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命がけの人助け

普通の高校生が自身の信念から危険を顧みず人を助ける話です。

 ある日の放課後、西波多高校一年生の晴樹は家が近い友達がいないため一人で帰路についていた。学校からは電車で45分程度、さらに最寄駅から15分程度歩く。歩いている途中は中学の時の通学路とはまた違う新鮮な道を楽しむことを日課にしていた。若干寄り道しながらも少しずつ家に近づきかえっていく。そんななかかすかに声が聞こえた。子供の声。悲鳴だ。

「だれか助けて!」

大変だと大急ぎで向かう。声が聞こえる先には人通りのない神社がある。おふざけでなんともなければそれで済む話だ。しかし念のため、確認のため走る。何ができるかはわからないのでいったん恐る恐る近づき少し離れたところで様子を見る。

腹から血を出し倒れている男がいた。医療の知識はないが放っておくとすぐに死ぬであろうことが直感でわかる。それほどのけがだった。隣には黒髪の女がいた。凍えた目で倒れている男を見ている。明らかに助けるつもりの人や、偶然居合わせた人の目つきではない。血が手と袖口についている。周囲の様子を理解するのと数秒遅れでその周辺がやけに冷えていることにも気づいた。危機感を覚え冷汗が出る。周りを見渡すがほかに人はいない。

「お願い、お父さんを助けて。」

突然足元から声がした。悲鳴の声だ。しかし足元には誰もいない。声だけでなく手のような感触もあった。恐る恐る手を伸ばすと何かいる。ぼやけながらも少しづつ何かが見えてきた。小学二年生ぐらいの女の子だ。ボロボロと泣いている。何もないところに突然現れた少女に驚かされる。しかし今はそんなことは言ってられない。何か知っているのだろうと思い、身長を合わせるためにかがみながら小さな声で話しかける。

「大丈夫?なにがあったの?」

「あの人にお父さんが刺されたの。お兄さん、お父さんを助けて。あのままじゃお父さんが死んじゃう。」

必死で訴えかける少女。怖かったのだろう。父親を思う気持ちがひしひしと伝わってくる。何とかしなくちゃと思うものの現状が恐ろしすぎる。到底動けそうにない。隠れて様子をうかがう。

「そこにいるのは誰だ。」

女が晴樹の存在に気づいた。凍てつく空気。視線まで冷え切っていた。女は警戒しながらゆっくりと近いてくる。晴樹は当然犯罪者の前に立ったことなどない。恐怖に足がすくむ。近づくにつれて恐怖が大きくなる。それでも必死に冷静でいようと恐怖を押しのけ、行動しようと頭を回転させる。そんな中、倒れている男が話し始めた。

「お願いです。紗月を連れて逃げてください。その女の狙いは紗月です。お願いします。」

小さな声だった。ギリギリ聞き取れるような震えだすような声だった。しかし泣いている少女には声が聞こえていないようだ。

「まだ生きているのか。しぶといやつ。」

女はめんどくさそうに手を宙にかざした。さっきは何もなかった手には刀が握られていた。男の腹に振り下ろす。今までの傷に加えてさらに血が出る。それでも絞り出すように声を出す。

「む、娘を、た、助けて下さい。少しでも遠くに。」

必死な声に体が動かされ、気づいたときには少女を抱えて走り出した。


神社から200メートルほど走り少しづつ住宅が見えてきた。女は追ってきてはいないが安全のため身を隠したい。隠れるために適当に一軒選び窓から中に入る。不法侵入だが気にしてる余裕はない。幸い住人は出かけているようで家に人の気配はなかった。部屋に入り、適当な押入れの中に少女を入れる。少女はまだ泣いている。緊張をほぐすためにちょっと話を聞く。

「紗月ちゃん、大丈夫?ケガしてない?」

「うん。さつきは大丈夫。・・・お父さん大丈夫かな?死んじゃうのかな?」

呼吸が荒く、泣きじゃくっている。

「あの女の人とお父さんね、さつきのこと話してたの。さつきの不思議な力のこと話してたの。」

「不思議な力?」

「さつきね、小さいときから透明になれるの。ほかの人にはできないことができるの。」

「透明になれるの?」

うなずき疑問に答えるように透明になる。さっき体が透けて見えたのも目の錯覚などではなくこのことだったようだ。どうやってやってるの、とか聞きたいことはやまやまだが、今はそれはそれと飲み込んで紗月の話を聞くのが先決だとぐっとこらえた。

「あの女の人、お父さんとそのこと話してたの。・・・もしかして私のせいなのかな?」

「・・・お父さんはきっと大丈夫だよ。だから紗月ちゃんのせいじゃないよ。心配しないで。」

何も根拠はなかった。落ち着かせるためだけに嘘をついていた。自分を追い込む少女がかわいそうで仕方なかった。心苦しいものがあったが笑顔で心の内がばれないように明るく振る舞っていた。

「・・・本当?本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。・・・俺、この後さっきの場所に戻って助けに行くからさ。安心していいよ。」

嘘を重ねることはつらかった。しかし紗月を落ち着かせることに頭がいっぱいでその場を取り繕うことしかできなかった。少し安心したみたいだがそれでもまだ不安が残っているようだ。何かないかと考えているうちに一つ思い出した。

「・・・そうだ。これ。貸してあげるよ。」

ポケットからネックレスを出す。指輪がついているネックレスだ。

「これはね、俺の親がくれたお守りだよ。これにお願いしたらね、神様が願いをかなえてくれるんだって。すごい効果があるんだよ。」

ちょっと安心したようで少し涙も落ち着いた。自分にできることがあって落ち着いたのだろう。

「ほんとに?ありがとう、えっと・・・」

「俺の名前?水縹晴樹だよ。しばらくの間ここに隠れててね。」

「ありがとう、春樹お兄ちゃん。」

直後みるみる体が透けていく。これで三度目だがやはりなれず驚きが隠せない。それでも、それ以上に少し元気を取り戻した紗月を見て一安心した。押入れの扉を閉める。晴樹は、怒っていた。どうして幼い子供がこんな目に合わないといけないんだと。こんな状況でも父親のことを心配するような優しい子がなくなんてかわいそうだと思っていた。そして何もできない自分が少し悔しかった。本当はこんな時俺が来たからもう大丈夫だといえるような人でありたかった。子供の頃憧れたヒーローのようにさっそうと少女とその父親を救い出したいと考えていた。しかし現実はそう甘くない。憤りを感じながら警察に電話をかけようとスマホをポケットから出した。念のためと押入れから少し離れて廊下に出る。電話のアプリを開き110につなぐ。少し寒気がした。突然待ち時間のコールが止まる。スマホが粉々に砕けていた。

「見つけた。もう逃がさないわ。」

玄関に黒い服を着た女がいた。神社にいた女だ。話の内容のわりに服装も、呼吸も一つも荒れていない。

「騒いだら殺す。おとなしくして。」

女は呼吸一つあれておらず、とても落ち着いていた。


「え、あ、なんでここに?」

「GPSよ。あの子の靴に仕込んでおいたの。あの子をさらうために。」

恐ろしかった。かなわないと思ってしまった。このまま死ぬと思ってしまってしまった。だけど少しでもなにかないかと、助かる可能性を探そうと頭をフル回転させながらとりあえず時間を稼ごうと声を出す。

「なんで紗月ちゃんを狙うんだ。あの子が透明になれる不思議な力を持ってるから?」

恐怖の中恐る恐る、しかし、それがばれないようなるべく堂々と話をする。

「あの子の力のことを知ってるの?それならわかるでしょ。あの便利な力を利用しない手はない。」

ブラフを見通してか、それとも絶対的な自信からか、淡々とした口調で話を続ける。恐怖は増す一方だった。

「紗月ちゃんのお父さんを刺したのは?あんな恐ろしいことして許されると思ってるのか?」

「恐ろしいこと?勘違いしないで、私は別に争いがしたかったわけじゃない。」

言ってることが矛盾している。紗月の父親は血まみれで倒れていた。抵抗したようには見えなかったし、話を聞く限り女の方から襲ったで間違いない。晴樹には女が何をどのように考えて喋っているのかさっぱりわからなかった。

「仕方なかったのよ。あの子一人さらえばそれで目的達成だったのにずっと一緒にいて離れないから。邪魔だったのよ。」

「何無茶苦茶なこと言ってるんだ。仕方なかったで人を刺していいわけないだろ。紗月ちゃんがどれだけ傷ついたと思ってるんだ!」

「それは問題ないわ。さらった後で洗脳するから。覚えてないなら傷ついたなんて話にはならないわ。あんな父親のことなんかすぐに忘れさせてあげる。」

晴樹は、本気で怒っていた。心のうちにあった恐怖を覆い、かき消すほど怒っていた。とてもこいつを許すことができない。それだけで心がいっぱいだった。

「安心できた?ならおとなしくあの子を引き渡してくれないかしら。あなたは見逃してあげるから。私は平和主義者だからあなたとも争いごとをする気はないの。これでだれも傷つかずにすむ。全員が幸せになれる取引じゃない?」

怒りの限界だった。思いっきりこぶしを握り込む。あれだけ父親のことを思っている少女が父親のことを忘れて幸せになれるわけない。なにも人の心がわかっちゃいない。

「何が安心だ!幼い子供にお前の勝手を押し付けるな!」

「わかってくれないの?残念。」

全力で殴り掛かる晴樹の手を軽々とした動作で受けた。そのまま反対方向に背中をけりつける。普段けんかをしているわけでもない、格闘技をしているわけでもない晴樹にはとても痛かった。一瞬呼吸が止まる。

「さっさと差し出せばいいのに。父親はかばうだろうと予想できたし、だから交渉なんてせず刺した。だけどあなたは他人でしょう。痛めつけられてまでかばう必要ないじゃない。さっさと家にでも帰った方が自分のためよ。」

「それは嫌だ。」

けられた痛みを感じながらもゆっくりと体を起こす。

「この先、そんな不幸な道を歩むのが決まってるのに「はいそうですね」とやすやすと見捨てられない。自分の安全のためだとしても俺はそれを割り切れる人間じゃない。」

「不幸じゃないわよ。さっきも言ったけどきちんと洗脳するもの。父親のことを思い出すことはもう二度とないわ。それで十分じゃない。」

不思議そうに尋ねる。本気で何に怒っているのかわからないのだ。女は本気で交渉をしているつもりだ。

「紗月ちゃんはまず最初にお父さんを助けてっていってたんだ。あれだけ怖い目にあって、自分のことより先に父親のことを。そんな大好きな父親のことを忘れて生きていくことの何が幸せだ!そんなこともわからないのか!」

思わず声を荒げながら突き返す。一方やはり女は不思議そうな顔をしている。

「好きだったことも忘れるから問題ないじゃない。生まれ変わると思ってもらってもいいかもしれないわ。一度出会っただけの店員を思い出せないからってなにも思わないでしょう。それと同じよ。」

何故理解できないのかといった顔をしていた。

「お前は人の気持ちを何だと思ってるんだ!」

「正義のヒーローみたいなこと言うのね。子供みたいでうっとうしい。理論的に話し合っても解決できないなら・・・あきらめても仕方ない状況をあげる。」

まわりの空気が冷えていく。女が手を宙にかざすとそこには透明の刀のようなものができていた。

「私もあの子と同じように不思議な力を持ってるの。これが私の能力。ものを凍り付かせる。これがあればあなたを刺し殺すぐらいできるわ。あなたを凍り付かせることもできる。つまり丸腰のあなたじゃ勝てない。わかったらさっさと逃げなさい。最後のチャンスよ。」

ほんの少し苛立った様子だった。自分の思い通りにいかないことが気に食わないようだった。

「いやだね、誰が逃げるか。」

玄関にあった傘を手に取る。剣のように構えて殴りかかった。上から下への大振り。女は傘を防ごうと氷でできた刀を横にもち頭の上で構える。傘が刀にあたった瞬間、傘から手を離した。ボタンを押して傘を開く。

「刀持った相手に真正面からは戦わねえよ!」

傘の目隠しだ。体をひねらせながらがら空きのお腹にけりを入れる。しかし、女は片手で防いだ。余裕たっぷりに。防いだ手で足を持つ。そのまま床に力いっぱいにたたきつけた。体を足で押さえ、思いっ切り踏みつける。口元に手を持っていき声が出ないように口を凍らせる。

「残念ね本当に。なるべく事を荒立てずに進めたかったのだけれどもうまくいかないものね。」

氷でできた刀を腹に突き立てた。ひどい痛みが晴樹を襲う。しかし口をふさがれているため悲鳴は出ない。そのまま二、三度体を突き刺し血まみれになったことを確認し能力を解除した。口の氷と刀が溶けてなくなる。

「逃げればよかったのに。つまらない正義感で命を落とすなんてバカみたいなやつ。」

女は計画通りに物事を進めることをよしとしていた。争わず、なるべく目立つことのないようにことを進めるつもりでいた。そのため計画にない晴樹と戦うことを本気で避けたがっていた。このまま家に帰れば見逃すつもりで説得していた。しかし、現実には説得はうまくいかず歯向かわれている。そのため少しいらだっていた。

 改めてスマホを取り出しGPSの位置を確認する。家に入ってきた時と変わらずこの先の部屋の隅にいることを確認した。晴樹に背を向け歩き始める。その時、背中に大きな衝撃が走った。吹き飛ばされる。突然のことに一瞬驚くがすぐに冷静さを取り戻し状況を確認する。そこには晴樹がたっていた。おおよそ刺されたとは思えない力で殴り掛かってきていた。続けざまに殴り掛かる。反撃しながらよける女。刀が晴のほほをかすめた。少し血が出る。距離をとり警戒する。一瞬の警戒の後、晴樹のほほの傷が消えていた。

「傷が消えている。何かの能力ね。」

晴樹は自分の傷が消えていることにこの時気づいた。刺された大けがも治っていた。当然能力に心当たりもなかった。

「・・・俺の能力は・・・その・・・火を出す能力だよ。むっちゃ強いぞ。次はお前が逃げる番だぞ。」

嘘だった。晴には自分の能力が何なのかからっきしわかっていなかった。どうやってつかっているのかもわからなかった。このまま戦っても勝ち目はない、と考えて始めた苦し紛れの策だった。

「・・・嘘。自分の能力のことよくわかってないようね。」

一瞬でばれた。顔に出ていたのかもしれない。

「能力を持っているなら慎重にいきましょう。」

女の方から動いた。確実に当てられるよう今までとは違うスピードで殴る。しかし晴樹は殴りりかかる手をよけた。ギリギリだが偶然などではなく確実に見て反応してよけていた。よろける体を半ば無理やり支え殴り掛かる。女は拳を氷を出して防ぐ。

「痛ってえ、くそ。」

氷の厚さは十分に、30cmはあった。しかし殴られた衝撃でボロボロに割れていた。確実にさっきよりも威力が上がっているようだ。痛がる晴樹をよそに警戒を強めていた。能力には様々なものがある。もしかしたらここら一帯が吹き飛ぶような能力かもしれない。そう思い、確実に一段階力が上がったところをみて警戒を強めていた。簡単に一撃で仕留めることもできた。しかし、急に発言した謎の能力に対する警戒がそれを止める。女は小さな刀を作り出した。能力の正体を暴くため少しだけ様子見をするつもりだ。一方、晴樹は少し下がり玄関にある置物を手に取っていた。

「これでも喰らえ!」

思いっきり投げつける。女は小刀を使って弾き飛ばした。とんだ先の壁には大きく穴が開いていた。玄関で傘をとり殴り掛かる。小刀に傘が当たる直前手を放し傘を開く。傘の目隠しだ。女は小刀で傘を弾き飛ばす。直後置物が飛んできていた。視線を奪った瞬間に投げていたのだ。女は小刀を投げつけた。投げた小刀は置物にささり、そのまま晴樹の頭めがけて飛んでいく。勢いが速くよけきれない。すぐにそれを察し頭を手で守る。しかしどう見ても受け取れる速さではない。間違いなく頭蓋が砕けるだろう。直感でそれがわかった。身を守るために出した手にあたる。後ろへと転がる落ちる。

「・・・死んだか?能力はわからなかったけど、まあ仕方ない。」

倒れている様子を観察するため、念のため慎重に近づく。仕留めたと思ったが当たったはずの頭からは血も出ていない。手には置物が握られていた。

「くっそ。痛い。ちくしょお。」

ぼやきながら起き上がる。痛む頭を手で押さえる。握っていた手が開いた瞬間、置物がゆっくりと落下していく。一m程度落ちるのに5秒近くかかった。明らかに不自然だった。しかし、これを見た瞬間女は気づいた。

「・・・お前のその能力、時間の操作だな?」

こう考えることですべてのつじつまが合った。傷の回復は時間の逆再生、身体能力の底上げは自身の加速、そして今目の前で起こった落下の不自然はものの原則だと考えられる。この言葉で晴も自信の能力に気づいた。今まで直感で動かしていたあれやこれに納得がいっていた。歯車がかみ合ったみたいに腑に落ちていた。

「能力がわかったいま・・・もう様子見をする必要ないわ。終わりにしましょう。」

女の心配は謎の能力による少女の死亡だった。もし謎の能力により家が全壊するような爆発があったとしても死なない自信があった。しかし、少女を確実に守れるかにはほんのわずかに疑問があった。そのため今までは様子を見ていた。しかし、能力が時間の操作と分かった以上それも必要ない。爆発もないだろうと踏んで勝負に決着をつけることを決めた。

 まずは動きを止めることを決めた。動かれることと傷の回復を警戒してのものだ。すぐに刀を生み出し右手と左足を切りつける。痛みを感じた直後、傷口が凍り付き始めた。

「なっ」

すぐに左手で氷を壊そうと殴り掛かる。今回の氷は分厚く割れそうにない。どうしようかと一瞬考えるもすぐにある考えが頭に浮かぶ。少しの緊張の後凍り付いた右手を半ば無理やり振り回し殴り掛かった。しかし重くまともに動けない。当然女はその機を逃さない。残る左手と右足も同じように切りつける。同じように凍り付く。全身の重さに耐えられず転んでしまう。

「動けなくしてから首をとる。これで終わりね。」

首に狙いを定め刀を振り上げる。その瞬間、氷から右手が抜けた。体を半分おこし、力をこめぶん殴る。虚を突かれたようでもろに拳が入る。

「おっしゃ、ざまーみろ、ボケ。」

晴樹は自身の能力の使い方を少し理解していた。時間を進めることで右手についた氷を溶かす。直感で能力を使ってい、実行していた。女は殴られはしたが痛みは感じていなかった。まったく変わらない表情で顔を殴りつけ、口を凍らせる。晴樹の全力の抵抗もほんの少しのアクシデント程度に思っている。右手も切り付けられ再び完全に動けなくなる。

「計画がひどく崩れたわ。取り戻さないといけないの。いい加減に邪魔しないで。」

首に狙いを定める。思いっきり刀を振り上げた。もう動く方法もない。絶体絶命だ。目をつむり死の恐怖におびえる。しかし数秒たっても何も痛みも感じない。恐る恐る目を開けると振り下ろされるはずの刀は止まっていた。女は玄関の先の誰かを見ていた。


 「その子から離れろ。」

玄関の先にいる人が言う。ずっと余裕めいていた表情をしていた女の表情がほんの少しだが崩れたような気がした。少しの間にらみ合った後玄関に向かって歩き始めた。

「時間をかけすぎたようね。続きはまた今度。」

外に出た瞬間消えるようにいなくなった。少しして玄関から人が入ってきた。先ほど女に警告した人だ。

「遅れてごめんね。もう大丈夫よ。」

優しく、温かい声だった。声から女の人だとわかった。晴樹の手足についた氷を軽々と破壊する。明らかに晴樹以上の力を持っていた。

「怪我はなさそうだね。よく頑張ったね。」

「あ、あなたは、誰・・・ですか?」

「私は裏葉柳陽菜。能力を悪用するやつを捕まえる仕事をしているの。近くの神社で倒れている紗月ちゃんの父親って人から話を聞いてきたんだ。紗月ちゃんはどこにいるの?」

助けてくれたことから信頼してもいいと思い場所を教える。押入れを開けても誰もいないように見えた。しかし少しして透明化を解除した紗月が現れた。

「もう大丈夫だよ、紗月ちゃん。」

「晴樹お兄ちゃん、・・・怪我はないみたいでよかった。」

暗い声で話す。表情もまだおびえている。。ずっと嫌な考えが頭を離れずついていた。

「・・・お父さんのところに向かおうか。」

三人は急いで神社へ向かう。紗月は移動の最中何一つ言葉を話さなかった。


 紗月の父親はボロボロになって倒れていた。血まみれだがかろうじて息があるって感じだった。紗月は父親の手を握り必死に呼びかけていた。

「お父さん、起きて!お父さん!」

返事はなかった。限界を迎えしゃべることができないといった様子だ。

「応急処置は済ませているし、助けは読んでいる。だけど、間に合うかどうか・・・。」

紗月に聞こえないように小さな声で話す。幼い少女に聞かせるにはあまりに残酷でとても口にはできなかった。人の少ない静かな神社、少女の鳴き声が響く。絶望のさなか、晴樹は、あることを考えていた。あの女が言っていた能力、けがを治した能力、この人に使えないかと。紗月が握る手の反対側を握り何とか治せないかとと祈る。強く強く願うが何も変わらない。その様子を見て陽菜は質問する。

「何してるの、それ?」

「俺、あの女と対峙したとき自分のけがを治せたんです。この人も直せるんじゃないかと思ってやってるんですよ。あの時少し使い方が分かった気がするし、いけるはず。」

話を聞いていた紗月もお守りを取り出し手を握りながら強く祈る。震える手に力をこめ必死に握っていた。

「約束したんだよ。紗月ちゃんとお父さんに合わせてあげるって。だからお願い!」

長い10秒ほどが経った。少しづつ怪我が治っていってる。少しづつ、ほんの少しづつだが怪我が治っていく。腹に開いた穴が塞がっていく。

「す、すごい。これなら助かるかもしれない。」

「本当?お父さん助かるの?本当に?」

大喜びする紗月。嬉しそうに笑顔でいる。晴樹にとって初めてみた紗月の笑顔だった。

「すごい、本当にすごいわ。」

陽菜もつられて笑顔で一緒に喜ぶ。

「よ、よかった。・・・約束、果たせそうで・・・」

体から何かが抜けていく。徐々に体が支えられなくなる。ついには目の前が真っ暗になり倒れてしまった。


 見知らぬ天井。腕につながるカテーテル。点滴の液がぽたぽたと落ちる。

「ここは・・・」

病院だ。晴は気が付いたらベットの上にいた。ゆっくりとあたりを見回す。隣にはわなわなと震える紗月がいた。

「お兄ちゃんの目が覚めた。お父さーん!」

隣のベットを揺らす。そこには  の父親がいた。

「娘から話を聞きました。水縹さん、私と娘を助けていただきありがとうございました。おかげでこうして娘とも無事再会できてもうなんとお礼を言ったらいいか。」

「お兄ちゃん、ありがとう。」

深々と頭を下げる二人。すっかり回復したようだ。

「いや、そんな。・・・あんまり気にしないでください。」

ちょっとこっぱずかしく照れていた。それでも幸せそうに笑う二人を見るとうれしかった。

「あの時一緒にいたお姉ちゃんも目が覚めたら来るって言ってたよ。お兄ちゃんのお父さんとお母さんにも連絡してるから慌てずゆっくり休んでくれって言ってた。」

「丸二日寝てたんです。完全に体が治るまで休んでください。」

「二日?俺そんなに寝てたの?」

驚き体を動かすと激痛が走る。いててと体をいたわるように再び横になる。

「なんだこれ、全身無茶苦茶痛い。」

「無理しない方がいいですよ。できないことは何でもやりますので何でも言ってください。」

「紗月も!お兄ちゃんに恩返しする!」

「えー、なんか恥ずかしいな。・・・それじゃしばらくの間お世話になります。」

照れながら返事をする。

「ジュースとか飲みますか?それともおやつでも食べますか?チョコでもケーキでもありますよ。漫画もありますよ。今週のジャンプ読みますか?」

いつの間にか用意されていたジュースとおやつを両手に持って尋ねる。本来は結構陽気な人なのだろう。体に残る疲れや痛みなんかどうでもよくなるぐらい、二人を助けることができてよかったと心の奥底から思った。

直した方がいいところなどあれば教えていただきたいです。

順次編集し、更新していくつもりです。

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