてるのに閉じ込められてるとか、車でひき逃げされるとか。まあとにかく嫌な夢を見て、だいたい自分が死ぬ夢ばっかで、きっと俺、うなされてると思うんすよ? でも起こしてくれる彼女とかいないわけで。だから目が覚めなくて、時間的には寝てるけど寝た気しないって、そんな状況なんすよねー」
『霊障ですね』
『その話し方きもい』
『毎日同じ夢?』
『ゲームと同じ体験談とかつまんね』
『いや待て、こんな話このゲームにないぞ』
『なんだただのバグか』
「やっぱりね、こうして参加してくれる人の数が多いと自然とこうなっちゃうすよねー。どうせ俺、テキトーな話しかできないんで、少しでも不快感和らげようとね、これでも配信者として色々工夫してんすよ」
『○○○○ ¥1,000』
『おお、投げ銭飛ぶようになったんか主』
『今はこの画面をのぞき込んでる男の子が視えます』
「あ、投げ銭ありがとうございますー。こうしてね、最近はお恵みをくださる方もいたりなんかして、そのおかげでこの今日やってるゲームのカセット買えたのもあるんで、まじ有り難いすね」
『その前に機材買え』
『儲かってもこの環境だけは死守しろ』
『鏡をもっとでかいやつにしようぜ』
『カメラも一台で良いから高性能のやつ買おう』
「まあ機材はおいおい。っていうかこのスタイルだからイイみたいな、俺の強みみたいなとこあるんで、新しく買うかは悩ましいとこすよね」
『というか飯食ってんのか?』
『大学生は気ままでいいな』
『環境音拾いすぎ、風の音うるさい』
『風?』
『いつもの隣の騒音だろ』
「飯は食ってますよ。台所にあったそうめん茹でたり。でも基本自炊は苦手なんで、ほぼほぼコンビニにお世話になってますね。あ、そうめんは多分前に親が帰省した時の残りっすね。ちゃんと賞味期限確認したんで腹壊したりとかは大丈夫すよ。たまには別のものも食いたいすけど、なんというか、こんなふうにストイックに配信できるのも夏休みだけなんで。外食行く時間あったら、寝たり、攻略調べたりしたいっていうか。俺こう見えて、一応真面目な大学生なんで、学校始まったらちゃんと行くっすからね、配信に時間割けるのも今だけってことで」
『どうせすねかじりならもっと配信優先しろ』
『ゲームだけじゃなく部屋の中も撮れば?』
『人形!動いた!』
『子供の笑い声聞こえた気がする』
『いや、女の悲鳴だろ』
『後ろの日本人形が動いた気がする』
『目光った?』
『電気の反射だろ』
『主は聞こえなかったのか?』
「あー、だいたいこの時間なんすよね、なんか起こるの。今俺の後ろで、ずりって何かがちょっとだけ動く音が聞こえた気がするすけど、まあ気のせいすよ。だいたいこんなことでもういちいち驚いてらんないっていうか」
『人形の位置、確認して』
『こんな頻繁に色々起こるならオカルト系配信者に取り上げてもらお』
『ゲーム、まだ続くの? もう目が痛い』
『微妙に読みづらいんだよな』
『人形に女の魂が宿りました』
『チャッキーかよ』
「まあ俺の本業はゲーム配信者なんで。それにそういう方面詳しくないんすよねー。興味がないっていうか。まあでもそんなに言うならちょっと見てみますか。……んー、日本人形、ちょっと動いた跡があるすね。すげー埃被ってるんで、こう、ずらすと埃のないところが出て動いたのわかる感じで」
『やっぱ動いたんか』
『どうせ地震でちょっとズレたとかだろ』
『今すぐその人形から離れてください』
『主が人形が乗ってる棚にぶつかって揺れて動いてずれた可能性もある』
「まあ、俺が棚にぶつかったか、地震で動いたかのどっちかじゃないすかね。ずりって音がした気もしますけど、まあ空耳じゃないすかね。こんな夜中にホラーゲームやってんすから、そりゃちょっとはピリピリしますよ。見てくれてる人たちも、きっとそうなんじゃないすか」
『いや、絶対人形が動いたって』
『またガチャガチャいいだした』
『鎧を着た人が視えます』
『主に危機感はないのか』
『こんなゲームより部屋の定点配信でもやれよ』
「まあ、なんもなかったんでゲーム続行しますよ。あ、何か見えたり聞こえたりしたら、とりあえずコメントくださいね。どうせなんもないんすけど、一応確認だけはしますから。見逃した方は、もし映ってたら切り抜き上げるんで明日以降楽しみにしててくださいねー」