「運命の歯車」
懐中時計が静かに時を刻む音が、凛の耳に響いていた。
目の前に立つ朝霧怜——彼の姿は、夢の中で出会った黎とあまりにも似ていた。しかし、彼の名は違うし、現実に存在する人間だった。では、あの夢は一体何だったのか?
「何かお探しですか?」
怜が微笑みながら問いかける。
「……この時計について知りたいんです」
凛は手にした銀時計をそっと差し出した。怜はそれを見つめ、静かに受け取る。
「これは……古い時計ですね。どこで見つけました?」
「昨日、道端で……拾ったんです。でも、それ以来、奇妙な夢を見るようになって……」
凛が説明すると、怜の表情が一瞬だけ険しくなった。だが、それはすぐに消え、彼は静かに時計を開いた。
「なるほど……これは、時を超える時計かもしれませんね」
「時を……超える?」
怜は微かに微笑む。
「何か心当たりがあるんですか?」
凛の問いに、怜は時計を閉じ、彼女に返した。
「少し調べてみます。何かわかったら、お伝えしますよ」
彼の態度は穏やかだったが、どこか謎めいていた。
凛は時計を握りしめ、怜の瞳を見つめた。
「……お願い、します」
その夜。
再び、凛は夢の中で黎と出会った。
「……また、来たんだね」
黎は白い花が咲き誇る庭園の中で、静かに彼女を見つめていた。
「あなたは……誰なの?」
凛は問いかけた。
「僕は、君の記憶の一部だよ」
「記憶の一部……?」
黎は微笑む。
「君は本当は、僕のことを知っている。でも、忘れてしまったんだ」
凛の胸に、淡い痛みが走った。
彼の言葉が真実ならば——自分は何を忘れてしまったのだろう?
目を覚ますと、凛は時計を握りしめていた。
「……何が真実なの?」
彼女はため息をつきながら、再びアンティークショップへと向かった。
怜は店の奥で何かの書物を読んでいた。
「おはようございます、水瀬さん」
「何かわかりましたか?」
怜は本を閉じ、彼女を見つめた。
「この時計……過去と未来を繋ぐ特別なものかもしれません」
「どういう意味ですか?」
「つまり……君がこの時計を持つことで、過去の記憶が揺り戻される可能性がある、ということです」
凛の心臓が跳ね上がる。
「私が……何かを思い出す?」
怜は静かに頷いた。
「そして、その記憶こそが、君の運命を決めるかもしれません」
水瀬 凛(19)
大学1年生。好奇心旺盛だが、自分の過去に関しては意外と無頓着。銀時計を拾ったことで運命が狂い始める。
黎(???)
夢の中で現れる謎の青年。凛に「一度愛した」と語るが、その真意は不明。彼の正体とは?
朝霧 怜(22)
アンティークショップの店主。端正な顔立ちと冷静な物腰だが、時折寂しげな表情を見せる。黎にそっくりな容姿を持つ。
時守(???)
銀時計に関わる存在。彼の言葉には、凛の記憶を取り戻すヒントが隠されている。