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1-8 星空を映す大きな湖かと


「よくよく考えれば、君は孤児の服を乾かすのに精霊の権能を行使してたんだよな。それを目撃したっていうのに雨が降り出すまで気づかなかったとは……」


「待ってください、ちょっと、何を言ってるのか。聖女はソニアですよね? 担当者の方と合流できたって言いましたよね」


 言葉の通り受け取るとまるで私が聖女みたいじゃないですか。

 理解が追い付かない私に、セレスタン様は疲れたお顔で溜め息をつきました。


 そこへ、ノックの音が響きます。入って来たのは白いローブを羽織る男性を先頭に騎士がふたり。さらにふたりの騎士に挟まれるようにソニアもいました。どこか不貞腐れた顔でそっぽを向いていて目は合いません。


「どーも、お話にあった選別担当です! ささ、これをお持ちいただいて!」


 白いローブの男性は大股でこちらへやって来て、真っ白な木の枝を私に持たせました。だいたい私の指先から肘くらいまでの長さの枝で、二方向に分かれた先に白い葉が何枚かついています。


「これは……?」


「大聖樹の枝です、すごいでしょう。ちょっとこの枝にお祈りをしてみてください。健康になりますようにとか、お金持ちになれますようにとか、なんだっていいですから」


 聖女は普通、国の繁栄だとかを願うんですけど心にもないこと祈ってもねー、などと白いローブの男性は喋り続けています。私の反応を求めていないようなので、多分ひとり言が多いタイプなのでしょう。

 周囲を見渡しても期待に満ちた眼差しがこちらに向けられているだけ。ソニアだけはどこか遠くを見ているようですが、あまりいい表情とは言えません。私にこの枝が渡されたことなどから考えても、ソニアは聖女ではなかったということでしょうか。


 皆さんの視線に圧されながら枝を両手で持ち、現在のよくわからない状況や謎が全て明らかになるようにと願いました。いえ、そう願おうとした瞬間にセレスタン様と目が合ってしまったせいで、ちょっとだけ、セレスタン様ともう少し仲良くなれたらと思ってしまったり、しまったり、しまったり……。


「おぉ!」


 白のローブの男性が声をあげました。

 その声にハッとしてよく見たら、私の持つ枝の周りに両親とスミレ色の瞳の少女が佇んでいます。彼らは私と同じように枝に触れているのですが、驚くべきことに枝が発光していました。陽光を反射する大理石の彫像のように淡く清らかな光を発しているのです。


「素晴らしい! セレスタン殿のおっしゃる通り、ジゼルさんが聖女であらせられた!」


「なんでよ! お姉ちゃんが聖女なんて嘘!」


 ソニアが騎士の腕を振り払おうと暴れていますが、さすがと言うべきかふたりの騎士はびくともしません。ソニアは一体どこで覚えたのかわからないような、口汚い言葉で罵っています。私は彼女の言ってることの半分ほどしか意味がわからないのですけども。


「インチキに決まってる! 聖女も精霊もいるわけないのにみんなバカだから騙されてんのよ!」


「いい加減にしなさい! あなたがやって来た今までの善行を、街のみんなが聖女と呼んだあなた自身が、そんな言葉で汚すんじゃありません!」


「な、なによ。善行なんかしてないってお姉ちゃんは気付いてるくせに! いい子ぶらないでよ、気持ち悪い! そういうとこ昔っから大っ嫌いだった」


「やり方はどうあれ、あなたに助けられた人はたくさんいるでしょう。目的はなんであれ、あなたの献金は誰かの糧となったでしょう。口だけの正義よりよっぽど価値のあることをしてるし、だから私は何も言わなかったの」


「ほんっと……嫌い」


 それきり口を噤んでしまったソニアを、騎士たちがセレスタン様の指示で別室へと連れて行きました。セレスタン様曰く、ソニアには聖女を騙って他者から金銭を得るなどの詐欺の嫌疑があるのだとか。

 私の記憶では、ソニアが自分の口で大聖樹の選ぶ次代の聖女だと言ったことはないはずですので、それはお伝えしておきましたけど。


 白いローブの男性は「やっとボクの旅が終わりました」と言って私に深々と頭を下げ、おぼつかない足取りで部屋を出て行きました。聖女探しの旅はかなり過酷だったようです。お疲れさまでした。


 そして部屋に残された私とセレスタン様。

 お別れの挨拶ができなかった昨日の夜と同様に、なんと言ったらいいのかわからなくてもじもじしてしまいます。けれどセレスタン様は何か思い出したように「あ」と口を開きました。


「司祭について調べているときに見つけたんだが、この教会の屋根裏部屋から見る景色がちょっと綺麗だった。見てみないか?」


 生まれながらの上位者である彼はいつも自信に溢れた物言いをするのに、今は少し控えめな声音でした。ソニアと私を取り巻くいびつな状況に気を遣ってくれているのでしょうか。

 私はありがたくそのお誘いを受け、ふたりで屋根裏へ。街の規模にしては大きめの教会なのですが、屋根裏は住み込みの信者のためと思われる古いベッドや棚がいくつか並んでいました。掃除は行き届いているものの、シーツやキルトは掛かっていないので長いこと使われていないのかもしれません。


「西に窓があるのはここだけなんだ」


 思っていたより大きな窓は薄汚れて曇っているけど、開けてしまえば街が一望できました。


「素敵……!」


 どうにか絞り出した言葉はそれだけ。

 西側には雨が降ったはずなのに今は雲ひとつなく、星が眩いばかりに輝いています。その星空の下で遠くに光る高い建物はお城でしょうか。お城の周りもまるで夜空の星がそのまま落ちたみたいにキラキラ輝いていて。


「タラン渓谷近くの時計塔も、イルノッサの領主館も邪魔になってないんだ。王都がこんなにしっかり見える場所はそう多くないぞ」


「あれが王都ですか。星空を映す大きな湖かと」


「あはは! それはさすがに大きすぎるな。……城のそばに大聖樹があるんだ。さすがにここからは見えないけど」


 そう言われてお城をよく見たら、ぼんやり淡く光る部分がありました。もしかしてあのあたりに大聖樹があるのかしら?


「何もかもが綺麗。この街からこんな景色が見られるとは思わなかったです。なんとお礼を言ったらいいか」


 この世には想像もしないような綺麗なものが他にもきっとたくさんあるんでしょうね。そのうちのひとつをこうして見られるなんて。

 窓から入って来る風に目を細めつつ、きらきらの王都を見つめました。すると私の隣から「くくっ」と喉を鳴らすような笑い声が聞こえたのです。



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