「時の交差点で」
凛の指が銀時計の針に触れた瞬間、世界が大きく震えた。まるで時間そのものが息を呑んだかのように、空間が静寂に包まれる。
「……やっと、君に会えた」
背後から聞こえた声に、彼女の心臓が跳ね上がる。振り返ると、そこには青年が立っていた。彼の深い瞳はどこか懐かしく、それでいてどこか寂しげだった。
「あなたは……?」
青年は微笑み、ゆっくりと近づいてきた。凛の鼓動が速くなる。彼の存在があまりに現実感を伴いすぎていた。
「僕は君が選ばなかった時間の中で、ずっと君を待っていた」
「待っていた……?」
凛は青年の言葉に戸惑いながらも、どこかで確信していた。彼は、自分が失った時間の欠片なのだ。
青年がそっと彼女の頬に触れる。指先が触れた瞬間、凛の脳裏に走馬灯のように過去の記憶が流れ込んだ。
「これは……私の記憶?」
「そうだよ。僕と君が一緒にいた時間の記憶。でも、それは君が選ばなかった未来」
彼の切なげな表情に、凛の胸が締め付けられる。目の前の彼を信じていいのか、それとも——。
青年がゆっくりと凛の手を握る。彼の体温が、時の狭間で冷え切った凛の指先を温める。
「もう一度、僕と一緒に時間を選んでくれないか?」
甘く囁かれた言葉に、凛は目を見開いた。彼の瞳に映る自分が、まるで答えを求めているかのように揺れている。
「……私が選べば、どうなるの?」
「君の未来は変わる。僕と共に歩む時間が、新しい運命になる」
彼の手がそっと凛の腰を引き寄せる。彼の顔が近づくにつれ、彼女の心臓はますます高鳴っていく。