「時の試練」
扉がゆっくりと開いた瞬間、凛と青年は眩い光に包まれた。光の向こうに広がるのは、まるで万華鏡のように輝く無数の道。
「ここが時間の核心……?」
凛が呟くと、青年は慎重に一歩踏み出した。しかし、その瞬間、空間が揺らぎ、二人の足元が崩れ落ちるような感覚に襲われた。
「気をつけて! この場所は試練の場だ」
二人が立つ床が光の糸のように変化し、道がどんどん変容していく。まるで意思を持った迷宮のように、
進もうとした次の瞬間、巨大な歯車の間から漆黒の影が現れた。それは人の形をしているが、顔はなく、体の中心には銀色の時計が埋め込まれていた。
「時の守護者……!」
青年が低く呟く。
「この場を通るためには、彼と対峙しなければならない」
影が動く。次の瞬間、黒い鎖のようなものが二人に向かって放たれた。凛は反射的に身を屈めるが、鎖は彼女の周囲を絡め取る。
「くっ……!」
「凛、しっかりして!」
青年が銀時計を掲げると、柔らかな光が鎖を弾いた。しかし、守護者は怯むことなく、さらに攻撃を繰り出してくる。
追い詰められる二人。しかし、凛はふと何かを感じた。守護者の時計に、微かに自分の記憶が映り込んでいる。
「これは……私の記憶?」
幼い頃の光景が浮かび上がる。暖かな日差しの下、小さな手を引いて歩く母の姿。公園のベンチに座りながら、微笑みながら語る父の声。弟と無邪気に駆け回った庭の風景。しかし、次の瞬間、それらの記憶はぼやけ、音もなく崩れ落ちていく。
代わりに現れたのは、薄暗い部屋の中で一人、時計を握りしめる幼い自分だった。
「……あの時、私は……」
両親が仕事で忙しく、寂しさを感じていた。時間が止まればいいと願ったあの日、彼女はこの時計を手にした。時間を操る力があれば、大切な瞬間を永遠にできると信じていたのだ。
守護者の時計が揺れ、凛の心臓が強く鼓動する。
「そうか……この試練は、過去を受け入れることなのね」
凛は覚悟を決め、守護者の前に立った。
「私は、私の時間を受け入れる!」
そう叫んだ瞬間、彼女の周囲に暖かな光が広がり、守護者の動きが止まる。そして、その姿がゆっくりと崩れ、銀の砂となって消えていった。
静寂が訪れる。試練を乗り越えた証として、道が一つに収束した。
「やった……!」
青年が微笑みながら凛の肩に手を置く。
「君が自分の時間を認めたから、道が開かれたんだ」
二人は再び歩き出す。次に待つ試練は何なのか、それはまだ分からない。しかし、凛の中には確かな決意が宿っていた。