3-48 恋バナの経験はあまりないので
ニコニコなネルミーン姫と、不安そうなお顔の聖騎士たち。なんであなたたちが不安そうなの。
一方、セレスタン様のお顔は見られません。どんなお顔をしているのか見るのが怖いもの。
てててていうか、ネルミーン姫は私の気持ち知ってるくせに……っ!
「ネ、ネルは」
「なぁに?」
「……! 意地悪だわ!」
「んふふふふ。そうかしら」
ニマっと唇を横に広げたネルはとっても楽しそう。
私だってリトンにお友達がいなかったわけではないけれど、孤児だからか仲良くしてくれる子は多くなかった。その上、私は小さい頃からずっと働いてたから……、同年代よりもマダムのほうが仲良しな人は多かったかもしれません。
つまり何が言いたいかというと、年頃の女の子がするようなウズウズして恥ずかしくて声をひそめたくなるようなお喋りは、経験が浅いのです。というかネルとしかしたことないです。
「だって」
「いいわ。あたくしたちだけの秘密にしましょう? さぁさ、護衛のみなさん。もう危険はないとわかるでしょう? だからもっと離れてちょうだいな」
すごく名残惜しそうに離れるヨアンさん。絶対、護衛の本分から出た表情じゃないです。
ネルはくるっと周りを見回して満足そうに頷くと、テーブルに身を乗り出すかと思うほど前のめりになりました。
指先をちょちょいと動かして、私にも同じ態勢を求めます。
「タンヴィエ公子のことがお好きなんでしょう? どうしてイドリース殿下と婚約を?」
「ネ、ネルだってあの場にいらしたじゃないですか。ハラーク家に双子が生まれたら王家に嫁がないといけないって」
「つまり、イドリース殿下のことが好きになったってわけではないのね?」
「それはもちろんだわ!」
私が力強く肯定するとネルは「そう」と言って座り直しました。
「伝統は大事よ。でもジジーはその伝統の外側で生まれ、育った。そんな人を相手にタルカークは伝統を強要すべきではないと思うし、ジジーだってそれを守る必要はないと思うの」
「そうかもしれないけど」
「ふふ。あたくしが言ったところで何も変えられないのだけどね。ごめんなさいね。きっと、満たされない気持ちをどうにかしたいと思ってるのは、あたくしのほう。それをジジーに押し付けてしまったわね」
それ以上、恋バナは続きませんでした。
私たちはどちらも、好きな人と結ばれることはないとわかっているから。話を続けたって切なくなるだけだから。
「ネル……。でも私はずっとネルの幸せを祈ってるから!」
「あたくしも、ジジーの幸せをお祈りしているわ」
って、ちょっぴりしんみりした空気のままネルと別れてお店をあとにしました。
神殿の客室に戻るとイドリース殿下が待ちくたびれた様子で私たちを……というか聖騎士たちを迎えてくれます。
「おぅ。明日の警備体制について打ち合わせさせろ」
「ああ、こちらからもお願いしたい」
首肯するセレスタン様。そういえばセレスタン様って天意の泉から戻って以来、敬語にこだわらなくなった気がします。イドリース殿下を相手にしてもこの調子だし。
まぁイドリース殿下は最初から敬語使うなって言ってたから、どちらも気にしてない様子だけど。
っていうか明日はいよいよ結婚の儀ですからね、警備の打ち合わせは大事に決まっています。お邪魔しないようにしないと。
「では、私はお部屋で大人しくしてますね」
「そうしてくれ……あ、今日中に猫を回収するのを忘れんなよ。外部の人間もたくさん出入りすっからな、鳴き声なんか聞かれたら困る」
イドリース殿下はそれだけ言うとすぐに客室を出て行ってしまいました。
確かに地下には物置部屋が多いですからね。貯水槽に用はなくとも、誰かが間違って迷い込む可能性は否定できません。
今日のお水配りはもう終わってるだろうし、今のうちにシマネコを連れてきちゃおうかな。でも部屋の外に出るなら誰かについて来てもらわないと。
「誰か一緒に……。あれ。もういない」
「います……なんかすいません」
申し訳なさそうに小さく頭を下げたのは親衛隊の方でした。
親衛隊さんは基本的に神殿の水を飲まないからという理由で、マズコナク組じゃない人でも私のそばにいることがあります。というか、そういう方の手も借りないと、護衛の休息が不足してしまうのです。
ヨアンさんだって目の下のクマやばいですし。
とはいえ。聖騎士さんとは付き合いが長いというのもあるし、そもそも指示系統に私も組み込まれているのでいいんですけど、親衛隊さんを引き連れて自由に出歩くのはさすがに……。
どうしよう。頼んでもいいのかな、やっぱり会議が終わるのを待たないとダメかなと悩んでいるとノックの音がして、聖騎士さんがひとり入って来ました。
「副総長に話があったんスけど、あれ、誰もいないっすね」
「あ、ブノワさん。みんなは会議中です」
「うっわー、タイミング悪ぅ! なんか俺、給料泥棒みたいで居心地悪いんスよね。だからなんかできることないかなーと思って」
マズコナクには同道しなかったブノワさん。
タルカークにはセレスタン様を含めて六名の聖騎士が一緒に来てくれていて、マズコナクにはその半数が行きました。だからブノワさんのように、時間を持て余している聖騎士が三名いるってことです。
彼らに薬の影響がないのなら、マズコナク組を休ませてあげられるのに……。でも、どうやったら影響あるとかないとか判断できるのかしら? もしかしたらもう大丈夫だったりしない?
「じゃあ……ちょっと地下まで一緒に行ってくれませんか」
「えっ」
私の言葉に、ブノワさんと親衛隊さんが顔を見合わせます。
親衛隊さんは「うーん」と唸りつつも、賛成してくれました。
「まぁ、いいんじゃないですか? 薬を摂取しただけじゃ別にどうってこともないですからね。魔術を使われるとまずいって話であって。念のため、ボクも一緒に行きますし」
「来てくれるんですかっ」
なんだー、悩んでないで聞いてみればよかったです。
でもこれで解決! みんなで地下へシマネコをお迎えに行きましょう!




