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5-4. DNF Y.



「けーすけは、なんで雲仙岳・普賢岳って言い換えるか知っとる?」

 

 展望台の眼前は左側に普賢岳があり、眼下は火砕流の跡が広がっている景色だ。だからここは強い日差しが差しているのだけど高山なだけあって涼しい風が吹きわたっている。汗が火照った体を冷やしてくれて気持ちいい。


「雲仙三岳五峰だっけ? 詳しくは知らんけど、一番高か場所が普賢岳やったとやろ」

「せーかい。知っとったか」


 富士山のような独立峰とは違って、雲仙岳とはいくつかの山の集まり、その総称だ。

 その雲仙岳の最も高い山頂を指して普賢岳。その普賢岳山頂部のすぐ横にあったのが普賢岳の火口で、これが噴火したのが平成の大噴火。そしてその際に起きた土石流や火砕流でこの絶景が生まれた訳だが、この火山災害の際、火口に溶岩が固まってできた溶岩ドームが普賢岳の元の山頂部を越えた高さになってしまった。

 この溶岩ドームを指して平成新山と呼ぶのである。つまり雲仙岳の中の普賢岳の中の平成新山ってことだ。

 展望台に設置されたパネルには、かつての普賢岳と現在の平成新山の様子が比較できる写真が置いてある。なるほど、並べてみればその変容は明らかだ。


「山ってさ。形が変わることがあっとねぇ」

「はあ、すごかね……」

 

 何度かここには来たことがあるけど、あまりのダイナミックな風景に毎度そんな言葉しか出てこない。

 ロードバイクが、自転車の世界が日々変わっていくように……というのとはちょっと違うけど。

 そう言われたってなかなかピンとこないけど、その証拠が比較画像付きでここにある。

 自然ですら、年間数センチという速度で変化する。時には激しく、一度に何もかも飲み込むほどに大きく変化する。

 ぼんやりと二人並んで平成新山を眺めていたら、俺はつい、ぽろりと言葉を零していた。


「次はどこ行こか」


 と。

 返事が無いのでまことの方を見ると、目を丸くしてこっちを見ていた。

 その顔が驚きから、嬉しそうににまぁ、としたものに変化する。


「え、なんねそん顔? 俺なんか変なこと言うたかね?」

「さぁ~ねぇ! さ、行こだい富士ヒル! 明日行こ!!」

「明日て、今年の富士ヒルは終わったろ! それにさっき坂登ってきて死にそうになってたばっかやん!! 坂以外でさ!」

「え〜。富士ヒル無し?」

「来年な」


 そういうと、まことは満面の笑顔で双手を挙げた。


「じゃあ琵琶イチも! 琵琶イチも行こ!!」

 

 富士山だけじゃなく琵琶湖にも行くのかよ。

 トレーニングちゃんとせんとなぁ。

 そんなことを思ってたら、まことは身を翻してサイクルラックの方に駆け出した。

 慌てて俺も後を追う。

 片側だけカバーをつけてるせいで、カチャペタカチャペタと変な足音だ。


「琵琶イチ、いいねぇ! 行ったらぁサイクリストの聖地!」


 ヤケクソ気味に俺が叫ぶと、まことは歓声を上げた。

 

「やったあ! 淡イチも行くよ!」

「おうよ! かかってこいや淡路島!!」

「富士イチ!!」

「富士山なんぼのもんじゃい三周したらぁ! こっちは雲仙普賢岳やっぞ!!」

「伊豆イチ・佐渡イチ・キャノンボール!!」

「ぶっ飛ばしてやんよ日本橋!!」

 

 サイクルラックからバイクを下ろす。

 クリートカバーを外してまことに向かって放ると、彼女はサイクルジャージの背中のポケットにそれを放り込んだ。

 その隙に俺はバイクにまたがり走り出す。

 

「あっ、ちょっと待ってよケースケ! 北イチ九イチPBP!!」

「おっしゃ! フラーーーンス!! YEEEEEEEET!!」

「わけわからんて! YEEEEEEET!!」

 

 ゲラゲラ笑って、俺たちは走る。走りだす。

 

「いぇぇぇぇぇぇっと!!」

「イェーーーぇぇぇイ!!」

 

 

 調子に乗って小浜の方に駆け下ってしまった俺たちが、島原半島反対側の自宅に帰るために再び雲仙に登るか、それとも六十kmの平坦路を走るか地獄の二択を迫られるのは三十分くらいあとのことだ。


「まこと、もぉさぁ!」

「けーすけも何も言わんかったやん! 途中で気づいとったろ!?」


 言いあいながらゲラゲラ笑う。

 

 俺たちは走る。島原を走るよ。

 今はまだ。


 


                            DNF Y.

 



読者の方々、どうぞここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

ようやくここに、「ライド・オン・ライフ!」完結話を奏上いたします。


難産の作品でした。

現代の地元を舞台に、いま自分が嵌っている趣味のロードバイクを掛けて青春もの。


そんな軽い気持ちで書き始めた作品だったのに、どういうわけか主人公がいじめられている。


そんな彼の成長物を意識してしまった事もあって、物語の山場ではなんと流血沙汰まで……!

一度はその流れで書き切ったものの、作者である私自信にとっても、なんか違うだろ、と。


そんな思いが引っかかっており、結局その辺りを丸々書き直すことに。

さんざん悩んだ挙句、堂本啓介という主人公の物語として、今回のような展開とさせていただきました。


元来の遅筆もあって遅れに遅れたこと、誠にお詫び申し上げます。

ですが私のようなアマチュアであっても、これだけ文字を弄繰り回していれば、それなりに読者の心を引き付ける一文くらいはひねり出すことができるもの。

ここまで読んで下さった読者方には、きっとあのセリフは刺さるだろうなぁ、と思っております。


さて、改めて読者の方々には、ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

次回作への励みになりますので、もしよろしければこの作品に対する評価を頂きたくお願いいたします。

もし感想まで頂けるのであれば幸いですので、よろしくお願いいたします。


それでは、機会がありましたらその時は是非、またよろしくお願いいたします。


入江 九夜鳥



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