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【連載版】聖女様をお探しでしたら妹で間違いありません。さあどうぞお連れください、今すぐ。【コミカライズ配信中!】  作者: 伊賀海栗
③タルカークにて

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3-21 少人数の身軽な旅です


 翌日。神殿騎士を従えたソニアに見送られながら、私たちはマズコナクに向けて出発しました。

 馬を走らせながら、出発したばかりのタルカラを振り返ってイドリース殿下が大笑いします。


「あははは! まだ手ぇ振ってんぞ。永遠の別れでもあるまいし、大仰な見送りだなぁ。しかも神殿騎士引き連れすぎだろ」

「ふふ。ソニアも色々と不安なんだと思います」


 私は今回もセレスタン様の馬に乗せてもらっているので振り返ることはできませんが、まだ手を振っていると聞くとちょっと嬉しい。

 だって「聖女を引きずり出せ」なんて民衆が大騒ぎしたばかりだもの。ソニアはきっとすごく心配してくれているんだろうと思います。それに私も、あの子がたくさんの神殿騎士に守られているなら安心だわ。


「不安だぁ? この俺が直々に守るってのに、信用されてねぇなぁ」

「殿下のお手は煩わせません」


 私を背後から抱きかかえるように手綱を握るセレスタン様が、固い声音でイドリース殿下の言葉を一蹴しました。やっぱりセレスタン様はイドリース殿下に対してちょっととげとげしい気がします。

 目的地であるマズコナクはタルカラから三日もかかるというのに、こんな調子で大丈夫なのかしら。


「おう。でも親衛隊も頼れよな、人手は少ねぇんだから」

「……はい」


 親衛隊や聖騎士をぞろぞろ連れ歩くと目立ってしまうとか、機動力をあげたいとか、昨日見つけた岩窟群近くの倉庫を見張る必要があるとか、色々な理由から私たちは少人数でマズコナクを目指しています。


 私とセレスタン様とイドリース殿下のほか、聖騎士がヨアンさんとニルスさんのふたりで、親衛隊もふたり。総勢七名という機動力重視の旅ですから馬車ではなく馬での移動だし、荷物も最低限のものだけ。親衛隊旗も掲げていないし、制服だって着ていません。


「人数はもちろん荷物も少ないですよね。ベアトリスさんが心配してました」

「ベア……? ああ、侍女か。タルカークは国土だけは広いからな、隊商の数が多い。必然的に宿場も増えるってわけだ。飯も水も寝るとこも、そこで必要なぶんだけ調達して移動するのがタルカーク流だ」


 イドリース殿下の説明を聞きながら進行方向を真っすぐ見つめますが、さすがに次の宿場町が見えるほど近くはなかったです。


 馬を走らせると言っても人間が軽く走るのと変わらない速度。隊商は荷物を馬やラクダに任せて、人間は歩くのが普通なのだそう。だから宿場町も徒歩でたどり着ける範囲に点在しているのだとか。


 タルカラを出てからまださほど離れていないけれど、ざっと見回したところ周囲はすっかり「荒野」といった感じ。乾いた土と岩ばかりの土地に、細い木がまばらに生えています。草はそれなりに生えているけれど、乾燥しているせいか薄茶色で生気が感じられません。


「それならよかったです。ここで野営だなんて言われたらちょっと不安になっちゃいますから」


 私がそう言うと、殿下は遠くを見つめながら目を細めました。


「先を急いでる時なんかだと、日のあるうちに行けるとこまで行こうとして野営になる隊商もたまにいるが……今はさすがにいねぇな」

「あまり無理をしなくなったってことですか?」

「できなくなった、が正しいな。というのも野盗が増えたんだわ。水不足のせいでな。んで、誰も死にたくはねぇから無茶しなくなったってわけだ」

「なるほど、野盗」


 野盗というとグテーナの森のことを思い出します。グテーナの野盗も、先を急いで森を通り抜けることを選んだ商人を襲っていたんですよね。


 あちらは例の火事を機に、森にも安全な道を整備しようという動きがあると聞いています。この辺りも、水不足の件が落ち着いたら誰もが安全に行き来できるようになるといいのだけど。


 なんとなくイドリース殿下の視線の先を追うように遠くへ視線を向けると、後ろから回されるセレスタン様の腕に力が入ったような気がしました。手綱を持つ彼の拳も微かに握りこまれているようです。


「道中が危険なことを承知の上で、少人数での移動を提案なさったわけですか?」

「おう、あんまピリピリすんなよ、セレスタン君」

「我々には聖女をお守りする義務がある。重要な情報は事前に共有いただかないと――」

「親衛隊が野盗なんかに遅れをとるわけねぇだろ」

「そういう問題ではないでしょう!」


 ピリピリした空気!

 セレスタン様の言いたいこともわかりますが、だからといって他国の王族に謝罪を要求するわけにもいきません。道中を穏やかに過ごすには、セレスタン様に引いていただくしか……。


「セレスタン様、落ち着いてください。野営するわけでもないし、問題ないのでは?」

「……はい」


 まだ何か言いたいことがありそうな雰囲気でしたが、セレスタン様はぜんぶ飲み込んでくれたようです。おかげで目下の危機は脱出したけれど、前途多難な空気は漂ったまま。


 ところが予想に反して、以降の旅は楽しく過ごすことができました。というのもタルカークは多民族国家なだけあって、宿場町にはいろいろな文化が集合しています。それらをイドリース殿下が丁寧に解説してくださったのです。

 たとえばカラフルな模様の陶器や絨毯にどんな意味があるのかとか、伝統的なお人形の目が翠色なのはなぜかとか。


 それにはセレスタン様も耳を傾け、ときには質問までして、すっかり観光客といった感じです。

 なお、瞳が翠色なのはこのお人形のルーツが北方の国にあるからだそう。私もイドリース殿下もそれぞれ母親が北方の出身で、お互い翠色の瞳です。なんだか人形に愛着が湧いてしまったし、帰国前に買って帰ろうかな……。


 そんな風にしてふたつの宿場町を通り抜けた私たちの旅は、なんだかんだと順調でした。そして目的地であるマズコナクが目と鼻の先というとき、ついに……野盗が現れたのです。




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