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【連載版】聖女様をお探しでしたら妹で間違いありません。さあどうぞお連れください、今すぐ。【コミカライズ配信中!】  作者: 伊賀海栗
②王都にて

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2-5 日記ってなんのことですか?


 聖女であるバルバラ様は王都中心部にある大聖堂へいらっしゃっていてご不在なのですけど、私たちは彼女のお屋敷の食堂をお借りしてランチタイムです。


 白いローブの男性に対する第一印象は「あまり落ち着きがなくてよく喋る人」でした。周囲の反応は求めずただひとりでずっと喋っているような方。

 いま私はその第一印象が正しかったことを確認しました……。名乗ることさえ忘れたままずっと喋ってるし、それでいてちゃんと目の前の食事も順調に減ってる。凄い。


「……というわけで、ソニアさんが元司祭の犯罪に関わっていたという事実は認められませんでしたぁ! いやぁ、よかったですね。ぼくに感謝してくださってもいいですよ。いや聖女様に感謝されるなんて光栄だなぁ」

「あ、はい、ありがとうございます?」


 圧倒されっぱなしの私を見てセレスタン様はずっと笑っています。そっぽ向いて誤魔化しているつもりみたいですけど、肩がすっごい揺れてますからね、隠しきれてません!


「自らを『聖女』と騙った事実もなければ、虚偽の婚約をして金品を貢がせた事実もない。本人は何も言っていないのに周囲が勝手に勘違いしていくんだからすごいですよ」

「そうだったんですか」

「自覚のない天性の詐欺師かもしれませんねぇ。いやお姉さんを前に言っていいことじゃないですけど。アハハ。でまぁ調書を持って来たんで、それを元に審理が進められることになりますけど、たいした罪にはならないと思いますよ」

「よかった……」


 その言葉を聞いて、私はここ数日でいちばん大きな溜め息をつきました。わがままで利己的で狡猾な部分も際立つソニアですが、それでも私のたったひとりの肉親であり、かわいい妹です。それに双子ですから、自分の片割れとか相棒といった感覚も持ち合わせていますしね。

 まるでよかったねと元気づけるように、セレスタン様が膝の上に載せた私の手をポンポンと軽く二度叩きました。見上げれば優しく微笑んでくれます。整ったお顔から発せられる微笑みの破壊力といったら……!

 できればずっとそのお顔を見ていたかったのですが、お喋りな人がそれを許すはずもなく。


「ああ、それから」

「はいっ!」

「ソニアさんからの伝言なんですが、『日記は早く返してよね』とのことでしたぁ。いやソニアさんもなかなか――」

「待って、日記ってなんのことですか?」


 あの子は日記をつけるようなタイプではありません。もちろん私もです。離れ離れになって寂しいから交換日記をしましょう、というような仲でもないですし。

 きょとんとする私に、白ローブさんは不思議そうな顔で首を傾げました。


「んんー? 皆さんが街を出発した翌々日だったかな、それくらいに元司祭の荷物を王都へ送ったんですけどぉ」

「ああ、それはちゃんと届いている」


 セレスタン様がそう言うと、おふたりは目を合わせて頷き合います。


「ジゼルさんに送りたいものがあればついでに預かるよーって、聖騎士のひとりがソニアさんに言ったんですよ。ていうかアイツもソニアさんにメロメロだったの、面白かったなぁー」

「その話はあとで聞かせてくれ」

「わかった! でね、これっくらいの大きさの本と手紙を……あ、手紙は検閲しましたからね、確かお父君の形見の日記だって書いてあったかなぁ」

「なんですって」


 本のサイズを表すように両手の人差し指と親指で作った四角い空間が、私の叫び声を機に分解されました。白ローブさんは「あれぇ?」ととぼけたお声を出しながら、私とセレスタン様と交互に視線を投げかけます。


「もしかして、届いてない?」

「届いてませんし、私、亡父が日記を書いてたなんて知らなかったです」

「わぁ困っちゃったな」

「あの子ずっと隠してたんだわ! でも、日記は一体どこに……そんな、父の言葉を見もしないで失くすなんて嫌……っ!」


 幽霊となって現れる父や母は、ステラのように言葉を発してはくれません。私は父と母と、また話したい。それが叶わないならどうか父の言葉に、繋がりに……たとえ過去のものであっても触れたいのです。

 居ても立っても居られなくなって椅子から立ち上がりかけた私の肩を、セレスタン様が力強く右手で掴みました。そして顔を覗き込み、静かな声で「落ち着いて」と。


「荷物は宛先によって振り分けられるが、君宛てのものなら最終的に侍女に預けられるはずだ。まずは彼女に聞いてみよう」

「は、はい」

「おー。じゃあぼくは先に城に戻って調べておこうか。調査はぼくの業務範囲だからねーって言っても城の中は特殊なルールが走るから調べづらいんだけどさーまぁ仕方ないかー」

「お、お願いします!」


 白ローブさんはまたひとりで何やら喋りながら、さっさと食堂を出て行ってしまいました。足が早くて私の声が届いたかさえわかりません。


 彼の背を見送ってから、私とセレスタン様は「聖女の農地」にある私の家へと戻ります。道中でセレスタン様から聞いたことには、日記と一緒に発送されたはずの証拠品は三日前に聖騎士たちの詰め所に届いたとか。城に届けられる輸送物の量が多いため仕分けに時間がかかるのだそうです。「ジゼル」宛ての物品は初めてのことですから、仕分けに手間取る可能性はあるけれど、さすがに本日時点で届いていないのはおかしいと。


 家へ戻ると、ベアトリスさんはお昼寝をしていました。私たちの戻る音に驚いて飛び起きた彼女は「ひぃ」と小さく悲鳴をあげます。私、そんなに怖い顔をしていたかしら?





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