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【連載版】聖女様をお探しでしたら妹で間違いありません。さあどうぞお連れください、今すぐ。【コミカライズ配信中!】  作者: 伊賀海栗
③タルカークにて

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3-2 人気者の王弟殿下


 港からさらに半日かけて到着した主都イスメルは、活気に溢れていました。

 甘い香りは近くの商店のフルーツでしょうか。たくさんの人が行きかい、大陸共通語とは異なる言語も聞こえてきます。


「ジゼル様、あまり自分から離れないように気を付けてくださいよ。今回の我々は少数精鋭ってやつッスからね!」

「精鋭なら大丈夫ですね! そういえばセレスタン様は?」

「副総長はタルカークの迎えを探してるっス。すぐ戻ってくると思うけど」


 急を要することや、内密に来てほしいというビビアナ殿下からの要請により、私の護衛はセレスタン様を含めた聖騎士六人だけです。つまり滞在中はこの六人が昼も夜も交代しながら私を守ってくださるということ。疲れそう……。


「このブノワが命に代えてもお守りするんで、大船に乗ったつもりで――」


 ブノワさんの世間話を聞きながらも、私の心は「父の育った国」を前に浮足立っています。

 太陽はアルカロマよりも近くにあるんじゃないかと感じられるほどジリジリ熱く、そのせいかタルカークの人々は健康的に日焼けしているようです。熱から身を守るために頭からすっぽりローブを被っている人の姿も。


 そんな中、人々のざわめきが一際大きく感じられました。

 どうやらパレードみたいなものが近づいて来ているみたい。少しずつにじり寄ってくる人だかりを眺めるうちに、それがパレードではなく、偉い人とその護衛の隊列らしいことがわかって。


「ナウファル様だ」

「お約束通り小麦を買い付けてくださった!」


 ナウファルという名前には覚えがあります。タルカークの王族や文化については、道中で頭に詰め込んできましたので。

 確かタルカークの王様の弟君で、戦略立案や外交に長けているのだとか。きっと広々とした視野をお持ちなのでしょうね。


 行列の先頭には月と星をあしらった意匠の旗が掲げられ、複数の兵士に続いてたくさんの荷を積んだ馬車がいくつも流れていきます。

 上から布が掛けられているので中身はわかりませんが、なぜか幽霊……いえ精霊様が困った顔で荷物に腰掛けていました。なぜ。


 精霊様の意図がわからず首を傾げたとき、視界の隅で小さな女の子がベシャっと転ぶのが見えました。ハッキリ見ていたわけではないけど、大柄な男性が突き飛ばしたような気がします。


「ぼーっとしてんじゃねぇ!」

「う……うぁーん!」


 パレードの見物人の数は膨れる一方で、寝そべったまま泣く少女はいつ人々の下敷きになってもおかしくありません。

 人波を掻き分けながら彼女のそばへ行き、助け起こしつつしゃがんで目を合わせました。


「大丈夫、怪我はない? お母さんやお父さんは?」

「わがんないぃ……!」

「お名前は? 今日は誰とここへ来たの?」

「ママ……ママどこぉー! うあーーーん」


 うーん、どうしよう。余計泣き出してしまったわ。

 途方に暮れる私のすぐ真上から、低くて穏やかなよく通る声が響き渡りました。


「怪我をしてはいませんか、大丈夫ですか?」

「え……」


 顔を上げるとちょうど黒いローブを羽織った男性が馬から降り立ったところで、周囲の歓声が一層大きくなります。それだけで彼がナウファル王弟殿下であることを理解しました。

 王様とは年の離れた末弟だというだけあって、確かにお若い。三十代半ばくらいでしょうか、記憶にある父と同じか、もう少しだけ年上のよう。


 私たちはあっという間に民衆に囲まれましたが、護衛と思しき兵たちが彼らを抑えてくれています。


「あ、の。この子が迷子、みたいで」


 どうにかそれだけ絞り出すと、男性は赤い瞳を柔らかく細めました。彼が笑みを深めた瞬間、熱狂した民衆たちが兵の制止も構わず押し寄せます。すごい人気だわ……。


「危ないっ!」


 私や少女さえ飲み込んでしまいそうで、思わず少女を腕の中に閉じ込めたときでした。


「静粛に」


 ナウファル殿下と思われる男性が一声あげるだけで、水を打ったようにシンとなったのです。それはもう、まるで魔法みたいに。


「貴女はアルカロマからの旅人でしょうか」

「あ……はい」

非才(ひさい)はナウファル。書記官を務めています。我が国の宝をお守りくださりありがとうございました。すぐに保護させますから、もう心配ありませんよ」


 安心させるように頷く彼の長い黒髪がさらりと肩から流れ落ちました。

 従者をひとり呼び、何か言づけてから再び馬上へとあがります。彼の乗る黒い馬もとても毛並みが良くて、心なしか誇らしげ。

 何事もなかったかのようにゆっくりとパレードが行進を再開し、熱狂する民衆もまたそれに寄り添って歩き始めました。


「あの……っ」


 お礼を言おうと声をあげてはみたものの、割れんばかりの歓声の中では彼の耳に届くはずもありません。わざわざ私たちを気にかけて馬を止めてくれたのに……。


 ナウファル殿下の乗った馬に続いて荷馬車が私の脇を通り抜け、掛けられた布が風でふわりとめくれ上がりました。

 その刹那、積まれた木箱に大きく翼を広げた赤い鳥の紋章が垣間見えたのです。加えて、やっぱり困ったように箱を見つめる精霊様の姿も。あの箱って、小麦が入っているのよね……?




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