「時の選択」
扉の向こうには、静寂に包まれた空間が広がっていた。中央には巨大な時計台がそびえ立ち、ゆっくりと針を刻んでいる。
「ここが……時間の核心……」
凛は息をのんだ。青年もまた、慎重に周囲を見渡していた。
すると、時計台の前にひとりの人物が現れた。黒い衣をまとい、顔を覆う仮面をつけた男。
「ようこそ、時間の決断の場へ」
男は静かに告げた。
「君たちは選ばれし者。この時計を操る力を持つにふさわしいか、今ここで試される」
青年が一歩前に出る。
「試される……? それはどういう意味だ?」
男は淡々と続けた。
「一つ、過去を変える力を得るか。一つ、未来を選ぶ力を得るか。そして最後に……時間の流れから消えるという選択肢もある」
凛ははっと息をのんだ。
「時間の流れから……消える?」
男はゆっくりとうなずいた。
「時間に関与し続ける以上、それ相応の代償が必要となる。だからこそ、お前たちは選ばねばならない。どの道を進むのかを」
凛は青年の顔を見つめた。彼もまた、深く考え込んでいる。
「私は……」
凛の胸の中で葛藤が生まれる。過去を変えれば、大切な人との別れを防げるかもしれない。しかし、それは別の誰かの未来を歪めることになる。
未来を選ぶなら、自分の願い通りに進めることができる。しかし、それは運命の流れに抗うことになる。
そして最後の選択肢……時間の流れから消える。それは、この世界に二度と存在しないということ。
「私は……未来を選ぶ!」
凛は力強く叫んだ。
青年が驚いたように彼女を見つめる。
「凛……」
「私は、今を生きる。未来がどうなるか分からなくても、自分の手で選びたい。あなたと一緒に……」
青年の目が優しく細められる。そして彼もまた、頷いた。
「僕も同じ選択をするよ」
黒衣の男は二人をじっと見つめ、やがて静かに頷いた。
「ならば、その選択を見届けよう」
次の瞬間、時計台の針が大きく動き、周囲の空間が光に包まれた。
まるで時そのものが二人を新しい未来へと導くように——。