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第39話「挑戦者、ただいま演説中」

 観客は、まるで呼吸を忘れたかのようにステージを見つめていた。

 燃え上がる炎が、黒い台を揺らめくように照らし出す。


 その中央。ゼントがカードを静かに引き抜き、場に置いた。

 「では……俺のターン。仕入れカードをドロー」


 カードには「干しじゃが芋」「仕入れ価格:200」の文字。


 「さあ、ゼントが引いたカードはこれだ!」

 ダルが、野菜のデザインが描かれた札を観客に見えるように掲げた。魔力を通すと札はほのかに光を放ち、精緻なデザインがまるで浮かび上がるように見えた。


 最初は観客にわかりやすいよう、仕入れ交渉などは省略して、一連の流れを見せる構成になっていた。


 「伏せカードをセット。これで、ターン終了だ」

 「帳簿に記録。仕入れ200、売上345。税額は……」


 観客の中から、ざわめきが上がる。

 「なんだこれ、俺たちよりちゃんとやってるぞ……」「税金の計算まで、ぬかりねぇ……」


 「税は、タックスプールに入る」

 ダルが、ざわめきを遮るように説明した。


 タックスプールには青白い炎が灯り、ワールドマネープールの赤い炎が静かに揺れた。

 その様子に、会場が再びどよめいた。


 「次は私だな」

 観客の中で、ひとりの初老の男が腕を組み、目を細めていた。

 「……売上から税を抜いて、残りが利益……か。わしらが毎日やっとることと同じじゃな」


 そのつぶやきに、隣の若者が驚いたように振り向く。

 「ほんとだ……これ、ゲームってより……現実そのものかも」


 どこかで見たことがある――そんな顔をしている者も、ちらほらいた。まるで、仕組みをすでに理解しているかのように、静かにうなずく者もいる。


 ゼントたちは、こうして徐々に観客をゲームの世界へ引き込んでいった。


 値引き交渉に失敗したときは、わかりやすく肩を落とす。罠カードにやられたときは、膝をつく。まるで、本当にダメージがあったかのように。


 小さな子どもたちは、本当に何かと戦っていると信じているようだった。


 やがて、どこからともなく声が上がる。

 「ゼントがんばれ!」


 一人の男が、思い出したように野次を飛ばした。おそらく現市長の差し金だろう。

 「こ、こんな……子どもだましみたいな……いや、その、ゲームで……その……!」


 言葉がうまくつながらず、何を言いたいのかも定かではない。ただ、何か言わなければならないという焦りだけが、声を震わせていた。


 だが、その叫びは空回りしていた。会場の空気からは明らかに浮いていた。

 会場の視線が突き刺さる。「うるせぇ、黙ってろ」とでも言いたげだった。


 男たちは気まずそうに肩をすくめ、それ以上は何も言うことができず、そそくさと身を引いた。


 ゲームは終盤を迎え、ワールドマネープールは目に見えて減っていった。交渉も販売も次第に成功しづらくなり、在庫だけが積み上がっていく。


 プレイヤーの資金を示す炎はほとんど消えかけ、いまや――タックスプールの青白い炎だけが、煌々と光を放っていた。


 ライはカードを引き、手元の帳簿を確認しながら、観客に向けて声を張った。

 「……くっ……赤字になるが、売るしかない!」


 彼が選んだ販売価格は、仕入れ値を下回っていた。


 ライの資金を示す赤い炎が、かすかに揺れて消えた。


 会場の空気が、静かに、だが確かに変わっていくのがわかった。

 そして、観客の中に、少しずつ――“これはゲームなんかじゃない”という空気が広がっていった。


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