「交錯する時の狭間」
凛の目の前で歪んでいた空間が、ゆっくりと収束していく。彼女の脳裏には、これまでに見たこともないほど鮮明な記憶が流れ込んでいた。
「僕は君を……ずっと待っていたんだ」
どこかで聞いたことのある声。遠い記憶の中に沈んでいたその言葉が、凛の胸を締め付けた。
足元に広がる時計の針は、まるで彼女の決断を試すかのように不規則に回転していた。
「時間を選ぶ……?」
時守の言葉を反芻する。目の前の崩れかけた時計塔、そして過去と現在が交錯するこの世界で、彼女はどんな未来を選ぶべきなのか。
静寂を破るように、黒い影が蠢き始めた。彼らは時間の狭間に閉じ込められた魂なのか、それとも、別の可能性を選んだ未来の亡霊なのか。
「あなたは……誰?」
凛は目の前に現れた人物に問いかけた。そこに立っていたのは、かつて時計塔の下で約束を交わした青年だった。しかし、その表情にはかすかな悲しみが浮かんでいる。
「君が選ばなかった未来だよ」
静かに告げられた言葉の重さが、彼女の心を揺さぶった。
「この世界には、無数の時間が存在する。どれを選ぶかはお前次第だ」
時守が時計を指差しながら言う。
凛の手の中にある銀時計が輝きを増し、時の境界を超える鍵となることを示していた。彼女が踏み出す一歩が、この世界の運命を左右する。
「私は……」
彼女は目を閉じ、ゆっくりと息を整えた。そして、意を決して時計の針に手を伸ばす。