表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消費税と異世界召喚からは逃れられない!  作者: Haynory(はいのりぃ)
1/6

第1話「壁を削る音」


がり……ごり……。


やわらかいものが、石畳をこすっていく音。

血の匂い。うめき声。鎖の音。


視線を下ろすと、自分の両手が赤い。指先から滴っている。


──なにを、した?


ガシャリ、と鎖の音。

そこで初めて、誰かがつながれているのを見る。

でもその顔は、はっきりしない。


「おまえのせいだ」


その言葉だけが、耳に残った。


「……ん、のど、……いて」


口を閉じようとして、気づいた。

舌が、上あごに張りついていた。


のどが痛い。口の中はカラカラで、唾液がどこにもない。


それでもなんとか舌を剥がして、唾を飲み込もうとするが……ごくり、とはいかない。


目を開けると、天井の蛍光灯がまぶしく光っていた。

いつもの、長方形の白い光。でも、妙にまぶしい。


灰色の天井も、机の並びも見慣れているはずなのに、どこか遠く感じる。


──ああ、寝てたのか。


自分が口を開けたまま上を向いて寝ていたと気づいて、思わず頬が熱くなる。

あわてて身を起こし、周囲を見まわす。


教室は薄暗く、カーテン越しの午後の日差しに包まれている。


前の席の女子はノートをとっているふりで、スマホを膝の上に。

斜め後ろの男子は、ペンを回しては落として拾ってを繰り返している。


教壇では、催眠音波のような声が、抑揚もなく淡々と流れ続けている。


「経済活動とは、交換と分配の連鎖によって構成され……その基盤には信用という概念が存在し……税は、このように輸出企業にとっては優遇的に作用し……一方で、低所得者層にとっては逆累進性を持ち……逆累進性とは、所得が低いほど税負担が相対的に重くなることであり……」


まるで子守唄のように、単語が浮かんでは消えていく。


教室。現実。

なのに……胸の奥に、奇妙なざわつきが残っている。


夢のことを、覚えている。

あの音。


がり……ごり……。

やわらかいものが、石畳をこすっていく音。

血の匂い。うめき声。鎖の音。そして──


「……おまえの、せいだ」


声だけが、耳の奥にこびりついて離れない。

※本作はフィクションです。登場する人物・団体・制度などはすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ