表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/40

1-9 モテる人はこれだから!


「ずっとそのハンカチを握りしめてもらえるのは、照れくさいけど嬉しいものだ」


「え……っと、あっ、これは、その!」


 視線を下げると手の中に皺くちゃになったハンカチがありました。

 恥ずかしいけど確かに私はこのハンカチに助けられたというか、強く握りしめることで勇気をもらったような気がしています。でもやっぱり恥ずかしい。


「返すつもりが、こんな皺だらけにしちゃって……。あの、ごめんなさい」


「いいんだ、そのまま持っててもらえたら嬉しい」


 ポケットへしまうのもおかしいし、恥ずかしさに任せてぎゅっと握るのもやっぱり恥ずかしいし、私は何も言わずハンカチの皺を伸ばす作業に没頭しました。伸びないけど。

 セレスタン様は微笑みを浮かべたまま遠くへ視線を移します。


「俺は星空とか虹とか些細なことに幸せを感じられる君を、自分より妹の生活を優先する君を、孤児にも分け隔てなく接する君を……好ましく思ってる」


 彼の言葉に胸が高鳴りました。イケメンはすぐにこんなドキドキすることを言うんだから油断も隙もありません。

 俯いた私の視界の隅で、小さな足がパタパタと揺れています。何事かと驚いてよく見れば、なんと窓の桟に腰掛けたスミレ色の瞳の少女がセレスタン様を見上げていたのです。


「あ、いや。聖女とはこうあるべきだ、という意味であって、その、深い意味は」


 言葉を発さない私にセレスタン様は慌てて言葉を付け足しました。勘違いするなってことですよね、わかります。わかりますが、少女の幽霊はそんなセレスタン様に頬を膨らませました。「素直じゃない」と怒ってますが、この少女は一体……。


「でも私が聖女だなんて信じられません。何かの間違いではないでしょうか」


 だって私は今みたいに幽霊を幻視してしまうような人間なのです。人に知れれば、心を病んだかわいそうな人と言われるだけでしょう。

 それに対してセレスタン様はゆっくりと首を横に振りました。


「権能を用いて瞬時に服を乾かし、雨を予言した。それに大聖樹が選んだんだから間違いないよ」


「昨日は風が強かったし、雨はステラが――っ」


 ステラ。それは昨夜スミレ色の瞳の少女が名乗った名です。思わず彼女の名を口走ってしまい、ハンカチごと手で口を覆いました。

 けれどそれはすでに手遅れで、セレスタン様のまとう空気が変わりました。怖さなどはありませが、でもどこかひりついた空気がこの小さな屋根裏部屋に溢れたのです。


「今なんて?」


「いえ、なんでもありません」


「いや君は確かに『ステラ』と言った」


 ステラは私の目の前で窓の桟に立ち、セレスタン様の頭をゆっくりと撫でています。その瞳はまさに慈愛と呼ぶべき色で。


「……気が触れたとお笑いになるかもしれませんが、私は昔から幽霊が見えるんです。雨が降るという話も予言なんかじゃなくて、ステラと名乗る女の子の幽霊がそう言ったからで。やっぱり私は病気なんでしょうか。幻覚を見てるのだと思ってたのに、昨日は声まで聞こえて。もしかして病が進行してるとか」


「違う。ジゼル、どうか落ち着いて聞いて」


 セレスタン様は私に向き直り、ハンカチを握る私の手を両手で包み込みました。


「ステラは俺の姉だ。十を数える前に死んだ」


「なん……ですって」


「聖女が意志を伝え、また予言を受ける精霊という存在。それが死んだ人間の魂の残滓が寄り集まったものだという話を聞いたことがないだろうか。残滓など基本的には自己を忘れて辺りを漂うだけだが、時に愛する者へ強い思いを遺した魂は微かに自我を保つ場合があると」


「ステラは今……貴方の頭を撫でてます」


 目を丸くしたセレスタン様がゆっくりと手をあげ、私の視線の向かう先、自身の頭にその手を乗せました。ステラは背伸びをしながら彼の頭を両手で抱え、彼の手に頬ずりをしたのです。


「レスティー、おしごとがんばってえらいね……って」


 そうか、と囁いたセレスタン様は泣くまいとしてか眉間に力が入っていました。


「そう呼ぶのはステラだけだ」


「ではこの幽霊は幻覚ではないんですね」


「幽霊と精霊を分ける定義を俺は知らない。だがステラは確かにここにいて、君にはそれが見えてる。聖女のように」


 セレスタン様はその場に跪き、あらためて私の手を取りました。それは少女たちが憧れる物語の騎士様そのもののように見えます。


「セレスタン・ド・タンヴィエは次代の聖女ジゼル・チオリエの剣となって戦い、盾となって守ることを誓う」


「えっ、はっ?」


 私の指先に触れるかどうかのキスをして、彼は私を見上げました。

 ていうか、待って。彼のお名前は。


「タ、タンヴィエって私でも聞いたことがあります。レモンが有名なところです。公爵家です。すごく偉い人です」


「そうだ。父は公爵であり、俺もその道を歩めるよう努力している」


「そんなすごい人に誓われるような人間じゃ――」


「君は聖女だ」


 セレスタン様の言葉に同意するように、ステラも手を叩きながら頷いています。


「俺に守られていてほしい」


「……ッ!」


 だから言い方!

 すぐ誤解させるような言い方をするんですから。モテる人はこれだから!


 その後、私は街のみんなに見送られながら王都へ向けて出発。道中のタラン渓谷では水害の復興のお手伝いもしたけれど、幸いにも被害は大きくなかったとのことでほとんど足止めされることなく王都へと到着しました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓画像クリックでコミック紹介ページに飛びます↓↓
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ