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第9話「爆炎の帳簿」

 次の休日、ゼントは商業学校を再び訪れていた。緊張と期待の入り混じった面持ちで、空き教室の一角に足を踏み入れる。

 古びた机には、紙製のカードと手書きの帳簿が並べられている。

 ライは椅子の背にゆっくり身を預けながら、それらを眺めていた。

「ふむ……取引、仕入れ、販売。そして税金の処理。だいたい流れは見えたよ」

 ゼントが言った。 「ただ、テンポが悪いですね」

 ライはカードのシャッフル方法やターン制のルールを細かく調整しながら言った。 「このままじゃ、つまらないかもしれない」

 ゼントは言葉に詰まった。

 その通りなのだ。

 どれだけ現実に即していようと、遊びとしての面白みがなければ、誰にも届かない。

 ライがカードの隅を指でなぞりながら言った。

「“罠カード”はどう? 税務調査とか、材料高騰とか……イベントがあった方が、緊張感が出る」

「それ、いいかも!」とゼントが返す。

 ライは続けた。

「“広告”や“移動販売”も加えてみよう。運の要素も入れれば、戦略だけじゃなくて盛り上がる」

 ルールが次々に肉付けされていく。

 ゼントの頭の中に、立体的なゲームの像が浮かび始めていた。

 帰り際、ライがぽつりと言った。

「名前、考えておいた方がいいね。いい名前があると、興味を持たれやすい」

 ゼントは苦笑しながら言った。

「……それが一番難しいかもしれません。こういうの、昔からネーミングセンスないって言われてて」

 その日の午後、ゼントは完成した試作品を抱えて、再びダルの工房を訪れた。

「なあ、ダル。ちょっと試してくれないか」

 床に広げられた紙のボード、カード、手書きの帳簿。

 初期資金を渡し、ターン制で取引と計算を始める。

 しばらくして、ダルが眉をひそめた。

「……つまんねえ」

「……やっぱりか」

 がっくりとうなだれるゼントを見て、ダルがニヤッと笑った。

「演出が足りねえんだよ。計算はできても、心が動かねえ」

「演出?」

「たとえば……砂が落ちきると、ガラスの底で赤く光る“時限爆炎装置”とかさ」

「なんだそれ」

「焦るだろ? 帳簿が間に合わなかったら、“爆発”する感じ」

 ダルはすでにスケッチを始めていた。

 小型魔晶石を使ったタイマー式の演出装置。時間が減ると、カチカチ音が早くなり、それとともに、炎が明滅し、最後に“ボン”と光る。

「これは……すごいな」とゼント。

 ダルは興奮しながら言った。「“帳簿を書く手が震えるゲーム”、いいじゃねえか」

「でも、名前がまだ決まってないんだ」

「んー……“ままごと経済”じゃ売れねえな」

「だからやめてくれ、それ」

 二人はしばらく頭をひねり、ふと思いついたようにゼントが言った。

「……市場全体のお金を“ワールドマネープール”って呼んで……」

 ダルが続けた。

「で、税で取られたやつを“タックスプール”に分ける」

「うわ、なんかイヤな名前だな。……税金が底なしの沼に吸い込まれていくみたいでさ」

「いいじゃねえか、妙にリアルで」

 笑い合いながらも、少しずつ、形が見えてくる。  ままごとじゃない。これは、“爆炎の帳簿”だ。

 そして、その帳簿は、やがて王都の教室で火を吹くことになる。

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