ゲームで不正したらゲーム動かなくなっちゃった。
異世界ものを書こうと思ったので多分ファンタジーで合ってると思います。違ったら変えます。一応別のもつけときました。
何度やり直したことだろうか。
何度剣を持っただろうか。
どれだけ仲間を救いたくても救うことはできない。
まるでそれが世界が当たり前として持っている法則のように、もしくは何か悪意のある者に強いられているように。
俺はこの無力感に苛まれている。何度やり直した。
何回、何回、何回?
もう覚えていない。
最初は驚いた。魔王と戦っていて、仲間が何人も死んでいって、最後には俺以外を残して全滅した。と思ったら魔王と戦う5年前に戻っていたのだから。そして喜んだ。俺は涙しながらベッドで噛み締めるように。
そこから今度こそ仲間を失わないように、必死で努力した。どれだけ辛くても、軽い気持ちでは魔王は倒せずに仲間を助けることができないから。
もしあれが夢でも俺にはどうでもよかった。俺にとっては現実だったから。
でも運命は俺を嘲笑うかのように、まるで蝋燭の火を吹き消すかのように、仲間達は簡単に死んだ。
どうして、どうして。俺たちはあんなに努力したじゃないか。俺だって必死に努力した。仲間達も前の時よりも強くなっていたはずなのに。
もしこの世界に神がいるんだったら、そいつは無慈悲で、多分人にとって悪意の塊みたいなものだろう。
だってあの後、俺が2回目に死んだ後、俺はまた、5年前の家のベッドで泣いていたのだから。
3回目は仲間と共に力を合わせるのをやめた。俺だけの力で魔王を倒すことにした。仲間がいても倒せなかった魔王を1人で倒そうとした俺は相当頭がおかしかったんだろう、いや、ただただ辛かったのか。
もう仲間を失いたくない、そんな気持ちから、俺は1人で強くなる方法を探した。
俺は世界を巡った。最高の武器を探して、最高の防具を探して、最強と言われていた人を探して戦って、負けて、また戦って、それで負けて。
何度も戦っていくうちにみるみる俺は力をつけていった。俺は気づいた。今までは剣の技術が大事だと思っていたが、それよりももっと足りていなかったのは実戦だったのだと。そして最強の剣士になったのだと、俺は信じていた。
実際、俺は1回目の時よりもはるかに強くなっていたし、それこそ2回も超え、今度こそ魔王を倒せると信じていた。
だが俺は勝てなかった。俺が強くなるごとに魔王もまた強くなっていた。俺と同じくらい、ただ魔王は俺のほんの少し上をいっていた。
俺は無惨だった。俺は滑稽だった。それでも、俺は魔王を倒さなければいけなかった。
5回目、剣を振り続けた。剣、剣、剣、切って切って切って、切って、切った。
とにかく、モンスターも、人間も、強そうな奴を片っ端から切っていった。やはり俺の力はみるみる強くなった。
でもやはり魔王には勝てなかった。そして、また時間が巻き戻る。
そこから何回だろう。70回?700回?7000回?700000回か?7という数字だけなんとなく覚えている。まだ俺が巻き戻った回数を覚えていた頃だ。もうその頃は巻き戻っても涙も出ず、ただ黙々と強くなるための道をいかに早く、そしていかにして魔王を倒すかだけを考えていた。
そんなある日、俺は気づいた。なぜ俺は魔王を倒さなければいけないのだろうと。まるで思考がもやにかかったように俺は思い出すことができなかった。それ以上考えると気が狂っていしまいそうだった。
きっと何回も何回も巻き戻っているから、おかしくなってしまったのかもしてないと、その時は自分を納得させた。
そしてまた魔王と戦って、死んで、戦って、死んで、死んで、蘇って、戦って。
もう強くなる手立ても無くなってきた頃。
巻き戻った家のベッドを降りて剣を見つめ、手に取る。
そしてまじまじと見つめた後、俺は魔王を倒すのをやめた。
もう倒せないなら諦めてしまおうと、今までなぜそう思わなかったのだろう。まるで何かの強迫観念に迫られていたかのようだった。俺は自覚した。いや、自我を持ったのだった。
俺は初めて剣を捨てた。
剣がカランと音を立てて木製の床に転がり落ちる。
その瞬間、俺の世界に音が走った。何かこう、無機質な、人の声のようだが、今まで一度も聞いたことがない言葉だった。
『A bug or error has been detected. Please Regenerate the world. Cord427-88952』
何を言っているのかはわからなかった。
しかしその直後。
電撃が体の中を突き走ったみたいだった。そう、モンスターに電気攻撃を受けた時みたいに。
俺は畑でも耕して幸せに暮らそうとそう考えていた。電撃が走る前、いや、走った直後までは。
俺は母さんがいるはずの台所に行く。
「母さん。」
俺は畑を耕して生きようと思うんだ。なんて、突拍子もないことを俺は言おうとしていた。
「あら、まだご飯はできてないわよ、椅子で座って待っていてくれるかしら」
とにかく俺はたとえ料理中でも今すぐにでもそれを伝えたかった。
俺は母さんの顔を覗き込んだ。
俺はこの時にパンドラの箱を開けてしまったかのように、浦島太郎が決して開けてはいけないと渡された玉手箱を開けてしまったのと同じことをしたのだ。だがそれに俺は気づきもしなかった。
そこには俺の記憶にない、見知らぬ女が包丁を持って静止していた。いや、料理というのだろうか。
俺はそこで激しい頭痛に襲われた。
しばらく苦しんでから、目の前の得体の知れない女が、微動だにせず、まるで本当に生きているのか不思議に感じた俺は、なぜ母さんがいるはずのところに立っているのかが不思議で、奇妙で、気持ち悪くて、問いかけた。
「一体誰なんだ、あんたは…?」
「あら、まだご飯はできてないわよ、座って待っててくれるかしら」
「…は?」
「あら、まだご飯はできてないわよ、座って待っててくれるかしら」
奇妙で不気味だった、口が動いているのか動いていないのかも俺にはわからず、ただ、俺が何を話しかけてもその言葉だけしか喋ることができないかのような、無機質で、不気味だった。
俺はそんな不気味さに耐えることができず、家を飛び出した。
飛び出して、考える。
俺は母の顔を思い出せなかった。ただ、絶対に家にいたあの女の顔じゃない。それだけはわかった。
たとえ何回、何十万回巻き戻っても親の顔を忘れるとは思えない。そんな当たり前なことはわかるのにどうしても母親の顔だけは思い出すことができなかった。
俺は記憶に異常が起きていることにそこで初めて自覚した。そこから俺は何もかも思い出すために思考を巡らせていく。俺は今まで魔王を倒すために頑張ってきた。何回も巻き戻って、何回も立ち向かって。
何度も見てきたはずだ。何度も、何度も、俺が忘れるわけがない。
あいつの顔は、あいつの見た目、姿は?????
わからない、全く、そもそも魔王を俺はなぜ倒そうとしていた?魔王が攻めてくるのか?だから?
しかし魔王がこの街にまで攻めてきたことなど一度たりともなかったはずだ。
仲間の顔も思い出せない。仲間?俺は誰のために戦ってきたんだ?
思考が混ざり合うかのように、まるで糸が絡まって二度と解けなくなってしまったかのように、俺の記憶はどうにかなってしまった。
俺は顔を見上げ、辺りを見回す。
どこなんだ、ここは。
そもそも俺の生まれた街の見た目すら、俺には記憶になかった。
俺は東京生まれのはずだ。
東京ってどこだ?
知らない単語が当たり前の世界の言葉のように頭から溢れ出てくる、俺はその流入した言葉をせきとめる防波堤を作ろうとするが防波堤は流され、効果を示さない。
疑問が溢れ出る、ここはどこだ。俺が戦ってきた敵は?モンスターは?魔王も、仲間も、街の住民も、友達も、家族も、何も思い出すことができない。
あるのはただ、今の状況がおかしいという絶対的な感情だけ。
俺の記憶が、感情が、何回も巻き戻ることによって破壊されてしまったのかもしれないと考えたが、俺の自我、自意識はそれを大いに否定し、まるで俺がここに生きている事こそがおかしいことなのだと、叫び続けている。
母親、わかるのにわからない。生まれてきた、俺は。じゃあ母親は誰なんだ。あの不気味な女から生まれてきたわけではない、それだけはわかる。
俺は街を歩きながら、考える。
記憶喪失ともまた何か違うような、そんな気持ちに突き動かされていた。
まるで俺の中の誰かが、気づけと叫んでいるような気がした。
俺は町を歩く。
そこで、すれ違った人に声をかけようとした。
今まさにすれ違ったと、女に目を向けると、停止している。
いや、動いているのか、停止しているのか、俺にはどうも判断がつかない。すれ違ったのだから歩いているはずだ。歩いている、でも歩いていない。
気持ち悪い。
「すみません」
「ここから北に行けば街があるわよ」
「はぁ、あの、お尋ねしたいことが」
「ここから北に行けば、町があるわよ」
「あの…?」
「ここから北に行けば、街があるわよ」
俺はその不気味とも当たり前とも感じる会話を早く終わらせたかったが、ここで確認しなければいけないと思い、勇気を出して話し続ける
「明日の天気は知っていますか?」
「ここから北に行けば、街があるわよ」
「魔王を知っていますか」
「ここから北に行けば、街があるわよ」
「ありがとうございました」
「ここから北に行けば、街があるわよ」
俺は確信した。この世界は何かがおかしい。俺がおかしくなってしまったのかもしれないと、以前の俺が気づいたら発狂していたかもしれない。しかし俺にはこれが異常だと思える何かが芽生えていた。
とにかく全てが不自然だった。
通り過ぎたはずなのに静止している女から距離をとった俺は、まるでゲームのようだ、と思った。
ゲームが何を意味するのかわからないが、その言葉がきっと今の状況を一番に表しているという確信だけがあった。
ただそんなことがわかってもこの状況が好転するわけでもなく、俺はどうしようもないこの世界で、どうすればいいのかをひたすら考えていた。
今更5年間過ごすのが苦痛なわけではない。ただこの歪な世界で生きるのは嫌だと思った。
歪。そう。つまり俺は世界の秘密を暴いてしまったかのようだった。
一度、家に帰って、俺の剣を取る。家もよくみたらぐしゃぐしゃだ。こんなのが家なわけない。
俺は今まで一体どうやって生きていたんだ。
ゾッとした。
いわゆる自我が俺には昔なかったのか、では魔王と戦っていた俺は偽物なのかと。
溢れる疑問を胸に、一度魔王のところに行こうと考えた。
あれだけどうにかして魔王を倒そうと考えていたところに、何か鍵となるものがあると俺はそう睨んだ。
魔王のいる場所はそう遠くない。
おかしい、明らかに。魔王のいる場所がそう遠くないってなんだ。
なぜだ。前までは何日もかけて死にかけながら行ったはず。いや、おかしいのはこの記憶だ。まるで何かに刷り込まれて、それを当たり前だと認識するように洗脳されているようだった。
俺は少し歩くと世界がぐちゃぐちゃになって、あっけなく魔王のいる城についた。
城??これが???
やはり俺の目には今ままで当たり前だと思っていたはずのものがぐちゃぐちゃした、モヤにかかって形容しがたい何かにしか見えないようになっていた。
魔王のいるところまでは多くの強大なモンスターがいる。だが俺はそのモンスターをいとも簡単に剣で葬り去る。
モンスターが消えていくような、そんな感じだった。
モンスターを倒していくとまた世界がぐちゃぐちゃと崩れるかのようになって、また一瞬で治ると、そこには魔王がいた。俺は魔王だと認識したが、俺はこの魔王を見たことがない、いや、みた記憶がない。というか、認識できない。魔王という存在ということはわかるが、はっきりとした見た目から魔王だということがわからない。戦った経験は何万回とあるはずなのに、まるでその記憶だけ消去されてしまったかのようにモヤにかかっている。
「よくきたな、勇者よ。」
よくよく聞いてみれば機械のような音な気もする。
そういうと、魔王は俺めがけて魔法を打ち出してくる。
魔法、当たり前のことなのに、当たり前だと感じられない、気持ち悪い感覚に支配されつつ、戦う。
が。どうしてなのか、俺があれだけ、何十何万と戦ったはずの魔王は魔法を避けた俺の攻撃によっていとも簡単に俺の剣に切られて、消えてしまった。
消える?魔王が?
初めての光景だった。というか、魔王がこんなに簡単に倒せるはずがない。そのはずなのに、目の前の魔王は一瞬にして消えてしまった。
そして、俺の目の前が暗転した。
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「起きてー、授業始まってるよ」
「んぁ」
いつの間に寝てしまったんだろう。
なんだかすごく長い時間寝ていた気がする。
「何?その剣、すごい、ドットでできてるの?先生の時代のゲームじゃない。すごいけど、授業にこんなもの持ってきちゃダメよ。」
「んえ、はい?」
俺は机に向かってうつ伏せで眠っていたらしく、どうしてなのか、手にはまるで一昔前のゲームで出てくるようなドットでできた剣を握っていた。
「おい、何持ってきてんだよ」
「いつの間にそんなもん握って寝てたんだよ」
「面白すぎるでしょ」
周りのみんなから笑われてしまった。
しかし本当に記憶にない。一体なんなんだこのふざけた剣は。
俺は剣を見る。
すると、
「え、そんなに注意されたのが悲しかった?」
そんな、突拍子もないことを突然先生が言い出す。
「え?」
何を言ってるんだろう、そう思って先生の顔を見ようとするが見ることができなかった。
涙が溢れて止まらなくて、剣を見るともっと悲しくなってくる。
何かすごく悲しいことがあったような、そんな気がする。でも何があったかは覚えていない。
「どうしたんだよ」
「寝ぼけてんのか」
「メンタル弱すぎだろ」
クラスメイトからも茶々が入る。
いや、なぜかはわからないけど、すごく悲しいんだ。
どうしてだろう。
俺がなきやむまで、しばらく授業は開始されなかった
そして、不思議な安堵感を感じた。戻って来れたんだと、なぜかそんな言葉が頭をよぎったが、どこから?という自問自答のようなものをしてしまい、頭を振ってその疑問をはらす。
「落ち着いた?」
「はい。」
少し鼻を啜りながら、先生の顔を見る。
そして
一瞬にして俺の気持ちは安堵から恐怖へ代わっていた。
先生の顔は、ドットでできていた。
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魔王を倒した俺は、きっと何かが変わると思った。
何か、きっと、この奇妙な世界から解放されるとか。
でも俺の予想に反してそんなことは起きず、何も変わらなかった。
俺はこの世界にいるまま、。
ただ、町の人間は全て言葉がおかしくなってしまった。
「不正を検出しました。この世界ではもう遊べません」
どこの街に行っても、王城に行っても、あのすれ違った女も、自分の家のあの知らない母の存在でさえ、全員が口を揃えてこう言う。
「不正を検出しました。この世界ではもう遊べません。」
「不正を検出しました。この世界ではもう遊べません。」
「不正を検出しました。この世界ではもう遊べません。」
なんだよ、これ、なんなんだ。
俺は、一体どうなってしまったんだ?更に世界がおかしくなってしまったのか?それとも元々狂ってしまったのは俺なのか?俺はもしかして、変な夢を見ているだけじゃないのか?
寝て目が覚めたら、元の世界に戻っていて、幸せな生活を送ることができるんじゃないのか?
もう何を考えているのかもわからなくなってしまった。俺は何だ、この世界はなんだ。
どうなってしまったんだ。
全部俺のせいなのか。魔王を倒さなければ、せめてまだ人間らしい言葉を発しててくれたんじゃないのか
俺は1人になってしまった。
いや、最初から1人だったのかもしれない。
ただ、気がつかなければよかったと、思う。
あの時、魔王を倒すのをやめていれば、変な気をおこさなければ、そもそも、俺が魔王を倒すのをやめなければ?
もう後悔しても遅い。
一体俺が何をしたというんだ。
俺はこの世界に囚われてしまった。
きっと気が狂って、しまうのだろう。
だからその前に、これを書き残す。
もしも幸せな世界に生きていられたなら。
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