「時の選択」
黒い影が迫る。凛は時計を強く握りしめた。冷たい空気が肌を刺し、鼓動が激しくなる。
「思い出せ、自分の時間を——」
時守の声が遠く響く。しかし、記憶の扉は容易に開かない。影の手が凛の肩に触れようとした瞬間、時計が青白い光を放った。
「——!」
次の瞬間、彼女の身体は宙に浮き、強い力で引き寄せられる。光の渦の中で、過去の記憶が鮮明になっていった。
目の前に広がるのは、凛がまだ幼かった頃の世界。見覚えのある街並み、人々の姿。しかし、そこにはひとつだけ違うものがあった。
「これは……?」
街の中心にそびえる時計塔。その時計盤が割れていた。
「時間が……壊れてる?」
「そうだ。お前の選択が、この世界を作り出した」
時守が彼女の横に立っていた。穏やかだが、その目は鋭い。
「私の……選択?」
「時間は常に分岐する。お前はどの時間を選ぶべきか、試されている」
時計塔が響く音とともに、空間が歪み始めた。
再び、記憶の欠片が流れ込む。幼い頃の彼女と、あの青年が時計塔の下に立っていた。
「凛、時間を超えても、僕は君を守る」
青年の手には、同じ銀時計があった。
「あなたは……?」
彼の顔がかすかに揺らぎ、記憶が曖昧になっていく。
「このままでは、時間が崩壊する。凛、お前はどの時間を選ぶ?」
時守の問いかけに、凛は深く息を吸った。
彼女の選択が、未来を決める。