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結婚式もつつがなく終わり、僕とメアリは幸福感に包まれながら、新居に足を踏み入れた。
ささやかな客間には、結婚式の招待客から贈られた様々なプレゼントや花束が既に届いていた。それらを開封する前に、僕はメアリにキスをして、二人がけのソファに腰掛けた。
「疲れてないかい、メアリ」
メアリは笑顔で首を振る。
「まだ、胸がどきどきしてる。でも、決して疲れてはいないの。体中に元気がみなぎっているみたい」
「僕も同じだ」
メアリは、ぴかぴかに磨き上げられた客間全体を見渡した。小さいが灰一つ落ちていない暖炉を、品が良く染み一つない壁紙を、僕がかつて彼女に贈った手製の飾り棚を見た。
「ねえ、これから、私達の新しい生活が始まるのね」
「そうだとも」
メアリは、これまでに何度も同じことを言った。幸せを噛み締めるように。
「旅行は、君の故郷でなくて本当に良かったのかい?」
「いいの。かつて住んでいたところにまた行きたいとは思わないから。それよりも私は、あなたが行きたいと言っていたローマの方が興味あるわ」
「ありがとう」
ローマに行くのは僕の長年の夢だった。コロッセオやバチカンに憧れていたからだ。
メアリの美しい金色の巻き毛をそっとすくい上げ、キスをした。彼女はちょっと驚き、ぱっと花が開いたような笑みを浮かべた。
テーブルに積み上げられたプレゼントの数々を開けることにしたのは、それから二時間後だった。僕達は包み紙を開けるたびに驚いたり、喜んだりした。悪ふざけが好きな僕の友人は、意外にも一対の銀食器という極めて常識的なものをくれた。メアリの親友が彼女に贈ったブローチは、よく似合っていた。
最後に残ったのは、黒いレースのリボンをかけた、白い小箱だった。メアリ宛てだったが、贈り主の名は書かれていなかった。
「何かしら?」
メアリは首を傾げながら、リボンを解いた。そして箱の蓋を開けようとして__はたと手を止めた。
「開けないのかい?」
メアリが僕の方を振り向く。彼女の美しい顔は少し青ざめていた。
「開けられないわ」
「どうして?」
「どうしても……」
彼女は首を横に振る。そして、唇をきゅっと引き結び、小箱を腕に抱いた。
「これは捨てた方がいいの」
「いけないよ、人からもらった物を開けもせずに捨てるだなんて」
「だって」
「中を見てからでも遅くはないんじゃないかな」
メアリは頑なな表情で黙り込んでしまった。
僕だって、新婚早々喧嘩はしたくなかった。だから、彼女を落ち着かせようと背中を撫でて言った。
「いいよ。君がそうしたいなら、捨ててくればいい。その後で、食事にしよう」
翌日、仕事に出た僕は、道の途中にあるごみ捨て場の前で立ち止まった。
見覚えのある箱が隅に置かれている。解いたはずのリボンできちんと縛ってあった。誰がやったのか__考えるまでもない。
メアリは何故、この箱をそこまで嫌うのだろうか? 彼女には、贈り主が分かったのだろうか。抑えられない好奇心のままに、僕はその小箱を拾い上げた。中に何が入っているのか__それを知ってから捨てても遅くはないはずだ。