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3-13 そうです、双子です


 私たちが神殿へ戻ると、タイミング良くイドリース殿下とハラーク公爵もお見えになり、全員で会議室へ向かいました。昨日のガチョウや儀仗杖の件で何かわかったらしいのです。


 普段は神殿騎士や、あるいは神殿を訪れた貴族たちが会議に使う場所らしく、立派な円卓が部屋の真ん中に誂えられていました。


「神殿騎士の中の内通者ってやつを見つけたんだけどよ……」


 そう言ったイドリース殿下のお顔はパっとしません。お手柄のはずなのに。ハラーク公爵もまた難しい表情で、セレスタン様が首を傾げます。


「何か問題が?」

「ちょっと正気じゃなかったんだよな」

「正気じゃない?」

「簡単に言えば、まぁ……催眠状態って言うのかな。誰かに操られてたってワケだ」


 左隣に座るソニアと顔を見合わせていると、逆側からなるほどなと呟くセレスタン様の声が聞こえました。

 イドリース殿下の言葉をハラーク公爵が引き取って続けます。


「魔術師の扱う魔術には催眠に類するものがある。が、精神に影響を及ぼす魔術は普通、そう長くは続かないものだ。ただし、薬を併用すれば効果が増大する」

「麻酔とかに使う薬あるだろ、ケシから採れるやつとかさ。あの手の薬だな。もちろん禁制品だし、一体どこから持ち込んだんだか……」

「魔術師ならば限られるのでは? 犯人に心当たりは?」


 セレスタン様の質問にも、イドリース殿下はゆっくり首を横に振るだけです。


「精神系まで使える魔術師は確かに少ねぇな。何人か思い浮かびはするけどよォ、うーん……。まぁもう少し調査するわ」


 なんだか煮え切らないお返事。

 きっと容疑者として名前を挙げることさえ危険な相手なのかも。たとえばアルカロマで誰かが殺されたとして、王族や高位の貴族を簡単には疑えないですからね。それと同じだと思います。


「操られてたって言っても、犯人は犯人なんでしょ。この人が犯人です! って新聞とかに載せたほうがいいんじゃない?」

「ソニア……?」

「だってお妃さまのせいにされてるんだよ。お妃さまってウチの王女さまでしょ、言いたい放題されるのちょっと腹がたつよね!」

「わかる。それはすっごいわかるわ! あなたたちにビビアナ殿下の何がわかるのって思うもの!」


 私とソニアが頷き合うのを、男性陣が目を丸くして見ています。変なこと言いました?


「やっぱ双子なんだな」

「思考の根底が似ているのかもしれませんね」


 生温かい目でこちらを見つめながら、イドリース殿下とハラーク公爵が口々に言います。

 そうです、双子ですが何か。そんな気持ちでソニアとふたりでツンと顎を上げると、セレスタン様が苦笑いで軽く頭を搔きました。


「……なんというか、申し訳ない」

「セレスタンが謝ることじゃねぇよ。まァ、その王妃殿下の風評っつか噂もコッチに聞こえてる。ここ数日で一気に増えたし、故意に噂を流してる奴がいると思うんだよな。で、それも調査中だ」


 ため息交じりのイドリース殿下の言葉で会議室にどんよりと重い空気が漂います。

 私は私で、先ほどの治癒魔法の疲れが出たのか、なんだか身体が怠い感じ。

 深呼吸する私を気遣ってか聖騎士さんが窓を開けてくれました。鳥の鳴き声と一緒に風が清涼な香りを室内に運び入れます。


「涼し……」


 水の香りを纏う風ですから、気分まで涼しくしてくれる気がしますね。


「あ」

「どうかなさいましたか、ジゼル様?」

「神殿や公爵家の水はどこから引いているんですか?」


 私もソニアも水不足に気付いていなかった。それはつまり、神殿や公爵家、恐らく王家の離宮も個別の水路があるってことです。

 イドリース殿下とハラーク公爵が目を合わせ、互いに「うーん」と唸り始めました。あんまり触れちゃいけない話題だったかしら。


「大前提として、この国の水は大きく分けて二つの川に支えられている。ひとつは北東の山から流れるもの。もうひとつは西側に流れるもので、源流は他国にある。首都イスメルやタルカラを含む東側一帯は北東の山から流れる川を使うが、これより西の地域は全てそちらの大河を頼っているわけだ」

「で、その重要な西の川が上流で干上がっちまってる」

「もちろん北東の川の水が潤沢というわけでもなくてね。王族や貴族、それを守る兵士、そして神殿に最低限の水を確保し、残りは少しずつ国中に運ばせてはいるが、とても賄いきれない」


 思った以上に深刻そうだわ。

 でもそうよね、水不足っていう大ピンチに対して国が何も考えてないはずないですよね。自分の浅はかな考えが恥ずかしくなって口を噤むと、イドリース殿下が私の名を呼びました。


「ジゼル様……聖女様って雨を降らせられるんだってな」

「それは許可できない!」

「おいおい、俺はまだなんも言ってねぇだろうが」


 勢いよく立ち上がったセレスタン様の腕に触れ、落ち着いてくださいと目で訴えます。

 彼らの気持ちはわかるつもりです。民のため、少しでも雨が降ったらと考えるのは当然のことだと思うので。ただ、できないものはできないとお伝えしなくては。


「残念ですが、もし雨を期待なさるなら難しいです。この広大な土地と民を潤すほどなんて、とてもとても」


 グテーナでの体験は私に限界を教えてくれました。

 自分のしたいことに対して、必要なマナの量というものがなんとなくわかる。タルカークを流れる川を潤すなんて、聖女百人の命を懸けたって難しいと思います。

 再び重い空気になったところで、ソニアが声をあげました。


「でもさ、神殿のお水を配れば、少なくともこの近くの人たちは助かるんでしょ」

「飲み水くらいは……?」

「じゃあまずは目の前の人から助けよ! おじいちゃんおばあちゃんとか、子どもとかにお水あげたらどうかなぁ」

「しかし、それでは不平等――」

「平等じゃないといけないの? っていうかそもそも自分でお水取りに行ったり働いたりできないんだから、最初っから不平等じゃない?」


 ソニアの言葉に誰も言い返せません。

 思えば昔からソニアはこうやって人を言い負かしてたっけ。

 結局ハラーク公爵が渋いお顔で頷いて、配れるお水はどんどん配っていくこととなったのです。



お読みいただきありがとうございます!

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