表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

「揺れる心」

 光が収まり、凛と青年は新たな時間の流れの中に立っていた。空は澄みわたり、目の前には見慣れない街並みが広がっている。風がやさしく吹き抜け、花の香りがかすかに漂う。しかし、そこにはどこか違和感があった。


「ここは……?」


 凛は戸惑いながら周囲を見渡した。知っているはずの景色なのに、どこか違う。建物の配置、色彩、通りを行き交う人々の顔……すべてが微妙に違っている。まるで見慣れた場所が異なる次元へと変化したようだった。


 青年も慎重に周囲を観察しながら、小さく息をついた。


「僕たちの選択が、この未来を創り出したんだ」


 その言葉に、凛の胸がざわめいた。未来を選ぶという決断をしたものの、本当にこれで良かったのかという不安が押し寄せてくる。過去を変えることはできなかった。だが、未来を創るということは、過去と決別し、新たな可能性に向き合うことを意味する。だが、その未来は本当に自分たちが望んだものなのか。




 街を歩くうちに、違和感は次第に明確なものとなっていった。見知ったはずの店が消え、かつて親しかった人々の面影もない。街並みは美しく整備されているが、どこか温かみを欠いているように感じられた。人々の表情も無機質で、どこか活気がない。


「ねえ……本当に、これが私たちの未来なの?」


 凛は足を止め、青年を見つめた。彼の瞳にも、迷いが浮かんでいた。


「選択をした以上、受け入れるしかない。でも……もし、何か大事なものを失っていたら?」


 青年の言葉は、まるで凛の心を映す鏡のようだった。選択の代償とは何だったのか。ふたりはその答えを見つけるため、さらに歩みを進める。


 やがて、ふたりはかつての思い出が残る場所に辿り着いた。そこは、幼い頃に遊んだ広場。しかし、今の広場はすっかり様変わりし、整然とした人工的な公園になっていた。かつてあった木製のブランコや古びたベンチはなく、代わりに規則的に並ぶ石畳の道とモニュメントが立ち並んでいた。


「……ここで、私たちは何を守ろうとしたんだろう?」


 凛の声には、かすかな震えがあった。未来を選ぶことが、過去の大切な何かを失うことと同義だったのだろうか。




 広場の中央に立ち尽くしながら、凛の脳裏には幼い頃の記憶がよみがえっていた。夕暮れの光に包まれた木々の間で、笑い声を響かせながら遊んでいた自分と友人たち。涙を流した日も、励まし合った日も、すべてがこの場所に詰まっていた。


「……この場所がなくなるなんて、思いもしなかった」


 凛の胸が締めつけられる。過去を変えることはできなかったとしても、せめて記憶の中の大切なものだけは残したいと思っていた。しかし、選んだ未来の中でさえ、それはすでに失われてしまったのかもしれない。


 青年は静かに手を伸ばし、凛の肩をそっと支えた。


「きっと、答えはまだ見つかるよ。僕たちがどんな未来を望むのか……それを決めるのは、今からなんだ」


 その言葉に、凛はゆっくりと息をついた。迷いながらも、進むしかない。自分たちが選んだ未来を、本当の意味で受け入れるために。


 やがて、青年は広場の端にある古びた時計台に気づいた。かつて見慣れたものよりもずっと小さいが、そこに確かに時を刻むものが存在していた。


「ねえ、あの時計……」


 凛は息をのんだ。時間の流れを選択したはずの彼女たちが、この新しい世界の時間とどう向き合っていくのか——その答えは、まだ見えていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ