『釣りをする兄弟と箱入りプレスマン』
ある男が、日暮れ間近に、川沿いの道を通ると、釣りをしている男に呼び止められた。どこへ向かっているのか尋ねられたので、川沿いに川下へ行くのだと言うと、すまないが、川下に、俺と同じように釣りをしている男がいるはずだから、その男にこの手紙を渡してくれまいか、と言うので、お安いことだ、と引き受けた。男は、礼だと言って、スイカをくれた。うれしくなかった。
重たいスイカを持って、汗をかきかきしばらく歩いて行くと、さっきの男とよく似た風情の男が釣りをしていたので、きっとこの男だと思って、手紙を渡した。重たかったので、スイカも渡した。男は、手紙を読んで、そうか、そうなのか、とつぶやいたかと思うと、ちょっと待っていてくれ、と言って、川の中にざんぶと飛び込むと、黒プレスマンと緑プレスマンの箱入りを持って上がってきた。箱入りというのは十本入りである。
実は、俺たちは、カッパの兄弟なんだ。おいしそうなやつを見かけたら、川に引きずり込んで食べてしまうんだが、腹がいっぱいのときは、相手に贈り物にするんだ。ただ、きょうは、雑魚がたくさん釣れちまったんで、もう、腹いっぱいになっちまって、お前さんを食べられそうにないんだ。重たいスイカを運んでくれたお礼と言っちゃ何だけど、この宝物をやるよ。また暇なとき通ってくれよな、と言って、黒と緑の箱入りプレスマンをくれた。
男は、この道を二度と通らなかった。
教訓:箱入りプレスマン、って、大切にされていそう。