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【連載版】聖女様をお探しでしたら妹で間違いありません。さあどうぞお連れください、今すぐ。【コミカライズ配信中!】  作者: 伊賀海栗
②王都にて

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2-23 すっかり様子の変わったお城で


 王都へ入ると、まるでグテーナへ戻って来てしまったかと錯覚するくらい盛大に迎えられました。近衛隊が私たちを先導し、お城へ続く道の両脇には人々が集まって。


「王家は私を聖女と認定してなかったのに」

「グテーナでの奇跡は王都の民まで伝わってるし、雑には扱えないんだろう。認定も時間の問題だがな」


 セレスタン様はやっぱり少し意地の悪い笑みを浮かべました。初めて出会ってからまだ二ヶ月と少ししか経っていませんが、この人は結構腹黒いと思います。

 以前、なぜ嫌われ者の私に侍女やメイドを付けてもらえるのかわからないと聞いた際、彼は「もし担当者が渋ったら『名前を覚えておく』と言えばいい」と言ってました。全力で公爵家の権力で殴りかかっています。怖い。


 さて、パレードみたいな様相の中、城門をくぐり馬車を降りるとまずはバルバラ様のもとへと案内されます。お城の侍医がすぐに対応できるようにとの配慮から、王城内の客室へ移られたのだとか。

 私とセレスタン様が部屋へ入ると、バルバラ様はベッドで上体を起こして迎えてくれました。その笑顔が慈しみに溢れていて、ホッとして泣いちゃいそう。


「おかえりなさい。森の火を消したと聞きましたよ。よく頑張りました」

「バルバラ様……っ!」


 グテーナとの往復で十日が経過しています。バルバラ様は少しお痩せになったでしょうか。顔色は優れないし、呼吸も良好とは言えません。


「本当なら先に陛下へご挨拶させるべきなのだけど、今は少しお忙しいそうだから。グテーナでのことを聞かせてくれるかしら」

「あ……。どこからお話したらいいのか……」


 私は彼女の手を取って、幼い子が親にその日あったことをいちから説明するように、つたない言葉で森での出来事をお伝えします。けれどセレスタン様の腕の怪我についてお話しする段になって言葉を切りました。どう説明すればいいのかわからないのです。


「あの、きっと感じていただいたほうが早いと思うので」


 バルバラ様の手を握ったまま精霊に祈りました。彼女の病を治してくれと。キラキラ輝く精霊たちが集まって体内のマナが吸い出されるような感覚に陥ります。


「……っ! あなた、おやめ、おやめなさい!」


 慌てた様子でバルバラ様が手を振りほどきました。

 しばらく周囲を漂う精霊を眺めたかと思うと、バルバラ様は人払いをして私とセレスタン様だけを部屋に残します。


「そう、あなたは癒しの御業を使えるのね」

「ご存知ですか」

「大精霊様と旅に出た最初の聖女がそうだったという言い伝えがあるわ。けれどマナの消費も大きいでしょう」


 その言葉には私よりもセレスタン様のほうが大きく頷きました。

 それから少し話をしましたが、この力は人間の手には余る、というのがバルバラ様の見解だそうです。その力を邪魔だと思う者、利用しようとする者、なんにせよ平穏な日常から遠ざかるのは間違いないだろうと。

 セレスタン様もその意見に同意し、国王陛下への報告はしつつも基本的に秘匿するということで話がまとまりました。


「癒しの力を秘匿するのだから、今後何があってもわたくしにその力は使わないようにしてちょうだいね。それが、わたくしからあなたへの最後の試練となるでしょう」


 バルバラ様は私の手を引いて傍へ引き寄せると、抱き締めながら小声でそう言いました。裏を返せば、バルバラ様はご自分の死期がそう遠くないことを悟っているということ。溢れそうになる涙は唇を噛んで堪え、どうにかそれを了承します。

 ここでの話はバルバラ様から国王陛下へ伝えてくれるとのことで、私たちは早々に部屋を出て「聖女の農地」へ帰ることにしました。

 本城から農地まで向かう小さな馬車の中、並んで座るセレスタン様はご機嫌な様子で鼻歌までうたっています。


「嬉しそうですね」

「そりゃあ、俺の聖女様が聖女と認められるとあれば」

「な――っ」


 またこの人はモテ度百パーセントの本領を発揮して!

 せめて言葉をもう少しこう、誤解を与えないよう配慮してくれればいいのに。私が誤解しなければいいだけのことだとわかってはいても、やっぱりドッキリしちゃうので。んもう、人たらし!

 赤くなった顔を見られないように彼がいるのとは逆側を向いて外を眺めます。


「聖女の就任式やお披露目、それに各地への挨拶巡り。もう少ししたら忙しくなるな」

「そうですね。王都の町を散策する時間がとれるといいんですけど。セレスタン様に連れて行ってもらったケーキ屋さんもまた行きたいし」

「しばらくは難しいだろうな。……いや、議会の承認には時間がかかるし今のうちに行くか」

「ケーキですかっ?」


 やったー、デートだ!

 と張り切ってセレスタン様を振り返ると、彼はやっぱりどこかイタズラっ子みたいな笑顔でこちらを見ていました。


「マーズトンだ」

「へっ? マーズトンって、グテーナの先の、レモンの産地の」

「ケーキ屋のレモンタルトより本場のほうがずっと美味しい」

「……食べたい」

「決まりだな。明日や明後日に出発すれば一週間は滞在できる」


 ん?

 それってセレスタン様と一週間、往復も合わせて半月以上も旅行するってことですよね。えっ、いや、待っ、……ダメでは? いくらセレスタン様が「モテ」の王様だからって、ビビアナ殿下のことが大事ならそんなことしちゃダメだと思います。


「えっ、それじゃビビアナ殿下が――」


 勘違いしてしまいますよ、と続けようとしたのですが馬車が停止したことで会話が中断。セレスタン様に支えてもらいながら馬車を降りるとそこは……。


「ここ、バルバラ様のお屋敷ですけど」

「聖女の屋敷だ。今日から君の、いや、あなた様のお住まいとなります、ジゼル様」

「さすがに説明が欲し――」


 屋敷の中からバルバラ様付きの従者が飛び出して来て、またしても私の言葉は途中で遮られました。


「お帰りなさいませ、ジゼル様。早速ではございますが、ただいまビビアナ王女殿下が応接室にてお待ちになっていらっしゃいます」

「なんて?」


 情報量がおかしいんですけど!





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